〜もしエス〜 もし女子剣道部のマネージャーがインフィニット・ストラトスを起動したら 作:通りすがる傭兵
こっからグダグダと続くんじゃ。
それとしばらく主人公が悪役畜生ムーブします、ご了承を。
「じゃ、おっ先ー」
ピット出口、薄暗い部屋の中の眩しいくらいの光を落とし込む場所、その奥にある電磁式カタパルトに足をかけ、少しだけ腰を下ろす。
カウントが終わればの体が空中に投げ出され、目の前では二人が待っているはず。
「たった2週間、されど2週間。
君達二人の成長を見せてくれるかな」
想いを載せるよう、カタパルトが俺をアリーナへと弾き出した。
もうすぐ決戦の幕が上がる。
今まで人に注目されることはいっぱいあったけど、今日みたいに緊張したのは初めてだ。
そうだよね、緊張するのは当たり前だもん。
今日のタッグマッチで決まるのは勝敗だけじゃない。
僕の将来、一夏の覚悟、ボーデヴィッヒさんの想い、そして成政の本当に知りたいこと。
力と力、想いと想い、意地と意地、決意と願いがぶつかり合う、きっと人生最初で最後の戦いになるはずだ。
今日という日を、僕はきっと忘れない。
だって今日は、
「勝つぞ、シャルル!」
「うん、勝とうね一夏!」
僕が生まれて初めて、諦めることを止めた日になるから。
『バイタルよーし、機体状況よーし。戦意は?』
「あるぜ、有り余ってるくらいだ。やろうか?」
「ならよし」
ギラギラと勝負に餓えた野生的な目つきはなく、どこか達観した、理知的で、それでいて情熱に溢れた人間らしい真っ直ぐな目。
こんな目を見たのはいつぶりだっけか。
それだけ二人はこの試合のために仕上げてきているという事になる。嬉しい限りだ。
「そっちは? 準備はいいんだな?」
『ああ、もちろん』
それはこちらも同じだ。
全身全霊をもってしてお相手しよう。
「貴様を、倒す。そして、私が......!」
「ああ、かかって来やがれ」
『お前は邪魔をするな』
『あいよー、そのつもりで』
開始前のトラッシュトーク中にすら釘を刺してくるボーデヴィッヒさんも、いつになく仕上がっているようだ。心配といえば頭に血が上りすぎて周りを見失うことだけど、そこは俺が適宜カバーリングしないとね。
『さあ始まりました、一年の部第2試合!
実況解説はこの私、王 大河でお送り致しまーす!』
外野が熱狂的な盛り上がりようを見せる中、アリーナ内は正反対に静まりかえっている。
目を瞑り、瞑想をしているらしい一夏。
イメージトレーニングをしているのか軽く手を動かすシャルル。
ただひたすら一夏を見つめ、心のうちに眠る炎を燃え上がらせているらしいボーデヴィッヒ。
俺ももちろん、立ててきた対策案を反芻しているところだ。
『さあそれでは......試合開始!』
ブザーと同時、二つの影が踊りでる。瞬時加速で飛び出してきた白式とレーゲンだ。
「織斑一夏ぁ!」
「かかってきやがれ!」
プラズマ手刀と雪片弐型が火花をあげ鍔迫り合う。じっくりと眺めて応援したいところではあるのだが、気を配っている余裕は無い。
「甘いよ、これはタッグマッチなんだから!」
「ちいっ!」
鍔迫り合い中の隙を狙った肩部大型砲だがシャルルの銃撃によって逸らされ虚しく空を切った。
『俺も忘れてもらっちゃ困るね』
2人の間に割り込み、追撃のアサルトライフルの弾を盾で弾き返してリヴァイブに迫る。
それを予測していたかリヴァイブが宙返り、その下を通るようにして白式が吶喊してきた。なるほど空中戦メインのISらしいコンビネーションだ! でも!
『甘っちょろい!』
ここの距離で抜刀は無理だと判断、盾の下に格納してある大型ナイフを抜き雪片弐型に半ばぶつけるように抜き放ち、鍔迫り合いに持ち込む。でもナイフなんてボーデヴィッヒさんから手解きを受けたとはいえ付け焼き刃、ジリジリと押さえ込まれるのが分かる。
ここは一度距離を取る、そう思いナイフを捻って剣をカチ上げにかかったのだが、
「今!」
「うん!」
その隙を見計らってたのか、背後に控えるシャルルが一夏の陰から散弾銃二丁を突き出し、猛然と射撃を浴びせかけ......
『それは
俺から見て右のは蹴飛ばして逸らす。
もう片方を、俺は雷切の柄で弾いた。
「なっ!」
「嘘だろ!?」
『そこ動揺しない』
驚いて固まったシャルルを一夏ごと蹴って飛ばして距離を置かせて仕切り直す。
『雷切の鞘にはレールガンの要領で剣を弾き飛ばす機能がある。普段は抜刀術を高速化するもんだけど、こんな使い方もあるって訳。
あとキメ技防がれたからって動揺しない。あと隠すんならもっとしっかりやる!』
なんて事はない、レールガンの砲弾が剣になっただけだ。欠点としてまず初見殺しだし、雷切がどっか飛んでいくので取りに行く必要がある。
あと腰の振りで狙いをつけるという
『じゃ、あとはご自由に』
「ふん......忘れ物だ」
いつのまにか伸ばしていたらしいワイヤーブレード。その先に絡め取られていたのは......雷切?
「貴様は邪魔を入れなければそれでいい」
ぽーいと無造作に投げ飛ばして来たのを受け取って、鞘に戻す。 ......意外と性根は優しいのかね、この子。
『さあて、いっちょやりますか』
しばらくの小競り合いを経て、試合の様相がタッグマッチとはかけ離れたものに変化する。
一夏の白式に対するは、ボーデヴィッヒのシュバルツエア・レーゲン。
俺のアンサングに対するは、シャルルのリヴァイヴカスタム。
タッグマッチであるはずなのに連携もへったくれもない1対1が始まった。
これは一応こちらの予想どうりでもあるし、相手の思惑通りでもあるはず。
なにせボーデヴィッヒはべらぼうに強い。2対1でかかってやっとこさ同等だ。そうなれば残り1人、ボーデヴィッヒのタッグである俺が邪魔になる。となれば簡単だ、その地力で劣る俺を先にのしてしまえばいい。そうすれば邪魔も入らずにボーデヴィッヒとの戦いに専念できる。
それはこちらも同じだ。
基本的にタッグってのは実力がほぼ同等で成り立つもの、ボーデヴィッヒと俺じゃあ実力差は月とスッポン。それに加えて協調性などかけらも持ち合わせないボーデヴィッヒのこと、ハナっから共闘なぞ考えもしない。
だったらそれを伸び伸びと活かしてもらおうという訳だ。相手の思惑に乗って1対1に持ち込み、俺がシャルルを抑え、なるだけ時間を引き延ばす間に一夏をなるだけ削ってもらう。一夏の白式は燃費最悪、俺のへたっぴな戦闘でも通常以上にダメージを取れるはず。
2対1でもボーデヴィッヒはうまく立ち回れるし、1対1であればボーデヴィッヒさんに負けはない。
これが俺の考えた作戦......もどき。
問題があるとすれば、一夏がどれだけボーデヴィッヒに迫っているか。
そして俺がどれだけ時間を引き伸ばせるか。
『そこが一番の難所なのよなぁ』
ガンガンと装甲を叩きガリガリとSEを削ってくれる弾をばらまくシャルルをみて、またしてもため息をつかずにはいられなかった。
「ほらほら、こっちだよ!」
押せば引き、引けば押す。
まるで波のように変幻自在な立ち周りを見せるリヴァイブに対して、俺はなんの手も出せていない。
この戦闘スタイルを『
たしかに言う通りだ、シャルルの立ち位置は彼女を無視してボーデヴィッヒの支援に行くには遠く、俺の
......と、思わせることができただろう。
『誰が射撃武器積んでないって言った?』
じゃらり、と金属のこすれ合う音が背後から響く。それと同時、機体が一瞬重くなりがくんと態勢を崩して、PICが反応してバランスを再調整、すぐに安定させる。
『追加武装その3、
次の瞬間、毎分2500発の7.6ミリ弾がシャルルに襲いかかった。
「わわわわっ、こんなの聞いてないって!」
『俺も昨日まで知らんかった!』
俺の腰あたりでモーターのような作動音をたてて薬莢を吐き出すガトリング砲こと焔火は、開発部が完全お遊びで作ったロマン兵器その3である。
開発経緯はというと、俺が『カノン』の射撃成績の酷さに「もう銃を作って送らないでほしい」とお願いしたところ、何をトチ狂ったか開発陣はこう考えた。
「じゃあへたっぴでも当たる銃を作ろか」
その結果、航空機のバルカン砲を手持ちに改造したコイツがやってきたのだ。いわく『下手な鉄砲数撃ちゃ当たる』がコンセプトとか。
問題点は1分以上の連続射撃不可(それ以上だと銃身がもたないそう)、重量(ISが一瞬沈み込むくらいには重い)、そして背部に展開する弾薬コンテナのおかげで背部ブースターが使用不可と山盛り。
ここら辺は後々の改造に期待するとして、今できることは何か、
『ほれほれー、怖いだろ〜、怖いだろ〜』
「ほんと信じらんない! 正々堂々勝負してよ!」
『それで勝てるんだったらマネージャーはおらん!』
答えはシャルルを俺に釘付けにすること。
ガリガリガリと現在進行形で壁ごとリヴァイブを削り取りにかかる弾丸の雨、この物量では盾で受けるわけにもいかず逃げ回るしかないと判断させ、さらに命中率の低い遠距離に逃がす。
背中を向けて一夏の方へ行けば、俺は今すぐにでも雷切を抜いて接近戦に持ち込む。
評価が低いとはいえ一度は一夏に土をつけている訳だし、器用貧乏のシャルルでは抑えきれない......と本人は思っているはずだ。
実際は無理だけど、そう思っているだけでいい。最悪頭の片隅にでも置いてくれるだけでもいい、そう思ってしまった、1ミリでもかもしれないと触れてしまったならばそれは毒のように考えを侵食してしまうのだ。
思い込みってのは恐ろしいもので、普通に考えてみればありえない可能性すらも想像させてしまう。それを意図的に引き起こしてシャルルの行動を縛っているという訳だ。
チラリと一夏の方を見れば、ボーデヴィッヒのプラズマ手刀にワイヤーブレード、そしてとっておきのAICに翻弄されまくっている様子。
「はははははは、どうした!」
「こなくそおおおお!」
このままじゃ負ける、確実に。
ジリジリと白式のSEは削れてるし、レーゲンも多少は減っているが白式の比ではない。このままじゃ消耗戦で押し切られて......なんて事を思い浮かべているのか、シャルルがギリギリと歯を食いしばっている。
『さあ、どうする?
ここが正念場だぞ、シャルル。
それとも諦めちまうのか、
まあそれもいいな、どうせただの試合なんだし勝っても負けても成績にマルバツが付くだけ、一回くらい負けたってケチはつかないよ。なんせ相手が悪かったんだから、
「......違う」
『でも、君は何もしてないじゃないか。
ただ逃げ回ってるだけで、思考放棄して』
もちろんそんなこたあ微塵たりとも思ってない。シャルルも本人なりに考えてるだろうし、決意を固めてここに立った事を俺は知ってる。何よりその目つきが、雄弁に語っていたさ。
でも一歩が踏み出せない。
それは仕方がない、なにせ踏み出した事もない未開の地、恐怖があって当然だ。覚悟がどれだけあっても、どんだけ勇敢な人物でも最初の一歩は足が竦む。
その背中を優しく押すのがマネージャーの仕事であり、裏方の義務だ。
......まあ今回は優しくどころか飛び蹴りレベルなのは否定はしない。だって時間ないからね!
『違う、か? じゃあどう違う? 俺は行動派なんでね、見せてくれなきゃわかんないのさ!』
「僕は、僕は、僕はっ......」
リヴァイヴが空中で静止する。
やっぱりダメだったか。
うーん、いい感じに成長が見込める人材だったんだけど心が弱くちゃなぁ。本来ならばこういう人を救うのもまたマネージャーの仕事、でも今回ばかりは俺の仕事じゃない。
仕方ない。
ヒロインをカッコよく助けるのはヒーローのお仕事。そしてカッコよく救うにはピンチになっている必要がある。そしてピンチに必要なのは......悪役。
『じゃさよなら。シャルル・デュノア』
俺は俯くシャルルに向けて引き金を引いた。