〜もしエス〜 もし女子剣道部のマネージャーがインフィニット・ストラトスを起動したら 作:通りすがる傭兵
まあこれで全部なくなったわけですがーあははー。
第33話 嵐の前の嵐
「水着売り場はここか」
「結構広いもんだなー」
レゾナンス二階、女性用水着売り場前に俺たちはいた。夏ということもあり稼ぎ時ということもあるのか、SALEだったり割引だったりオススメだったり、店員さんに気合がうかがえるポップや看板が立ち並んでいる。
「ええとね、一夏」
「どうした?」
「僕の水着姿、見たい?」
「そりゃ、海行くんだから水着はいるだろ」
「そうだよね......はぁ」
なんだろう、この噛み合っているようで噛み合ってない会話、なんとももどかしい。
「じゃあ私たちはここで」
「30分後またここでー」
当然男性用と女性用とでは売り場が違う。多めに見積もって、それでいて長すぎないくらいの30分を指定。
と言うわけで一夏と連れ立って男性水着コーナーへ。
棚にかけられた水着を手にとって伸ばしてみたり、腰に当ててサイズを確かめてみたりしたり。いたって普通に買い物をしているつもりだが、どうなんだろうとは思う。というかショッピングに正解を求めるなという話でもあるが。
悩む素振りはしつつ水着を選んではいるものの、海に入るつもりもないしただのハーフパンツでもいいくらい。だけれども折角の海なんだし、たまにはいいでしょう。
「なぁ、何で海パンてこんなに派手なんだと思う?」
「どした藪から棒に」
「いやあ、なんとなく、な」
横で赤い派手な海パンを手に取り首を傾げている一夏。その理由は詳しくは俺も知るところではないが、大抵の予想はつく。
「派手な方が便利だからだよ」
「派手が? 目立つだけじゃないか」
「そう、目立たなくちゃいけない」
ウィンタースポーツで選手が着る服が大抵蛍光色なのと同じ、れっきとした理由がある。
「例えば雪山で遭難した時、白や黒、なんて目立たたないか同化しやすい色より赤や黄、緑の方が救助側が見つけやすい。
海だって同じだ。海難救助の時、青や黒なんて水の色と同じよりはっきりした色の方がいいだろう」
「なるほど、考えて作られてるんだな!」
でも、と一夏はまた首をかしげると別の色の水着を手に取る。
「このネイビー色の水着はどう説明すりゃいいんだ?」
「室内プール用」
結局のところ、一夏は最初に手に取っていた赤色のを、俺は黄緑色のを買った。そこそこに値は張ったが、予算はしっかりと確保してあるから問題なし、そこんとこの計画性が大事なのだよ。
「じゃあ、俺別の買い物あるし後でな」
「先待ってるぞ」
あとは女性陣の買い物を待つだけか、と待ち合わせ場所に向かうとシャルロットが。
「早いね、もう終わったの?」
「ううん、じつは、その、一夏に水着を選んでほしいなって。一夏は?」
「別の買い物があるってさ。もう暫くかかるんじゃねえの?」
「そう、なんだ......」
しょんぼりと項垂れるシャルロット、まさか。
「もしかして一夏に水着を選んで欲しかったとか」
「なななな、ないよ! そんなことないってば!」
手をバタバタと振り顔を真っ赤にして否定するシャルロット。そこまでされると見え見えなんだがなぁ。
とはいえ、何分も待ちぼうけさせるとこちらの気分も悪い。
「日焼け止めとかサングラスとか、あとタオルの予備とか。買い忘れたものはないのか?」
「あ、日焼け止め買ってないかも!」
ありがとねー、と駆けていくシャルロットに手を振っていると、トントンと背を叩かれる。
「......ねえ」
「なんでしょう?」
「ちょっと......よろしくて?」
クーラーがきいているとはいえまだ暑い店内、なのに背筋が凍るほどの寒気を覚えてゆっくりと振り返る。
「なにがどうなっているのか、説明してくれるかしら?」
「ひぃっ!」
ハイライトが消えた2人の代表候補生が武器をそれとなくチラつかせていたら、どうするか。
素直に従う以外の道はないだろう。
自分の命が惜しいならな。
「ーーーとまあこれこれしかじか、というわけで」
「箒も抜け駆けしたということね......ロランはまあいいわ」
「今一夏さんとシャルロットさんは別行動中、チャンスですわね!」
「おい、何が」
答える間も無くぴゅーんと飛び出していった鈴音にオルコット。なにがあの2人を掻き立てるのやら。十中八九オトメゴコロだろうけど。
女子の行動力ってたまに目覚ましい程のアグレッシブさを見せると言いますかなんというか、ほんと女子って怖いよね。
「師匠」
「うわびっくりしたぁ!」
「私だ」
自販機の陰からひょっこり顔を出すラウラ。軍人だからなのか小柄なせいか気配消えすぎである。暗殺者か何かかよ。
「ふと小耳に挟んだのだが、女子は水着がダサいと男に嫌われるのか?」
随分と脈路のない質問だな。
まあここはありきたりな答えでいいだろ。
「個人差による。でもまあ、派手な方が印象には残ると思うぞ」
「そうか」
そう言うや否やラウラがグイと俺の腕に腕を絡めるとガッチガチに固めてしまった。
「え、あえ?」
「師匠頼みがある、私に派手な水着を選んでくれ! 嫁が一目惚れするような!」
「はぁ?!」
そのまま半ば引き摺られるように女性水着売り場の中へ。やめて、女性客さんの目線が心に痛い!
しばらく引き摺られ、奥の方の棚の前でやっとこさ解放してもらえた。固められた肘をいたわっていると、前から見繕っていたか迷うことなく商品を手に取ったラウラ。
「どうだ?」
「どう、つってもな......」
水色の水着を体に当てて見せてるラウラに対し俺は適当な返事を返さざるを得ない。だって一夏のセンスは正直独特だし、俺がとやかくいう立場にあるとは思えない。
とはいえ、銀髪に水色か......
「......合わないな」
「次だ!」
時折どこかに電話するなんて不自然な動作をしながらだが、ラウラは少し時間をかけつつ二つの水着をチョイス。
「ど、どうだ......」
「んー」
彼女が持ってきたのはリボンが全体にあしらわれた薄ピンク色のものと、レースが縫い付けられた紫と黒の二色構成の水着。
正直なところどちらも甲乙つけがたい。
適当に選んでしまってはラウラに失礼、かといって全力で応援するのも箒に申し訳が立たない......むむむ。
「お困りなら試着室がありますが......お客様、お客様ー?」
店員さんの助け舟が来るまで、ラウラは顔を真っ赤にして、俺は眉間に深いシワを寄せ続けて水着売り場の一角を占領し続けていた。
「試着室はこちらに......あら?」
人の良さそうな店員さんに案内されるまま歩いていると、聞き慣れた声が。
曲がり角を曲がれば、ようやく全貌が見えてきた。
「いいですか織斑くん、デュノアさん。いかに同じクラスの生徒、そして仲がいいとはいえいつでもIS学園生徒として節度ある行動を......」
なぜ山田先生に一夏とシャルロットさんが説教されているんでせう。その上なぜ織斑先生まで?
「私にだってプライベートはある」
「その通りですね......」
「教官、コレは?」
「見た通り生意気にも小娘が一夏を誘惑していただけだ」
ギン、と擬音がつきそうな目つきでラウラを見る織斑先生。ラウラさんが青い顔で縮み上がっているんですがそれは......
「貴様も同じような事を考えているな?」
「滅相もございません!」
「......そうか」
少し目線を下げ、ラウラの持っていた水着に目をやる先生。さらに顔が青くなるラウラ。
正座で説教される2人、おそらくここが学校じゃないということを忘れている山田先生。
そして蚊帳の外の俺と営業妨害される店員さん。
だれかこの状況をなんとかしてくれ......
「いいですね、わかりましたか!」
「「はい......」」
「......まあ、及第点だ。黒いほうが似合うと思うぞ」
説教がひと段落したらしい山田先生が二人を解放し、偶然にも同じタイミングでラウラに何かしら告げる織斑先生。
「おいラウラ。大丈夫か?」
「............た」
「はい?」
「教官に、褒められた......」
ぷしゅー、と頭から湯気を出してぶっ倒れた
ラウラ。お前さんそんなに嬉しかったんか......
「......」
「浮かない顔だね箒、何かあったのかい?」
「いや、なんでもない。なんでも......」
◇◇◇
「やあ成政。やっと2人きりになれたね」
「いかがわしい言い方やめろ」
夜風が涼しいターミナル駅。みんなが帰ろうとする中、ロランが俺を呼び止めた。
『30分後、中庭で』
耳打ちされた言葉のままここに来れば、ロランがベンチでくつろぎ、隣に座るよう勧めた。それに従い座った途端のセリフがこれだ。いろんな意味でビックリするわ!
「事実を言っただけじゃないか」
「もっと遠回しにしてくれせめて!」
「君は奥手なのが好きなのかい? たしかに日本人は奥ゆかしいけれどもね」
「そういう意味じゃないやい」
「じゃあどういう意味だい?」
立ち上がるとくいと俺の顎を持ち上げ、目を覗き込むように回り込んできて......
「って本題はそれじゃないだろう!?」
「相変わらずつれないなぁ」
ロランは傍に置いていたらしい紙袋から、ぽいとそれなりに厚みのある本を手渡してきた。
「コレは?」
「代表候補生ともなると、スポンサーが付くのさ。例えば衣服や香水、著名なブランドメーカーや大きな会社が多いね。
国とは別に、資金や他の面でバックアップしてもらえるのさ。その代わりにその会社の製品を使うこと、なんて縛りはつくけどね」
付箋をつけたページを開くように促され、暗闇の中ページをめくる。何が書いてあるかさっぱりわからない、スマホライトをつけて......
「ってなんてもん見せるんだ!」
「昼間に散々見てきたのに何を今更」
「それとこれとは話が違うだろ!」
「ただの水着カタログじゃないか」
その通り、ロランが差し出してきたのは女性用の水着カタログ。俺には素晴らしく無用の長物だ。でも、どうしてコレを?
「決まってるじゃないか、選んで欲しいんだよ」
「いやお前の水着なんか興味ねえし」
「そこまで言われると辛いねぇ......」
「事実だもの」
「......ぐすん」
「泣き真似なんてしても騙されんぞ」
「冗談さ。私は水着はもう買ったしね。
選んで欲しいのは私のじゃない。君の愛しの君のものさ」
「......はい?」
「鈍いな君は。箒の水着をこの中から選べと言っているんだ」
予想だにしない一言に思わず固まる。
何故、どうして、どうやってどうのように......
「今日彼女は水着を決めかね、結局選べなかった。
臨海学校まで買い物に行ける機会は限られている、だからこそのプレゼント、というわけさ」
「お前が選べばいいんじゃねえの?」
「致命的にセンスが合わなくてね。1番箒を見ているだろう君に選んで欲しいのさ」
まあそうだ、ロランがいう理由には全て納得がいく。ただ不可解な点がひとつだけ。
「お前なら絶対にこんな事はしないと思ったんだけどな」
「私だって女の子、という事さ」
チャオ、と手を上げて去っていったロラン。
「全く、あいつの思考回路は理解できん」
とはいえ、と渡されたカタログに目を落とす。
頼まれた仕事をこなさないのも気持ち悪いからな。
「一夏が振り向くような可愛くて最高の水着、選んであげましょうかね!」
「もすもすひもねすー、束さんだよー!」
「ああーっ切らないで切らないでえ、大切な用事なのぉ!」
「うんうん、ありがとう、お姉ちゃんは嬉しいよ!」
「あー、本題? せっかちだな箒ちゃんは、そこが好きなんだけどね!」
「タッグマッチトーナメント見てたよ、いやあ、いい試合だったんじゃない?」
「けどさ、苦戦してたよね」
「相手が代表候補生だから、違う」
「調子が悪かった、違う」
「じゃあ答えはひとつ、機体のせいだよ!」
「倉持の打鉄とかいう、暮桜の劣化の劣化みたいなガラクタなんて、私に言わせればゴミ以下だよ」
「箒ちゃんがそんな機体に乗ってるなんて、私は悲しいよ......」
「だからさ、欲しくない?」
「なにって、新しい力だよ、チ・カ・ラ」
「なんか変なのが周りをうろちょろしてるけど、役に立たないよ」
「お姫様にはふさわしい
「合理的に最短距離で素早く的確に丁寧に完璧に完全無欠に完膚なきまでに最強で最高な、そんな力が欲しくない?」
「ええ、まだ渋るのぉ?」
「そんなにゴミに入れ込んでるんだねぇ」
「だ、け、ど」
「それじゃ遅い」
「箒ちゃんに才能はあるよ! それもとびっきりのがね!」
「まあ私には遠く及ぶべくもないんだけど」
「それじゃさ、箒ちゃんが地道に確実に、失敗を重ねて努力を積み重ねて、真っ直ぐに真っ当に強くなったとして」
「それが実るのはいつ?」
「それが叶うのはいつ?」
「わかんないよねぇ!」
「わかるのは今すぐじゃないってことだけ!」
「そんなの遅すぎる、遅すぎるよ箒ちゃん!」
「いっくんは振り向いてくれないよ!」
「いっくんを振り向かせるには、圧倒的な力が必要なんだよ!」
「それがあれば、きっといっくんも......」
「え、やだなぁ。あんなのにできるわけないじゃないの」
「凡人はねえ、逆立ちしても凡人なんだよぉ?」
「それにさ、強くなりたいでしょ、箒ちゃん」
「お姉ちゃんとして妹の事を気にかけてるだけだよ。当然のこと」
「だからさ、私が与えてあげる」
「力も希望も欲望も努力も理想も憧れも目標も結果も全部!」
「その力がこのISにはある! 箒ちゃんの専用機には!」
「え、名前、そうだなぁ? 決めてなかった」
「そうだねえ、黒は嫌いだから、赤にしよう!」
「白に並び立つもの」
「敵を沈め、大空を舞い、白い翼に寄り添うその存在!」
「その名前は、そう!
ーーーー赤椿」
「......え、なんでその名前が出るの」
「やだなぁ、知り合いな訳ないじゃないか」
「ダメだよ箒ちゃん!」
「夜更かししてそんな番組見ちゃあ!」
「身体に毒、いや、あんなものゴミ箱以下だよ! 見ちゃダメだよ!」
「え?」
「私の服装?」
「そうだねぇ、最近はアリス・イン・ワンダーランドにハマっててー」
「ええ?」
「せっかちだなぁ」
「うさ耳、青いワンピース、白いエプロン」
「これでいいよ」
「え、なに?」
「テレビに映ってる?」
「箒ちゃんも冗談をいうようになったんだねぇ」
「お姉ちゃんは嬉しいよ、うんうん」
「振り向け?」
「束さんの基地にそうホイホイと人が入れるわけないじゃんか」
「そんなわけーーー」
「おい、パイ食わねえか」