〜もしエス〜 もし女子剣道部のマネージャーがインフィニット・ストラトスを起動したら   作:通りすがる傭兵

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遂にサブタイネタが尽きました。


ところで、コラボ募集してまーすとか言ったらきちゃったりしませんかね。募集かけても来る気がしませんけど、あはは


第24話 河南成政は暗躍したい(Ⅱ)

 

 

 

 

 

 

「無事か?!」

「全然平気へっちゃら......って言えれば良かったわね、残念だけど大怪我よ」

「あそこまで一方的になるとは思いもしませんでしたね......」

「ほんと、面白いように手玉に取られてた。まるでこっちのやる事なす事全部わかってたみたい」

 

何回もお世話になったIS学園保健室。そのまっさらなベッドの上には、オルコットと鈴が横たわっていた。

 

事の顛末(てんまつ)はこうだ。

 

一夏とタイマン勝負を持ちかけたかったボーデヴィッヒが、いつも一緒にいるオルコットと鈴が一緒に訓練しているのを見、両名を挑発。2人は流れるようにキレたようで1vs2の変則バトルがスタート。

その騒ぎを聞きつけた一夏が駆けつけた頃にはボロボロになって倒れ伏す2人がいた。目撃した一夏は怒りに任せて剣を抜いたが、割って入った織斑先生のとりなしによって事なきを得たそうだ。

 

しかし2人のISはダメージレベルCオーバー、そして数多(あまた)の打撲その他の怪我により、参加を見送る形になってしまった。

代表候補生である両名、その実力を見せる場を奪われた2人の心持ちは如何なものか想像に難くない。

それは部外者である彼女もまた容易に想像できた筈だ。むしろ武道家であるわけだから人一倍敏感だったからなのかもしれない。

 

「ふざけるな! 己の目的の為だけに、力を振るうなどと!

武道とは己を高め、弱きを助け強きを挫くもの、それをこのような......こんなことに!」

「気に病まないでください、篠ノ之さん。これはひとえに私たちが弱かったからなのです」

「セシリア?!」

 

だが、彼女は違う。

貴族はあくまで冷静に、冷徹に状況を分析する。

 

「いくらドイツの最新鋭機とはいえ、こちらは2人、勝てない道理がありませんでした。

しかしこうして敗北の苦渋を舐めたのはこちら側。それはつまり、私たちの実力が不足していたという事実なのですから」

「あん時は一夏をけなされて血が上ってたのもあるしね。今になって振り返ってみれば反省点が山積みよ。むしろ同格以上の相手と戦うなんて無かったから、良い経験になったくらい」

「......となるとやはり」

「単騎であれば彼女は1年で一番強い、そう結論付けざるを得ませんわね」

 

軍属という実力主義の縦社会、その中で部隊の隊長を務める以上実力は折り紙つきであるという事か。ここがやはり優勝の鬼門になりそうだね。

 

「......悔しくないのか?」

「......?」

「悔しくないのかと聞いている」

「箒ちゃん?」

「負けて、このような仕打ちを受けて、悔しくないのか!?

私は、お前たちと戦うことを楽しみにしていたんだ、それはお前たちも同じ筈だ、しかし、その機会を奪われたんだぞ!

なぜ、そんな平然としていられるのだ!」

「あのさあ箒。

 

 

 

 

悔しくないんだったら、代表候補なんてとっくに辞めてるわよ」

 

すん、と一瞬で部屋の空気が冷え込む。

初夏の陽気はことごとく消え去り、その代わりに存在するのは......冷めた、それでいて今にも燃え上がりそうな怒り。

 

「こんな体じゃなかったら、今すぐあのクソチビ女なんてブチのめしに行くに決まってるじゃない。たとえ負けるとわかっていても、あたしは拳を握り締めるのをやめない」

 

いつも通りに振る舞って見せていたのは心配をかけまいとして。

怒りを隠していたのはそれを察した皆に無茶をさせまいとして。

そして、もうひとつ。

 

「それ以上に思う所があるのよ。セシリアの話を聞いてからは特に」

「セシリアの話?」

「これは戦った私たちだからこそわかる事であると思います。お二方には、全て通じるとは思ってはいません」

「聞かせてくれないか?」

 

一番最初に答えたのは教室の端でずっと押し黙っていたロランだった。その表情はさっきのデートの時とはうってかわって硬い。

 

「話すことが辛いことかもしれない。しかし、私たちが勝つ為にはきっと必要な事なんだ、頼むよ」

「......では、お話致しましょう」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

アドバンスド・チルドレン。

遺伝子操作によって優れた軍人を生み出す計画であり、ドイツで秘密裏に行われていた実験のひとつ。その成果の1人が調査対象、ラウラ・ボーデヴィッヒである。

現在人造人間計画は凍結されているものの経過観察の名目上にドイツ軍に所属、そこで訓練を積む。

資料を見る限り優秀な成績であったようだ。

 

そしてISの登場、そしてドイツが一歩先んじていた遺伝子技術の応用であるナノマシン技術の向上。それらの要因から、対象は数奇な運命を辿ることになる。

 

新規に編成される運びとなったドイツ対IS部隊『シュヴァルツェ・ハーゼ』通称黒ウサギ隊への転属。

優秀な成績であった対象がその選抜を通ったのは想像に難くない。

そこでよりIS適性を高める為、IS適合移植手術、ことナノマシン『越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)』の移植手術を受ける。

 

しかし適合は失敗、移植を受けた左目の視力は大きく低下し、ナノマシンによる補助は適合者の約30%と結果が出ている。

弱体化した左目の視力、そして一段劣る事となったIS適性。首席という鳴り物入りで入隊した対象が落ちこぼれるのは遅くはなかった。

プライドの高さ、そして力を求める性格は此処で培われたものと考えられる。

 

話を戻そう。

落ちこぼれ、燻る対象に手を差し伸べた者がいた。

かの有名な織斑千冬である。

経緯は省くが、彼女は1年の間黒ウサギ隊の臨時教官としてドイツ軍に所属する事となった。

彼女の師事を受けた対象ははメキメキと実力をあげ、ハンデをものともせず、実力を以てして部隊の隊長に任命されるに至る。

 

6月某日、社交性とIS戦闘技術を身につける目的でIS学園に転学、今に至る。

 

 

 

軍部は完全実力社会である。

そこでは日夜仲間を蹴落とし、時に協力し、時に争い、己の力を高める場。

元落ちこぼれの対象に手を差し伸べたのは織斑千冬だが、心酔ぶりから見て彼女がおそらく初めてだったのではないだろうか。

織斑一夏を殴ったのは、彼が結果として織斑千冬のモンド・グロッソ連覇を阻んだことに起因すると思われる。

 

迷いなく頰を張ったと聞いたが、それは対象が他人を傷つけることを(いと)わない、つまり自分以外の他人はほぼ全てが敵である、そのような価値観を持っているのではないだろうか。

 

私事(わたくしごと)であるが、どこか対象、ラウラ・ボーデヴィッヒは私と似ている気がする。

一度会ったことがあるのだが、眼帯で覆われていなかった瞳を覗いた時、そこに浮かんでいたのは怒り、そして大きな憎しみであった。そこに私は昔の自分を、貴方の兄やその仲間たちに会うまでの私を重ねた。

 

故に、私は対象を(あわ)れむ。

他人を全て敵とみなし孤独に生きてゆく生き方は単純であるし、何より楽だ。

しかし、それは酷く寂しい。

願わくば、ラウラ・ボーデヴィッヒにもたった一度きりの人生を楽しく生きて貰いたい。

これがその一助になれば、嬉しい限りである。

 

 

ーーーMーーー

 

 

追伸

 

胸のサイズは私の方がデカかった、2センチ。

 

「誤差だよそれは......」

「な〜に読んでるの〜?」

「なーいしょー」

 

兄貴たちにダメ元で頼んで見たところ、USBメモリに目一杯の資料が届いた。その中には明らかにまずいというかトップシークレットなものもあったんだけど、まあ兄貴だし。

これを本人に見つかるのは気まずいし、没収されるのは目に見えている。

というわけで少しでも見つかる可能性を下げるために仲の良いのほほんさんの部屋をちょっと間借りしているわけだ。

実はもう1人部屋の主が居るらしいのだが、彼女は自前でISを作るという暴挙をしているところらしく、消灯時間ギリギリまで整備室に引きこもっているそう。

そんな訳でのびのびと資料を見ることが出来る訳なのだが、思いのほか重い。

勿論物理的にではなく精神的にだ。

 

「他人を全て敵とみなし孤独に生きてゆく生き方は単純であるし、何より楽だ。

しかし、それは酷く寂しい事でもある......」

 

資料の最後の方に記された、Mによって纏められた総評。その中の一節を思わず口ずさむ。

 

『ボーデヴィッヒさんはとても強いです。

しかし、私にはその姿が兎のように見えました。世界全てを恐れて、震えて、動けない子兎。

......恐らく、何か私には想像のつかない出来事があったのでしょう。私と同じように、いえ私以上に他人全てが敵に見えてしまうような、鮮烈で残酷な出来事が。

その生き方はあまりにも悲しすぎます。ですが私たちでは力不足でした。

どうか、彼女を救ってあげては下さいませんか?』

『あたしはそんな小難しい事考えた事もないし、さっぱりわかんないわ。

けどね、1人でやるより仲間でやった方が楽しいのよ。あたしは何人もの仲間を蹴落として此処にいる。けど、表面上だけかもしれないけど、みんな笑ってた。

ライバルは敵かもしれない、けど同時に切磋琢磨しあえる仲間で、手は取り合える筈なのよ。ただあいつはその方法を知らないだけ。

あんたじゃ無理があるだろうけど、一夏ならきっとやってくれるでしょ。期待してるわよ』

「どいつもこいつも考えることはみんな同じですか」

 

みーんな揃いも揃ってお人好し、そして迷子のチビッコを放ってはいけない心やさしき面々。涙が出そうになりそうだけど......

 

「ごめんみんな、今回ばかりは手段を選ばないと決めてるんだわ」

 

あー、バレた時が怖い。

 

◇◇◇

 

 

 

河南成政 年齢15歳 性別男 IS適性C+

家族構成は両親と兄が一人、現在は全員が所在不明。

 

実力は並みの女子生徒以下であり、男子という特例がなければ入学は許されなかっただろう。

しかし、観察眼と頭の回転は一線を画しており、そこから導かれる状況判断、的確な指示は眼を見張るものがある。

 

専用機はアメリカ民間企業が開発した試作2.5世代機『unsung hero』

機体性能は質実剛健、平凡そのもの。

特徴として電子戦に強く、リアルタイムで敵ISの解析結果を導く事が可能。

追加武装は存在しているがいずれも実用に耐えうるものとは到底思われない。

 

総評

戦闘する場合長引けば不利になると思われるが、速攻を仕掛ければ対処は容易いだろう。

「ふん、雑魚か」

 

落胆に任せて荷物と同時に届いていた紙媒体の資料を投げ捨てる。たった二人の男子操縦者と一応調べさせたが、期待するだけ無駄であった、それだけだ。

 

「障害になる二人は早々に排除できた」

 

セシリア・オルコット

凰 鈴音

 

専用機持ちかつ実力者、この二人が連携していれば私の勝利も危ぶまれた所だったが、あそこまで痛めつければ試合には出てこられないだろう。

 

ただ、少しあからさますぎる嫌いがあったがな。あんなものを見せられればバカでもやれと言外に告げているのが理解できる。

今回ばかりは目的が一致した、それだけのこと。

ただ次があるとすれば、

 

「......織斑一夏」

貴様を潰す舞台に他ならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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