〜もしエス〜 もし女子剣道部のマネージャーがインフィニット・ストラトスを起動したら   作:通りすがる傭兵

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私ごとですが、これから半年ほど投稿が長引くかと思います。
というのもリアルが素晴らしく忙しいことが予想されますので......隙を見て投稿は心がけていきますゆえ。


第34話 海についたら

 

 

 

 

「あはっ、はははっ!」

 

長いトンネルを抜ければ、そこは海であった。

 

塩辛く少し生ぬるい塩風が車内に吹き込み、窓の外を見上げれば水平線の向こう側まで広がる深い青が目に飛び込んでくる。

 

「うーみだー!」

「いやっほーい!」

「すまない、大声は控えて貰えるか? 成政が......」

「あ、ごめん篠ノ之さん」

「駄目だ......酔った......うえっぷ」

 

IS学園からバスに乗って一路西へ向かうこと2時間と半分くらい。俺たちは今、海沿いのとある道路の上にいた。

クラスメイトは窓の外から身を乗り出して叫んでたり写真を撮ったりと各々に海を満喫しているが、俺はそんな事する余裕もなく......青い顔で吐き気を抑えていた。

 

「バスの中で読書でもしていればそうなるだろうに、なぜだ?」

「だって面白かったんだもん......」

 

車の中で読書をすれば当然酔う。

普通なら車ごときでも酔うことは無いんだが、長時間の運転に文庫本の細かい文字、さらにはシートのケミカルな匂いが纏めてきた結果がこうだ。

寝坊したおかげで朝食は食べてないから、吐くような胃の中身の持ち合わせが無いのが幸いだった。普通に食ってたら吐いてるところだ。

 

「そろそろ目的地だ、全員座れ。持ち物を確認して忘れ物のないように!」

「「「はーい!!!」」」

「全く......」

 

いつもは場を引き締める織斑先生の一喝も海を前にした生徒には無力なようで浮かれた返事が返ってくるばかり。

しばらくしてバスは目的地にある旅館へ。

旅館玄関前で従業員らしい和服の人たちが待つ中、山田先生や他の組の先生の指示のもと、1組から4組まで、100人を超える生徒たちが正面玄関前で整列。旅館側の人からすれば壮観だろう......端っこで女子生徒に肩を借りる青い顔をしてるであろう男子生徒を除けば。

 

「本日より三日間、お世話になる旅館『花月荘』だ。皆、旅館の方やほかの一般客に粗相のないようにな」

「「「よろしくお願いしまーす!」」」

「まーす......」

「ふふ、今年の一年生も元気が宜しいようですね」

どうやら毎年のようにこの旅館を利用しているようで織斑先生とは顔見知りのようでなにやら2、3言葉を交わしていた。

 

「あら、こちらが噂の......?」

 

視線が俺と俺に肩を貸す箒、そして一夏に。

 

「はい。今年は男子がいるせいで浴場の割り当てが難しくなってしまい、申し訳ありません」

「いえいえ、そんな。それにいい男の子たちじゃありませんか。しっかりとしていそうな感じで」

「気のせいでしょう。挨拶ぐらいしろ馬鹿者」

 

ぐい、と一夏が無理矢理に頭を下げられる。

俺にやってこないのは病人だからか、そこんところに気遣いは当然のこととはいえ有難い。

 

「お、織斑一夏です。よろしくお願いします」

「ふふ、御丁寧にどうも。清洲 景子(きよす けいこ)です」

 

丁寧に頭を下げる清洲さん。その仕草は洗練されていてかつ気品が溢れ、お客さんに対する心遣いが十分に伝わってきた。これが日本の女将というものか......

 

「成政、どうする?」

「しばらく部屋で休ませて......」

「わかった。部屋はどこだ?」

 

ごそごそとカバンの中から栞を取り出し、部屋割りの書かれたページから俺の名前を探してくれているらしい箒。だがしばらくすると顔をしかめる。

 

「......お前の部屋がない、書類の不備ではないか?」

「織斑、篠ノ之、河南、ついて来い。男子の部屋はこちらだ」

 

どうやら織斑先生が案内してくれるらしい。

部屋割りに書かれてないということは特殊な場所になるんだろうけども、一体どこだ?

 

「あらあら、では布団を敷いておきましょうか?」

「お願いします。彼をしばらく休ませてやって欲しい」

「楽しみで眠れなかったのですか? 可愛いところもあるんですね」

 

俺を引きずるように歩く箒を見てか気を利かせてくれた清洲さんが対応してくれた。布団を出せる手間が省けるというのは随分と大きい。

 

「もう少しだ。横になればすぐ治るさ」

「ありがと......」

 

こんな時、箒の男らしい言葉がすごく頼りになる。本人は気にしてるようだけど、こんな時は頼もしい事この上ない。

 

廊下を歩くことしばらく、どうやら部屋に入れたらしい。潮の匂いに混じって、濃いい草の匂いが鼻についた。

 

「ほら」

 

ぽす、と優しく柔らかいものに寝かされる。ごろりと身体を天井に向けると、心配げにこちらを見下ろす箒と一夏の姿がよく見えた。

 

「顔真っ青だけど、水とかいるか?」

「確か下に自販機があったはずだ」

「すまん......」

「いいって事よ。大事な友達なんだからな」

「お前がいないと調子が狂うからな」

 

外からはきゃいきゃいと騒がしい声が聞こえてくる。つまり自由時間ということなんだろうが、わざわざその時間を削ってまで。

「おーりーむー、あーそーぼー!」

「わかった、今行く!」

 

外から大声で呼んでいるのは布仏か、彼女あんな声出せたんだな。

 

「のほほんさんが呼んでるし、俺は行くわ。......大丈夫か?」

「私が残ろう」

「ありがとう、箒は優しいんだな」

「いいから行け!」

 

そんじゃ、と荷物を入れたウエストポーチを持ち部屋を出て行った一夏。後には箒と俺が残っているばかり。

「......ごめんね」

「気にするな、どうせ私は泳げん」

「......水着、見せたかったんでしょ?」

「いざそう思うと勇気が出なくてな」

 

せっかくロランが選んでくれたというのに、という呟きにちくりと胸が痛む。それもそうだ、俺が望まなかったんだもの。とはいえ......努力が報われないのはちと辛いもの。

 

「......11時半、そろそろお昼の時間だな」

「お粥でも作ってやろうか?」

「箒ちゃんは料理作ると無味無臭の無機物しかできないじゃん」

「わ、私とて上達はしている!」

「あはは、そりゃそうだよねぇ」

 

そうだ、俺は知っている。なんせ散々失敗作をおみまいさせられたからな!

 

味のないチャーハンに始まり、しょっぱい味噌汁黒焦げの野菜炒めと料理下手あるあると辿り、生すぎる卵焼きに固すぎるご飯、さらに真っ黒焦げの焼き鮭に絶妙に味のない煮物など、食えなくはないが美味くはない微妙な料理をここ3ヶ月どれだけ食べた事か。

 

今はだいぶ上達してるから、人の成長ってのは早いもんだねぇ......

 

「だいぶ顔色が良くなって来たな」

「そう? 心なしか気分も......」

 

よっこらせ、と身体を起こす。若干頭がクラクラするが気持ち悪さもなく、視界がフワンフワンと揺れているわけでもない。

 

「よし、完全復活!」

「もう心配はいらんな。私は布団を片付けておく、成政は遊んでくるといい」

 

「おーりむー! ビーチバレーしよー!」

「おーう、いいぜー!」

 

「......スポーツも呼んでいる事だし、な」

 

パチリとウインクすらしてみせる箒ちゃん。

 

「......なんか変なもの食べた?」

「ち、違う!」

 

でもただ、と前置きして。もじもじと指先を少し絡めながら答えた。

 

「成政とこう、こんなところに遊びに行くのは初めてだからな。少し羽目を外しているのかもしれんな」

「箒ちゃん......一回病院いこ? 高校生なら学生証見せれば保険きくから負担少な」

 

お腹殴られた、解せぬ。

 

 

 

◇◇◇

 

 

「ビーチバレーやるんでしょー、俺も混ぜごっふあああああ!」

「リコリンの渾身のスパイクがなり君の顔に!」

「今日は厄日だ......がくり」

「なりくんが死んだ!」

「このひとでなし〜」

「おい大丈夫か成政!」

「大丈夫だ、問題ない」

「問題しかねえだろっ!」

 

 

◇◇◇

 

 

綺麗な夕暮れを背景に記念写真を撮ったところで海水浴は御開きとなった。

このあとは飯の時間だ。というわけで部屋に用意された浴衣に着替え、大広間で夕食と相成った訳だが、

 

「「うまいっ!」」

 

やはり運動した後の飯は美味い。それとも空腹がそうさせるのか、はたまた臨海学校で盛り上がっているからか、ふつうにおいしいご飯なのか......理由は謎だが、とにかく飯が美味い。

一夏も同じ意見らしく美味い美味いと飯をかきこんでいる。その上男子だということを考慮してかおかずもご飯も気持ち量が多め、こんな心遣いが有難い限りだ。

 

刺身は新鮮な魚を使っているのか、キラキラと光を反射してキラキラと光っている。そして噛めば噛むほど魚の旨味がじわじわと溢れる。

醤油をつければ塩気と醤油独特の風味がさらに魚の旨味を引き立てる。そこに山葵をつければ申し分なし!

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「というか山葵がうまいからな。むしろ山葵オンリーで飯が食える」

「......じゃあ、僕も」

 

一夏の隣にいたシャルロットも俺を見てか山葵をご飯の上に乗せて口へ運ぶ。瞬間、口から漏れる息が満足げだったのを俺は見逃さなかった。

 

「な、美味いだろ?」

「うん、とっても美味しいね!」

「お前ら狂ってやがる......」

「「......まあ、騙されたと思って」」

「騙されないぞ俺は!」

「......ちぇー」

 

これ以上騒がしいと旅館の方に迷惑だしマナーにも悪い、それに鬼教官がすっ飛んで来そうでもあるのでこの話は一旦切り上げた。

「......つ、くっ......何故そのように平気な顔をして......!」

 

ふと気がつくと正座で足が痺れたのか、マトモに箸を扱えない様子のオルコットが目に入る。

 

「無理しなくてもいいのに。素直にテーブル席とか」

「なりませんっ!」

 

キッと鬼気迫る表情でこちらを睨むオルコットさん。その席に固執する理由なんて......あったな。

 

「シャルロットみたいに足を崩せば楽になるよ。正座は日本人でも慣れないとキツイからね」

 

言われてしばらくもぞもぞと足を動かし、楽になったかふうと息を吐くオルコットさん。

 

さて食事の後はなんぞや......となるとこれまた自由時間な訳で。

1日目は殆どが自由時間なのだ。つまり明日からやたら忙しくなる事の裏返しでもあるのだが、暇でしょうがない。

それは1週間前に栞が配られた時から知っていた事なので別段ショックも驚きも無いが、

 

「......砂浜で高負荷トレーニングさせたい」

 

提案したら殺気を感じたので冗談とすぐ引っ込めたが、アレはマジで危なかった。

命の危機を感じるのは中学生の時兄貴とのアフリカ旅行以来だ。あの時はジャッカルに追い回されサイにど突かれシマウマに吠えられライオンに食べられかけ......ロクな目に遭わなかったっけか。

 

「んー、よし、と」

 

ふと物思いにふけっていると、何故か布団を敷き出した一夏。寝るにはまだ早いとは思うんだが......?

 

「ちげえよ。ちょっとな」

 

思わせぶりにニヤリとしてみせる一夏に、俺は頭を捻るしかなかった。

 

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