もう少しのあいだ、よろしくお願いします
「本日は急にお呼びたてしてすいませんね竜王に女流二冠」
「それはいいのですが、会長、私達にお話とはいったいなんなのでしょうか?」
実は今日、会長の方から俺と姉弟子になにやら仕事のお話があるらしくこうして姉弟子と一緒に会長の所に来ていた。
「私と九頭竜先生が一緒、という事は大盤解説の仕事とかでしょうか?」
続いて姉弟子も会長に質問する。に
最初は俺も大盤解説のお話かと思ったが、その程度と言っては失礼だが、それだけでわざわざ俺と姉弟子
のことを呼だろうか。
「お二人ともご存じかとは思いますが、毎年行われるタイトル戦、それは各地の旅館やホテル、神社など様々な場所をお貸し頂いてますよね?」
「はい、でもそれがどうかしたのでしょうか?」
先ほどまでの話しと一切関係の無さそうな話しに、戸惑っていた俺に見かねたのか姉弟子の方が返事をした。
「将棋界での一番のイベントそれがタイトル戦です。そのため、その会場を選らばさせて頂く時には念入りな下見が必要となります」
「……会長もしかして」
会長の口ぶりから、何のために俺達をここに呼んだ理由はなんとなくわかった。
姉弟子の方はというとの、会長の言いたい事がまだわからないのか若干首をかしげている。
「流石竜王、察しが良くて助かります」
「いったい、どういうことなんですか?」
会長に対し、少し問い詰めるように言う姉弟子。
姉弟子は、将棋を指している時とは違い、案外こういう時の察しは悪かったりする。
「竜王は薄々わかっていると思いますが、お二人にタイトル戦の際にお貸し頂く予定の旅館の下見に行って来てもらいたいのです」
「……どうして私達なんでしょうか?」
姉弟子の疑問は当然だ、別に俺達は旅館の評論家でもなんでもないのになぜ白羽の矢が立ったのか俺も疑問に思っていた。
「お二人は竜王に女流二冠、それなら各地の旅館に行く機会も多いでしょう?」
「いや、そうですけですど……」
別に疑っているわけじゃないけど、わざわざ俺と姉弟子に行かせる辺り、なにか裏があるんじゃないかと思ってしまう。
「俺は、行ってもいいかなと思うんですけど、姉弟子はどうですか?」
こちらとしては、姉弟子と旅館に行くなんて大歓迎なものだが、姉弟子の方が俺となんて行きたくないだろうし、勝手に引き受けるわけにはいかないだろう。
「八一が行くなら私も行くわ」
いまいち、こういう言い方をされてしまうと、俺だけかもしれないけど素直に、行きましょうとは少し言いにくかったりする。
「女流二冠は行ってもいいそうですけど、どうしますか竜王?」
「わかりました。お引き受けします」
会長の方から切り出してくれて言いやすかったのだが、どこか、俺と姉弟子に行かせようと誘導しているようにも見えてしまう。
「旅館のことなんですが、私の内弟子である、あいを一緒に連れて行ってもいいですか?」
行くのはいいが、あいのことを1人で待たせることはできない。
「そのことなんですが、急遽だったもので二人部屋しか用意できないそうなんです」
「え、そうなんですか!?」
どうしよう、流石にあいを待たせておくわけには行かないし……
「安心してください竜王、実は先日お二人もご存じである、桂香さんにお会いした時にこの事を話してみたら、あいさんのことを快く預かってくれるそうです」
「よかった。それなら安心です」
毎回、毎回、桂香さんにはいつも迷惑をかけてしまう。
いつかちゃんと恩返しをしてあげたい。
「…………もしかて桂香さんの言ってたのって……」
「ん? 姉弟子今なにか言いました?」
「別に、なにも言ってないけど」
たしかに、小声でなにか言っているように聞こえたけど、俺の気のせいだったのだろう。
「会長、下見に行く旅館の場所はどこなんでしょうか?」
「沖縄です」
「お、沖縄ですか!?」
県外の旅館である事は知っていたが、流石に沖縄だとは思っていなかった。
「それでは、お二人ともよろしくお願いしますね」
「ちょっと姉弟子、買い物って何を買うんですか?」
「いいから、ついてきなさい」
会長との話しが終わった後、姉弟子に買い物に行くと言われ近くのショッピングモールに連れて来られていた。
「ほら八一、着いたわよ」
「あ、姉弟子、ここって……」
姉弟子に言われるがままついて行ってみると、そこはショッピングモールの一角にある水着売り場だった。
「ほら、早く入るわよ」
そう言い早い足取りでお店の中に入って行く姉弟子
「姉弟子、買い物って水着なんですか?」
「そうだけど、悪い?」
そう言いながら淡々と水着を選んでいる姉弟子、正直結構気まずいものがある。
周りを見ると女性用の水着だらけで男物のやつは少ない、そのためか、店内にいるお客さんのほとんどが女性だった。
「八一、ちょっと試着してみるから来なさい」
「は、はい、わかりました」
これは、俺の意見を聞きたいという風に受け取ってもいいのだろうか?
「……覗くんじゃないわよ」
「覗きませんよ!」
そう言い姉弟子は試着室の中に入り、カーテンを閉める。
さっきは周りに気を取られてて姉弟子がどんな水着を試着するのか知らないので少し楽しみだったりしている。
「……八一、どうかな?」
カーテンを開けて、出てきた姉弟子の姿に俺は目を奪われてしまった。
いつもなら着ないような、フリル付きの白を基調とした青い水玉模様の水着を着た姉弟子だった。
その髪色と真っ白い肌も相まってか、妖精だとか天使みたいな、まるで同じ人間とは思えない美しさだ。
「……やっぱり、似合わないかな?」
俺の反応がないから不思議に思ったのだろう、不安そうに言う姉弟子
「そんなことないです! 姉弟子、すごい可愛いですよ!」
「ほんと? 八一が何も言わないから、可愛くないのかと思った……」
いつものトゲトゲした態度は見る影もなく、可愛いことを言う姉弟子、つい男心をくすぐられてしまう
「違いますよ、姉弟子がすごく可愛から、見惚れちゃってたんです」
「……バカやいち」
照れているのか顔が真っ赤になっている姉弟子。
自分でもすごいキザなことを言っている自覚はあったが、そんなことを気にさせないぐらい姉弟子が可愛かったのだ。
「……八一が言うならこの水着にしようかな」
試着室の中にある鏡を見ながら言う姉弟子
「どうせなら、もうちょっと試着してみませんか?」
「えっ!?」
この水着姿もすごく好みなのだが、俺も男だもっといろんな姉弟子を見てみたいと思い、言ってしまった。
「どうです? もっと気に入るのがあるかもしれませんよ」
「……じゃあ、もうちょっと着てみようかな……」
この後の展開は予想できる通り、桜ノ宮と時みたく2人とも変なテンションになってしまい、他のお客さんの存在など忘れ、姉弟子の水着ショーを楽しんでいた。
店員さんに少しうるさい注意され、恥ずかしくなった俺と姉弟子は最初に試着した水着を買い、逃げるように店から出た。
返り道、姉弟子は一切、口を聞いてくれなかった。