〜もしエス〜 もし女子剣道部のマネージャーがインフィニット・ストラトスを起動したら   作:通りすがる傭兵

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ついに、ついに、ついに! コラボストーリーが始まりますよお!

たけじん さん
https://www.pixiv.net/member.php?id=3766721
の作品「兜甲児のIS学園日記」(仮)とコラボします!

打ち合わせ中にトラブルで作品が消えてしまったのにも関わらず、快くコラボを引き受けてくださった先方には感謝を。
現在、コラボ先だった作品をリメイク中だそうです。楽しみですね!

それではお待たせしました、第43話、始まります。


男子マネージャーと女子剣道部員
第43話 エンドロールの先へ


 

 

 

 

「これは、いくつもある可能性の世界、そのひとつ。

あるいはその世界に流れ着いた者、あるいはそれを追ってきた者達の、再会と愛と友情の物語。

 

あるいは、あるマシンの魔神を始祖とし、そこから生まれた鋼鉄の魂を持つ勇者達や、彼らと志を同じくする者達との思いがけない出会いの物語。

 

これを、この世界を彼を通して観測しているある神の使いである私も交えてお送りしよう。

えっ、私は一体誰の使いなのかって?

 

 

それは、最終にして原初の魔神・・・マジンガーZEROさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ったく、なんでこんなことしなきゃいけないんだよ」

『私が知るわけないだろう』

 

ばたたたたとローターが風をきる音を響かせるヘリコプターのコクピット内で、操縦桿(そうじゅうかん)を握るMが答える。

 

『あいつの真意はわからない。ただ』

「ただ?」

『確実に厄介ごとなのは確か』

「......ま、そうだと思うぜ」

 

不謹慎にもコンソールに足をかけながら、オータムは手に持つ紙に書かれた文章を眺める。

 

「拉致の仕事なんて久しぶりだからな」

 

その書類には入学当時のむすっとした顔の篠ノ之箒が印刷されていた。その下には彼女のパーソナルデータがずらずらと並べ立てられている。

 

『その口ぶりからすると経験があるようだが』

「ああ、テロリストの首謀者をな。そのあとコンクリ詰めにしてフロリダ沖に捨てちまったよ」

『私の組織は山の中に埋めるらしい』

「ドイツは海ないもんな」

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

篠ノ之箒はどこへと言うわけでもなく学園内をさまよっていた。

今はお盆休みで日本人の生徒はほとんどが帰省、留学組も大抵は国へ帰ってしまっている。残っているのは少しばかりの先生と、箒やシャルロットのように訳ありの生徒ばかりだ。それゆえ学園は人気(ひとけ)もなく、いつもの喧騒が嘘のように静まり返っている。

 

だからこそ邪魔もなく、箒は自由気ままに散歩ができる。都会の喧騒から少し離れた学園は人が消えるだけで随分と静かになるのだ。

 

「......」

 

だが、その顔は暇を潰しているような物憂げな顔でも、散歩を楽しむような顔でもない。

 

ただうつむいて、あの日の事を悔やんでいた。

 

(......なぜ、なぜなのだ)

 

今まで何十、何百と繰り返してきた質問を己に問う。答えなど出るはずもない出口のない迷路を彼女はさまよい続けているのだ。

ふと、彼女の足が止まる。

 

気がつけば箒は武道場の前に立っていた。なんの気もなしに彼女はその金属製の扉を開く。不思議にも鍵はかかっておらず、彼女は木製のニス塗りの床に足を踏み入れた。

 

「......ああ、そうだったな」

 

彼女の目線はいつも自分たちが立つ武道場の真ん中でなく、その隅。いつも成政がノートを片手に声を張り上げていた場所だ。

箒は同じ場所に立ち、同じようにそこから武道場を眺める。

目を閉じれば剣道部の皆が竹刀を打ち合い、汗を垂らして練習する姿が脳裏に浮かぶ。

 

「......ああ、お前はいつもここにいて、いつも声を張り上げて......いたっけか」

 

そして、ここに立つものがもういない事を思い知らされる。

ぎりり、と無自覚に噛み締める音がする。歯が欠けてザリザリと擦れ合う不快な音がさらに苛立ちを募らせていく。

 

「なぜ......なぜだ」

 

先も問いかけた事を、もう一度問う。

 

ここならば、あいつの想いが染み付いたこの場所ならば何か答えが出るかもしれない。 そう淡い希望を抱いたが、すぐに彼女は自分の愚かさに腹が立った。

 

「馬鹿、殺したのは......」

 

それ以上は言えない。

それ以上は心が壊れてしまう。

 

「私は......折れてはいけないのだ。成政との約束なんだ」

 

ぎり、と手を握りしめる。最近伸ばしがちな爪が手のひらを傷つけ、赤い血が滲む。

 

己の血、己の魂の象徴。

これがなくならない限り夢は失われない。

成政はそう言った、だから、私は。

 

そう自分に言い聞かせて、ふと違和感に気がつく。

 

「そういえば、どうして鍵が開いていたのだ......?」

 

その答えは、天井から降ってきた。

 

「よっ、と」

 

とす、と天井から来たらしい黒ずくめの二人組の登場に、とっさに手首に巻いた自身の相棒、紅椿に手をかざす。

 

「誰だ貴様ら」

「......ま、悪の秘密結社かな」

 

ボイスチェンジャーで変えられている耳に障るような声。とっさに彼女は並べられている防具類から竹刀を拾い上げ構える。

 

「私とて剣士の端くれだ。正当防衛なら容赦はしない」

「へーえ、剣士、ねえ」

 

身長が高い方が無造作に手を振る。

それと同時に、竹刀が細切れになってバラバラと崩れ落ちる。

 

「でも関係ないね」

 

只者ではない。

そう気づいた箒は紅椿を呼び出そうと構えるがもう遅い。

 

小さな影が、懐に潜り込む。

短く電撃の弾ける音がして、箒の意識は途切れた。

 

 

 

 

次に箒の意識が目覚めた時、彼女は狭苦しくて、少しすえた臭いのするような場所に寝かされていた。

身を起こすと、窓の外を景色が流れている。

薄ぼんやりとした意識の中、箒はなんとなしに「誘拐されたのか」と思った。

 

「よお、目ぇ覚めたか。白雪姫サマ」

『そのたとえはイマイチだなオータム』

「うるせえ、ハイスクール出に文句言うな」

 

どこかで聞いたような軽快なやりとり。まだ重く痺れの残る身体を動かし前部席を覗き混んだ時思わず箒は呆れずにはいられなかった。

 

「......何してるんですか?」

「ん、いやあまあ、ちょっとな」

『オータム、セリフ』

「おっと、忘れてた」

 

オータムはハンドルを握りながら前を見ようともせず、いつものように面白い事を見つけた顔で言う。

 

「なあ、篠ノ之箒」

 

そしてもったいぶってこう続けたのだ。

 

「旅に出ようや」

「......はぁ」

「アレ、あんまり反応なさげ。驚きすぎて一周回って落ち着いてるパターン? それとも混乱して頭がパンクしてる状態?」

「いや、どうでもいいなと」

『私もそう思う』

「どうでもいいとか言うなお前ら私らはこれで飯食ってんだからな特にMテメー!」

 

わちゃわちゃといつものように喧嘩してひと段落したところで、ハンドルを握るオータムが言う。

 

「お前を拉致したのは、まあ薄々感づいてはいるとは思うが兼政、あいつの指示だ。

その目的までは知らんけど、何かしら意図はあるんだろ」

 

それに、とオータムは一息置いて口を開く。

 

「お前があいつのことをどう思っていたかは知らん。けど、そんだけ思い詰めた顔してんのは良くないぜ。それを見越して連れ出したんかは知らんが」

 

よし着いたぜと車を止めるオータム。

怪しまれないように2人はもう着替えていたが、箒は学園制服姿のまま。着替えもないしどうでもいいやとオータムはスタンガンの痺れの抜けきれない箒に肩を貸し、目の前にある古ぼけた貸しビルの中に入っていった。

 

「ここに何かあるのか?」

「ああ」

 

エレベーターの中に入ると、オータムはポケットからメモ用紙を取り出し、ボタンを押した。しばらくしてその階につくとすぐに扉を閉め、またボタンを押す。

「何をしているのだ?」

「都市伝説だよ」

 

オータムは振り向くこともなくボタンを押し続ける。

 

『どこかのビルで、ある特定の順番でボタンを押すと異世界に繋がる』

「ほとんどが与太話なんだけどな、ここは数少ない例外の1つってワケだ」

 

ぽん、と電子音を立ててエレベーターが止まり、扉が開く。その先には日中の寂れたビルの廊下ではなく、今にも吸い込まれそうな暗闇をたたえた謎の場所が広がっていた。

 

「ここがそうなのか?」

「いやー、もう少し違った気がするんだけど......なんか忘れているような」

 

質問に首をかしげるオータム。まあいいやと扉を閉めるボタンを押そうとしたところで、Mが何か気がついたらしく肩を叩く。

 

『誰かいるぞ』

「ん? あ、ホントだ。迷い込んだ物好きか?

おーい、そこのひと!」

 

オータムの声に反応して人影が面をあげる。

 

瞬間、3人の体を言い知れぬ悪寒が駆け抜けていった。

思っていることは一言一句同じ。

やばい、理解はできないが何かがやばい。

 

「Mっ、ドア閉めろ、早く!」

『言われなくとも!』

 

バシンと手を扉に叩きつけるM。遅れて扉が閉まり始めるが、人影はひたひたとだが物凄い速度でこちらに近づいてきている。

 

「早く早く早く!」

「こっち来てるぞ!」

 

ドアが閉まり切ると同時、バシンとドアに血のついた手が叩きつけられた。

 

「......」

 

そのまま、その人影は消えていった。

 

「......」

「......」

「......」

 

無言で目を合わせる3人。ごうんごうんとモーターがワイヤーを巻き上げる音だけが場を支配する。

 

「......そういや、前来た時もそうだったわ」

「知っていたのなら早く言え!」

『死ぬかと思った......』

 

しばらくして、扉が開く。

 

「......っと、ここまでいってるから......よし、降りるぞ」

 

エレベーターから顔を出す。

そこは何の変哲もない散々見た古ビルの廊下。

 

「......何も変わっていないようだが」

「そうなんだけどな。ま、お楽しみはとっとくってこった」

 

階段を降りるとビル横に止めていたはずのボックスバンが無くなっていたが、箒はさして気に留めもしなかった。

 

オータムは手を上げてタクシーを止めると場所を告げ、Mと箒を狭い車内に押し込める。

 

「お客さん、IS学園の生徒かい?」

「ええ、まあ」

「ふーん、夏休みなのに制服とは勤勉だねぇ。でも若いんだからもっと遊ばないと。でもまあ、それどころでもないか」

「......?」

 

愛想よく振る舞うタクシードライバーと雑談を交わしつつ、着いた先はIS学園直通のモノレールのある建物の近く。

 

「じゃあな、頑張ってくれよ」

 

タクシードライバーはそれだけ言うと、手を上げて仕事に戻っていった。

 

「......それで?」

「着いてきてくれ」

 

オータムに促されるままに道を歩く。何回かでたらめに角を曲がり細い路地を通り、人気のない海沿いの道に出る。

 

「それじゃ、ISを展開してくれ。この時期モノレールはないからな」

「......? 分かった」

 

言われるままに紅椿を展開する。振り向くとMもまた同様に見たこともないISを展開していた。

思わず、ハイパーセンサーに表示された名前を読み上げる。

 

「サイレント・ゼフィルス?」

『少し訳ありでな。深くは聞くな』

「んじゃ、頼むぜ」

 

オータムがMの背中に飛び乗るのを確認してMはISを空中に浮かび上がらせる。 そのまま高架下の影になる部分を這うように飛び始めた。不審に思いつつも箒もMの後に続く。

 

ものの数十秒でIS学園の敷地に足を踏み入れた3人。ISを解除して、箒は自然オータムの方を向く。

 

「これからどうするんだ?」

「第3アリーナへ行け、だとさ」

「第3アリーナへ?」

「ああ、ところでどっち?」

「......わかった、案内しよう」

 

人気(ひとけ)のない校舎。

つい先ほどまでいた場所、変化などあるはずもなかった。

そのまま誰にも会うこともなく第3アリーナの入り口まで2人を案内すると、箒は呆れを含めた声でいった。

 

「ここもいつも鍵がかかっている。先ほどのようにお前たちが鍵を開けていなければな」

 

ほら、と自分の発言を証明するように自動ドアの前に立つ。

ぷしゅ、と空気音がしてスムーズに扉が開いた。

 

「......いつも鍵かかってるんだよな」

『あのさぁ』

「いつもはしっかりと鍵がかかっているんだ、本当だぞ!」

「まあいい、行こうぜ」

 

ためらいもなくオータムが足を踏み入れ、そこにMと箒が続く。

しばらくして、ガヤガヤと誰かが話す声が廊下の向こうから聞こえてきた。

 

「ちょうどいい、兼政から何か聞いてないか聞こうぜ」

 

この先の曲がり角を曲がれば姿が見えてくる。そして、3人は角を曲がった。

 

「すまない、少し......」

 

いいだろうか、と言いかけた箒の目に映ったのは。

 


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