〜もしエス〜 もし女子剣道部のマネージャーがインフィニット・ストラトスを起動したら   作:通りすがる傭兵

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というわけで第4話です。

最近ゆるキャンが面白くて、キャンプの妄想ばかりしてます。
そうそう、千畳敷カールは景春夏に行くとすごく景色が綺麗なのでおススメです。ついでにいうとその先の駒ヶ岳の頂上から見る景色も詩的で素敵です。


第4話 河南は勝つための道筋を考える

 

 

 

「わりかし真面目に作戦会議だ」

「おう」

 

今日の授業も終わりワイワイと騒がしい中、俺は織斑を引き止めて真面目な顔をしていた。

「最初に言っとく。今回の試合についてだが、悪いが九割がた勝ちはない。胸を借りるつもりで行った方がいい」

「諦めんなよ!きっと勝てるって!」

「黙れ脳筋。殴って勝てればスポーツは苦労しないんだよ」

 

野球然りサッカー然りテニス然り、作戦がなければことを有利には運べない。無策で挑めるのは遥かに格下な相手だけだ。

「お前はもうちょい頭を冷やせ。

さっきハンデがどうの男子の価値がどうのとかオルコットに言われて頭にきたのはわかるけどさあ」

「お前は悔しくないのかよ!あんなに馬鹿にされて笑われてさあ!」

「確かにその通りだ、あんな話聞いてて悔しくないなら男じゃない。

だからといってお前が男子だからって女子を見下したような考え方も良くないとは思うが?」

「男の方が腕っ節が強いんだから、矢面に立つのは男でないと」

「そういう考え方があるのはわかる。

でもな、世の中適性ってもんがあるんだよ。

スポーツで男子女子で分かれているのは、純粋に体格差とパワーの違いがものをいう世界だから、公平な勝負のためには必要なことだから分けられているだけなんだ。

でもISに関しちゃ女子に一日の長があるし、男子が不利なのは明確だ。

正直オルコットさんがハンデの話をした時、俺は乗り気だったんだぞ? 初心者が達人に勝つには手加減してもらうしかないんだからな」

「でも、あんな言い方あんまりだろ!」

 

単純バカに先ほどランクアップした織斑がこうもゴネるのは、先程オルコットと大喧嘩したせいだろう。

側で口を挟むこともなく存在感を上手いこと消して聞いていたのだが、それはもう高校生らしいのか子供っぽいのか、酷いものだった。

やれハンデがどうのこうの、男の方が弱いだのイギリスの飯が不味いだの。

オルコットの口ぶりには腹はもちろん立つ。

だが例えばの話、同じようなことを大会会場で聞き、愚痴の一つでも漏らしてみろ、訴えられて選手の努力がチャラになる。職業柄こんな腹の立つことでも飲み込んでなあなあで済ませないといけないのだ。

だが、今の俺にそんな肩書きはない。部活の勧誘も始まったばかり、仮入部どころか部活の見学もしていない。

 

要するに、面倒な縛りは存在していない。

 

「さっき言ったのは、サブコーチとしての俺の意見だ。

それを踏まえて、俺の意見を言わせてもらう。

 

 

俺だってこの9年間で女子に対する恨みつらみはそりゃもう山のように積もってるんだからな、しかも手札にはそこそこ有能な札があるんだしオルコットには悪いが今まで難癖つけてきたスポーツマンの風上にも置けないクソアマどもに対する思い全てこの場で晴らしてくれる」

「......つまりどういうことだ?」

「要するに腹が立った。

 

お前を絶対に勝たせる。頼むぞ()()

 

協力すると決めた以上、他人行儀じゃいられない。ガワだけでも仲良くすると円滑に回るのでちゃんと名前で呼んでやる。

すると嬉しそうにニコニコしだした、やっぱりホモじゃないんですかこの人!

 

「やっぱ近づくな」

「頼むの次に言う言葉がソレかよ!」

「すみません、距離が近すぎるのはチョット」

「一夏はずっとこうなのだ。諦めてくれ」

 

ぐいぐいと近づいてきた織斑をひっぺがして現れた篠ノ之。話は聞かせてもらった、と言うとドヤ顔でこう言い放った。

 

「一夏、河南、剣道場に行くぞ!」

 

ところ変わって武道場。

一夏も昔剣道をしていた、その勘が戻れば試合に役立つのではという篠ノ之の弁で剣道の試合と相成った。篠ノ之の今の実力も見られるし一石二鳥だという事で乗ったのだが、

 

「弱すぎひん?」

「ぐうの音も出ない正論をどうも」

「弱い、弱すぎるぞ一夏ぁ!」

 

こてんぱんのぎったぎたにされた一夏、その間約5秒。恐ろしいまでの弱さである。

動きを見る限りズブの素人のわけでもないし、センスも悪くない。勝ちへの希望はあるが、変な癖が身についてるから矯正が面倒だな。

 

「お前ほんとに経験者かよ」

「仕方ねーだろ、中学は帰宅部だったんだし」

「帰宅部だと!剣道はどうした」

「部活なんてお金かかるし時間食うし」

「なんでお金がかかるんだ!」

「んな理不尽な......」

 

なるほど、色々あってやめてしまっていたと。そりゃ錆びついても仕方ない。

だが剣道に限らずスポーツ全般に言えることだけど、1日休めば取り戻すには3日かかる。まして期間は1週間、どこまで伸ばせるやら。

 

「とりあえず、2日ちょうだい。

その間に作戦考えるから、篠ノ之は一夏の錆を落とす感じで」

「任せろ河南。さあ行くぞ一夏、特訓だ!」

「箒さんどうしてそんなに元気なんでせう」

「健全な肉体に健全な精神は宿る!」

「答えになってないようなっ!?」

「やりすぎないでね?」

 

それはそうとして、代表候補生とはいえ一生徒の個人情報なんてくれるんだろうか。

 

「あ、いいですよ?それくらいお安いご用です」

「いいんだ」

 

山田先生に言ったら即オーケーを貰った。セキュリティガバガバ過ぎやしませんかねココ。

そして手渡されたのはDVD......ではなくハイテクなUSBメモリ。さすがIS学園、ハイテク。

 

「ポチッとな」

 

視聴覚室を借り、備え付けのPCにメモリを差し込んで再生。もちろん、メモ帳は忘れない。

『これより、入学試験。実戦試験を行います』

『よろしくお願いいたしますわ』

 

固定された視界から会場を見渡している。会場備え付けの固定カメラからの映像のようだ。

画面の真ん中には、深緑色のISと群青と白でカラーリングされたISが相対している。

青いほうのパイロットは金髪、教官が緑、オルコットが青と見た。

 

『それでは、始めてください』

 

 

「射撃はダメだって!」

 

30分後、俺は液晶の前で頭を抱える無様な彫像と化していた。

近接戦闘のかけらもないとか、刃物も出ないとかゲームみたいな戦闘ばっかしやがって!

俺近接戦闘しか分かんないんだよ。射撃なんて和弓と洋弓のイロハくらいしか理解してないんだってば、ライフルのセオリーなんてさっぱりなのに。

しかもビームってお前SFにも程があるっての!

これじゃ一夏は手も足も出ないでフルボッコにされて終わりだ。

それじゃ、一夏の頑張りと篠ノ之の善意を無駄にすることになる。それに善戦ならば良いが一方的な敗北だったら、一夏が救われない。そこまで弱い風には見えないが、最悪心がポッキリ折れる可能性だってある。

だとすれば、その敗北の責は全て俺にある。

一夏だって、篠ノ之だって全力で目の前の課題に取り組んでくれている。だったら、俺はそれ以上を行かねばならない。

裏方ってのは頭を使うのが仕事、地味だし見栄えもしないのは身に染みてわかってるが、それで手を抜いていい理由にはならない。

射撃のイロハでも理解していれば、今の戦闘から拾える情報も増える。相手型の考えをトレース出来るようになれば対策も立てやすい。

今自分にできることは、考えることだ。だが、考える材料もなければ話にならない。

今足りないのは、知識だ。

 

だがここは学園、資料は世界中のが揃ってる上教えを請える先生方もいる、そして実物も存在しているし申し込みさえすれば自由に扱える。

そこまであれば十分だ。答えもないまま暗中模索する必要もない、分かりやすいゴールは見えている。

だったらそこまで、最短で一直線に走るだけ。

 

「よし、気合い入れるぞ俺!1週間くらいは人間寝なくても大丈夫なんだ、2日3日でへこたれてたまるもんか!」

 

鉄は熱いうちに打て。俺はやる気の赴くままに、視聴覚室を飛び出した。

 

「おっっしゃああああああああああ! やるぞおおおおおっ!」

 

それから俺は通りすがる先生方全員に聞いてまわり、関係する資料を片っ端から借り、参考になりそうな試合動画は脳裏に焼きつくまで()

「研究熱心だな、河南」

「......あ?」

「だが私の仕事を増やすな!」

「がっふう!?」

 

いつの間にか背後に忍び寄っていた織斑先生に成敗(おしおき)された。

 

「なるほど。1週間後の試合に備えていて、うっかり夜更かししていたと」

「まあそんな感じです」

「見回りの目はどうしたのだ」

「邪魔されちゃ困るんで、撒きました」

「......二度とするな」

 

いつまでも来ない俺を心配した山田先生が寮長かつ暇だったらしい織斑先生に連絡、野生の勘的な何かを駆使した先生が俺を捕獲し、今に至る。

寮長が織斑センセだなんて聞いてないんだけど。オチオチ夜更かしもできないじゃないの、これじゃ脱走も絶望的よな。

 

「熱心なのはいいが、日付を跨ぐのはやり過ぎだ」

「うえっ!?」

「無自覚だったか、まあいい。

さっさと寝ろ、部屋の鍵はこれだ」

 

ぽいとカードキーを渡されて、眠そうにあくびをして去っていく織斑先生。無機質なカードには《1026》とだけ書かれていて素晴らしく不親切だ、どこだよ。

 

色々と頭をひねったがストレートに10階26号室だろうと結論づけた俺は、エレベーターで10階まで、そして人通りのない廊下を固い体をほぐしながら歩く。

「座りっぱなしだから身体中がいてえ、ん?」

 

そろそろだろうと部屋番号を確かめたのだが、何故か扉が穴だらけでズタズタになった部屋が。

しかも部屋番号は1025、お隣さんである。

 

「え、これ曰く付き物件なの。落ち武者でもいるのかい!?」

 

そろりそろりと1025室を通り過ぎて、指定された自分の部屋に入る。

もちろん真っ暗だが、寝ているであろう同居人がいるかも知れないので電気はつけない。

手探りであたりを探り、モフモフとした台らしきものに手が触れたので遠慮なく飛び込む。

いつもなら徹夜のひとつやふたつなんともないのだが、慣れない環境で気を張っていたのか、驚くほどスムーズに瞼が降りる。

 

「ふか、ふかぁ......」

 

手についた枕を思い切り抱きしめながら、俺は意識を闇に飛ばした。


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