〜もしエス〜 もし女子剣道部のマネージャーがインフィニット・ストラトスを起動したら   作:通りすがる傭兵

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サブタイネタが尽きてきた作者です。

なぜか休みなのに執筆時間が減ってしまい、遅いペースがさらに遅くなる事に。解せぬ。


第3話 河南と織斑は現実を知る

 

 

 

叩かれ慰められ(鞭と飴)の10分スパンを繰り返すこと5回、力なく机に突っ伏している織斑は自業自得だから放置。

俺はクラスメイトの中に見知った顔の人がいたので声をかけていたので、決して薄情な男ではない、イイね?

 

「どうも四十院さん。半年ぶり」

「あら〜、やっぱり河南さんでしたか」

「見知った顔がいると気が楽なんですよ。しばらく話に付き合ってくれます?」

「別に構いませんが〜、本当の目的は他にあるでしょう?」

「暇な時に勉強教えてください」

「いいですよ〜」

 

現在話しかけているこのほんわかとした人は四十院神楽(しじゅういん かぐら)、去年の夏に大会でしのぎを削りあった仲だ。お団子ヘアーにおっとりとした見た目通り、この人の剣道は苛烈なものではない。しかし雰囲気がそうさせるのか、なぜか攻めようという気持ちが緩んでしまうとかなんとか。

このような独特の雰囲気の人への対策はやはり裏方としてはやりにくいので歯痒いものだ。

 

「なんだ河南、知り合いか」

「まあそんなところ。この人強いんだよ」

「またまた、お世辞が上手いんですから」

「いやいやいやいや」

「いやいやいやいや」

「......なんだこれは」

 

聞けば、元華族だとか。

貴族ってみんなこんなのほほんとしたお人なのかしらん。

 

「何ですって、この私を知らない!

オルコット家当主でありイギリス代表候補生、そして入学主席であるこの私を!?」

「厄介ごとの匂いがする!」

「楽しそうですねぇ」

「私と再会した時より目が輝いている気が」

「......気のせいじゃないかナー」

「私の目を見て言ってもらおうか?」

「キノセイジャナイカナー?」

「どうして目をそらすんだ河南、ん?」

 

俺はただ、喧嘩で殴り合いが始まったら審判がやりたいだけなのに! ジャッジー!

 

 

 

「では、授業を始める。

と、その前にクラス代表を決めねばな」

 

教壇に立つ織斑先生が、急にそんな事を言い出した。クラス代表とはなんぞやと思わず首をかしげていると、意思を汲み取ってくれたのか大雑把にではあるが説明してくれた。

 

「クラス代表というのは一般的な学級委員長と思ってもらっていい。

だが、ここIS学園ではクラス対抗行事が存在する。簡潔に言えばクラスの顔になる者だ。

自薦他薦は問わない、誰か居ないか」

「はいはーい、織斑くんがいいと思いまーす!」

「さんせいさんせーい!」

 

命知らずの勇者が被せるように声を張り上げる。それに続いた大勢が賑やかしにと手を上げていく。

 

(クラス対抗行事、ねえ)

 

IS学園だけに存在して、かつクラス対抗が成り立つもの......さて何でしょう。

まずIS学園だけに存在するもの、安直に考えれば文字通りIS。

そしてクラス対抗行事で、代表制が成り立つもの。

なるほど、つまり決闘だな!

「他に推薦者はいないか。無ければ2名で決選投票を行う」

「ちょっと待てよ千冬姉!俺はこんなのやりたく」

「黙れ、話すな、理不尽を受け入れろ。人生そのようなものだ」

「20代の台詞じゃないあいたぁ!」

「織斑先生と呼べと何度言えばわかるのだ馬鹿者」

「また出席簿が振り下ろされてら......懲りないんだかアホなんだか」

「ただの阿呆だ。ところで貴様は随分あっさりしているが」

「いやいや、他人事ですし」

「お前話は聞いていたのか?

私は2()()()()()()()()と言ったんだが」

「......2名?決選投票?」

「お前と織斑の事だが」

 

オマエさんと織斑が選ばれたんだろ。

普通に他人事じゃないですか、織斑先生。

俺の苗字はオマエではなく河南ですけどもう!

 

(ンなわけあるか馬鹿!)

「なーんで俺が選ばれてるんですか!俺はただのマネージャーであって選手でもないしそもそも裏方専門だから試合はできないですしおすし」

「その通りですわ!私が推薦されないとは一体どういうことですの!」

「そーだそーだー!投票のやり直しを要求するー!」

「男性が推薦されるなど、恥さらしに他なりません、このセシリア・オルコットこそが相応しいですの!」

 

何故か横あいから声がする。

と思って振り向いてみれば、見事な金髪縦ロールの女子生徒が同じく立ち上がって、こちらをまじまじと見ていた。

なにかどこかで見たような......まあクラスメイトだし当然とも言えるわけだけど、あ。

 

「さっき織斑と騒いでたの」

「そんな言い方しないでくださいます!

私はセシリア・オルコットという先祖から受け継いだ立派な名前があるんですの!」

「ごめんオルコットさん」

「わかればいいのですわ」

 

なるほど、チョロいなコイツ。

 

「そも男子だからと言って無責任に推薦されるのは如何なものかと!」

「そうですわ! 中世ならともかく、現在では女性の方が優れているのは明白、実力のあるものがクラスの代表になるべきです!」

「そうだ! 俺だってなりたいわけじゃないのに勝手に祭り上げられるのはどうかと思うぞ千冬姉!」

 

不満げだった織斑も加わって3人でぎゃーすか織斑先生に向かって喚き立てる。

ここは現代日本だ民主国家だ、こんな独裁者による横暴を許してなるものか!

 

「黙れ小童(こわっぱ)ども!」

「「「ひぃ!」」」

 

教卓をぶっ叩き、目を釣り上げて大声を張り上げる。誰がどう見ても、世界最強はブチ切れていた。

 

「私とて望んでこの仕事についたわけではない!

だが、この現代で将来の夢を叶えられるものなど、ほんの一握りだ。だが夢を諦めろとは言わない。

自分の力及ばぬところで夢が断たれるかもしれん。

他人の悪意によって道が閉ざされるかもしれん。

己の実力の不足で競争相手に敗れるかもしれん。

その結果として望まぬことを強要されるやもしれん。

だが、それに(くすぶ)り、不満を持ち、与えられた事すらまともに出来ない者は、クズだ!

目の前の事すらまともに出来ぬようなら、貴様らなんぞ動物以下だ、人間ではない!」

 

突然大声を張り上げたのはびっくりしたが、確かにそうだよな。宇宙飛行士なんてそれこそ叶えられるのは数人だろうし。

 

「......返事はどうしたぁ!」

「「「「「「ハイ!」」」」」

「織斑、河南、オルコット。

......文句はあるか?」

 

ぐうの音も出ない正論だ。織斑に至っては先生に圧倒されて目を回してるし、オルコットさんはここから見えないから様子もわからない。

だけど言いなりのままいい話で丸め込まれるわけにはいかない、こんな理不尽あってたまるかっての、正当なクラス代表を選んでもらう!

 

「先生、俺はセシリア・オルコットを推薦します。

同時に、こんな周りに流されるような適当な多数決でなく、クラス代表に相応しい実力あるものを選べるよう」

 

一度発言を止め、大きく息を吸い込んで、

 

「3人による決闘を提案します!」

 

そう、俺は言い放った。

やっぱこういうのは殴り合いで決着をつけるべきでしょうて、それにISを動かせる機会は作っておかないとな。

 

「よろしい。今週の日曜日、朝10時より第3アリーナにてクラス代表決定戦を行う。

3人総当たりで試合を行いより多く勝ったものが決定権を有する、それでいいな。

出場しないものも、稼働するISを近くで見るのは良い経験になる。操縦者(パイロット)を志すならば必ず見るように。そうでなくとも、貴重な体験を逃す愚か者は人生の負け組になると心得よ。

いいな!」

「「「「ハイ!」」」」

「では、授業を始める」

 

織斑先生は教科書を持って黒板に向かい、教室の(うわ)ついていた雰囲気も張り詰めたものに切り替わる。

その前に、先生俺の方をチラッと見て笑ったような......まさか。

 

(もしかして全部見透かされてたりするー?!)

 

世界最強になるには超能力が必須とかだったら困る、俺は流石に超能力の開発方法なんて知らないぞ!

 

 

 

4時間目の次は、全世界すべからく昼休みと相場が決まっている。ここIS学園でも例外なく、昼休みが始まった。

IS学園にはそれはもうデパートのフードコートのように立派な食堂があり、しかもお財布に優しい値段、さすが国立。

「ボルシチってなんだ?」

 

ただし、メニューの3割ほどが見覚えのない名前で埋まっていたりする。まあいいや、麻婆豆腐食べよ。

 

「すみません、これ」

「成政、一緒にメシ食おうぜ!」

「んー、いいぞ。これお願いします、激辛で」

「日替わり定食二つお願いします」

「あいよ、男子だから大盛りにしとくね」

「ありがとうございます」

 

オバちゃんの心遣いに感謝しつつ、暫くして差し出された麻婆豆腐とセットのご飯を受け取る。織斑と相席、特に断る理由もないな。

ここは素直に受けておくか。

「俺は日替わり定食だけど、成政は何にしたんだ?」

「麻婆豆腐」

「そういや辛いのが好きって言ってたな。俺はあんまり好きじゃないけど、美味いのかソレ」

「そりゃお前本物の辛さを知らないだけだ。

本物の麻婆豆腐は病みつきになる辛みが堪らないんだよ。今度紹介する」

「本場の麻婆豆腐、的な?」

「的な」

「食わず嫌いってのもいけないしな、今度行くときには声かけてくれよ」

 

軽く話して見る限りコロコロと表情も動くし、結構フレンドリーな人柄だ。あの鉄面皮な鬼教師の弟とは思えない。

「おーい、こっちだ一夏!」

「すまねえな箒、場所取りなんて」

「幼馴染としては当然のことだろう」

「箒は優しいなあ」

「っ! いつも通りにしただけで感謝される筋合いはないぞ!」

「はは、謙遜(けんそん)するなよ」

 

屋上の時と同じように楽しく話す織斑と篠ノ之。幼馴染のなせる技というものなんだろうか、だったら俺にもできるはずなんだがなぁ。

 

「羨ましい......」

「ん、このシャケ欲しいのか?」

「いや、そういうわけじゃ」

「遠慮するなよ、ほれ」

 

鮭を一切れつまんで差し出してくる織斑。

これ世間では『はい、あーん』と言われるやつなのでは......でも男同士だよな、織斑って女だったりは、当然ないよな。となると?

 

(まさか織斑ってホモなのか?!)

 

素面(しらふ)でこのような事をするとは考えにくい、ならば親交を深めようとこうしてきているのは明白。

あかん、掘られる。俺はノーマルなんだぞ!

「そういうわけじゃないから!」

「そうなのか?」

「そうなんだよ!単純に篠ノ之と喋ってるのが羨ましいだけであって」

「普通に喋ればイイじゃん。なんで羨ましいって思うんだよ」

 

何がおかしいんだ、とでも言いたげに首をかしげる様子に腹が立ってしょうがない。

そのお前にとっての普通が大半の男子にできないことを理解しろこのイケメンホモ疑惑ばか斑。

「そんなに言うんだったらこっちにも考えがある」

「おいなんだよ不機嫌そうに、ってなんだそのレンゲ、くれんのか、ってめっちゃ赤いしソレ目がヒリヒリするんだけど近づけるなよ食えってかこんなの食えるかって押し込むなよまじでやめろもがっ、がああああああああああああああああああああ!!!!」

 

悪は滅びた。

 

 

 

 


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