〜もしエス〜 もし女子剣道部のマネージャーがインフィニット・ストラトスを起動したら 作:通りすがる傭兵
あとは最大の難関である福音戦を頑張るだけです......!
終わりは見えてるんですけど、そこまでが遠い......!
あ、質問箱設置しました。
リクエスト、質問などあれば活動報告にドウゾー。
質問はそのうちまとめて返しますんで。
「うぁっ、く......一夏、強すぎる......ふあっ」
「千冬姉とやんのは久々だからな。
だいぶ溜まってるんだろ? こことか」
「そ、そこっ……んぁっ......はぁっ!」
音だけ聞いてるととてもエロい。それに姉と弟という背徳感が堪らないよね!
とか兄貴なら言いそうなもんだけど、この状況、普通にマッサージしてるだけなんだよね。
日本人特有の言葉が足りないのを適度に補って先の発言をもう一度、端は多少削るけどね。
「一夏、(指圧が)強すぎる......!」
「(最近忙しくて)千冬姉と(マッサージ)やんのは久々だからな。
(最近書類仕事ばかりで疲れが)溜まってんだろ?」
うーんこの主語と補語の無さよ。
まあ男子高校生特有の下ネタっぽい話題は後でトイレかゴミ箱に捨てるとして。
「一夏にこんな特技があるなんてなぁ」
「時間あるしこの後やってやろうか? セシリアの後になるけど」
「じゃ頼むわ。最近肩周りが辛くってなぁ」
「はは、もう四十肩かよ成政おじさん」
「よせやい、まだ15だぜ俺は。
......って、オルコットさん?」
「おう、先約でな」
聞けば砂浜でサンオイルを塗るとき一悶着あったらしく埋め合わせにマッサージでもと思いついたそうな。じゃあ先にやっている織斑先生はどうなのというと腕の錆を落とす実験台になって貰っているとか。
「それはそうと勉強になるね、めもめも」
「ほとんど独学だけどな、案外どうにかなるもんだぜ」
これで終わりと呟き、先生の背中をパンと叩いて終了を知らせると名残惜しそうに浴衣姿の先生がのそりと布団から起き上がった。
「肩のコリと足のむくみ、だいぶとれたろ千冬姉」
「ああ、臨海学校関連書類が多くてな。最近残業ばかりで......また上達したか?」
「金があるから専門書も買えるようになったしな! IS学園さまさまだよほんとに」
「失礼しますわ一夏さん、って、先生?!」
運がいいのか悪いのかこのタイミングでオルコットさんが来た。一夏が軽く肩を動かし、指をわきわきと触手みたいに動かしてストレッチして。
「んじゃ、ちょっと横になってくれる?」
「ええっ?! そんな急に......まだ段階というものがですね......」
「だから主語と補語が足りないんだって」
マネージャー状況説明中......
「で、ではお願いしますわ」
浴衣姿でごろりと布団に横になるオルコットさん。先の大和撫子然とした織斑先生の雰囲気とは違う、ヨーロッパ系の美人と浴衣のミスマッチ加減、なかなかに良き。まあそれは胸中に留めておくとして。
「おおう、固え......」
「じ、実は最近疲れが......」
手を当てた途端、思わず呟く一夏に謝る言い訳するオルコットさん。
「テニス練習にバイオリン演奏会に書類仕事、だもんねえ。そりゃ疲れもたまるよ」
「......いや、なんで把握してんの?」
「成政さん、テニス部の練習も見てくれてますの」
「テニス部の練習、も?」
こちらを見て首を傾げる一夏。
「まず剣道部のマネージャーだろ。
ついでに薙刀部も見て、柔道部、空手部も時間があるときに見てるし。
夏の大会前の対策をソフトボールとサッカーとテニスと卓球とバトミントンと......」
「ちょ、多すぎだろ!?」
「好きでやってるからヘーキヘーキ」
人間、好きな事ならストレス感じないし過労死なんてもってのほか。ぶっちゃけていうと脳内麻薬ドバドバ出すぎて疲れが吹っ飛ぶせいだろうけどヤク中かな?
「好きでやってんだから心配すんない」
「それならいいんだけど、さぁ」
「ささ、お構いなく2人でのんびりドーゾ」
何か言いたげな様子な顔をしてモゴモゴと何か呟いていたが、結局マッサージに戻ってくれた。
......のだが。
「どういうわけか皆が押しかけてきて女子会になったから叩き出されるとはこれいかに」
「俺が知る訳ねえだろ......」
夜の景色が美しい露天風呂に、男子2人。さもしい事この上ないが、実際男子が2人だけなんだからしょうがないだろ。
でもま、その分この広ーい露天風呂を星空含めて貸切りってのはいい気分だ。
モノは考えようだ、うむ。
「して一夏よ。おんし好きな人はおるか?」
「なぜに方言」
「なんとなく。で好きな人は?」
「んー」
考えこむそぶりを見せる一夏。
これは、もしかしてもしかしたらもしかするとそういう事が......?
「みんな好きだぜ?」
「男子高校生が2人でする会話でそんな玉虫色の波風立たない無難な答えをするなよ!
もっとこう、なんかさあ」
「なんか弾みたいな事言うなぁ......」
弾が誰だが知らんが、もっと頑張れよ。朴念仁を修正してやれんかったんか?
「出来るかよぉ!」
「わあびっくりした! 突然大声出さないでよ」
「すまん、なんか呼ばれてる気がして」
「というか前々から思ってたんだが、お前って男が好きとかそういう事は」
「ねえよ! ちゃんと女の子が好きだよ!」
ばしゃりと水面を叩いて不満を露わにされても、今までの素行を見る限りグレーゾーン。
猜疑の目を向けざるを得ないだろうて。
「改めて聞くが、女子に恋愛的な感情が全くないとかはないよな?」
「..................あるには、ある」
(いよおおおおおおおおし!)
一夏は押せば行ける事が今証明された。頑張れ箒ちゃん、希望はある。......でも、あの鈍さで恋愛感情があるとか相当頑張んないとだけど。
「ち、な、み、に、聞くけど好きなタイプとかいたり?」
「千冬姉みたいにカッコよくて......」
「ハードル高ええええええ!」
思わず頭を抱えたくなる答えが帰ってきた。 たしかに千冬さんはカッコいいよね、女子としてはどうかと思うけど人間としては憧れる気持ちはわからなくもない。
いやまあ、箒ちゃんもそれなりにゃあ男前でかっこいいけれども、あの織斑先生を比較対象にしちゃうと、一段劣るのは事実。
「いや、千冬姉締めるとこは締めるけど結構ズボラだし料理出来ないし掃除ダメだし」
「それを加味してハードル高えんだ馬鹿たれ」
「あだ!」
全く、身近なハードルが高いと周りばっかり苦労する羽目になる。これだから天才を周りに持つ人間は。
「じゃ逆にさ、お前好きな人いるのかよ」
おっと予想外のカウンター。でもまあ、予想できた事、ここは慎重に。
「居ねえよ?」
「嘘だな。お前って嘘つくとき首の後ろ触るからな」
「まじでか?! うっそだろ俺全然そんな癖知らないんだけ......ど」
見れば、ふふんと自慢げにしている一夏の顔が目に入る、それだけで大体察した。
「......お前鎌かけたな!」
「まー、俺も成長するって訳よ」
そこでだ、と前置きをしてずずいとこちらに顔を寄せてくる一夏。
「で、好きな人は?」
ムカついたので桶で湯を顔にぶっかけてやった。
「言えるわきゃねーだろ馬鹿野郎!」
「っはー、言える訳ないってかー。つう事は俺が知ってる人って事だな?」
したり顔でニヤつく一夏。ほんとにこいつ他人の時だけは頭が冴える!
「クッソ鋭いな自分は鈍い癖に!」
「刑事ドラマ見れば大体そうなるんだぜい。でさー、誰なんだよー」
「寄るな触るな近づくな気持ち悪い!」
ああもうこうなったら一夏の頭をぶっ叩いて記憶消すなり根本から解決しないと! こいつ鈍チンの癖にやたら勘だけは冴えてるんだよなぁ全くもう。
(......卓球のスマッシュを頭に当てれば記憶は消せるのでは?)
「......なあ一夏」
「んだよ改まって」
「卓球しようぜ」
「え、やだよ疲れてるし」
「......じゃあ仕方ないかぁ......」
「それと考え声に出てたからな?」
「......チッ」
「怖いわ!」
◇◇◇
「で、お前らアイツのどこが好きなのだ」
一夏と成政と入れ違いになるように呼ばれた私達を待っていたように、千冬さんは言った。もちろんのこと、アイツとは大方一夏の事だろう。
「私はその......昔から見ているから、ただお節介を焼いているだけというか。それに随分と弱くなっていたので」
からん、とラムネの中のガラス玉が揺れる。
「私は......腐れ縁なだけですし」
となりの鈴ももごもごと言う。
「よし、一夏に2人がそう言っていたと伝えておくか」
「つっ、伝えなくて結構ですっ!」
「はっはっは、冗談だ。それでお前らは?」
さも愉快そうに笑う千冬さん。先程からビールの減りもはやいし、様子も変だ。
酔っている、ということか。
「つ、強い所、でしょうか」
「いやそれは無いな」
ラウラが絞り出すように出した答えを即座に否定し、何故かゴソゴソと成政のカバンを漁りだした。
「あいつは真面目だからな......っと、あったあった」
取り出したのは古ぼけた大学ノート、確かいつも訓練の時に持っていた筈だ。
「一夏のページは......これか」
ふうむ、と唸って内容を読み上げる。
「戦績は勝率3割6分5厘。鈴やオルコットと、篠ノ之とは互角だが、デュノアとボーデヴィッヒ、お前とはまだほとんど勝てていないようだが?」
「そっ、それは確かにそうですが、嫁は、一夏は強いんです。それはなんといえば......」
「デュノア、お前はどうなんだ?」
「えっと......」
ペットボトルを置き、所在無く手をアワアワと動かし顔を赤くしているシャルロット。しばらくして、口を開いた。
「諦めない、ところです。
一見不可能でどうしようもないことに立ち向かう姿勢に、みんなを守る決意。
......そこに、惚れたんだと思います」
「なるほどな」
グビリ、と納得したようにビールをあおる千冬さん。それにつられるように私たちも飲み物を口に含み、
「......ところで篠ノ之、襖の後ろにいるオランダ代表候補とはどんな関係なのだ?」
「ほーうきーぃ。何故私に声をかけてくれなかったのかな......」
「ぶふぉあっ?!」
襖の隙間から目を覗かせていたロランに思わずラムネを噴き出してしまった。
「いやあご相伴に預かれるとは恐悦至極」
「ほら、紅茶でいいか」
いつもの調子で物怖じすることなくズカズカと室内に踏み込んでくるあたりさすがとしか思えない不躾さな訳だが、酔っ払いの千冬さんは特に気にすることもなかった。
「ぷはー」
「......まあほとんど部外者の様なものだが、
ローランデネルフィ」
「ロランで結構ですよ、長いですしね」
「ではロラン。一夏の事をどう思う?」
「一夏の事ですか?」
うーん、と考え込む事数秒、さも当然と言うようにロランは言った。
「好きですね。無論異性の方で」
「な、ななっ、なんですってぇ!?」
「ステイ、ステイです鈴さん!」
「当たり前だろう? 恋をするのは女性にとって等しく与えられた権利、それをせずしては青春は語れないよ」
でもまあ、と前置きして続けた。
「“全ての男女は星である”。
その言葉が語るように、全ての人間には魅力があり、私たちはそこに恋をする。それはこの世の真理、全ての人間には等しく与えられた在り方なのさ。そこに程度は存在しない。
無論ホウキ、君にも私は恋をしているぞ」
「やかましい」
「随分と浮気性だな、嫌われるぞ?」
「嫌われるなら、それを超える愛をぶつけるだけです」
役者然とした、達観した様な言い回し。だがその奥には何か別の心理があると疑いたくもなる。
「それでも、他人の恋を応援する事もたまにはありますよ?
恋愛の形は人それぞれ、それがどれだけ真っ直ぐでどれほど歪んでいたとしても、全て私はそれを愛します。
それは、役者ってものでして」
ロランは恥ずかしげに頭をかいて、ペットボトルの紅茶を飲み干すと席を立った。
「愛してるよ、ホウキ」
私の頭に、軽くキスして。
「なっ、ななななぁっ?!」
「ははは可愛い顔するじゃないか。
「ま、待て!」
ひらひらと手を振り、場をかき乱すだけかき乱して帰って行ったロラン。廊下に出たときにはもうその姿は無かった。
......なんなのだ、アイツは。
「っと、そろそろ一夏が戻ってくるか。ほら、お前ら帰れ。一夏に聞かれたくないだろう?」
「すまんな篠ノ之。どうにも掃除はできんのだ」
「いえお構いなく、私がやった事ですし」
成政のカバンから引っ張り出したタオルを使って吹き出したラムネを拭き取る。ひとの荷物を勝手に漁るのはどうかとは思うが、もしもの時のために大量にタオルを詰めてるのは知ってるからな、今がその時だろう。
「ついでに缶も片してくれんか?」
「それは自分でやってくださいよ......」
「むー」
日頃のキリッとした顔とは打って変わってぶーぶーと文句を言う千冬さん。いつも真面目一辺倒の顔ばかり見ていたから新鮮だ。
「誰にせよ、一夏が自立すれば私も楽になるからな」
「......そう、ですね。思い返してみれば、千冬さんは心配性でしたから」
思い出すのは昔の記憶、セピア色な一夏との思い出。
その一端に映る千冬さんには、いつも迷惑をかけてばかりだった気もする。
「はは、ただの過保護だ。昔の私は余裕が無かったからな、こう休むこともなかったさ」
物心ついた時から親はなく、年上だった千冬さんが一夏の親代わりだった。その時の心情を私は推し量ることは出来ないだろう。
「それはお前も同じだったぞ、篠ノ之」
「私も、ですか?」
「ああ、そうだな。中学三年、お前が学園に面接に来た時のことを覚えているか」
「あれは面接というより連行でしたけど」
「あの時のお前も、随分と気を張っていた。昔の私と同じ様に、責務に押し潰されそうな顔をしていた」
そう言われても、自覚などない。
ただ、中学校3年間はがむしゃらに剣を振るっていた記憶以外には何もない。場所を変え、友も無く、ただ己と向き合い続けていた日々。
......あの約束だけが、支えだった。
「だがお前は随分と変わった。ここに入学してからは憑き物が落ちた様で、随分と楽しそうにしていたぞ」
正確には軽くなっていたようだった、と呟く千冬さん。全く心理の読めない脈路のない言葉はただ酔っているだけなのか?
「恋愛というものはどうにも掴み所がない。
案外、近くに落ちているのではないか?」
「し、失礼します!」
ニヤニヤと笑う千冬さんに何か嫌なものを察して、私は部屋を出て行った。
「教え子に嫉妬してしまうとは。
随分と大人になってしまったものだ、私も」
ぐびりと音を立ててビールを喉に流し込む。
その瞳はここでは無く、はるか遠くのどこかを見つめていた。
「一夏ももう15。篠ノ之も、凰も色を知る歳になった。時が経つのはあっという間だ。
......反対に私達は、歳を取りすぎた。そうは思わんか。なぁ、束」
「風呂上がったぜー、ってなんだよこの缶の量。千冬姉飲み過ぎ!」
「いいではないか一夏。
せっかくの海、羽目を外さんでどうする?」
「そーゆー外し方は良くないと思います。成政もそう思うよな、なっ!」
「千冬さん一杯貰えます?」
「話が分かるではないか。ほら」
「成政ーっ?! 未成年で酒はダメだろーっ!」
「知ってるか一夏、IS学園は治外法権。
......つまり、飲酒法も存在しないってこった!」
「わーっ、わーっ、やめろ成政ーっ!」
......もう少し見守っていた方が良いのかもしれん。
少し前に抱いた決意をすぐに水に流した千冬は、夜だというのに騒がしい男子2人の頭に拳骨を振り下ろす。
「夜に騒ぐな、馬鹿者!」
「それは確かな情報なんだろうな?」
「ああ、間違いねえぜ」
『レーダーでも確認済。確実に目標はそこに来る』
「問題はタイミングね、確実に狙わないと」
「ネックは世界最強だな。いけると思うか?」
「まー無理だな、海に放り投げられるのがオチ」
「......いっそのこと海から行くのはどうかしら?」
『悪くないけど装備が......』
「あるよ」
「......なんで持ってんの?」
「そりゃ、ジョーズみたいに人食いザメに襲われると思ってたから」
「怖えよ! 流石にサメは無理だって私でも!」
「いやそこはこう......ね?」
『ね? とは一体』
「ハイハイ、関係のない話は終わり。本題に戻りましょう。
潜水装備があるなら問題は解決するんでしょ、どうかしら?」
『悪くない』
「異議なし」
「面白くなってきた!」
「必ず成功させっからな。三日三晩寝ないで考えたんだ。
この計画......そう『篠ノ之束拉致計画』......!」
「ところで拉致した後はどうすんだ?」
「着ぐるみでも着せて一緒にレポートさせればいいだろ。本家でもそうしてるんだし」
「雑いわねぇ......」