〜もしエス〜 もし女子剣道部のマネージャーがインフィニット・ストラトスを起動したら   作:通りすがる傭兵

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番外編というより、題名通り彼女のお話。

掘り下げが足りない気もするんですけど、それを表現する文章力が不足しているのでもどかしいばかりです


第31話 extra ラウラ・ボーデヴィッヒ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ココは、どこだ。

目を覚ますと、漆黒の闇が目前に広がっていた。身体を起こそうと腕を上げて、腕がないことに気がついた。

目線を下げれば、見慣れた自分の体は無く、ただぽっかりと空虚な闇が広がるばかり。

なるほどココは地獄らしい。死人が向かう先などそこしかあるまい。

思えば、先まで燃え上がるようにわたしの胸を焦がしていた勝利への渇望がない。死んでしまうとなにもかも考えられなくなるようだ。いや、こう考えている時点で考え事はしているのだから語弊があるな。

さて、これからどうするべきか......

 

 

 

 

景色が切り替わる。

 

 

 

『緊急事態発生! 緊急事態発生!

基地に侵入者あり、総員戦闘態勢を取れ! 繰り返す......』

ベッドから飛び起き、かけてある軍服に袖を通す。横では副官のクラリッサが同じく袖を通していた。

ノックも大雑把に部屋に飛び込んできた人影、どうやら伝令のようだ。

それにしても、何か夢を見ていたような気がする。独り暗闇に閉じ込められる夢。......何を今更、強者は孤独だ。孤高の私が仲間が欲しいだと? 笑わせる。

 

「隊長、隊長?」

「っ、許可する。話せ」

「はっ! 現在、基地に車が一台、戦闘ヘリ数台が突入してきた模様。戦闘ヘリは車を攻撃しており、仲間とは考えられない......との事です」

「了解した。伝令、ISにエネルギーをチャージするよう伝えろ、私が出る」

「はっ、失礼致しました!」

 

隣を見れば、クラリッサが私に手を差し出していた。その上には黒い布、私の眼帯が。

私の汚点、適合に失敗した左眼を隠すようにいつもつけている眼帯。

これは私の汚点であり、誇りだ。

『似合っているではないか』

 

教官に会った時の第一声がそれだった。今まで汚点でしかなかった左眼が、褒められるとは思わなかった。だから、これは私の誇りだ。

しかし、私は許さない。その教官の栄光に影を落とす彼奴を......!

 

「隊長、急ぎましょう」

「ああ」

 

格納庫へ急ぐ。

不思議と、私はその廊下に違和感を持った。

生まれた時から見慣れているはずなのに、私はこの場所にいるはずがないとも思ってしまう。

 

「クラリッサ、最近廊下に改修工事が入ったか?」

「いえ、そんな事は」

「そうか」

 

おかしい、なぜ違和感を覚えるのだ。

ここが私の居場所、そのはずなのに。

いかん、戦闘前に考え事などまるで新兵ではないか。切り替えろラウラ・ボーデヴィッヒ、今は緊急事態だぞ!

自動扉が完全に開くのも待たず、隙間に身体を滑り込ませて格納庫に急ぐ。

 

「出撃準備は!」

「もう出来てます!」

 

階段を駆け上り、待機状態のレーゲンに滑り込み起動を念じる。すぐさま身体中を全能感が包み込み、目の前を慌ただしく動く整備員の動きが手に取るよう理解できる。

 

「レーゲンが出るぞ、道を開けろ!」

「シュバルツェア・レーゲン、出撃する!」

 

外に飛び出せば武装ヘリが目に入る。データベースと照会するが登録はなし、テロリストか。

 

「ドイツ連邦軍です、直ちに戦闘行為をやめてください!」

 

クラリッサがオープンチャンネルを開き、この場全員に聞こえるよう呼びかける。しかし返答はない。一機がこちらに向き、ロックオン警報がアラートを鳴らして危険を知らせた。

 

「散開!」

 

一瞬前にいた空間を重機関銃の銃弾が通り過ぎて行く。いくらISが優れているとはいえ攻撃を何発も食らって耐えられる仕様ではないからな。しかしあの重い銃声は間違いなく軍用のものだ、軍の払い下げをテロリストが買い集めでもしたか、厄介な。

 

「だが、その程度」

 

ヘリコプターは小回りが効くとはいえ、ISに叶うほどではない。

ワイヤーブレードでテイルローターを切り裂き、飛んでくる銃弾は回避。ここに試作段階のAICとやらがあればもっと楽になるだろうがな。

数分も経たない内に全機を叩き落とした。低空でもあるし最小限の注意は払った。死者の報告はない。

だが、

 

「やるじゃないの! さっすがドイツ軍、ドイツの科学は世界一ィィィ!」

「誰だ貴様」

「追いかけられてたワゴン車に乗ってた者よ。でたらめに走り回っていたらこんなところに来ちゃって、ごめんなさいね」

 

なんだコイツらは。ワゴン車に乗っていた集団だがこうもヘラヘラと近づいて、一般人風情が。

 

「......あとは任せる」

「はっ」

 

小難しい話はクラリッサに任せて、早く訓練に戻らねばならない。

力こそ全て、磨かなければまた私は......

 

「ねえ」

「......なんだ貴様」

 

私と同じほどの身長の子供。何故紙箱を被っているか謎だが興味はない。

「礼はいらん、当然の事だ」

「違う」

 

子供は少し考え、そして私に告げた。

 

「......今、楽しい?」

「そんなことか。楽しさに興味などない。

必要なのは、力だ」

「そう」

 

呼ばれたのか、振り向いて返事を返す子供。

「ーーーーーー」

 

その後なんといったか、聞き取ることは不可能だった。

 

 

 

景色が切り替わる。

 

 

 

 

 

また暗闇、漆黒の穴の底。

先ほどまで見ていたのは、私の幻、いや、過去の出来事だった。

ちょうど一年前のことだったはずだ。

通りすがった一般人とテロリストが我々の基地に突っ込んできた時、緊急出動がかかったのは2年前以来か。

 

だが、何故それを今更になって?

 

「さあね、どうでしょう?」

 

ふわり、と重力を感じさせない動きで少女が降り立つ。服装は隊員が休日着るものに似ているな。

だが頭の紙箱がその服全てをぶち壊しにしている。あのような奇抜な格好は一度見れば忘れないだろうに、どこか見覚えがあるはずなのに覚えがない。

名前を聞こうと思い口を開くが、身体もないのに質問も出来るはずがないとやめた。

 

「名前ですか? 名乗る必要もないでしょう。

これは幻。貴方と()()()の記憶から作り出された影法師、正体は貴方自身が良く......いや、忘れているようですか」

 

ここまでしたというのに、とやれやれと首を竦めた紙袋をかぶった女。いちいち私の一歩先を行くような事を言う、気に入らないな。

 

「気に入らなくて結構。

時間もないので巻いていきますよ」

 

こいつ、私の脳内を?

 

「当たり前じゃないですか。

ここは貴方の心象世界、考えることなんて筒抜けですよ。なにせ私は貴方の思考のひとつなのですから」

 

余談が過ぎましたね、と女は咳払いをする。

 

「さて、あの時の答えを聞いていないですね」

 

口が動く。

「ーーーーーー」

 

言葉が消える。紡がれたはずの声は硬質のものがひび割れる音に紛れて消えた。

貴様、一体何を?

 

「それはよく知っているはずですよ?

私はただ、貴方の記憶から正しいと思う答えを引き出したに過ぎませんので」

 

 

景色が切り替わる。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「目が覚めたか」

「......あ......きょう......ん......」

「楽にしていろ。無理な動きで全身に衝撃を受けている。2、3日で動けるようになると聞いているが、無理はするな」

 

目が醒めると、ラウラの目にボンヤリとした風景だけが映る。自身が慕う教官の声がして身体を起こそうとしたが、割れるような痛みで動くこともままならなかった。

 

「......何が起きたかを説明しておこう」

 

千冬の口から語られた事件の顛末。

VTシステムが自身のISに搭載され、ダメージが一定以上を超えることを起動トリガーにしていたこと。

その結果を自身が望んで行ったということ。

 

(私の憎悪が招いた結末。

だが......ほかの結末は迎えられなかったのか? もっとほかにやりようがあったはずではないのか)

 

「貴様が責められる事はないだろう。

だが、思うところがあるようだな」

「......」

「私から言えることは、ひとつだけだ。

貴様は何者だ? ラウラ・ボーデヴィッヒ。

己を見失ったものは、もはや何者にもなれんぞ」

 

教師はあまり暇ではないのでな、と言って席を立ち、保健室から立ち去った。

 

「......そうだな。言うまでもないだろうが貴様を助けたのはあの3人だ。

何をするべきかは、理解できているな」

 

千冬が出て行けば、本当に無人になってしまった保健室。人の気配はなく機械の立てる作動音だけが響いている。

 

ラウラは目だけで辺りを探る、見つけた時計の針は深夜を指していた。

 

(......私は......間違っていたのだろうか)

 

『千冬姉の覚悟を、生き方を......想いを、穢すんじゃねえ!』

 

薄ぼんやりとした意識の中、この言葉だけが鮮明に記憶に刻まれていた。一夏の告げた言葉は、ラウラの信念を深く傷つける。

 

(......私の全ては、無駄だったとでも言うのか)

 

「ハロー、まだ起きてるぅ?」

 

コンコン、と窓を叩く音がする。

目線だけで横を向けば、逆さになっている河南成政が窓の外で手を振っていた。そのまま窓を開け振り子の要領で身体を揺らして部屋の中に飛び込んで来た。

「ふぃー、ラペリング習ってて良かった」

 

いそいそと腰に巻いた装備を外し、椅子を私の枕元に寄せ、座る。

「......」

 

私から話しかける事はない。口を開けばどうせ罵倒だ、だがそれに文句はない。

私の意思で勝負をぶち壊したのだ、言われて然るべきだろう。

 

「......だー、やっぱりやらないとな。ケジメだケジメ」

 

大きく息を吸い込む音が聞こえる。

せめてもの償い。私はその言葉を一言一句逃さぬよう、聴覚に全神経を集中させ、

 

「本当にすまんかった!」

「......な、に?」

「お前とタッグなのに仲良くできなかったとか、うまいこと援護してやれなかったとか色々あるけども。

自己満足でいい、とりあえず謝らせてくれ!」

 

深々と頭を下げているらしい河南成政。

 

「......」

「......話せないってことはわかってる。

だから日を改めて、また言葉を交わしたいんだ。でもその前にひとつだけ。

 

君を悪く言う人は居ると思う。

正直な話、なりふり構わず勝利を目指す! って行為は褒められたもんじゃない。

それを誘導した俺にも責任の一端はあるんだろうけど、客観的に見れば大部分はボーデヴィッヒ......いや、ラウラに責任があるって言われると思う。

 

だから、()()()()()()

なりふり構わないてことは勝利への渇望を人一倍持っていることの裏返し。

それはある意味、才能でもあるんだよ。何度困難に当たり心が折れそうになっても立ち上がれる稀有な才能を、ラウラは持ってるんだ。

たしかにやり方に間違いはあった、けどラウラは間違ってない。だから、自分を簡単には曲げようとしないでくれないかな。

これからしばらくは辛いだろうけど、自分らしくいて欲しい。

......文句があるならあとで受け付けるよ。じゃあ」

 

そう言いたいことだけを言って、あいつは窓から去っていった。

 

間違っていない、か。

そうか、私は間違っていなかったのだな......

 

「いや、スタンスが間違ってないだけでやり方は間違ってるからね?」

 

......超能力者か何かか、コイツは。

 

「ただのマネージャーだよ」

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「隊長、あーんしてください」

「あ、あーん」

「ふふふふふ......仕事を皆に押し付けて副隊長権限で来た甲斐がありました」

「クラリッサ、何か?」

「いえ、何も」

 

クラリッサに言われるまま口を開いて、うさぎさん林檎をかじる。

ヨーロッパのものとは少し違って日本のりんごはみずみずしくて甘い。それに日本人は林檎をこのようにうさぎに剥くとか。日本の文化は奥深いものだ。

 

「保険医はなんと言っていたか?」

「もう2、3日もすれば普段通りに動けるようになると。ついでに休みを満喫してください、隊長はいつも働き詰めでしたから有給休暇も溜まっているんですよ?」

「そうか、ならば甘えさせてもらおう。

しかし、休暇か。

皆はどのように過ごしているか」

「そうですね......家族や身近な人、親しい人などと過ごしますね。

あとは買い物に行ったりとかもします。

もうすぐ臨海学校ですから、水着でも買いに行ったら如何ですか、隊長」

「そうだな、それがいい。

クラリッサ、よければ一緒に買い物に」

「残念ながら休暇は明日まででして、私は付き合うことはできません......」

「そうか......」

「すみません......」

「いや、そういう時もあるな。

わかった、こちらもなんとか誘ってみよう、アテはある」

「本当ですか!? 一体どちら様......」

「そうだな......

 

 

私の英雄2人と、師匠だ」

 

 

 


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