地道に頑張っていきます。
「姉弟子は綺麗だし可愛いな」
さっき言われてた言葉が今も頭から離れない。
凄く嬉しかった。八一が少しでも私のことを見ていてくれて。
前までは、八一の事が好きなのは、私だけだと思っていた。
だけど、そうじゃなかった。
あの小童の才能は女流では最高クラスでプロ棋士にも匹敵するかもしれない。
今は、まだ私のほうが強いけど、あと数年後には、わからない。
私が3段リーグに苦戦している間に私より強くなっている可能性も全然考えられる。
それこそ、あの小童が私より先に女性プロ棋士になってしまい、八一と対局する。
なんて事になってしまったら、私に勝ち目は無いと思う
八一と同じ場所に立ちたい、そのためなら死んだって構わない
その決意は揺るがない
けど、今でも震えが止まらない。
本当に3段リーグを勝ち上がれるのか、指運だけで昇格できたこの私が、あの魔境を抜けられるのかわからない。
みんな命を削って努力している。才能のない私は、他の人の倍、命を削らないといけない
だから今日言われた言葉がとても嬉しかった。
そんな私を八一は少しでも見ていてくれた。それが嬉しかった。
最近は、桂香さんにアドバイスを貰って、少し服や髪の毛にも気を使っている。
本当はこんな事している時間はないけど、そうしないと今の私はもっと無駄な事に時間を使ってしまうと思う、将棋をしている時と八一の事を考えている時だけ、私は恐怖や不安を忘れられる。
その日私は、思考と言う深い沼に沈みながら、眠りについた。
「熱い」
目が覚めて、最初に発した言葉はそれだった。
異変を感じ枕の近くに置いていた目覚まし時計を手に取る。
「……12時30分」
普段、学校が休みでもこんなに遅く起きることはない
そして、体が熱くて、意識も少し朦朧としている。
「……体調崩しちゃったか」
昨日、あまり将棋ができなかったので今日は将棋漬けと思っていたのに、頭がぼーっとして、まともに将棋ができる状態じゃない。
そんな自分の病弱な体に少しイラついた。
「熱、測っておこう」
そう思い体温計を取ろうとゆっくり体を起している時に携帯の着信音が鳴った。
「……誰だろう?」
幸い携帯電話は近くにあったので、電話に出るのは苦労しなかった。
「もしもし」
「あ、姉弟子ですか、もしもし八一です」
その声を聞いた瞬間今までの体のけだるさを忘れ、意識が一気に冴えた。
「昨日、日傘起きっぱなしでしたよ、大丈夫でしたか?」
それを聞いて自分が急に体調を崩した理由がわかった。
「忘れてた、八一ありがと」
「それは、いいんですけど、なんか姉弟子いつもより声低くないですか?」
「別に、傘はそのうち取りに行くから預かってて」
「姉弟子は日傘がないと体調悪くするんですから気を付けてください」
「ありがと、それじゃあね」
バレたかと思い少しドキっとしたが私は、八一に心配掛けたくなかったので、冷静を装いながら話す。
「待って下さい姉弟子」
「……なに」
「やっぱり、体調崩したでしょ」
バレてしまった。そういえば八一はこういう事には結構敏感だったなと思いだす。
私の気持ちには全然気がつかないクセに
「別に、普通だけど」
「嘘です、どれだけ姉弟子と一緒にいると思ってるんですか、それぐらい気付きますよ」
すぐに嘘は見破られたけど、そう言われたのが少し嬉しかった。
「……ごめん」
「やっぱり、今から準備してそっち行くんで待っててください」
「こ、来なくていい!大丈夫だから!」
八一に心配を掛けたくなかったのもあるけど、昨日の今日で会うのが恥ずかしいから来てほしくなかった。
「いい加減にしてください、今から行くんで待っててください」
そう言って八一は私の返事を待たずに電話を切った。
「ど、どうしよう八一が来る、着替えたりしたほうがいいのかな」
まだ寝衣姿の私は着替えようと立とうとした時、体がフラつきベッドに倒れてしまった。
「私、熱出てたんだ」
忘れていた体のけだるさを思い出した。体はさっきよりも熱かった
「八一が来るまで、おとなしくしてよう」
私はおとなしくベッドに寝て八一を待ってるうちに、そのまま寝てしまった。