〜もしエス〜 もし女子剣道部のマネージャーがインフィニット・ストラトスを起動したら 作:通りすがる傭兵
いやあ長かったですね......感慨深いものです。
色々とトラブルやリアルの事情で遅れたりはしましたが、なんとか完結までこぎつけることが出来ました。
「結局、どうしてこうなったと思う?」
「さあな、さっぱり分からん」
IS学園屋上。
安全用の手すりの上には篠ノ之束が立ち、その隣には、河南兼政が腰掛けている。
眼下では何故か成政がわっしょいわっしょいと胴上げされ、それをこの世界の面々が苦笑いしながら眺めていた。
「ただまあ、結果オーライ、って事でいいんじゃねえの?」
「確かにそうだね。
福音戦のわだかまりは解消、箒ちゃんは紅椿をモノにするキッカケを得た。弟くんは難儀な性格を多少なりとも矯正できた。
いっくんがへんな金髪とくっつくのだけは、想定外だったけどね。
......しょーじき、うまく行きすぎてるよ」
「それを仕掛けたのは俺たちだろ?」
「盛大なマッチポンプを仕掛けておいて、弟くんが死にかけるのは想定外だったけど」
「死んだら死んだで別に良かったさ。どうせゾンビになっても蘇るさ、アイツは」
タバコに火をつけ、白い煙を吐き出す。
しばらく吸っていたかと思うと、思いついたようにタバコを束の方へ差し出した。
「やるかい?」
「私、サケもタバコもやんないの。つまんない」
「あらそう」
「......でももらう。今はそういう気分」
兼政の手からタバコを奪い、軽く吸い込む。しかし慣れないのか少し咳き込む仕草を見せた。それを見て笑う兼政に、束はむくれ顔でタバコを投げ返す。
「マズイ」
「俺もだ」
興味を失ったように、兼政はそのままタバコを屋上の方へ投げ捨てた。
「さて、帰りますか。帰り道はこじ開けてくれんだろ?」
「私としては残りたいけどね。この世界は大変だけど、楽しそうだから」
「でも残らないんだろ?」
「......ケジメくらいはつけないとね。私にだって責任感はあるんだよ? それと。
ーーー2人の面倒をお前に任せるわけにはいかないからね」
「あーバレた?」
「検索履歴のアマゾンの地図、どこで使うつもり?」
「いや、ハネムーンといえば遺跡でしょ、ジャングルでしょ、ゾンビでしょ、アドベンチャーでしょ?」
「そんな事ないから」
「最近発見されたマヤ文明の遺跡とか......」
「それ危ないやつ!」
◇◇◇
「何故に胴上げ......」
「生きてたからだろ」
胴上げで疲れ気味の成政に、兜甲児が声をかけた。ヘルメットをかぶっていたのにあの髪型のままなのか、とどうでもいいことを考える。
「強くなった、訳じゃねえな」
「ええ、自覚はしてますよ」
「けど強くなれるぜ、お前は」
「そんな気はさらさら無いですけどね」
「あっはっは、お前らしいといえばらしいのか?」
じゃ、最後に一つ、と前置きする甲児。
「もう踏み外すなよ。お前が背負ってるのは、お前だけじゃねえんだから」
「まず2人分背負えるよう頑張りますよ」
「その意気だ!」
「イッテェ!」
ばしこーんと背中を叩かれうずくまる成政。それを尻目に甲児はじゃあなと手を振り、その場を後にした。
「みんな〜、帰るよー」
気の抜けたような束の掛け声に返事を返し、叩かれた部分をさすりながらみんなの方へ歩を進める。
(......全く、とんだ夏休みだった)
「このうにょんうにょんしたのが?」
「次元の歪みって言ってくれないかな」
IS学園の中庭広場、成政達の目の前にあるのは、一夏のセリフがぴったり合うような、形容しがたいようなもの。
「繋いだのは私の秘密ラボ。そこから元いた場所へ送り届ける手はずになってる」
「束のラボか。こいつは荒らしがいのある」
「君たちは上空1万メートルでいいよね?」
「帰るまでが遠足だからふざけないでね?」
「ふざけてんのはおまえだろーが!」
「じゃ先帰るわよー」
『ではまたいつか』
「ちょ、待てよ!」
「ほいじゃみなさん、オタッシャデー」
スコールとMが門をくぐり、オータムと兼政も後に続く。
「......結局よくわかんなかったけど、自分と会えるなんてなぁ」
「同感だ。時間があれば手合わせ願いたかったがな」
「そんな時間はないよ一夏、ほら帰ろ」
「あんたも迷惑かけないの!」
2人の一夏はそれぞれに注意されつつ、向こうの世界の一夏は、シャルロットと一緒に。
「それでは皆様、御機嫌よう」
「楽しかったわよ!」
「......達者でな」
「また舞台で再会できることを願ってるよ!」
他の皆もそれぞれにメッセージを残しつつ、揺れの向こう側に消えていく。
そして最後は、箒と成政。
「......この感謝は、言葉では言い表せないと思います。なのでシンプルに」
「もっとやりようがあるがと思うが、私も同意見だ。言おうとしていることも、おおかたアレだろう?」
「......そうだね」
2人並んで、深々と腰を折る。
そして万感の思いを込めて、声を張り上げた。
「「ありがとうございました!」」
そして振り向き、門の方へ歩み寄る。
「あばよお前らァ!特に成政、もう自爆して心配かけさせんじゃねえぞお!」
「「お前が言うな!」」
「全くです」
「自爆はロマン......だけどやるのは、ダメ」
「たはは、そりゃそうだよな!」
「もう自爆なんてしませんてばー!」
どうにも締まらない声を残しながら、成政達はこの世界から退去した。
それから数日後。
やむにやまれぬ事情ありきとはいえ長期的に学校を休んだ成政。
それを謝りに行くため、方々に挨拶回りをしていた。
まず剣道部、
「河南成政、ただ今完全復活しました!」
「「「「おかえりー!」」」
「ちょ、防具のまま、わぷっ」
「1ヶ月もさぼりやがって、このこのー」
「部長のメニューはやってて辛いんで助かりますー!」
「練習メニューが辛いのは当たり前だろー!」
「元気そうでなによりー!」
次に職員室、
「ご迷惑をおかけしました。織斑先生」
「よく無事で戻ってきてくれた。それだけで十分だ」
「ところで山田先生は。あの人にも謝らないと」
「山田くんは帰省中だ。休み明けにでも怒鳴られるといい」
「やだなぁ......」
食堂にいた一夏たちに捕まり、
「一発殴らせろ!」
「ぐわーっ!」
「私も混ぜろー!」
「あばーっ!」
「迷惑料ですわ!」
「なんでや」
「あはははは、ゴメンね?」
「優しさの割に遠慮がない!」
「何故私を呼ばなかったぁ!」
「そっちー?」
「全く君というやつは......」
「お前は視線だけでツライ」
「あっはっは」
「こんの、馬鹿者がー!」
「ぐわああああああ!」
箒の渾身のコースクリューブローを受け、宙を舞う成政。
こんな夏休みも悪くはないと、心の片隅でどこか思っている、のかもしれない。
◇◇◇
同じ頃、並行世界のIS学園食堂では武蔵と甲児、そして同じマジンガーパイロットの鉄也が画面越しに金髪の女性と会話を交わしていた。
「へ~、じゃあハニーさんはこの前の別世界の連中とは、俺より早く接触してたんだな」
『そうなのよ。それで後であっちのオータム達には、勘違いしちゃってごめんなさいって、謝っておいたの』
「そう言やぁ俺もゲッターでやり合ったからなあ。別れ際に『次会う時は負けねえからな』ってニヤけながら言われたっけ」
『あはは、それは後でどうなる事やらねえ』
「しっかし、不思議なこともあったもんだよなぁ」
奇妙な偶然に唸る甲児。それはさておき、と立ち上がった鉄也は2人に向けて、
「なら、こっちもその時に負けないように特訓だな」
「はははっ、そうだな。いつも特訓努力家の、俺達だもんな!」
「もう自爆しないようにってか?」
「おいおい、そいつはきついジョークだぜ」
「なら、誰か私の肩慣らしの相手になってくれる?」
ぱちんと扇子を広げる音。3人が振り向けば 『鍛錬』と書かれた扇子を広げる楯無の姿が。
「体はもういいのか?」
「ええ。元々大した怪我じゃないし、リハビリも兼ねてね」
「なら移動するか」
「そうね、第三アリーナを取ってあるの」
流れるように、というより最初からそうなると決まっていたようにこの場を後にする鉄也、そして楯無。
「えーっと俺は?」
「......俺がメニュー考えてやるよ」
所変わって馬術部。
草原でシャルロットとマリアが言葉を交わしていた。
「ねえマリア、この前は大丈夫だった?」「この前の戦闘?全然平気よ!数ももう大した事なかったし、みんな大穴空けてやったし!」
「いつも元気だね」
楽しげに言葉をかわす妹を見ながら、その兄デューク・フリードはひとりごちる。
「今日も妹のマリアもみんなも元気だな、やはり平和が一番だ」
「この前のあいつら、元気にしてるだろうかな」
「多分してるんじゃない、元気過ぎて寧ろ騒がしいくらいだし」
「それに色々あったよね......武蔵さんの本心が聞けたりとか、向こうの箒達の恋愛事情とか」
「そっ、それは今は関係ないだろう!?」
すっかり修復された屋上で、昼飯をつつきながら会話する箒、簪、そしてリッカの3人。
「そ、そんな事よりだな......」
「やっと見つけましたわ、リッカさんに簪さん!キャプテンゼーロックの続きはないんですの!?」
「そうだぞ!あの他にゼーロックのはないのか!?」
「......ゼーロック?」
突然飛び込んできたセシリアとラウラという乱入者。だが、簪とリッカは訳知り顔でニタニタと笑いながら、
「おうおう、セッシー達もすっかりゼーロックにハマっちゃって…なはははっ」
「......今度、劇場版の見せてあげるから、落ち着いて」
「よし、ぜひ見せてもらうぞ。その劇場版とやらを」
「ええ、なにせ宇宙海賊キャプテンゼーロックは、わたくしの心のキャプテンですから!」
「そう来たか......」
「にゃははー、布教活動した甲斐があったかな~」
「おい、ゼーロックとはなんだ、まるで意味がわからんぞ!?」
「にじゅう、は、ち......にじゅう、きゅう!
さん、じゅう!」
「お疲れー、はい、スポドリ」
「ん、サンキュー......ぷっはー! 美味い!」
鈴の差し出したスポドリをガブガブと飲みながら、汗を拭う一夏。
鈴はその隣に座ると、思い出したように言った。
「それにしても、この前は変なマネージャーがいるわ一夏やみんなが二人いるわで、ちょっとびっくりしたわね」
「そりゃあ確かに」
「あたしなんて、まるで鏡見てるみたいだったわよ。おんなじ声だったし、変な気分」
「だけど、あいつら強かったよな......」
「そお? 一夏の方が強いでしょ」
「いんや、あっちの方が強い......気がする」
「はあ、そんで真面目に練習してるわけ?」
「そうそう、負けたくないからな。再会した時が楽しみだ」
「ふうん、じゃ、あたしも混ぜて?」
「良いぜ、組手でもすっか」
ここではないどこか。
そこで、誰かが言葉を紡ぐ。
「これにて、この物語は幕を閉じる。でも、彼ら鋼の勇者達の戦いはまだ終わらないし、これからも語り継がれるだろう。そこに悪に立ち向かう、鋼の魂がある限り。鉄の魔神らを始祖とした、彼らの物語は。
もちろん、少し変わったマネージャーと、剣道が好きな少女のお話もね?」
たけじんまん様からのコメント
『途中で予期せぬアカウント乗っ取られなどのアクシデントに見舞われながらも、何とかこのコラボ編を最後までやりきれました。ついにやった!こうしてここまで読んでいただき、皆さんありがとうございました!』