俺様だって真剣で幸せになったっていいだろ! (岳人×義経 【習作】)   作:雲寺香月

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俺様と水上体育祭3

「いくぞ、まず島津をなんとかするんだ!」

 

『うおおおおお!』

 

開始の合図と同時に、クラス関係なくほとんどの男子生徒が一斉に岳人に襲い掛かった。男子勢の中では間違いなくトップクラスの岳人の相手は数で圧倒するしかないとわかっているからだ。

一方、狙われることを予測済みだった岳人も浮島の端から中央に陣取り、余裕の表情で男たちを迎え撃った。

 

「へっ、大人数でご苦労さん」

 

「その余裕もここまでだ、くらえ島津」

 

「決まりきったセリフしか言えねえやつには負けねえよっ」

 

顔面に向かって放たれたストレートを捕まえ、そのまま手繰り寄せて一本背負いで海に放り込んだ。海から大きな水柱があがり、派手な攻防に観客席から歓声が上がる。

 

 

岳人は大和とちがって避けることは下手である。

各クラスで選抜された運動能力が高い生徒たちの攻撃は全て岳人の体に当たった。しかし、彼の筋肉の鎧を破ることができずに手や足を痛めるものが続出した。

 

「ぐ、いってえ!やっぱりこいつ固いぞ!」

 

「あー、今なんか触ったか?全然効かねえなあ」

 

百代を筆頭に武士娘にどつかれる繰り返しの人生のなか徐々に身についた、壁越えといわれる耐久力は伊達じゃない。体を覆うしなやかな筋肉はダメージを通さず、いくばくかの衝撃を与えるのみ。それではいくら不安定な水上の浮島とはいえ、岳人を動かすことはできない。

岳人は効かない攻撃をもろともせず、趣味の筋トレで地道に培ったベンチプレス180キロの怪力を活かして、群がる男子生徒たちを片端から海に投げ入れて言った。

 

「このままじゃ、俺様無双で終わっちまうなあ。ゲンさんと九鬼英雄の一騎打ちを観戦して終わりかね」

 

手ごたえのない相手に自分たちの勝利を確信し、岳人の気がゆるむ。その一瞬の隙を見逃さない相手が、ここにはいた。

 

「…なめんじゃねえ、ゴリラ」

 

那須与一。天下五弓に数えられた彼も、また壁を超えた強さをもつ。不得手な接近戦とはいえ、普段は義経や弁慶、さらにヒュームなど人間を超えて化け物じみた執事たちと強制的に鍛錬を行っている彼だ。男子生徒の隙間を縫って横から岳人に接近し、みぞおちに膝蹴りを叩きこんだ。

 

「ぐっ」

 

的確な急所への強烈な一撃に、岳人の体がよろめく。振り向いて追撃しようにも、与一はすでに肉の壁の向こうへ退避していて手が届かない。

そして、与一の攻撃は萎えかけていた男子生徒たちのやる気をも復活させた。雄たけびをあげて殴りかかってくる男たち、それにかまけていると与一の接近を許して他とは段違いのダメージをくらう。

岳人も急所への攻撃は許さないが、それでも確実にダメージは蓄積されていった。

弓兵だけあり、動きが素早い。岳人の苦手なタイプだった。

 

「おい与一、男なら正々堂々と勝負しろや!」

 

「野獣と正面から殴り合うなど、愚か者のすることだ。人間は人間らしく、頭をつかって戦わせてもらうさ。敗北すれば姉御に何をされるか…」

 

そこまで言ってガタガタ震えだす与一。色々と台無しである。が、その状態でも足は止めず、先に倒すのは無理そうだった。

 

「ちっ、コノヤロウが。…てめえらは早くどきやがれゴラァ!」

 

「うわあっ」

 

岳人は乱暴に2人の男子生徒をまとめて抱きかかえて振りまわし、観客席側に放る。

その時にどちらかの海パンが指に引っかかって脱げてしまい、海パンを取ろうとした岳人にわずかな隙ができる。

水柱の向こうで女子の悲鳴が聞こえてきた気がしたが、気にしている余裕はなかった。

案の定、無防備になった脇腹に与一に一撃もらうが、与一が離れきるまえに顔面に海パンをぶつけることに成功し、胸がすっとした。

岳人は離れていく与一は追いかけずに、そのまま他の男子生徒たちに襲い掛かった。

与一がヒットアンドウェイを崩さないのであれば、最低限邪魔な障害―この場合は肉の壁になっている男子生徒たち―を早く除くことが大事だ。

F組の優勝がかかっている。それになにより、忠勝に大見得切った手前、小細工に負けましたなんて格好悪くてやってられない。

 

そして、もう一人のS組、九鬼英雄は離れたところから乱戦を見守っていた。英雄は小さなころ事件に巻き込まれたせいで肩を痛めている。戦闘は与一に任せ、できるだけ無理はしないようにというあずみの忠告を守ってのことだった。

 

「いいぞ、与一。そのまま島津を海に叩き落としてしまえ」

 

「後ろから高みの見物とはいい身分だな、九鬼」

 

「む」

 

背後からかかった声に英雄は眉をひそめて視線をやる。

源忠勝。英雄が一子に声をかけようとすると、さりげなく妨害してくる邪魔な男。同じ施設にいた幼馴染だというのは、調べて知っていた。自分の知らない想い人の姿を知る忠勝を、英雄が好きなはずもない。

 

「貴様こそ、劣勢の島津の加勢にはいかないのだな。あのままでは与一に負けるぞ」

 

「負けねえよ。あいつは、約束を守る男だ」

 

忠勝はこぶしを構えて英雄を挑発する。

 

「一騎打ちだ。まさか、落ちこぼれのF組から逃げるわけじゃねえよな、S組のエリート」

 

英雄も忠勝がそこそこやるとは知っていた。しかし、九鬼の後継者としては、挑まれて背を向けるという選択肢はない。気に食わない男と正々堂々と殴り合える数少ない機会である。英雄は、あずみの忠告を空の彼方まで投げ捨てることにした。

 

「フっ。わざわざ我に声をかけて勝負を挑んだこと、後悔させてやる。一子殿のまえで無様に散るがよい!」

 

「それはてめえだ、九鬼英雄」

 

両者は構えて正対する。忠勝が喧嘩で鍛えた適当な構えに対し、英雄が武術の基本の構えで待っているのが対照的である。

先に動いたのは忠勝だった。

なめらかな体重移動から顎を狙って左右のジャブ、そこから勢いをつけての回転蹴りをとっかかりに、怒涛の連撃を繰り出す。川神の不良程度であればすぐノックアウトされただろうが、相手は元武術四天王の姉を持つS組の王様である。忠勝のすべての攻撃を受け止め、いなしきってしまった。

 

「その程度で我に刃向うとは笑止!」

 

「くっ、」

 

忠勝が飛びのいた隙を素早くつめて、反撃とばかりに蹴りを放つ。

体勢が整う前の腹部を狙う重い攻撃に、忠勝は両手でガードしたものの浮島の端まで運ばれてしまった。ぎりぎりで踏みとどまるが、目の前にはすぐに英雄が距離を詰めていた。

英雄は忠勝に向けて、体をひねりながら渾身の左ストレートを放った。しかし、事故の影響が残っていた左肩は、英雄の思い(一子への想い)全てを支えきるには脆すぎた。

ビキリ

 

「ぐっ」

 

稲妻のように左肩に走った鋭い痛みに、英雄の攻撃が鈍る。おかげで忠勝はぎりぎりでそのこぶしをかわすことができた。忠勝の背後の海に、勢いのまま英雄だけが落下していく。

ゆっくりと近づいてくる海面を前に、しかし英雄は諦めなかった。雄たけびをあげてむりやり体を反転させ、右腕で忠勝の腕をつかむ。

 

「ふははは、九鬼英雄に諦めという文字はないのだ!」

 

「くそっ」

 

慌てた忠勝がふりほどく暇もない。慣性の法則に従って二人とも同時に海へ落ちて行った。

―九鬼英雄、源忠勝 脱落―

 

 

忠勝と英雄が同時に脱落したのほほぼ同時刻に、岳人も与一以外の生徒を全て海上に叩き込み終えていた。

 

「へへっ、ようやく一対一だなあ与一」

 

「くそ、化け物め」

 

「ははは、普段から真面目に鍛えている男は違うのだよ、与一くん」

 

利き腕をぐるぐるとまわしながらから、岳人は与一に向き直った。他の生徒を片づける家庭で顔面や顎に数発、腹部にもいいものをもらったが、うっすらと痣がうかぶ程度で済んでいて、まだまだ元気である。

一方、与一は無傷だったが、不安定な足場の上で慣れない近接戦闘を行っていたため大分息があがっていた。

近年稀にみる熱戦に、観客席も大盛り上がりだった。

 

「与一…負けたらわかっているだろうな」

 

「岳人、頑張って!」

 

「島津君っ、ファイトだよっ」

 

二人に向かって声援が飛ぶ。その中でも、めったにかけられないファミリー以外の女子からの応援が岳人の耳に入ってきた。慣れない黄色い声援に、岳人の体が硬直する。

岳人の鼻の下が伸びて、頬がゆるんだのを隙とみて、与一がつっこんできた。

 

「そこだ!」

 

「今回は、隙じゃあねえんだなあ、これがよ!!」

 

体力が消耗し、スピードが落ちてきた与一の攻撃をかわして、岳人はカウンターで首にラリアットをぶちかます。弁慶に脅されての焦りが与一の動きを鈍くしていたのもあり、女子たちの応援(ステータスUP魔法)を受けて威力があがった岳人の攻撃をまともに受けてしまう。

源氏のクローン、九鬼の秘蔵っ子である与一もこれは耐え切れない。意識を失って浮島の上に崩れ落ちた。

すぐさま学長が瞬間移動で現れて、与一の状態を確認する。

 

「那須与一、戦闘不能。よって、勝者は2-F、島津岳人とする」

 

「いよっしゃーー!!」

 

観客席で飛び跳ねている生徒たちに向かって、岳人は高々と手を突き上げたのだった。

わーわーと自分に降ってくる声援が心地よかった。

 




格好いいゲンさんと岳人を書けて満足です。
水上体育祭編は、あと2話くらいで終わらせられるかな。
そろそろラブコメ的な要素に入りたい…。
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