〜もしエス〜 もし女子剣道部のマネージャーがインフィニット・ストラトスを起動したら   作:通りすがる傭兵

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もう少しでラストですよぉ!

って何回も言った気がするのは気のせい?


第48話 ヒーローは遅れてやってくるもの

 

 

 

 

目を覚ました成政を出迎えたのは、そこそこに硬いベッドに、清潔な毛布、そして真っ白い天井。

「知ってる天井だ......」

 

2、3回も世話になっていれば覚えるもので、それに独特の雰囲気と相まって、ここがすぐ保健室だと成政はすぐに理解した。

 

「お、目が覚めたみてえだな」

「......どちらさまで」

「っと、こいつはいけねえ、自己紹介がまだだった」

 

ベッド横の椅子で本を読んで居た、ツンツンとした髪型の青年が名乗る。

 

「俺は兜甲児って言うんだ。ま、よろしく」

「はあ、どうも」

 

寝起きのような霞かかった頭では思考もままならない。なんか変わった服きてるな、とか男なのにIS学園にいるのは珍しいな、とどうでもいい事を考えて、

 

「て、箒ちゃんは!」

「落ち着け、ぐっすり休んでる。どうにも疲れがたまってたみたいだな」

「そうか、そりゃ良かった......」

 

甲児が携帯を取り出し、どこかに成政たちが起きたことを連絡している様子。それが終わると、ニコニコと笑いながら甲児が、

 

「良かったな、もうすぐ帰れるってよ」

 

軽い調子でそんなことを言った。

 

「......へっ?」

「聞けば、次元の穴? みたいなのは出来てるみたいだし、そいつを広げるのは何ら苦労しないとさ。もう2、3日もすれば元の世界に帰れるってよ」

「そうですか......いやぁ、気まずいなぁ」

「......話は聞いてるぜ、なんでも自爆したらしいじゃないか」

 

甲児の表情が急に硬くなる。もしかしたら、これが武蔵の言っていたパイロットなのかもしれない、と成政も真剣な表情になる。

 

「俺は、凄いことだと思うぜ」

「へっ?」

「武蔵はああ言ったが、俺はその勇気を尊敬する。自爆に踏み切れるなんて、並大抵のヤツは躊躇して出来ないもんさ。

でも、自爆はダメだからな。最悪の手段だ。そいつを忘れんじゃねえぞ」

「......今回、そいつを随分と感じました」

「喧嘩相手と殴り合いしたんだってな。そんだけ腹割って話せば十分だろ」

 

がはは、と豪快に笑う甲児につられるように成政も笑う。その時、甲児の携帯が物々しいアラートを発した。

 

『もしもし、甲児か!』

「千冬か、一体どうした?」

『機械獣の襲撃だ、頼めるか?』

「おうよ、任せとけ......つうことだ。

これからちょっと騒がしくなるが、ここから動くんじゃねえぞ、じゃな」

 

そう言うや否や部屋から飛び出していった甲児。窓の外を見れば、何か良くわからないものが街の方でうごめいているのが見える。

「できることはない」

 

それをなんとも思うわけでもなく、ぽすりと枕に身を預ける成政。

この世界で起きていることは、悪くいえば本当に他人事。別に何もしなくてもいいし、何かをしても得るものはない。

 

(......それに、力も無いしな)

 

成政には現在、戦う力も無い。

専用機は消え去った、あるのは生身の、運動神経皆無のこの体、何をしでかそうにも役にたつわけもなし。

 

「ただ」

 

よっこらせ、と身体をベットから起こし、立ち上がって身体を軽くほぐす。

 

「何もしないとなると、それはそれで嫌だ」

 

成政はただの一般人だ。特筆すべき力をなんら持ち合わせてないことは自覚してるし、隠された能力といえばISを起動できること。

他人よりスポーツに詳しく、目がいいだけが取り柄だが、

 

「人の不幸を見逃すほど、悪人でも無いんだよな」

 

人の不幸に憤ることはできる。

 

成政は勝手に内線電話を取りとある番号に打ち込んで、相手の反応を待つ。

 

『もしもし?』

「もしもし兄貴、俺にできることはあるか?」

『......ああ、あるぜ。とっておきがな』

 

電話越しだがニヤリと兼政の口角が釣り上がるのが直感でわかった。

『屋上に来い、来ればわかる』

「あいよ」

 

電話を切り、カーテン越しに寝ているであろう箒に告げる。

 

「ごめん、ちょっと行ってくる」

 

今回は足止めのため、負けるためにではなく。

 

「今日は、勝つ!」

 

 

 

 

 

『大雪山、おろしぃっ!』

 

ゲッターに抱え込まれた機械獣が、回転の速度そのままの勢いで宙を舞い、

 

『からの、ミサイル』

 

無防備な体をミサイルが打ち据え木っ端微塵に消しとばす。

 

『次だ!』

『おっしゃあ!』

 

軽快に動き回り、敵を撃ち砕く。

3人パイロットという本来の調子を取り戻した以上、ゲッターに負けは存在しない。

 

ただし、たとえ野球でエースがいても点を取れなければ敗北するように、ゲッターだけが孤軍奮闘してもどうにもならないのが今の現状だ。

 

『数が多すぎる......!』

 

簪の悔しげなセリフを嘲笑うようにうじゃじゃと湧いて出て来る機械獣。

 

『だーっ、もっと派手にやれねえのかよっ!』

『落ち着け、街を更地にするつもりか?』

『わーってるけどさ、虫みてえにうじゃうじゃしてるんだから仕方ねえだろ』

『......大元を潰さなきゃ』

『そいつが一番手取りばやいんだがな』

「ぐわははは、無様だなゲッターよ!」

 

その時、どこからともなくゲッターチームを嘲笑う声が響き渡る。

 

『何だ、どこからの声だ?』

『今の声、まさか!』

『......通常レーダーは反応なし。でも僅かにゲッター線を放出して探る、ゲッター線レーダーに切り替えれば。

 反応あり。北西より巨大飛行物体来る、識別はミケーネ帝国......』

『ミケーネだと!?』

 

簪がレーダーで確認した直後、ゴウンゴウンと何か飛行機のような物の飛行音が聞こえては段々と迫り、発生させた霧の中から姿を現す。

しかし、実際にその姿を目視で確認すると、それは飛行機以上の巨体な物体だった。

 

『あれは、飛行要塞グール!?』

『という事は、まさか』

「そう、そのまさかよ」

 

現れたグールの艦首の目から声と共に、左目にモノクルを付けた黒いひげ面の、水色の軍服を着こんだ男の立体映像が投影される。

しかしただの軍人の、それも将校の風貌の中年男ではない。驚くべき事にその男には首から上がなく、代わりにその自分の首を小脇に抱えているのだ。

 

『てめえは、ブロッケン伯爵!』

「いかにも!Dr.ヘル改め地獄大元帥の部下にして、ミケーネ帝国の幹部が一人。

 新生鉄十字軍を統べる男、ブロッケン伯爵であるぞ!」

 

武蔵からの叫びに対し、ブロッケン伯爵は自信満々に答える。

 

『またいつぞやの首なし伯爵か!?』

『うえぇ......顔だけはいかにも悪役面だけど、首が取れてるのはやっぱり不気味......』

「おやおやぁ?どうやら我輩のこの姿は、初対面から日の浅いお嬢さん方には刺激的だったようだな。フフン」

 

驚く箒や不気味がる簪の反応を見て、不敵に笑うブロッケン。

 

『へっ、相変わらず悪趣味な野郎だぜ!』

「ふん、まあいい。ここまではよく戦ったが、そんな孤立した状態で、しかも消耗した状態でいつまで戦えるかな?」

 

不意にブロッケン指摘された直後、箒達3人はやがてその意味に気付く。

 

『あっ、しまった!それが狙いか!』

『恐らく敵の狙いは、孤立したゲッターを消耗させて確実に叩くこと!』

『くそっ、狡猾なブロッケンらしいぜ!』

「ふふふ、今頃気付いても遅いわ。向こうにはあしゅら男爵の部隊が足止めをしておる、援軍は期待出来んぞ」

 

現状を告げるブロッケン伯爵。その口調と笑みには、「これなら確実に勝てる」という自信が伝わってくる。

 

『見事にはめられたな。どうするか、この状況』

『ゲッターライガーのスピードで、マッハスペシャルでかく乱仕切れるかどうか......』

『そいつも込みで、こりゃあゲッターとあいつらを信じる他はあるめえよ』

 

思い思いに意見を出し合う3人。その間にも機械獣達はジリジリと迫り来る。

 

「ふふふ、では兜甲児の次に因縁のある貴様とその仲間のお嬢さん方を、どう料理してくれようか!」

 

不敵に笑うブロッケンと、その配下の迫り来る機械獣軍団。

今にも飛びかからんとしたその時、どこからともなく高笑いが響きわたる。

 

『ふーはははは! ブロなんとか伯爵、お前は演出というものがわかっていなーい!』

「誰だ!」

『ふふふふふ......ふははははっ!』

 

どこからともなく響く高笑い、その声の主は勝ち誇るように言葉を続ける。

 

『その言葉は予想してなかったなぁ。5分ちょうだい』

『何も考えてないのかよ!』

『やかましい! だいたい台本が無い方が悪い、俺は悪く無い!』

『無茶苦茶だ......』

『無茶で結構、そうでもしなければ番組は面白く無いぞう!』

 

咳払いをした声の主は、自信たっぷりな様子で高らかに告げる。

 

『ゲッターだっけか。そいつを孤立させたと言ったな、伯爵?』

「その通りだ! こいつの仲間も足止めしている、お前たちはこの軍団の前になすすべもなく敗れるのだーっ!」

『そいつはどうかな?』

「なにぃ?」

 

チッチッチ、とわざとらしくもったいぶった声の主は、浮かんでいる笑みをさらに深める。

 

『確かに、この世界の仲間は足止めされているのかもしれないなぁ。

だが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?』

「なんだとう!」

『舞台は整った、さあ最高のエンターテイメントを始めよう!』

 

がきん、と不快な金属音が響く。

その一瞬のちには、先頭に立っていた機械獣が真っ二つになり、爆散する。

 

「なっ、新しい味方だと!」

『言ったはずだぜ伯爵。仲間はこの世界だけじゃ無い』

『あの機体は......!』

 

ゲッターの前にふわりと佇む、その機体。

否、その仲間達は!

 

「2人のピンチだ。みんな、気張っていくぞ!」

「当然、ぶっ潰してあげる」

「伯爵を名乗るには、少し気品が足りませんことよ?」

「穴だらけにしてあげる!」

「嫁の頼みは断れん。というわけだ!」

『一夏、それにみんな......!』

『でもどうして、みんなは反対側の戦場に......』

「野暮なこと聞かないでよ、困ってたらお互い様でしょう?」

『そいつは一体......』

「友達の命の恩人なんだ、そのピンチを放っておけるかよ!」

『うちの知り合いはお人好しが多くて』

 

最後に、その機体群の先頭に立った機体。

 

その姿は、暗闇に潜む影にあらず。

表舞台に姿を現した、その名は......

 

アンサング・ヒーロー(影の英雄)、改めて、アナザーワン・ヒーロー(もう1人の英雄)

さあて、俺たちが相手だ!』

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

「こっちにゃ無理を押し通し道理を蹴っ飛ばす天災が2人もいるんだ。多少の無茶はどうって事ないさ」

「ふひー、つっかれたー」

「もうこりごりだよ......」

 

マイクに声を張り上げ先ほどまで演説をしていた兼政の後ろでは、げっそりとやつれた束2人の姿が。

 

「3日かかる作業を10分で、無茶言わないでよ」

「できたじゃん。こうでもしなきゃ取って置きとは言えないだろ?」

「秘策の定義をもう一回調べ直せ」

 

兼政の語っていた取って置きとは、異世界からの援軍の事だったのだ。そのためには、どうしても束2人の協力が必要不可欠だった。

「それにしても、あの適当に彼に放った機体、どこから引っ張り出してきたのさ」

「......たまたまだよ、たまたま」

「へーえ、前半作業が遅れがちだったのもたまたまなんだぁ。ふーん」

「言いたいことはハッキリ言ってよ」

「いやあ、べっつにい?」

「ウザ」

「もう、束はツンデレなんだから!」

「やかましい分解(バラ)すぞ」

「おおこわ、じゃ黙っときますね」

(とはいえ、俺ができるのはここまでだ)

 

元の世界の束が手渡した機体を引っさげ、戦場に向かって飛び出して言った弟の背中を見つめながら、兄は心中でエールを送る。

 

(完全無欠のハッピーエンド......楽しみにしてるぜ、成政!)





最終決戦といえば全員登場がお約束ってもんよ!
というわけで(半ば無理やり)登場させました。
え、あいつが足りないって? それは後々のお楽しみですよい。

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