〜もしエス〜 もし女子剣道部のマネージャーがインフィニット・ストラトスを起動したら   作:通りすがる傭兵

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成政くんに専用機が届きました、やったね!

作者の技量不足で申し訳ないですが、成政の専用機イメージは
『パトレイバー』でお願いします。


第8話 河南は英国淑女に挑む

 

 

試合当日、会場控え室の第3アリーナピット。

メカメカしい機器類が敷き詰められたように並び、ギラギラと金属が光を反射するこの部屋はSFちっくな(おもむき)がある。

木製やリノリウムの床に慣れた身としては新鮮な気持ちだが、漂う雰囲気はどこも変わらない。緊張と不安、そして楽しみをないまぜにして混ぜ込んだ独特の空気。

 

「盛り上がって来たネェ!」

「めっちゃ目がギンギンだなお前......」

「さては完徹したな」

「んなこたあどうでもいいんだよ!」

「やかましい」

 

空も気持ちよく晴れわたっているし、ここ1週間ほどは晴れ続きでフィールドのコンディションも良好、まさに絶好の決闘日和。

選手の試合前の過ごしかた、というのは個性が出る。戦場だと人間の真の姿を見ることができるとは言ったものだが、この場でも通じるものがあるのでは無いだろうか。

イメージトレーニングに耽る、応援メッセージを見て自分を奮い立たせようとする、自分の世界で己と向き合うなど千差万別、一人として同じ事はない。

一夏は少しいつもと違って表情(かお)が硬いが、普段通りに振る舞おうとしている様子。箒や織斑先生を心配させまいとしてであろうが、健気よなぁ。試合前に他人を気遣う余裕があるほど君は強いわけでも無いことは自覚してるだろうに、どこまでもお人好しだか物好きだか。

 

「とにかくやる事は最 低 限やったんだし最悪ワンサイドゲームはないから安心しろ」

「負ける前提で話すなよ! 勝てるもんも勝てないだろ」

「......君が実戦で頑張れるタイプとかなら話は別だけど、ね」

 

そういう奴が持ち合わせるものを、俗に主人公補正という。

たまにいるんだなこういう奴、練習風景はイマイチ部内試合でもパッとしないのにやたら試合強くて。団体戦で隠し球とかで出されると全部台無しにされるわ、練習の様子が当てにならんわ、そういう奴ほど面白い性格で嫌いになれないわで嫌いだ。

一夏がよしんばそうだったとしても、今回ばかりは番狂わせはない、一撃当てて終わりが関の山だとは思うがな。

 

第一試合は俺とオルコット。

 

一夏のISがまだ届かないという予想外のアクシデントだが、予想はしていた。

なにせ専用機というものは開発に時間がかかる。特に第三世代のものはそうだ、と開発者が愚痴を言っていた。

俺の専用機は今手元にあるものの、開発自体は2年前、プロジェクトチームは3年前の発足という。民間企業だということを差し引いてもどれだけ時間がかかるかはお察しの通りだ。その上コイツは既存機体のパーツを6割を流用、実質作ったのは4割だけだ。その残り4割でも2年もかかるなら、10割だと単純計算で5年だ、気が遠くなる。

むしろギリギリ納期に間に合った開発会社の方を褒めるべきだろうけど、それはそれ、これはこれ。

納期だという今日、届いてない時点で大人としてどうかと思うし背景を抜きにして少し怒っている。が今ここでぶちまけても無駄、心の内に飲み込んでゴミ箱にでも放り捨てておいた方が建設的だろう。

 

後続の一夏を万全な状態で試合させるためには、まずISが届くまで戦いを引き延ばして時間を稼がにゃならん。

その上専用機はフォーマットやらフィッティングやらで初回起動時はさらに時間を要する。

例えるなら新品は硬くて怪我しやすいから、多少自分の体に慣らしとけという事なのだろう。

その慣らし運転だが......俺の体験からするとざっと30分はかかる。

30分、二分の一時間、1800秒。

言い方を変えても絶望的な時間なのに変わりはないし、どうにかしなければならないのでなく、どうにか()()のだ。

 

「そいやっと」

 

気の抜けた掛け声を遊びで毎回していたせいか、起動するときはそう言わなきゃ動かなくなった俺の専用機『unsung hero(アンサング・ヒーロー)』。

ハイパーセンサーのもたらす全能感とそれ故に伝わってくる相手の威圧感に尻込みしながら、ロボアニメで見るようなカタパルトらしき射出装置に足を乗せる。

 

......機体の名前の意味は知らないんだけど、これパイロットとしてどうなのかなぁ。

 

そんな全くどうでもいいことに逃げながら、俺はアリーナの空へ飛び出した。

 

「あら、淑女(レディ)を待たせるのはどうかと思いましてよ?」

「試合時間の遅延は通達している、やる事はやっているさ」

未だおぼつかない足元、足場もないのに空を飛ぶ恐怖を顔に出さないよう精一杯平常心を保ちながらフラフラとスタート地点の指定されたポイントに足を合わせる。

 

「それにしても、不細工なISですわね」

「動いて性能がよければ満足だ。それ以上は俺の身に余る、望む事もおこがましい」

 

オルコットの言った通り。アンサングは少々......というよりかなり変わったISだ。設計した人はおそらく昭和アニメの見過ぎで心が荒野か戦場に旅立っている。

 

角ばった太い脚に、ふくらはぎに付けられた小型ブースターを隠す丸みを帯びた装甲。

腕部分は左腕に小さめの盾がある以外は普通の腕より一回り太いだけでおとなしいと思いきや、肩は自分を誇示するようにポン付けしたセンサーらしいものが。装甲板の上に無理くりセンサーを載せていてみみっちい事この上ない。

頭部はガタイのいい胴体以下と釣り合うゴテゴテと何かを据え付けた、広いバイザーとウサギのようなアンテナが取り付いている。

そしてカラーリングは鉄の鈍色......まあ要するに未塗装なんだなこれが。納期がギリギリなのはこっちも同じだった訳。

 

古臭い全身を装甲で覆うタイプだが、正直生身で攻撃を食らうのは怖かったのでありがたい。

企業の人曰く、今では相対するオルコットのように、胴体や頭部分を露出するものがトレンドだと言っていた。それに空中に浮かぶ前提で武装の組み立てができるので、考えつかないような身の丈を超えるライフルなんかも使えるんだそう。

はっきり言ってそうも長いと実用的とも思えないが、何かしらの意味はあるんだろう。

 

「まあいいですわ。……それより、最後のチャンスを差し上げます」

「最後のチャンス?」

 

長い金髪を煌めかせ、腰に手を当て高圧的な態度でそう告げられた。

おうむ返しするって事は何もわからないことを知らしめているようで嫌いなのだが、わからないもんはわからないのだ、聞くしかない。

 

「不様に敗北するのが嫌でしたら、今ここで地面に手をついて謝ることですわ。

素人であるあなたが私に勝てないのは自明の理、たとえ紅茶が凍るなんてありえない事があろうとも、私が勝ちます」

 

最後の宣告、という奴だろう。

あるいは武士の情けならぬ貴族の情け。

名誉と外聞を重んじるであろう貴族らしい、優しい物言いだが......

 

「あいにくだが、無様に地面に()いつくばるのは好きなんだ。邪魔しないでくれよ」

 

そんなもん俺は知らん、管轄外だ。

 

「ならば、望み通りにしてさしあげます!」

 

ふざけた物言いに血が上ったか、試合開始の合図も待たずライフルの引き金を引くオルコット。

 

『し、試合時始めてください』

 

そのままなし崩しに火蓋は切られる。

俺は登録されたたった2つの武装を展開、空中を蹴ってレーザーを躱し、対戦相手を見据えた。

 

さあ、無様で泥臭くてしょうもない試合を始めよう。

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

「15分、よく持ちましたわね」

「ほんと、まじで、そう、思う......」

 

言われて気がついた、まだ15分なのか。

あと半分、今と同じ時間稼がないといけないのだろうが、希望的観測を入れても無理というものだろう。

 

現状、オルコットの駆るIS『蒼の雫(ブルー・ティアーズ)』のSEは減っていない。

対する俺のアンサングはというと残り3割、そして今2割強になった。

そして俺の手持ちに遠距離武装はなく、オルコットは遠距離武装しかない。

今のこの状況は的当てと同じだ。反撃なんて考えるよりかは逃げ回る方がまだマシ。

 

「その逃げ足に免じて、私の全力をお見せしましょう」

 

スッと空中で静止したオルコットがオーケストラの指揮者のように両手を振り上げると、背中のバインダーの一部が分離、意思を持つようにティアーズの周りに滞空する。

 

「さあ、踊りなさい。

私とティアーズの奏でる円舞曲(ワルツ)で!」

「隙を見せたな、オルコット!」

「あら、とち狂いでもしましたか?

ティアーズの本領はここからでしてよ」

「その通り、それを待っていた、と言った」

 

1秒話せば、1秒一夏に時間をやれる。

15分の間無様に逃げ回ってきたのは、今のこの時間のためだろう!

 

「男っていうのは、ここIS分野にとっては不利だ。一対一では絶対勝てない。

だったら、二対一なら? 三対一なら?

いくら強かろうと、頭数揃えれば大抵勝てる」

「織斑一夏と組んでいる、と」

「その通り、でも組んじゃいけないとは言われてないし卑怯なんて言ってくれるなよ?

しかし、この決闘は必ず一対一で行われる。そこだけはどうにもひっくり返せない事実だ。

だったら、それ以外だ。

試合前にする事は山程ある。ISだろうがなんだろうが、所詮人と人の争いなんぞ高が知れているさ、対戦相手の研究とかくらいは出来る」

「......」

「入学試験の教官との模擬試験、君は射撃中時々躊躇うような仕草をしていた。隠し球があるとはわかったが、正体ばかりは謎だったんだ......やっと正体を見せてくれたな。

ドローンのように自立稼働する外付け兵器、それがブルー・ティアーズの第三世代たる所以、だろう?」

「......ふふっ」

 

笑った? 何故だ、何故笑う。

まさか、俺のやる事なす事全部見抜かれたってか。

 

「その程度、()()()()()()ということですわ。

代表候補生になり、専用機を受領してから、こうなる事は理解していました。

そして、貴族たるもの、注目される事は社交界で慣れていましてよ。たかが武装1つ暴かれただけで私が動揺するとはお思いで?」

「......なるほど、貴族ってのは肝が座ってるんだな」

 

で す よ ね ! まあ予想してたけど。

貴族すげーなおい! なんでここまで余裕綽々でいられますかね、冷や汗の1つくらいかいてくれてもいいってのに、なんで眉ひとつ動かないんですかねオルコットさん?!

 

「ってレーザーめっちゃ飛んできたっ!」

「その心意気に免じてひとつ教えて差し上げましょう。

私のナイトは木偶人形ではありません。

私の命令を聞く、忠義の騎士でしてよ」

「自立じゃなくてオール手動で動くってことか、正気じゃないだろ!?」

「正気ですし天才ですから。

では、終幕(フィナーレ)といきましょう」

 

ライフルから放たれたレーザーを躱そうと減速した時点で、詰みだった。

一瞬後には俺は4方向から放たれた光線の雨をもらい、少なかったSEが全損する。

 

『勝者、セシリア・オルコット!』

「悪くはありませんでしたわ。ですが、凡人はいくら努力しても凡人ですの。

では、御機嫌よう」

 

ダンスでも終わったようにスカートの端を摘み上げる仕草を見せ、背を向けて去るオルコット。

 

「......ああ、俺の完敗だよ」

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「いやはや、よく持った方だとは思うけど」

「完敗だな」

「ぐうの音も出ない正論をどうも」

 

今しがた一夏はISが届いたらしく、受け取り手続きと最終調整を行うということで席を外している。織斑先生と山田先生も付き添いでいないので、箒とは2人きりという訳だ。

そして今は一夏が戻ってくるまでに、ブルー・ティアーズ対策案を纏めなくてはならない。

 

「......ほんと、割り切ってるとは言えあんまり見せたくない姿だったんだけどねぇ」

 

男たるもの、女子にはかっこいい姿を見せたいというものだ。今の試合はマネージャーとして割り切ってはいるが、やはり悔しいものは悔しい。

 

「そうでもない。かわな......成政はカッコよかったぞ」

「さらっと脳内読まないでくれます?」

「......すまない」

 

ぷい、とそっぽを向く箒。そういうことは一夏にやってくれ一夏に、応援してるんだから。

「それで、対策案は出たのか?」

「隠し球の正体は割れた、オルコットの射撃のクセみたいなもんも把握したし、一矢報いるくらいの作戦は立てられた。

ただなぁ、これでやっとこさ一撃、て感じ」

「実力差は如何ともし難いか」

 

少々厳しめの箒の物言いだが、それだけ現状をしっかり把握してるって事になる。俺はその言葉に頷いて、諦めるようにため息を吐く。

「地力が足りなさすぎる。

それに射撃一辺倒なオルコットさんのこと、ちゃんと近接タイプとの戦い方は持ってるだろうしね。

こんな事考えるなんて裏方としては負けなんだけど、一夏の専用機が高性能な事を祈るしかないね」

 

資料の最後の1文字を書き終わり、思い切り背伸びをし、インクが乾いてしまわないようペン先にキャップをかぶせて、筆箱代わりの拡張空間に放り込む。

そして毛布と枕を引っ張り出し、備え付けのベンチに寝そべった。

 

「一夏来たら起こしてちょうだい」

「......それはたしかに平和的な利用方法だが、良いのかそれで」

「え、便利じゃない?」

「ISは便利な物入れではないだろう!」

 




ISって普段使いにはちょうど良いと思うんだけど、なんで誰もやらないんだろう......

ほら、拡張空間とかもの入れるにはちょうど良いし、ハイパーセンサー使えばスマホがわりに色々出来そう。

そして、成政くんは弱い()

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