〜もしエス〜 もし女子剣道部のマネージャーがインフィニット・ストラトスを起動したら   作:通りすがる傭兵

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ひとまず区切りまで書き終わりました!
これからバシバシ投稿していきますよー!


第37話 立ち込める暗雲

 

 

 

「うちの兄貴がたいっっっへん迷惑をおかけしましたことお詫びします」

 

若干髪をボサボサとさせてやつれている織斑先生に深々と頭を下げる。

暴虐無人で唯我独尊、自分勝手を地でいく兄貴の手綱握ることはできないとは言え後処理くらいはして然るべきだろう。一応これでも弟な訳なんだし。あー、頭が痛くなる。

 

「っかー、やっぱ世界最強は強いねぇ」

「あー負けた負けた、久々に負けた!」

 

先生の後ろでは満身創痍で倒れてる兄貴とオータムが満足げに笑ってる、腹たつけど参考資料にはなった、悔しいけど有難い。

 

「......あに、と言ったか?」

「はい、そうですけど」

 

不審そうな顔をして、兄貴と俺の顔を行ったり来たりする先生。

 

「......本当に兄弟か?」

「......よく言われます」

 

ならいいんだ、と疑問が解消されたらしく俺のそばを離れていった。

 

「ところで兄貴、何の企画してたの?」

「天災を拉致して遊ぶ。主に着ぐるみを着せる。そんで土地の魅力を体当たりで取材するローカル番組風の進行にする予定だったかな」

「うわぁ......」

 

この炎天下で着ぐるみを着せて外を連れまわすとか鬼か悪魔の所業だろそれ。

 

「ところで、この人天才って名字なの、珍しいね?」

「違うぞ成政、というか常識だろこんなの」

「バカなオータムだけには言われたくない」

「だけとはなんだだけとは!」

 

普通ならばケンカの一つや二つ引き起こすものだが、先生との乱闘で体力を使い果たしているらしくあっさりと教えてくれた。

 

「篠ノ之束だよそいつは。ISを作った張本人だ」

「へーえ」

 

ISを開発した人か、そりゃ凄......い。

 

「って、えええええええ!

天才ってあの天災の! ISを作った束博士ぇ?! 嘘だろ兄貴に絡まれてるからてっきり俳優さんかと!」

「今更気がつくの!? 私結構有名人だと思ってたんだけど!」

「不服ではあるが私の姉だ。ほら、結構似ているだろう?」

「言われてみれば確かに......」

 

箒に言われてみると結構似ている。顔つきは似通ったものだし、身体のスタイルも何か通ずるものがある、あと胸でかいし。

 

「何か邪なこと考えただろう」

「そんな事ないですよ?」

「そんな事より、箒ちゃんにとっておきのプレゼントがあるのだ!」

 

パンパンとシワだらけのエプロンドレスについた砂を払うと、気を取り直してと軽く咳をしたのち天災は高らかに歌い上げた。

 

「さあさみなさんお立会い、目ん玉かっぽじってよーく見といてよ!

これが箒ちゃんの為だけの、私が腕によりをかけて製作した世界で唯一の第四世代機!」

 

赤色のコンテナが洞窟に飛び込み、束博士の背後に降り立つ。観音開きの扉が開き、奥に鎮座していたそれは。

 

「その名も、ズバリ紅椿!」

 

まじりっけのない深紅の、宝石みたいに美しいISだった。

 

「ささ、箒ちゃん乗った乗った。専用機だよ、私が箒ちゃんの為だけに作った、大盤振る舞いなんだよう?」

「あ、ああ」

 

あまりの現実感のなさにあっけに取られていたらしい箒が再起動して、言われるままにコンテナに近づく。

ちらりと一瞬こちらを見たとき、俺が親指を立てると晴れやかな顔をしていた。

ショートカットとはいえ強くなれるに越したことはない、こんな機会滅多にないわけなんだしね。

 

束博士が軽口を叩きながら、箒と紅椿の間の最終的な調整を行ないはじめたところで、一夏達に色々聞いてみることにした。自分の経験だけじゃ参考にならないし、なるだけ不安は取り除いておかないと。

 

「やっぱ専用機って乗り始めはどんなものなの? 体が重くなったりとかする?」

「......俺のはあんまり参考にならねえなぁ。なんせ初期形態でほっぽり出されたわけだし、比較対象も無えしなぁ」

「私は結構スムーズだったわね。訓練機じゃ追いつかないくらいだったし、最初に乗った時はちょうどいい、って感じ」

「僕はラファールのカスタムだから、普通のとあまり乗り心地は変わらないんだよね。ちょっとバランスは変わるけどISが調整してくれるし」

「んー、割と問題なさげ?」

「そうとも限りませんわね」

「私はそうではなかった」

 

俺の意見に異議を唱えたのはオルコットさんとラウラ。

 

「私は軍で最初にレーゲンに乗った時は随分と体が重く感じたな。実験機という事ではあって元々性能的に悪い部分はあったろうが、慣れるまで時間がかかった。武装も満足に捌ききることもできず正直持て余した」

「私は逆ですわね。ISが自分の思っていた以上に動くのは存外気分が悪いものです」

 

思い出したくないのか若干嫌な顔をするオルコットさん。話したくないならと一応断りを入れるが、箒さんのためですものと口を開いてくれた。

 

「最初にブルー・ティアーズを受領して初めての訓練。私は最悪の成績を叩き出しましたわ」

「というと」

()()()()()んですの。一歩だけ歩いたはずが2m先にいる。そんな感覚でしたわ。

機体の性能を最大限に引き出せても、乗り手がそれに追いついていなかったのです」

 

今は克服して乗りこなせていますが、と注釈を入れるが俺はそれを聞いてはいなかったと思う。

断片的な情報からだが束博士が、ISを熟知したものが作るIS。特級の完成度を誇るISなのはいうまでもない。

完成度が高いというのは性能が高いことの証左。おそらく、この中のどのISよりも性能スペック上は強いんだろう。

 

だけど、それを箒は今すぐに乗りこなせるかと言われると疑問が残る。

箒は基本的に専用機に乗っていない、経験があるのは最適化すらされていない低スペックの訓練機のみだ。そんなものいきなり自転車をスポーツカーに乗り換えるような暴挙だ、そこのギャップは問題になる。

 

振り回されるか乗りこなすか。

 

身一つで行う剣道じゃあんまり馴染みの無い感覚だろうからそこがネックだな。一歩踏み間違えると恐ろしい事になりそうだ。

 

「すごい、これなら!」

 

調整も終わり、自由に空を舞っている箒を見あげる。本当なら喜ばしいことのはずなのに、俺の心はどこか曇っていた。

「ま、おいおい改善していけばいいか」

 

とはいえ今は7月も頭。夏休みの自主練習を通してそこらへんの調整をしていけばいいと思ってたんだが......

 

「織斑先生、これを!」

「なんだと......!」

 

事態は急を要するらしい。慌ただしい様子で山田先生が織斑先生に駆け寄り、何かヒソヒソと内緒話をしだす。

なんとなく、そうなんとなく直感的に。

 

とてつもなく、嫌な感じがした。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「専用機持ち諸君らに集まってもらったのはいうまでも無い。緊急事態が発生した」

 

襖で締め切られた大広間。その畳敷の床とは不釣り合いなメカメカしい機械が空中にホログラムを映し出す。

 

「IS学園上層部からの報告だ。ハワイ沖で試験稼働中だったアメリカ・イスラエルが共同開発していた第三世代軍用IS、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)が制御下を離れて暴走状態に陥ったとの連絡が国際IS連盟に報告された」

 

軍用IS。その短く、重々しい響きが場を支配した。

それが言外に意味するのは......今から行われるのが命が懸かる真剣勝負だという事。

それは皆にも伝わっているらしい。一言一句聞き漏らすまいという気迫のようなものが目を向けなくとも伝わってきた。

 

「衛星で追跡、その結果をシュミレートした結果。今から約50分後にここから50キロの沖合を福音が通過するとの結果が出た。

それを受けた国際IS連盟は学園に応援を要請。被害を最小限に抑える為、福音を撃墜あるいは無力化せよとの事だ」

 

一息置いて、織斑先生が口を開く。

告げられた内容は現実的で論理的で、あまりにも理不尽で納得いかない事だった。

 

「訓練機を装備した教員は交戦箇所に包囲網を構成、空域、海域を封鎖する。

そして福音への攻撃は性能の優れる専用機が行う事とする」

「なっ」

 

それってつまり、

 

「俺たちを戦場に駆り出すって事ですか?!」

「私語は慎め、河南」

 

思わず立ち上がった俺を睨みつけ、視線だけで黙らせる先生。

 

「ではこれより作戦会議を行う。意見のあるものは挙手を」

「それでは、目標の詳細なスペックデータの開示を求めますわ」

「わかった。これらは2カ国の最重要軍事機密、決して口外はしないよう。情報漏洩が発覚した場合、諸君には査問委員会による裁判と最低でも二年の監視がつけられる。それでもいいな?」

 

無言を肯定と捉えた千冬先生はデータを表示、それを反映したホログラフにも同じデータが映し出される。

こうして映し出された銀の福音のスペックデータ、その内容は俺たちには重すぎた。

 

現行第2世代の倍はある巡航速度、そして高い威力を誇る広域殲滅兵装銀の鐘(シルバーベル)。さらに機動性は白式とほぼ同等。

 

 

無理だ、勝てるわけがない。

 

アンサングにあるどのデータと比べても、その性能の一つにでも匹敵する性能を持つのは白式以外存在しない。そして、白式......一夏が単騎で福音に勝てる確率はゼロに等しい。

 

「攻撃と機動の両方に特化した機体ね…甲龍のスペックを軽く上回っているから向こうの方があたしより有利…」

「本国からリヴァイヴ用の防御パッケージが届いてるけど…それでもこのスペックじゃ受け続けるのは厳しいな」

 

それでもなお前を向いている皆のためにも意見は出さないとな。なんてったって俺はマネージャーなんだし、こういう時に張り切らないと。

 

「データリンク開始。アンサング、みんなの専用機のスペックとパッケージ込みでの性能、比較出せる?」

『Sir』

 

短い合成音声の返事がこの場では頼もしかった。半分不正をして手に入れたデータではあるけども、こうしてまとめれば考えもまとまり易いというもの。

程なくして簡潔に纏められたデータが視界の端っこに提示された。

 

一夏の白式は追加パッケージなし。燃費にだけ目を瞑れば最高戦力、零落白夜もあるし攻撃力としては申し分なし。

 

鈴音の甲龍は近接パワー型。追加パッケージも中距離攻撃をサポートするものであって今回のような状況に不向き。

 

オルコットさんのティアーズは高機動パッケージ。加速度と巡航速度は一夏の白式より高い。弱点としては火力が低い事。

 

シャルロットのラファールカスタム、パッケージはラファールの改良品。盾を4枚搭載した防御タイプ。少々機動力が物足りないか。

 

ラウラのレーゲン、パッケージは砲戦特化。

攻撃力は零落白夜に迫るものがあるし、遠距離だから銀の鐘に引っかかる事も少ないだろう......が、機動力が皆無。

 

ロランの、オーランディ・ブルーム。

追加パッケージもなし、機体性能も平均的、頼みの第三世代兵器は不調のため使用不可。論外だ。

 

となると取れる選択肢は自然限られてくる。

 

「オルコットさん、背中に2機ISを乗せて飛べる?」

「......厳しいですわね。1機であればなんとか」

 

なるほど、殆ど選択肢はこれで決まりか。

 

「織斑先生、提案が」

「許可する、言え」

「オルコットさんの高機動パッケージで攻撃役を戦場まで輸送、2対1での福音の撃破を狙うのが現実的かと思われます」

「......攻撃役は誰が担う」

「俺がやります」

「正気か成政?!」

「ほう......?」

 

俺の唐突な発言に驚く一同。

すっ、と先生の目が細められた。

 

「軽率な自己犠牲は私は好かん。明確な根拠があるのだろうな?」

「あります」

「言ってみろ」

「俺のIS、アンサングの第3世代能力で他の第三世代能力や機体の特殊能力をある程度模倣できます。

零落白夜は8割の出力で再現可能です。他にも龍砲、AIC、完全ではありませんが再現できます。

それに俺のアンサングは1番この中で燃費がいい。それに全身装甲だから防御も高いです......どうですか?」

「......駄目だな。貴様、零落白夜の弱点を理解していないだろう。機体の基礎スペックも不足している、パイロットも未熟、却下だ」

 

少し黙考してから、いつもより厳しめの口調。本物の戦場である以上甘い裁定はされないか。

 

「ちょ、成政、なんでお前が」

 

自分がやるしかないと息巻いていたが出鼻をくじかれた一夏。何故そんなこと言ったんだと肩を掴んできた。

 

「いいか一夏......今回の場合、攻撃役としてはお前は今回最適解に近い、ほぼ理想的と言ってもいい」

「だったら!」

「だったら死ぬ覚悟はあるか?」

 

絶句する。俺がそんなことを言ったのが意外だったのかはたまた発言内容に驚いたのか。いや、両方だろう。

 

「......一夏、今回の舞台は戦場だ、いつもみたいなアリーナでルールありきでの試合じゃない。夜道で真剣で斬り合うような、ルール無用の殺し合いなんだよ。

それをわかってないのは、多分お前だけだ」

 

続ける。

本当はこんなこと言うのはあっちゃいけないことだろう。さっさとお前ならできると背中を叩いて、作戦の細かいのを詰めて送り出すべきなんだろう。

 

それじゃ俺が納得しない。

勝手な自己満足でエゴイズムだのなんだのと言われるだろうが、俺は言わずにはいれなかった。

 

「今回の作戦はお前が限りなく頭が冴えていたとして勝率が五分、いやそれ以下。

敗北イコール死と恐れるほどじゃないが、その可能性は十分にありうるんだよ。

だから一夏、よく考えてくれ。

......お前は勝てるんだな? 信じて、いいんだな?」

「......ああ、勝てる」

 

一夏は織斑先生に向き直り、はっきりとした口調で告げた。

 

「俺、やります。やらせてください」

「これは訓練ではない、実戦だ。覚悟がないなら無理強いはしない。

覚悟は、あるんだな」

「あります」

「わかった。ではオルコット、織斑。前に出ろ。これより作戦の詳細を」

「ちょーっと待った! 待っただよちーちゃん!」

 

天井裏の板をこじ開け、ひらりと真ん中に降り立った天災、篠ノ之束。

その渾名に恥じないよう、自分勝手に彼女は災いを巻き散らす。

 

「こんな時は、最新鋭機の紅椿にお任せなんだよ!」

 


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