〜もしエス〜 もし女子剣道部のマネージャーがインフィニット・ストラトスを起動したら   作:通りすがる傭兵

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第38話 決意

 

 

 

「紅椿にお任せなんだよ! なんだよ!」

「二回も言わんでいい、黙れ」

「ちーちゃんはツンデレなんだから。それに、紅椿ならそこの紅茶中毒の機体より速くて強いんだよぉ〜」

「どう言うことだ」

 

してやったり、と言わんばかりの笑顔で何やら取り出した機械をいじる束博士。すると今まで福音のデータを表示していたホログラフが切り替わる。

 

「紅椿は全身が展開装甲、パッケージ無しであらゆる状況に即時対応可能な第四世代なんだよねぇ、格が違うのよ格が」

「そんな、机上の空論だったはずですのに!」

「本当に、天才にして、天災......」

 

第四世代、と言うものをイマイチ理解してはいないが、わかることはある。

データから見るにオルコットより箒、ブルー・ティアーズより紅椿の方がこの作戦の場合適任だ、ということだ。

 

「篠ノ之、やれるか」

「やれます!」

 

織斑先生の言にはっきりと、自信をもって答える箒。

 

念密な作戦、機体のスペック、そしてパイロットのコンディション、どれをとってみても悪くない。悪くはないが......とても良くもない。

この作戦はうまくいかない。そう俺の直感が告げていた。

 

「作戦は織斑、篠ノ之両名による目標の追跡、撃墜ないし無力化を......」

「見つけたぞ天災!」

「逃げんな、パイ食えよ!」

「ひぃ!」

 

束博士が降りてきたのとは別の天井板をこじ開け、スタッと降りてきた兄貴たち一同。

また状況がカオスになる......と諦めかけた瞬間、オータムがとんでもないことを口走った。

 

「あ、ゴスペルじゃん。完成してたのか。......って、まだ未完成じゃん」

「この資料は関係者以外は見ちゃいけないんですよ!」

 

アワアワと小柄な山田先生が身を呈して妨害するが、もう全部見てしまっているのでただ無駄な行為。

その上兄貴がとんでも無いことを言った。

 

「まあ大丈夫だろ、オータム元米軍人だし」

「うっそだろお前」

コイツ(銀の福音)の元テストパイロットだったしな、バリバリの関係者だっつうの」

 

倒すんだったらアドバイスするぜ、と新しい娯楽を見つけたような目をするオータム。この際なんでもいいので情報が欲しいと頭を下げると、山田先生を押しのけまじまじと資料を眺め始めた。

時折唸ったら笑ったり頷いたりすること数分、やっと結論が出たらしく此方を向いた。

 

「このデータ確実に変更されてるわ。ココとココのデータも違う、あとココの兵装のレンジはここまで、最高速度も1割増やして」

 

五分五分だった勝率が運試しレベルになった。

 

「偽装されていたというのか!」

「だってその方が負ける確率高くなるだろ? そんだけ製品の良さを世界に伝えられるのさ、アチラさんは」

「馬鹿げてるだろこんなの!」

「自分がよければそれでいいのさ、他人なんぞ知ったこっちゃねえよ。人間そんなもんだ」

 

呆気からんとそう告げるオータム。だが、口ぶりから察するにどこか遠くを見ているようで、実体験からくる言葉なんだろうと思った。

 

「正直な話、自衛隊(プロ)と協力することをオススメするぜ。餅は餅屋って言うしな」

 

邪魔したなー、と襖を開けてこの場を後にしたオータム。3人も後に続いて出て行く。

あんにゃろうまた場を乱すだけ乱して......

 

「......色々と不確定要素はあるが、貴君らにはベストを尽くして欲しい。

織斑、篠ノ之は残れ。詳細な作戦を説明する。それ以外は割り振られた部屋で待機。作戦決行は20分後だ」

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「パッケージダウンロード......ってどうやればいいん?」

 

自室待機を言い渡された訳だが、それを黙って享受するほど能天気でも無い。というわけで折角届いたパッケージを活用してやろうと部屋を脱走し、機体を実体化させこっそりパッケージを取り付け中なのだがいかんせん勝手がわからない。

というか説明書が英語で読めないんだよこの。しかも頼みのアンサングは今使えないし!

 

「......やっぱり、ここにいましたのね」

「おう、オルコットさんじゃん、自室待機って言われてるでしょ」

「お互い様ですわ。ルームメイトには口を噤んで頂くようお願いしました」

 

隣に立ったオルコットさんは俺の手から解説書をひったくると、手慣れた様子でキーボードを叩き始める。

 

「薄々感づいてはいました。貴方が2人の出撃に不服を持つだろうということは」

 

カタカタと指先をせわしなく動かしつつ彼女は語る。

 

「一夏さんは必要以上に気負っていらっしゃいますし、箒さんは新しい専用機を貰って浮かれています」

「ああ、箒が確実にやらかす。試運転では機体に振り回されてて思うように動けてなかった......それに、慣れない武装が引っかかる。素直に刀二本ならどうとでもなったのに遠距離攻撃もできるとか、確実に持て余す」

「そこを一夏さんがカバーできるとも思えません。あの人は燃え上がると周りが見えませんから」

「気張ってるから視野も狭くなる。それに箒と即興で合わせられるとは思えない......」

「2人とも我が強いですからね。私生活はともかく戦闘となれば」

「確実にミスする。そこを叩かれる」

「箒さんがピンチになったところを庇って、ですか?」

 

オルコットさんの言葉に頷く。

あいつはそういう人間だから、むしろそれ以外のことで墜とされるのが思いつかないほど。 例えそれが福音を倒せる唯一の機会だとしても、あいつは身を投げ打ってでも箒を助けようとするだろう。

 

「シュミレーションの限り、勝機が見出せるとすれば全員で棒で囲んで叩くくらいだ。

それをしようと思うとデータも時間も作戦も、なにもかも足りない」

「ええ、ですから皆さん頭を付き合わせているのですよ」

 

終わりましたわ、と手が止まる。

目の前に鎮座するアンサングは異形で歪で無骨で、まさしく俺の機体に相応しい物になっていた。

 

「ラウラさんが今軍事衛星経由で映像を送ってもらえないかと交渉中です。

他の皆もパッケージをダウンロードして、シャルロットさんを中心に作戦を考えています」

「......残念だけど、俺は加われないな。やる事があるんでね」

「貴方ならそうすると思いました」

 

オルコットさんは深くため息をつく。

 

「本当に()()()()()()()()()?」

「ああ、それしか知らないからな」

 

昔からそうだ。俺はあくまでマネージャー、引き立て役で表舞台では輝くことはない。

 

昔も、今も、これからも。

 

「そういうもんだろう? マネージャーってのは」

 

 

 

 

「作戦時刻、さて......」

 

海岸から飛び立っている赤と白の機体を見送って、俺はアンサングに火を入れた。

 

早すぎるなら的が増えるだけで、遅すぎるなら後の祭り。

割り込むちょうど良いタイミングを見極めなければならない。

 

「なんか良いところだけ掻っ攫ってくヒーローみたいだな。まったくもって柄じゃ無い」

「ああまったくだ。まるで悲劇の主人公だよ、君は」

 

背中からまた不意に声をかけられる。機体に特殊パッケージも目立った性能も無いせいで出撃を見送られたロランだった。

「いいのか暇してて、作戦会議中だろう?」

「当人に任せるのがベストだ。それに皆私より優秀だからな」

 

ロランが一つ咳払いをすると、何故かこんな事を言った。

 

「今は最悪と言える間はまだ最悪では無い。

これからもっと酷くなる、そういう事なんだろう」

「杞憂ならいいんだけどな。俺の独断専行で反省文書かされるだけだ」

「だったら私もだな」

 

はっはっはと笑うロラン。こんな状況でも笑えるほど精神が安定しているのは流石役者と言えばいいのだろうか。

それに、丁度タイミングが良かったしな。

 

「あー、ロランツィーネ」

「なんだい、急にかしこまって。まさか愛の告白かい?」

「それは全くないね。俺の恋人はスポーツだよ。それより」

 

これだ、と俺はロランにノートを手渡す。いつも使っている垢だらけのノート。IS学園に来てからの3ヶ月の軌跡がここに全て詰まってる。

 

「こいつを少し預かっていてほしい。海の上で無くされちゃ困るから」

「......」

「中は絶対見るなよ、なんせ企業秘密だからな。君らの情報とか結構まとめてあるし」

「......もう、そんな顔するなよ。ISに乗ってんだから早々死ぬことは無いんだって。世界最強の兵器なんだし、もうちょい命預けたっていいだろうさ」

 

ピロンと通知音がなる。どうやらもう2人は交戦を始めたらしい。

 

「んじゃ俺行くから。みんなによろしく」

 

ガシャリと前の装甲が開き、飲み込むように俺を機体へと誘う。

金属音が鳴り響いて、いつもの全能感が身体中を覆う。少々重いのはパッケージの分の重量だろうか。

 

「心配するな、必ず戻ってくるさ。

俺が箒ちゃんを見捨てて死ぬわけがなかろう? 箒ちゃんが全国で優勝旗掲げるまでは死ねんね」

「君はそういうやつだったな......」

 

そんじゃま、いっちょ行きますか!

 

「リミッター解除、ブースターフル展開。

追加パッケージ『疾風(はやて)』スタンバイ」

『システムスタンバイ......レディ。システムオールグリーン。オーダーを』

「ファイア」

『ラジャー、ブースター点火』

 

最初はゆっくりと軽く背中を押す程度。だが、時間に連れて勢いは強くなる。

眼下に見据える海が通り過ぎる速度も次第に早くなり、もうハイパーセンサーなしでは目で追いきれない。

 

振り返れば砂浜はもう水平線の向こう。見渡す限り海の青と空の水色だけが眼に映る。

 

「......まったく」

 

ふと、考えてしまう。

 

「なんでこうなっちゃったかなぁ」

 

もう少しやりようはなかったか、

もっと上手く立ち回れたんじゃ無いかと。

 

でももう遅い。俺は一線を踏み越えた。

あとは、落ちるだけだ。

 





「上手くいくと思うか?」
「無理だな」
『手伝うか?』
「......うんにゃ。俺たちは今回は手を出さないよ。あいつに任せるべきだ」
「それでいいの? 家族なんでしょう?」
「少々痛い目にあって貰わねえとな。あのトンチキな性格を治すにはちょうどいい機会だ」
「......ま、お前がそう言うんならいいさ」
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