〜もしエス〜 もし女子剣道部のマネージャーがインフィニット・ストラトスを起動したら 作:通りすがる傭兵
自己満足感あるけどどうかご容赦を。
「あのな、箒。言っておくことがある」
メッセージを聞いて押し黙っていた私に対して、一夏が口を開いた。
「......俺、全然知らなかった。
箒が俺のこと好きだって、全くわかんなかった。でも振り返って見るとそうだよな。
2人でに練習しようと誘ってきた時、料理作ってきた時、剣術を教えてくれた時、買い物に誘ってくれた時。
よく考えれば、そうだったんだよな。
ホント、バッカみてえだよ。女の子の気持ちを、無自覚に無下にしてたなんて」
「お前......」
「すまんかった」
潔く頭を下げるのは一夏らしいといえば一夏らしいと思う。だが、そこには別の感情を込められているのを感じ取ってしまった。
「......だけど、俺はお前の気持ちに応えられない」
ああ、そういう事か。
「俺な......このメッセージを聞いて、お前が俺のこと好きで、それで気がついたんだよ。
みんなの変な振る舞いとか、急に熱っぽい顔になった時とか。あれも全部、俺が好き......だったんだなって。
ホント笑っちまうよな、だって聞いたら殴られたんだぜ、今更かよって」
つまり、お前は。
「だけど、それで気がついたんだ。
......俺には、守りたい奴がいる。
だから、お前の気持ちには応えられない。
だから、ごめん」
私以外を、愛しているのだ。
「......シャルロットの事だろう?」
一夏は何も言わなかった。それで、私は全てを察した。
しかし、それはお互い様でもある。
「だが、それは私とて同じだ。
もしお前が私の気持ちを受け入れたとして、わたしはそれには応えられない」
「それ、どういう」
私は空を見上げた。いや、空の上にいるだろうお前のことを見上げているんだろう。
「私はお前のことが好きだ、愛している。一生を添い遂げたいと思っている。
だが......なんといえばいいのだろうか。
それ以上に、あいつとはずっと一緒にいると思っていたんだ。何があっても、永遠に」
思えば、記憶の中にはいつもあいつの姿があったかもしれない。
幼い頃の道場の記憶、視界の隅には、いつもあいつが立っていた。
全国を転々と回っていた頃、私が剣を振るっていたのは、ずっとあいつとの約束を守るためだった。
そして今。
この3ヶ月の間ずっと、ずっとあいつとは一緒だった。
どんな時も、あいつはそばにいてくれた。
悲しい時、嬉しい時、辛い時、悔しい時、怒っている時。私の感情を共有して、私もずっとあいつの感情を共有してきた。
......だけど、失って初めて気がついた。
「心に穴が空いたんだよ。
いつもあったはずのものが欠けているんだ。それはどこを探しても見つからない。形は分かっているのに、作りなおすのも埋めることも出来ないんだ。
なあ、一夏、教えてくれないか?
この気持ちを、私はどう対処すればいい?
忘れることも出来ず、消すことも出来ず、直すことも出来ず、より強く思うしかないこの気持ちに、どう立ち向かっていけばいい。
なあ教えてくれ......頼むよ」
私は助けを求めるように一夏にすがりついた。だが一夏は下を向いたままで、何も答えようとしない。
「私はどうすればいい、どこを直せばいいんだ? なあ教えてくれ、教えてくれれば直せるんだ。だから頼む......教えてくれよ」
顔を熱い液体が伝っては落ちていく。
それが失われるのは、何かよくわからないがとてつもなく嫌な感じがして、私は一夏に詰め寄った。
「なあ、頼むよ一夏! 教えてくれ!」
「......ごめん」
「お前じゃなくてもいいんだ。誰でもいいんだ。
鈴、セシリア、シャルロット、ラウラ、ロラン、姉さん、千冬さん、山田先生、誰でもいいから、頼む」
そんな時に手を差し伸べてくれるあいつは、もういない。その事実を認める事が怖くて、私は一夏の胸に顔を埋めて、叫んだ。
「なあ! 頼むよ!
だれか教えて! 誰でもいい! だれか!
誰でもいいから......私を助けて!
なんでもいいんだ、どうだっていい、どれだけ最低な方法でもいいんだ! なあ!
誰か! 誰か私を助けてくれ!
この気持ちを、どうすればいいんだ!
誰か......誰でもいいんだから......誰か......成政ぁ......助けてよ......成政ぁ......」
「ごめん、ごめんな......俺には、できない......あいつにしか、できないんだ......」
「う、あああああああああああああああああああああああああああああああああ!
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!
何故、どうしてなんだ! 何故なんだ!
ああああああああああああああああああ!」
私は人生で初めて、大声をあげて泣いた。
声も枯れ果てるまで叫んで、感情の任せるままに一夏を殴って、壁を殴って、地面を叩いて、恥も外聞も投げ捨てて、涙か枯れるまで泣いた。そんな私を、一夏は黙って抱きしめてくれていた。
「どうして、どうしてっ!
どうしてお前なんだ、何もしていないのに、裁かれることもないのに、なんで、どうしてっ! 何故なんだ!」
「いいんだ、全部吐きだせばいい」
「なんで、なんでなんだよ!
なんでお前が死ななくちゃならなかったんだ!
もっと罪深い人間はいくらでもいるというのに、何故、何故お前だけが!
お前だけが死ななくてはいけないのだ!
何故なんだあああああああああああああああああああああああ!」
ほんとは今すぐにだってお前も泣き出したいだろうに、お前だって叫びたいだろうに。
涙をこらえて、ただ、私を抱きしめていた。
「あああああああああああああああああああああああああああ、あああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
失って、初めて気付く事がある。
私はそれを、今日初めて知った。