この小説を待っている人なんているのかと少し心配ですがこれからも投稿していきますので、感想頂けるとうれしいです
今日、俺と姉弟子は先日会長に頼まれた通り、タイトル戦の会場の候補の一つである沖縄の旅館の下見をするべく数時間飛行機に乗り、今空港に到着したところだった。
「いやー気持いいぐらいの快晴ですね」
「そうね、ちょっと日差しが強い気がするけど……」
空港から出ると、姉弟子はすぐさまいつもの日傘を開く
それもそうだろう、流石は沖縄というべきなのか3月下旬にもかかわらず気温も高めで日差しも少し強い、海開きも始まっているくらいだ、日光が苦手な姉弟子には日傘なしでは少し辛いだろう。
「荷物もありますし旅館のほうに向かいましょうか」
「そうね」
そう言い俺と姉弟子は空港の出口のすぐ近くにあるタクシー乗り場へと向かう、今回下見に行く旅館は那覇空港からちょうど車で30分位の所にあるので、流石に徒歩で行くのは厳しいのでタクシーに乗って行くようにと男鹿さんに言われていた。
「すいません、松澄という旅館までお願いします」
「はいよ」
ちょうどタクシー乗り場に1台止まっていたので乗せてもらい、すぐに行き先である松澄旅館までお願いする。なんでも今から行く松澄旅館は沖縄でも数少ない和風の旅館らしい
「お二人で旅行ですか?」
するとタクシーの運転手さんが話しかけてきた。
年齢は20代後半くらいの少し小ぶり男性だった。
「そうなんです。まぁ半分以上仕事なんですけどね」
正直仕事なんて抜きで姉弟子と旅行に行きたかったが一緒に行けるだけで十分だ。それに俺が個人的に旅行に誘う勇気なんて出来ないし、誘ったところで来てくれないだろう。
「あれ、お客さんもしかして……」
運転手の人横目で俺の顔を見ながらなにか考え込んでいる。俺の顔になにか変なものでもついていたのだろうか?
「やっぱり! 竜王の九頭竜八一さんですよね! てことは隣にいらっしゃるのが女流2冠の空銀子さんですか」
「そうですよ、よくご存じですね」
どうやら運転手さんは俺達のことを知っているらしい、姉弟子の方はというと、退屈そうに外を眺めていた。
「つまり今日はお二人でお忍び旅行ってことですか」
「違いますよ、仕事です。それに姉弟子と旅行なんて仕事じゃないと行きませんよ」
その瞬間俺の横腹に姉弟子の鉄拳が炸裂した。
「死ねロリコン!頓死しろ!」
「痛っ!何するんですか姉弟子!」
正直お互いに時間があるわけでもないし、姉弟子も俺のことをただの弟弟子としか思ってないだろうから一緒に旅行なんて仕事じゃないと行くことはできないのにどうして姉弟子がそんなに怒っているのか分からなかった。
「お客さん、ちょっとは女心を勉強した方がいいと思いますよ」
「……はい」
正直まだ姉弟子を怒らせてしまったのかはわからないけど、運転手さんにも言われるくらいだから俺が悪かったのだろう。
「けっこういい所ですね」
「そうね」
受付を済ませて自分たちの部屋に案内され中に入った。
事前に話しあっていた通り案内された部屋は一部屋であった。
最初、男鹿さんは二部屋用意するつもりらしかったんだが、俺がいない時に姉弟子が一緒の部屋でいいと言ったらしい。いくら小さい頃に一緒に寝ていたからといって流石に今となると少し恥ずかしいし、どうしたらいいかわからない。
ましてや自分が好きな女の子だ緊張するなという方が無理があるだろう。
そういう風に見ると姉弟子は本当に俺のことをなんとも思っていないんだろうと再認識してしまう。
「見て八一海が見えるわよ!」
「綺麗ですね、後で行ってみましょうか」
この旅館は3階建ての旅館で俺たちが案内されたのはちょうど3階で歩いてすぐ近くにあるビーチが見えるようになっている。
「今は暑いから行くのは夜がいいわ」
「そうですね、まだ3時ですし夕食まで時間がありますね、どうしましょうか?」
夕食の時間は6時、あと3時間ほどなのでそんなに遠くまで行く時間はないし、かといってそれまで旅館で待ってるのも仕事とはいえ、せっかく沖縄に来たのにもったいない気がする。
「なら、この辺りを散歩してみましょう」
「いいですねそれ」
思えばこの時からだろうか、俺は少し姉弟子の様子に少し違和感をもっていた。
「姉弟子、今日随分と機嫌がいいですけど何かいいことでもあったんですか?」
「なんで?別にないけど」
姉弟子と散歩している時にそう思った。
思い返せばタクシーの時こそ少し怒らせてしまったが、それを除けば機嫌がいいというかテンションが高いというか、いつもと違うのはあきらかだった。
「八一、あそこで少し休んでいきましょう」
姉弟子がそう言い指をさした先には公園があった。
「そうですね少し休憩していきましょうか」
そこは住宅街に囲まれた小さな公園で滑り台やブランコがあり数人の子供達が遊んでいた。
「なんでしょう、こういう所だからか行き当てもなく散歩しているだけで楽しいですね」
「そうね」
姉弟子と俺は公園にあったベンチに座り少し休んでいた。
ちょうどベンチの周りは公園の大きな木のおかげで日陰になっており涼しかった。
「そういえば私達はあまりこういうところでは遊ばなかったわね」
「ずっと将棋ばっかだったし、そういえばそうですね」
公園で遊ぶ子供達を見てそう思ったのか姉弟子がそんなことを言ってきた。
「2泊3日ですし、明日はどこか遊びに行ってみますか?」
「うん、いいかも……」
やっぱりおかしい、すごく機嫌がいいと思えば、今はどこか上の空というか黄昏ているように見えた。
「姉弟子本当に大丈夫ですか?体調が悪かったら言ってくださいね」
「なに言ってんのよ、ほら、もう行くわよ」
そう言って姉弟子はベンチを立つ、それにつられて俺も急いでベンチを立つ
「本当に大丈夫ですか姉弟子、なにか変ですよ」
「別に、なにもないわよ」
姉弟子は早歩きで俺の前を歩く、それを追いかけるように俺も早歩きになる。
具体的にどこがおかしいとか、なにが変とか分からないけど、やっぱりいつもの姉弟子とはどこか違かった。
夕食が終わり姉弟子と約束していた通りに海を見に来ていた。
「すごく綺麗ね八一」
「そうですね」
海はすごく静かで、俺達の話し声は響き渡ることなく溶けるように消える。
その静かさと、うす暗く姉弟子の顔もうっすらとしか見えなく、うみは綺麗だったけど、すこし不気味にも思えた。
「姉弟子、泳がなくていいんですか?」
姉弟子は先日購入した水着の上にパーカーを着て、隣で両膝を抱えて座っている。いわゆる体育座りと呼ばれる座り方だ。
「いいわ、別に見てるだけで」
「せっかく水着似合ってるのにもったいないですよ」
「ねぇ……私の水着もっと見たい?」
姉弟子のその言葉に俺の心臓は大きく跳ねる。
「な、なに言ってるですか! からかわないでくださいよ!」
自分の動揺を隠すようにそう言うが、姉弟子はじっと俺の方を見ている。
「そうよね、八一は私の水着なんかより女子小学生の水着の方が見たいんだもんね」
「ち、違います! 勝手にロリコンにしないでくださいよ!」
「えっ! 違うの?」
姉弟子は不思議そうに驚いている。
「まったく、いい加減にしてくださいよ……」
そう言い姉弟子の方を見るとさっきまでの俺をからかっていた姉弟子はいなくなり、とても暗い顔をしていた。
「急にそんな顔してどうかしたんですか姉弟子?」
「八一はさ、私が勝てると思う?」
はっきりとは言ってないが、俺は姉弟子がなにを言いたいのかすぐにわかった。
「あそこにいる人達はみんな、命を削って指しています。そんな人達を相手に無責任に勝てるなんて俺は言えないです」
「……そうね」
それから姉弟子は一言も話さず、突然、寒いから返ると言い旅館に戻った。俺はなんとなくついて行きずらかったので時間をずらして戻ることにした。
この時の俺は自分がなんとなく言った言葉がどういう意味かまだ理解していなかった。
姉弟子だって文字通り命を削って将棋をしている。なにかを得るには何かを捨てなければならない、これ以上姉弟子に何を捨てろと言うんだ。なにを削れと言うんだ。
姉弟子ならきっと勝てます。俺は信じてます。そんな無責任な言葉を言うべきだったんだ。
姉弟子はそんな無責任な言葉を待っていた。自分でもわかってるはずなのに、俺までそんなことを言ったら、姉弟子がどうなるか、よく考えればわかることだったのに…………