〜もしエス〜 もし女子剣道部のマネージャーがインフィニット・ストラトスを起動したら 作:通りすがる傭兵
モチベが下がり気味で本当に申し訳ない()
というかリアルが忙しいんじゃー
「そもそも、ネタバラシってなんだよ。俺たちは騙されることもされてねえんだが?」
武蔵の発言に首を縦に振る簪。
その質問に答えたのはもちろん仕掛け人で全ての元凶たる兼政。
「君たちは仕掛け人さ。騙されるのは箒ちゃんとウチの弟だけだよ」
「弟ぉ?」
「ま、登場はしばらく先だけどね」
兼政は咳払いをひとつして、箒の方に向き直る。
そして何の気なしに衝撃的な一言を放った。
「あ、そうそう。成政生きてっから、多分」
「......は?」
「死んでなかったって事。説明必要?」
「そん、な、はずが......」
「まー確かに気持ちは分かる」
ウンウンと腕を組んで頷く兼政。
それほどまでに、当時の状況は絶望的だった。
「君ら専用機組が駆けつけた頃には、大ダメージを受けた銀の福音と、僅かな残骸があっただけ。
束がなんとかサルベージした戦闘ログによれば、ウチのバカな弟はあろうことか自爆コマンドなんてもんを入力していたわけだし。
後々の捜索でも、細かい破片は見つかりはすれども生体組織はひとかけらも見当たらず。
もちろんISコアも反応なしで消息不明。
死亡と判断されても間違いではないね」
「......慰めの言葉ならいらんぞ」
「まま、そこから先があるのよ」
兼政は、面白げにもう1人の自分と談笑していた束に目配せ。意図を察した束は言葉の続きを語る。
「だけど、この物語には続きがある。
キーワードはISコアの自爆。
コアでエネルギーを過剰に生み出し暴走させ、周りに無差別にエネルギーをばら撒く、ってシステムなんだけど、それをやろうとしてる馬鹿は世界を探してもコイツの弟だけだったんだよ。
だからシュミレートには随分と手間取ったわけなんだけど、なんとか解析が終わってね、確信を持てたってわけ」
「つまり、何が言いたいんだ姉さん」
「簡単だよ。この世界の存在こそが、生存証明になるのさっ!」
訳がわからない。
話を聞くほぼ全員の頭に同じ言葉が浮かぶが、天災はおかまいなしに言葉を続ける。
「世界はいくつもの出来事がある。その全てに『もし』があるんだよ。
そうした世界は積み重なり、隣りあい、かといって互いの世界に影響を与えるようなことは絶対にありえない。
なんせ、超強力な力場が働いてるからね。
僅かな隙間をたどる以外、隣り合う世界を行き来する方法はない。
......たったひとつの例外を除いて」
「それが、自爆?」
「ざっつらーい!
ISコアは未知の物質。作っておいてなんだけど、そのエネルギー量は私も把握してない。
でも、ある程度シュミレートはできる」
「衛星からの戦闘動画をハッキングして手に入れて、計算式まで組んで......二人掛かりでやっとだった」
「そんでもって、シュミレートの結果が出た。
「それってつまり」
「......どういうこと?」
「世界を行き来することは可能だった」
「というより、事故で世界を行き来してしまったの方が正しいな」
兼政が言葉を引き継ぎ、はっきりと聞こえるように説明する。
「要は、こっちの世界にいるハズなんだよ。
成政がISコアを自爆させた時、生じたエネルギーが俺たちの世界と、この世界をつなぐ穴を開けてしまった。
そこにうっかり飛び込んだんだよアイツは。
だから死体も上がらず、ISコアの反応もない。
当然だよ、こっちの世界にあるんだから」
「......つまり、生きて......いるんだな」
思わず涙ぐむ箒。
言いたいことは沢山ある。今すぐにでも伝えたい思いが湧き上がってくる。
その感情のなすがまま、箒は兼政に半ば摑みかかるように問いかけた。
「成政はっ、成政はどこに!」
「分からん」
「......えっ」
「70億から特定の個人を探すのって不可能に近いんだよね。いくら情報があっても不可能に近いっつーか、なんつーか。
でもあいつの事だし生きてるだろ......多分」
「あくまで可能性だし......生きてる、とも限らないんだよねぇ。実際、人間程度跡形もなく消し飛ばすには十分なエネルギー量でもあるんだし」
気まずさゆえか目をそらす兼政と、この世界の束。心なしか元の世界の束も居心地が悪そうに立っていた。
「......ははっ」
乾いた笑い声が響いた。
「そうか......やはり、あいつは......」
どさ、と崩れ落ちる音がして、
「箒ちゃん!」
「ははっ......あはははっ......あははははっ......」
地面に膝をつく箒。
表情は行動に似つかわしくない笑顔で、乾いた笑い声を上げていた。
「おい、どうした!」
「触るなっ」
心配して手を差し伸べたもう1人の自分の手を払いのけ、目を見開き、声を震わせ問いかける。
「なあ、コレで満足か......
私を絶望の淵に叩きのめして、
もう届かない理想を見せつけて、
あまつさえ希望を目の前につきつけて、
また元のように、絶望に落とすなんて」
「そんなつもりじゃ」
「満足かっ!」
ばし、と拳を地面に叩きつける。
「どうして、どうしてっ!
どうして私がここまで不幸にならねばならんのだっ!
私は何もしてないんだぞっ、私は、ただ、普通の生活で十分だったんだ!
普通に暮らしたかっただけなのに!
なのになぜこんな目に合わねばならんのだ!」
何度も地面に拳を打ち付ける。
他の皆はそれを黙って見る他なかった。
「なんで諦めるの」
ただひとり、立花リッカを除いて。
「なんで探しに行かないの。諦めるの?」
「諦めるも何も、これが現実だ」
「そうじゃないよね。
怖いんだよね、向き合うのが」
「っ......それは......」
「図星みたいだね。さっすが私」
心中を言い当てられ、動揺する箒にリッカは畳み掛ける。
「なりまさ、て人が篠ノ之さんにとってどれだけ大切な人か私にはわからない。だけど、その人が居なくなってとっても悲しい事はわかる。
悲しいことに誰だって向き合いたくないよね、逃げたくなるよね。
でも篠ノ之さんはそんなことで諦める人じゃないでしょ。生きてるかもしれないんだよ、探しに行こうよ」
「知ったような口を」
「いいよ別に知ったかぶりで。でも、これだけは言わせてもらう。
私の知ってる篠ノ之箒は、私の大親友はこんなにひ弱な人間じゃなかった!」
「っ!」
「試合前から諦めるような腰抜けだとは思わなかったよ!
並行世界だから性根はまるっきり違うんだね、さっきまでほーちゃんと互角にわたりあえたのはまぐれだったの?
ああもう失望したよ!
諦めたらそこで試合終了なんだよ、ゲームセットなんだよ、終わりなんだよ!
1%の奇跡だって、叶うはずの目標だって、届くはずの夢だって諦めちゃうの、ねえ!
私の知ってるほーちゃんじゃない!
立ってよ、立てよ。
立ってよほーちゃん!」
「......」
「立ってよおおおおお!」
「そうだ、立つんだ私! 諦めるんじゃない!
お前の剣は諦めていなかったぞ! お前の相棒は、赤椿はまだ諦めていなかったんだぞ!」
「諦めて......ない......?」
「そうだ!」
もう1人の自分が、胸に手を当て声を張り上げる。その言葉は、剣を交わした相手だからこそ知りうるものだった。
「たしかに、お前の剣は素晴らしいものとは言い難かった。邪念に満ちていたのは否定できない。
だが、勝ちへの執念だけは一級だった。それはお前が心のどこかで諦めてない証拠なんじゃないのか?」
「わ、私は......私は......」
自分が自分でわからない。心のそこでくすぶっていた思いが目覚め、心を支配している諦めと悲しさがせめぎ合う。
「わたし、は......」
「箒ちゃん」
「......姉さん」
「箒ちゃんのやりたい事は何?」
「やりたい事?」
束の突然の問いかけ。話しかけているのは、この世界の束。ただ無邪気な顔で質問するその意図を読めず、言葉をくり返す。
「私は空に憧れた。自由に宇宙を見たかった。今は私の思っていた世界と違うけど、私は諦めてないよ。
さあ、あなたのやりたいことはなに?」
「わたしの、やりたいことは......」
やりたい事、目標、願望、夢、憧れ、希望、超えるべきもの。
(私のやりたいことは)
幼い日の、思い出の一コマ。
『あのな、あのな......おれ、すっごくおしえかたうまくなる!
だから、おまえはつよくなれ。そしたら、またあえる。
だから、いっしょに、せかいたいかいにいこう!』
『......うん!』
なんで忘れていたんだろうな、と自嘲する。こんな大切な約束を忘れてしまっていたなんて、自分でもどうかしていた。
(こんなところでは立ち止まるな。そうだろう、成政)
情けない自分に喝を入れる。
箒は最後に1発、頭を地面に叩きつけて気合を入れ直した。
「私の、やりたい事は。
世界に行く事だ、成政と一緒に!」
「よくできました」
ぱちぱち、と小さく手を叩く束。その顔は清々しいもので、どこか懐かしむようでもあった。
「じゃ、やることは分かるよね」
「......ああ!」
箒は全員の方に向き直ると、一人一人の目を見て、そして深々と腰を折り頭を下げる。
「私の大切な人を、成政を一緒に探して欲しい!」
「断るわけがなかろう」
「待ってました!」
「ふふ、面白そう」
「やってやろうじゃんかよう!」
「ありがとう......ありがとう」
感動が胸に込み上げる。思わず涙ぐみそうになるのを、武蔵が引き止めた。
「おおっと、涙は再会の時にとっときな」
「......ああ!」
心を覆っていた雲は晴れた。くすんだ地面に、今希望の光が降り注ぐ。
「いやー、青春だねぇ。っと、忘れてた。オータムとM回収してこないと」
「ただ今さんじょ、ってなんか終わってる?!」
「......そんな格好して恥ずかしくないんですか」
「酷い!」
◇◇◇
「ところでその、なりまさって奴はどんなやつなんだ?」
「顔がわからないことには始まらないぞ」
「今見せる、といっても写真はあまりないのだがな......」
箒がスマホを操作して、集合写真を画面にうつす。そこには、箒と見知らぬ女子生徒たち、そして何故が紛れ込んでいる一名の男子生徒。
「......んん?」
その男子生徒に、武蔵はどうにも見覚えがあった。
「どうしたの、武蔵?」
「いや、なんか見たことあるような顔で」
「どれ、見せろ」
ひょい、と武蔵の背後からもう1人の箒が画面を覗き込み、
「...........朝練にいなかったか?」
「そうだ、朝練にいたぞ!」
「なんか変な人がいるって思ってたけど......」
「妙にアドバイスが的確だったんだよなアイツ」
「エスパーかと思うほどの高精度だったし」
「......よく思えば、あんなひと学園にいなかった」
「だったらつまり......!」
何かに気づいたもう1人の箒。
みんなの方を向いて声を張り上げる。
「なんとかなるかもしれん! 今すぐに武道場に行くぞ!」
「......え、こんな簡単に見つかっていいの? 漫画だったらこれから盛り上がるんでしょ、どうなのさほーちゃん!」
「早くに見つかるに越した事はないだろう?」
「まー、そうなんだけどさー。
話の盛り上がり的にさー、なんつーかさー」
人間的には嬉しい事だが、オタクとしてはつまらない。そんな矛盾したような煮え切らない感情を抱くリッカであった。