トリックスター   作:再再

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今度は同盟サイドになります。アイランズメインでワレンコフの娘が登場します。


2話 帝国歴477年 宇宙歴786年 ハイネセン

帝国歴477年 宇宙歴786年 7月21日

 

「では私はこれで失礼するよ」

「今日は貴重なお時間を頂きありがとうございました」

「また何か相談したいことがあったら声を掛けてくれたまえ」

「ご厚意感謝いたします。トリューニヒト先生」

 

ハイネセンポリスにあるホテルユーフォニアはハイネセンでも指折りの高級ホテルである。

一番の売りは料理であるが従業員の教育も行き届いており政治家からの電話があればすぐさま個室を用意して他の客にわからないように案内して帰るときも気づかれないように送り出す。この徹底したサービスのおかげで政財界のVIPが他に聞かれてはまずい話をしに集まるようになった。

他に聞かれてはまずいと言っても国の重要機密事項について話すことはほとんどなく大抵は企業からのリベートや口利きなど有権者にばれたらまずいような内容であった。

 

 

ウォルター・アイランズは若手No1の人気を誇るトリューニヒト議員の派閥に属していた。その理由はトリューニヒトと軍需産業に固く結ばれた利権のおこぼれをあずかるためであった。

長年の戦争によって同盟内の軍需産業は肥大して同盟の経済活動の柱になっている。そこからこぼれてくる利権は政治家を汚職に誘う最高最悪の呼び水でもあった。

アイランズもそんな利権に目がくらんでしまった一人であった。

 

 

アイランズは元々ジュニアハイスクールの国語教師で政治家になるつもりは全くなかった。

同盟ではジュニアハイスクールまで義務教育で基本的に学費はかからないがその先進学するか就職するかは個人の選択に任されていた。ただ条件の良い職に就くためには進学してさらに勉強したり資格を取得する必要があった。

しかし長年の戦争によって教育関係や職業訓練の予算は削られる一方であった。本来なら進学するだけの学力を持つ子供も家計に余裕のない場合学費のかからない軍関係の学校に進学するか軍人になり、それが嫌なら労働条件の悪い職場で低賃金で働くしか道は残されていなかった。また雇用形態も不安定でその多くが有期雇用であった。

 

アイランズはそんな世の中に憤りを覚えていた。彼は一般企業に就職を希望する教え子のため東奔西走してより良い条件の企業を探して頭を下げて回った。しかし長く続く戦争のせいで景気は低迷しており企業に人材を育てる余裕はなく即戦力として使える人材を中心に採用していた。何の資格もない子供を採用するのは労働条件の悪い企業であった。

 

それでもアイランズの努力の甲斐もあり条件の良い企業に就職できた教え子もいたがそれは全体から見れば僅かであった。

それ以外の大多数は軍人となるか労働条件の悪い職に就いた。

軍人になった教え子の半数は数年後に戦死の知らせを受けた。やるせないのは軍人にならず一般企業に就職しても仕事中の事故に巻き込まれて死んでしまったり、心身を酷使した末に死んでしまう教え子が年々増えていることだ。

長く続いた戦争により働き盛りの中堅層が軍に徴集された結果そのしわ寄せは年配や若い労働者に向かった。人手不足を大義名分にして政治家は企業の望むがままに規制を緩和した。そのせいで熟練度が低いまま過重労働を強いられて怪我や死亡事故が多発するようになった。しかし正規雇用でない彼らに対しての補償は十分でなく例え死亡しても僅かな補償金が支払わるだけであった。

 

ある時死んだ教え子の母親がアイランズを訪ねてきた。

 

「うちは裕福ではないのであの子は家計を助けるために必死になって働いてその末に死んでしまいました。そこまで頑張ったのに会社や国は僅かな補償金を払っただけです。これではあの子は報われません・・・!」

「私も子供を酷使するような世の中は間違っていると思います。もっとこの問題に真摯に向き合う政治家がいれば良いのですが・・・」

「今の政治家にそんなこと期待できませんよ。この前も汚職で政治家が辞めてばかりですよ?アイランズ先生のような方が政治家にいれば良かったのですが・・・そうだわ!先生今度の選挙に立候補してみませんか?」

「私ですか?私は見ての通りの平凡な教師ですよ?そんな金もなければ度胸もありません」

「いいえ!貴方ほど子供のことを考えてくれる人なんていませんわ!政治家になれば子供や親の気持ちを代弁できるような政治家になれます!私もお手伝いしますから!!」

「いや、私には無理ですって・・・」

 

そう固辞したがいつの間にかこの話は広まりアイランズは周りに祭り上げられた。しかし小心者のアイランズは選挙に出るのを躊躇っていた。そんなアイランズの背中を押したのは妻で同僚のカトリーナだった。

 

「このまま教育関係と労働問題が疎かになればいずれ同盟は内部から衰えて滅んでしまうわ。それを止められるのは現状をよく知る人間よ」

「だが私は政治家なんて器じゃない。それは君が良くわかっているはずだ」

「確かに貴方は政治家なんて柄じゃないわね。でもここぞと言う時の行動力と決断力は素晴らしいわ。やってみるだけやってみなさいよ。それに教育問題や労働問題を演説で取り上れば沢山の人が聞いてくれるのよ?例え落選しても少しでもこの問題が知れ渡って議論されるようになればそれだけで大したものだわ」

 

そんな後押しもあってアイランズは補欠選挙に立候補することを決意した。

しかし知名度も華もないアイランズはどこの政党からも公認を受けられず無所属のまま出馬した。誰もが当選は無理だろうと思っていたが意外にもアイランズは健闘した。

 

「私は何人もの教え子を送り出してきたがその大半はすでにこの世にいない。進学を希望しても金銭面で諦めざるを得ない子供が多く皆軍人になったり労働環境の悪い職についた。戦死したならまだしも会社に使い捨てられ死んでいった教え子も多い!なぜか!?それは政府が人手不足を理由に規制緩和をして熟練度の低いまま仕事をせざるを得ない状況が進んでいるからだ!人手を増やすためとは聞こえが良いが実際はどうだ!!職場事故が多発して多くの人間が亡くなっているではないか!!私はこんな世の中を変えるために疎かになっている教育、労働分野に力を入れると約束しよう!!」

 

アイランズは学生、子どもを持つ親、低賃金で働く労働者たちを中心に高い支持を受けて初出馬ながら見事当選を果たした。

 

当選の事実に一番驚いていたのは当の本人であったが当選したからにはやるしかない。こうして政治家の道を歩みだしたアイランズであったがその道のりは険しいものであった。無所属の議員には政党の後ろ盾がない。そのため発言力は政党所属の議員に劣るし活動も制限される。何より人脈もなければ金もノウハウもないアイランズの存在は議会で埋没していきこのままではいけないと考えていた時ある人物から声を掛けられた。それがトリューニヒトであった。トリューニヒトは若手№1の議員で規制緩和改革を行い企業活動の活性化に寄与していることで有名だった。

 

「君のことは良く知っているよ。教育関係と労働関係に力を入れたいんだってね」

「ですが無所属の議員では発言力もないもので・・・」

「ならば我が国民平和会議に所属してみないか?」

「私がですか?ですが私は主戦論者と言う訳ではありません」

「だが今や軍需産業は我が国の経済活動の3割を占めている。言い換えれば戦争によって多くの雇用が生まれていると言うことだ。それがなくなれば失業者が何百万人という規模で発生する」

「ですが戦争の長期化によって中堅技術者が軍に徴集されています。その失業者たちに民間に移ってもらえば解決すると思うのですが・・・」

「ならばその議論を君が提起したらどうかね?わが党は大所帯のせいか色々な考えの人間がいる。国民平和会議自体は保守寄りだが中にはリベラル寄りの考えをする人間もいる。我が党に所属すれば彼らとそんな議論も可能になるだろう。意見の言えない政治家なんて意味ないだろう?ならば我が党を利用してみないか?」

「・・・少し考えさせてください」

 

どうしたものかとアイランズは考えたが結局トリューニヒトの提案に乗ることにした。

少しでも教育労働問題を取り上げてもらうためであったが本当の理由は別にあった。

平凡な教師であったアイランズにはそれほど資産があるわけでなく選挙戦を戦うだけで精一杯ですでに資金は底を尽きようとしていた。しかし最大与党の国民平和会議に所属できれば潤沢な政治資金を得られるのだ。

 

 

「国民平和会議にようこそ。歓迎するよ、アイランズ君」

「これからよろしくお願いいたします。トリューニヒト先生」

「そんなに固くならなくていいよ。そうだ、君に紹介したい人たちがいるのだが今日予定は空いてるかな?」

「勿論です!」

「では後で迎えをやろう。君は彼らと良い関係を築けそうだ・・・」

 

トリューニヒトの迎えに連れられてやってきたのはホテルユーフォニアであった。ホテルの人間に案内された部屋にはすでにトリューニヒトが待っていた。

 

「よく来たね、アイランズ君」

「本日はお招きいただきありがとうございます。紹介したい方はまだいらっしゃらないのですか?」

「彼は後から来るそうだ。ここの料理は旨い。ゆっくり食事を味わいながら待とうじゃないか」

 

政治活動のイロハについてトリューニヒトから聞いているとホテルのスタッフがやってきた。

 

「トリューニヒト様、ジェファーソン様がお着きになりました」

「来たか、こちらに案内してくれ」

「あの・・・これから来られるか方はどんな方なんですか?」

「彼はこれからの君の政治活動に欠かせない人物だ」

 

案内されてやってきたジェファーソンは仕立ての良いスーツに身を包んだ中年男性であった。

 

「お待たせして申し訳ございません。トリューニヒト先生」

「待っていたよ。アイランズ君、彼はゼネラル・エンジニアリング社の営業部長のトーマス・ジェファーソン氏だ」

「はぁ・・・」

 

ゼネラル・エンジニアリング社は同盟内でも有数の大企業で軍需産業を主軸として様々な分野に進出しているコングロマリットでトリューニヒトと深いパイプで繋がっているとの噂もある。

 

「私が紹介したいのは彼だ。すまないが私は所要があってこれで失礼するよ」

「は、はい・・・今日はありがとうございました」

「これからの君の活躍に期待しているよ」

 

俳優のような顔にどこか含みのある笑みを浮かべトリューニヒトは帰って行った。

なぜジェファーソンと二人きりにされたのかわからないアイランズは戸惑っていたがそんなアイランズを尻目にジェファーソンは愛想よく話しかけてきた。

 

「お話はトリューニヒト先生から伺っております。政治家になられたばかりで政治資金が足りないとか?」

「お恥ずかしながら・・・」

「最初は誰でもそうですよ。ですがこれからはそんな心配をせずに活動できます。我らゼネラル・エンジニアリンググル―プがバックアップいたします。資金面でもう困ることはありませんよ」

「ですが企業から政治家への直接の献金は禁止されているはずですよ!?」

「その辺りは問題ありません。専用の政治団体は用意してあります」

「それは違法では・・・?」

「ばれなければ問題ありません。他の政治家もやっていることです」

「しかし・・・」

 

汚職になど手を染めたくなかったが現実問題資金繰りはかなり厳しくこの提案に乗らなければ次の選挙は戦えないのは分かり切っていた。

 

「わかりました・・・」

「これから良い関係を築いていきましょう」

 

これで良いのかと自問自答したがゼネラル・エンジニアリングのおかけで政治家としてやっていく見通しが立ったのは確かであった。多少複雑であったがジェファーソンを紹介してくれたトリューニヒトに感謝した。

 

それから国民平和会議の最大派閥のトリューニヒトの派に属して政治活動を行うようになった。最初は違法な献金に抵抗があったが次第に感覚が麻痺してトリューニヒトに取り入り甘い汁に溺れていった。政治家としての地位を固めるのと反比例するかのようにアイランズ家の家庭環境は悪化していった。

 

「貴方変わったわね。あの時選挙に出たらと勧めたのは私だけど今は後悔しているわ。金と権力を手に入れるとここまで変わるのね・・・」

「俺父さんのことそれなりに尊敬していたんだ。いつか父さんみたいな立派な教師になりたいって・・・でも今の父さんみたいな大人にはなりたくないよ」

 

妻のカトリーナの軽蔑した視線と息子のマイクの冷め切った目に耐えられず別の家を借りた。自分でも最低のことをしていると自覚はしていたが一度覚えた甘い汁の味を忘れることは出来なかった。

 

ある時、とある資料を見て愕然とした。

その資料には以下の者は優先的に後方支援部門に配属するようにと記載されておりそのリストに書かれた人物のほとんどは政財官界の子息であった。もう一つあったリストには特例の徴兵免除者とその候補者が記載されておりそちらは政財官界でも特に重役とされる人物の子息の名が記載されておりその中にはトリューニヒトの息子の名も記載されていた。

通常徴兵が免除されるのは病気や障害等がある者か大学等の研究機関に所属する者に限られるが彼らはそのいずれでもない。

 

同盟は帝国とは違い生まれによって身分が分けられることはない。しかし実際は金持ちの子は金持ちに、貧しい家の子は貧しくなるという連鎖が続いている。本来なら教育によってその格差を是正すべきなのに予算は削られる全く役に立っていない。

その上親に金や権力があれば徴兵すらも免除されるのがこの国の実態だ。

 

「これでは帝国とそう変わらないじゃないか・・・」

 

すでに同盟の自由と平等はただの張りぼてに成り下がっていたのだ。

この国が一体どこに向かうのだろうか?アイランズはわからなくなった。

 

 

アイランズは無性に教師時代が懐かしくなり仕事の合間に昔勤めていた学校に行ってみた。相変わらず校舎は古いままで設備もだましだまし使っていた。

その日は予定が詰まってなかったので車を返して辺りを歩いてみると記憶にある街並みよりも寂れていた。知っていた個人商店は大分潰れていてその多くがシャッターを閉めていた。

物悲しい気持ちになりながらさらに進むと昔よく通っていた居酒屋ハルナガに行き当たった。

この店は酒のバイヤーをやっている店主が趣味でやっている店で個人の店とは思えない種類の酒のストックがあり、ここでしか飲めない酒も多い知る人ぞ知る名店であった。

店主のママも顔は怖いが気は優しく面倒見がよくその人柄にひかれて通い詰める客も多かった。職場が近かったアイランズはこの店によく通っていたが政治家になってからはすっかり足が遠のいていた。

 

懐かしくなってドアを開けるとまだ開店前なのか店内には誰もいなかった。まだ夜には遠い時間なので営業していないと思い至りそのままドアを閉めようとしたら店の奥から声をかけられた。

 

「いらっしゃい・・・おや、アイランズ先生かい?久しぶりだねぇ」

「・・・お久しぶりです」

「本当に久しぶりだね。立ち話もなんだから久しぶりに飲んでいきな。先生の好きな日本酒もあるよ」

「でもまだ開店時間ではないのでは・・・?」

「もう少しで店を開けるから少し早まるくらい問題ないよ。さぁどうぞ」

 

店に入るとすぐに違和感を覚えた。以前はもっとこじんまりとした店だったのに広くなってテーブル席ができていたのだ。

 

「ああ、先生は改装してから来るの初めてだったかい?」

「はい・・・飲み屋じゃなくてまるでレストランみたいですね」

「実は腕のいい料理人を雇うことになってね。倉庫潰してレストランに改築したのさ。まだ時間じゃないが先生のためだ。なんかつまめるもの用意させるよ」

「あの・・・お構いなく」

「なに水臭いこと言ってるんだい!いいからこれでも飲んで待ってな」

 

そう言って酒を注ぎグラスを押し付けるとママは店の奥に消えていった。

グラスにはアイランズが好きだった日本酒が入っていた。東の島国日本で太古より飲まれていた日本酒と言う酒は面白いことに様々な温度で楽しめるのだ。

 

グラスの日本酒は冷や酒だと日本酒本来の味が最も現れ、雑味もわかりやすくなるので余程丁寧に作られた日本酒でないと美味しくないがこの日本酒は雑味が感じられず美味いと思えた。

冷や酒も良いがアイランズが好んで頼んだのは熱燗であった。寒い時期に飲む熱燗は格別で無性に懐かしくなった。

 

「やっぱり先生にはこっちかい?」

 

昔を思い出し感傷に浸っているとママがお銚子と皿を持ってきた。

 

「・・・覚えていましたか」

「客の好みを覚えるのも客商売の仕事のうちだよ。ちょうど仕込んでいたブリ大根があったから一緒にどうぞ」

「いただきます」

 

ブリは濃厚な味わいの赤身魚で刺身にしても煮込んでも上手い。その味がしみ込んだ大根も絶妙な味で箸が進む。大根は何と煮込んでも素晴らしい味を出してくれる素晴らしい食材だ。合間にゆっくり飲んでいく熱燗と共に冷え切った心と身体を芯から温めてくれた。

やっと人心地ついて周りを見渡すといつの間にか自分以外の客が来ていたようで別の店員が対応していた。

テーブル席に着いた2人組のうち一人は明らかにまだ未成年の少女で酒が飲める年ではないが、今はレストランであることを思い出した。しかし不思議なことにその少女にアイランズは見覚えがあった。

 

「先生?どうしたんだい?」

「いえ・・・あの女の子、見覚えあるからもしかしたら私の教え子の子供かと思いまして・・・」

「ああ・・・あの子はフェザーンから来ているからそれはないよ」

「フェザーンから?」

 

フェザーンと聞いて思い出した。

彼女はワレンコフ財閥の会長兼フェザーン自治領主であるセルゲイ・ワレンコフの一人娘であるマリアン・ワレンコフであった。

物理、工学分野で才能を発揮する天才少女として、また銀河唯一の全身義体の成功例としても有名であった。

 

紆余曲折を経て後継者に指名されたマリアンであったがそれ以前から物理、工学分野に才能を見せていたマリアンの個性と希望を尊重して10歳のとき飛び級での大学入学を許可した。そしてその分野の権威を呻らせるような研究成果を上げ,13歳の時に物理学と工学の博士号を取得した。

 

大学卒業後はセルゲイから経営のイロハを実地でたたき込まれた。

マリアンは博士号取得後は同盟に作る新会社、ホーネット・エレクトロニクスの事業を軌道に乗せるまで帰ってくるなと同盟に放り込まれた。

 

当初14歳の少女に何ができると周りの目は冷ややかであった。

しかし実業家としてのマリアンは高い教養に加え相手が何者であろうと自身に有利な交渉に持ち込む強かさを併せ持っていた。

 

当時同盟領の恒星間での航行管制システムは限界を迎えていた。最高評議会でもこの問題は何度も議題に上がっていた。マリアンは当時の情報交通員会と交渉して恒星間航行管制システムのハードとソフトの移行と保守管理業務を受注することに成功した。

現在も作業は続いており今年中には完璧に新システムに移行できると議会で報告されていた。

 

ワレンコフ一族の中にはマリアンが学問の道に進むのではと期待したものもいたようだが、経営者としての頭角を現す姿を見て後継者が変わることはないと悟ったそうだ。

なぜこんな下町のレストランにいるのかはわからないがやたらと顔が広いママなので繋がりがあっても不思議はない。

 

「あのワレンコフ家のご令嬢ですか・・・きっと我々とは生まれからして違うんでしょうね」

「何だい、先生らしくないね」

「・・・この国は身分の差のない自由の国です。なろうと思えば何でもなれるはずなんです。でも現実はどうですか。裕福な家庭の子は金持ちに、貧しい家庭の子は貧しく・・・連鎖が続いてしまっているんです。本来国家はその不公平を是正しなければならないのに何もできていないんです。私も教育、労働分野に力を入れるなんて偉そうなこと言っておきながら何もできていません。それどころか利権に目がくらんで利権政治家に成り下がって・・・今ではトリューニヒト先生の腰巾着ですよ・・・」

「確かに当選当初から大分様変わりしたね。でもそれを自覚するだけあんたはマシな方さ」

「自覚しただけじゃ意味がないんです!でも実際問題トリューニヒト先生の力がなければ私は政治家としてやっていく事も出来ません・・・結局二流利権政治家として終わるのが関の山なんですよ・・・」

「まぁ確かに先生は腹芸できるような器用さはないし良くも悪くも人の影響を受けやすいからね。正直政治家には私も向いていないと思ったよ」

「やっぱりそう思いますか・・・」

「でもね、先生は誠実で責任感が強くて義理堅いし土壇場には強い。政治家ってのはどんな時でも国の進むべき道を考え、その決断に責任をとらないといけない立場にある。そういう意味では政治家としての素質はあるだろうね。・・・人間には色々な面がある。その全部が政治家に向くなんてことはないだろう。確かにトリューニヒトの半分の面の皮と神経の図太さと口の巧さがあれば今より楽になるだろうさ。でもトリューニヒトは保身と出世のことしか考えていない私から言わせれば2流政治家だよ。先生はトリューニヒトみたいになってほしくないね」

「・・・トリューニヒト先生は素晴らしい方です。何度も私を助けてくれましたし」

 

ママはトリューニヒトが昔から嫌いで顔と口だけの男と厳しい評価を下していた。しかし実際に付き合ってみると面倒見の良い人物であった。実際に困ったことがあれば相談に乗ってくれマスコミ対策の指南や資金繰りについて専門家を紹介してくれた。

 

「それがトリューニヒトの戦術なんだよ。私から言わせればあの男は自分のことしか考えていないよ」

「でも私に政治家としての道を示してくれて・・・」

「その見返りに自分の派閥を増やしていって自分に逆らう人間を減らしている。それが権力掌握への一番の近道だからね。マスコミへの情報操作も大したものさ。マスコミのスポンサーを抑えることで自分に都合の悪い情報を流さない。その代りトリューニヒト派以外の人間のスキャンダルは積極的に流してライバルを減らしていく。結局奴の一人勝ちさ」

「ですがその・・・私の汚職がマスコミに報道されそうになった時も先生は・・・!」

「それは先生が裏切らないように弱みを握るためだろう。いい加減目を覚ましなよ」

 

そう指摘されると何も言えなくなった。

それでもアイランズにとってトリューニヒトは恩人であり裏切ることのできない人物であるのだ。

 

「一流の権力者の目的は権力を使って何をなすか、そこにあります。二流の権力者の目的は権力を維持し続けること自体にあります。さて、トリューニヒト議員はどちらだと思いますか?」

 

そう問いかける可愛らしい声が後ろから聞こえてきた。振り向くとマリアン・ワレンコフが微笑みながら立っていた。

 

「急にすみません。アイランズ議員。興味のある話題だったのでつい話しかけてしまいました」

「私のことをご存じで?」

「ええ、去年無所属でハイネセンポリス地区の補欠選挙で初当選後、国民平和会議に入党し現在はトリューニヒト派に所属する方ですよね?」

「よく御存じで・・・」

 

自分の知名度などそうないと思っていたアイランズはフェザーン人であるマリアンが自分のことを知っているのに驚いた。

 

「仕事で政治家の方とはよくお話しする機会があるので議員の方は細かくチェックしているんです」

「はぁ・・・」

「それで先ほどの質問ですがアイランズ議員はどうお考えですか?」

「それは・・・トリューニヒト先生は規制緩和を行い企業活動の活性化に寄与しています。それは同盟の経済の活性化にも繋がりますし権力を使って国民生活を良くしようとしているはずです・・・」

「トリューニヒト議員はゼネラル・エンジニアリングと深い関係にあり利権の見返りに様々な規制緩和案を議会に提出して可決させ企業活動に貢献しています。それが国民生活のためになれば良いのですが必ずしもそうなっていないのはアイランズ先生が一番ご存知でしょう」

 

マリアンの言うとおり規制緩和の恩恵は一部の大企業にとどまりそれ以外の企業とそこに勤める大多数には影響が及んでいない。それどころか雇用の不安定化や規制緩和により労働環境が悪化する一方で長期的に見れば同盟の経済に悪影響を及ぼしかねない。その問題を解決するためアイランズは政治家になったのだ。

 

「まぁ自分の邪魔になりそうな存在を芽が出る前に摘むその嗅覚は素晴らしいですね。ですが彼がやっているのは国民のためでなく利権の維持に必要な作業です。こんな政治家に政治を任せていたら同盟の未来はどうなるでしょうね?」

「・・・ならどうすれば良いと思われますか?」

「さぁ?同盟の政治に興味はありますがフェザーン人の私自身は手を出すことはできません。ですがアイランズ議員が本当に同盟のために働きたいとお考えでしたら力になりましょう」

「ちょいと先生に何言っているだい!?あんたらの目的にこの人を巻き込むんじゃないよ!」

「それを選ぶのはアイランズ議員です。それにトリューニヒトよりは私の方がマシだと思いませんか?」

「それは・・・」

 

ママは複雑そうな顔をしていたが結局何も言わなかった。

 

「・・・今度はワレンコフからの利権に縋れと?それで見返りに何を求めるつもりですか?」

「そんな俗っぽいことしませんよ。利権を餌にしなくても私たちは企業利益を上げられますし」

「タダより高いものはないでしょう。生粋のフェザーン人がただ好意で力を貸すとは思えませんが」

「その通りです」

「で貴女は私に何をさせようとしているので?」

 

するとマリアンは笑みを深めて答えた。

 

「私たちの目的は世界平和です」

「はっ?冗談ですか?」

「冗談を言っているように見えますか?」

 

マリアンは変わらず笑みを浮かべていたが目だけは爛々としておりアイランズは催眠術にかかったかのようにマリアンから目を逸らすことが出来なくなった。

 

「私たちの目的は帝国と同盟の講和を結び150年近く続く戦争を終わらせること。そしてその目的はもう一つの目的を達成するための条件でもあります」

「もう一つの目的?それは一体・・・?」

「その目的はフェザーンの影の支配者ともいえる組織の壊滅です。その目的に協力していただけるなら私は貴方にありとあらゆる情報を提供いたしましょう。その代り講和を結び組織の壊滅に協力していただきます」

 

協力していただけますか?と差し出された手をアイランズは拒まなかった。

あまりに胡散臭く危険な話であったがこの先マリアンが同盟に害を加えるつもりなら止めなければならない。

 

「ではこれからよろしくお願いいたします。アイランズ先生」

「ああ、それで一つ聞きたいのですが・・・」

「何でしょう?」

「フェザーンの裏にいる組織は何というのですか?」

 

マリアンはそれまでの笑顔を一瞬で消してこう答えた。

―――地球教、と

 

 

 




アイランズはなんで政治家になろうとしたんですかね?
2世議員って感じでもなさそうだし性格的にあまり向かなそうな感じだったんで成り行きで政治家になってたら面白いかなと思ったらこうなりました。
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