俺様だって真剣で幸せになったっていいだろ! (岳人×義経 【習作】)   作:雲寺香月

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俺様と水上体育祭4

水上レスリングの男女優勝により、F組はS組と同点首位にたった。その後は両者一歩も譲らずまま、最終競技に持ち込まれた。

最終競技は、学長考案の種目『ごちゃまぜ借り物競争!!』である。

海岸からスタートして途中に浮かべてある風船を割り、中に入っている紙の指示通りの物を借りて、海の中のゴールまで走るというもので、普通の借り物競争と変わりない。

ただし、代表者全員の出走順はくじでクラスも学年も関係なく9人同士のグループふりに分けられるのだ。場合によっては同じクラスの者同士があたることもある。

借り物の内容も含めて、選手の運がかなり試されるものだった。

 

この競技において岳人は最終グループに入り、大和はその前のグループになった。

集合場所ににずらりと並んだ面々は、各クラスの代表だけあり有名どころばかりだった。なかでも、大和と同じグループは濃かった。矢場弓子、葉桜清楚、九鬼紋白、井上準、それに生徒会長までいる。

一方、岳人の入っている最終組はS組もいなければ女子が一人もいない、むさくるしい集団だった。運がいいのか、それとも岳人自信の女運の無さなのか判断に困るところだが、グループとしては当たりだろう。

 

「岳人、順番変わってくれないか」

 

「やだね。それに大和の方が俺様より足が速いだろうが」

 

「それはそうだけどさ。この面子じゃ俺も岳人もそう変わらないよ」

 

「せいぜい自分のくじ運を呪ってくれや。それに、俺たちが勝てば優勝だ、ヒーローになれるぜ?」

 

この競技では1位は30点、2位は20点所属クラスに追加されるが、3位以下は点数が入らない。現時点でF組はS組に20点の差をつけられている。皆の頑張りと、S組どうしがつぶしあってくれたおかげで、大和の岳人の二人の結果次第では逆転が可能だった。

 

「そういうのはキャップの役割だろう。それに、井上が2着以内に入れば岳人が一位になってもS組には勝てない。気が重いよ」

 

大和は周りの武士娘に鍛えられてはいるものの、回避能力以外は普通の男子生徒とそう変わりない。この面子で2位以内に入る自分の姿が想像できず、そっと胃を抑えた。

 

「ここまで来たら、なんにも考えずがむしゃらに走りゃあいいんだよ。お前が今まで全力でやってきたのは皆知ってんだから、誰も責めねえさ。あともうちょっと頑張れや」

 

岳人は激励のつもりで、強めに大和の背中を叩いた。

大和はよろめいたが、倒れはせずに叩かれた場所を痛そうに抑えて苦笑する。

 

「ちょっとは手加減しろよな。…行ってくるよ」

 

「おう、行ってきやがれ。俺様に楽させてくれよ」

 

多少は顔色が戻ってきた大和にこぶしを向ける。互いにこぶしを合わせて、大和はスタートラインに向かっていった。

 

 

 

 

 

「おう、大和、お手柔らかにたのむぜ」

 

偶然隣になった準が大和に声をかけてきた。スキンヘッドに光が反射して大和の目をやく。まぶしさに目を細めつつ、大和は答える。

 

「そうはいかない。F組の優勝がかかってるからな」

 

「ま、そうだよな。俺も全力で走れって若の指令があるからね。負けねえよ」

 

彼には珍しく鋭い顔つきでそういったのだが、あいにく光のせいで大和にはよく見えていなかった。残念である。

 

「選手同士のおしゃべりはそのくらいにして、そろそろ次のグループスタートさせるぞい。では、位置に…はついてるので、スタートじゃ!!」

 

学長のスタートで準を含む数名がずっこけている間に、大和は先手を取る。必死に走って1位で風船のところに到着することができた。

 

「各選手順調に風船をゲットしてますね。あ、ちなみにここからの解説は納豆小町こと松永燕と」

 

「走り終わった武神こと川神百代がお送りします。今のところ大和が一位で、清楚ちゃんが2位か。水をきって走る文学少女、震える果実、たまらないなあ」

 

「モモちゃん、セクハラ発言禁止だよ。」

 

「すまん、つい。さて、この競技はここからが大変だぞ。いったいどんなお題を引きあてたのかな」

 

大和が引いたのは『タイヤ』

持ちにくいし、借りるにしても難しい。はずれの方をひいたかと、大和は内心舌打ちする。

一瞬自動車のタイヤか自転車のタイヤを外して持ってくることを考えたが、そういえば舞台設営の際にいったゴミ捨て場に、ゴムタイヤが数個捨てられていたのを思い出した。

ゴミ捨て場は本部のすぐ裏にある。ボランティアも何かの役にたつものだと考えながら、大和は再び走り出した。

 

 

一方ライバルの井上準も、風船を割ってお題を手に入れていた。紙にかいてあったのは、

『身長150センチ以下の女子

―ただし自クラス以外―』

である。これもかなり難しい課題だった。男子に取って他クラスの女子を借りるだけでハードルが高いし、川神学園は女子の平均身長が高く、150センチ以下の生徒は数える程度しかいない。そして、数少ない小さい女子生徒、九鬼紋白は同じレースに出ている。

普通の生徒であれば諦めてもおかしくない課題だったが、これを引いたのはロリコニアの住民、井上準である。

準は一度目をこすってお題を確認する。自分の願望が幻をみせたのかと思ったからだ。

そして、見間違いじゃないと確認したあとの準のテンションは凄かった。

 

「ひゃっほーう!」

 

準は奇声をあげて猛然の2Fの席に向かって走りだした。目は血走っていて、顔を見てしまった生徒がひい、と悲鳴をあげる。

しかし、準は気にしない。頭の中は、ルールの中であこがれのあの子に近づける、そのことでいっぱいだったから。

 

「委員長どの~!!ぜひこの井上準にご協力くださいっ!!」

 

「え、ええっ!?」

 

頭を地面に擦りつけて、砂を巻き上げながらの、ジャンピング土下座。周りの生徒に砂埃を浴びせながらも、対象の委員長こと甘粕真与には全くかかっていないのはさすがというべきか。

 

「委員長の身長は149センチ。俺が引いたお題は150センチ以下の女子!どうかよろしくおねがいしますっ!」

 

「ちょっと、なんで真与の身長を知ってんのよ」

 

さりげなく真与をかばう位置に立ちながら、親友の千花が尋ねる。真与はまだ状況についていけないのか、口をあけたままぽかんとしていた。

 

「甘粕委員長の身長は目測で計測済みだ。測れるデータについては、全て把握しているといっても過言ではない!!」

 

準の大声に、F組だけではなく周辺の生徒たちが一斉に黙り込んだ。普段準とつるんでいる冬馬も小雪も、どうしようもないな、という顔をしている。

 

「委員長、こいつ危ない系……」

 

黒子の一言に全てが現れていた。

ロリコン趣味だという噂は薄々知っていても、間近で実際に感じるのとはわけが違う。みんなドン引きである。

現にS組のほとんどの生徒も汚物を見るような目で準を見下ろしていた。

 

「F組よ、貸す必要はない。今回はこいつを選んだこなたたちの負けじゃ」

 

「不死川あ!お前俺と同じクラスでしょ。味方でしょ。わかってんの?」

 

準は地面から顔をあげて心を怒鳴るが、心も負けずに怒鳴り返す。その顔はちょっと涙目だった。

 

「うるさいわ!こなたは今ほどお主と一緒のクラスであるということを恥ずかしく思った事はない。とっとと病院に行くがよい!」

 

「これでも準は医者の息子ですからねえ」

 

「ロリコンにつける薬はないのだ~」

 

「ひどいっ。俺だって自分のクラスのために必死に頑張ってるのに、そりゃないわ……」

 

散々に言われて、よよよ、と泣き崩れる真似をする準。気持ち悪いだけで全く効果がないものかと思われた。

しかし、『クラスのため』と聞いて心優しい彼女が動かないわけがない。

 

「そうですよね。クラスのために頑張る。それを聞いて動かないわけにはいきません」

 

「真与!?」

 

「それが、他のクラスであっても。だって、私は委員長なのですから。競技の進行に協力するのは、委員長の義務です」

 

真与は千花の手を払いのけて前に出ると、土下座した準に視線を合わせるようにしゃがみ込んだ。その姿にはまさに後光が差していたと、後に準は語る。

 

「一緒に行きましょう、井上さん」

 

ふるえる手を、差しだす。それを見た時、準の中にある大事な何かが、爆発した。

 

「安心してください。この井上準、どこまでも、あなたをお連れします。いざゆかん、我々のゴールへ(ロリコニア)へ」

 

「えっ」

 

真与の膝の裏に左腕を、背中に右手をうやうやしく添えて抱え上げる。いわゆる『お姫様抱っこ』の形だ。真与と周囲の生徒が素早い動きに対応できないのをいいことに、そのままゴールにむかって爆走する。

 

「ちょ、井上さん、この格好は恥ずかしいですぅ」

 

「しっかりつかまっててくださいね、委員長。今はこの旅を楽しみましょーう」

 

バランスを取るためにとっさに準の首に腕を回してから、自分の体勢に気が付いた真与が真っ赤になりながら抗議する。しかし、準は取り合わない。

真与は早くも準に協力するといったことを後悔していた。

 

そして準は、右足が沈む前に左足を出すという、神業のような走り方で、先行していた集団を一気に抜き去る。とても人をお姫様抱っこしているスピードじゃない。

実況も予想外の展開に、声を張り上げた。

 

「今一位で清楚ちゃんがポットを持ってゴール!やはり足が速かった。次にゴールに近いのはうちのクラスの弓ちゃん、続いてモモちゃんの舎弟の大和君が続いている!しかし、ここでビリだった2Sの井上君が猛チャージをかける!借りるのに手間取った時間を取り戻せるかっ」

 

「あいつあんなに足早かったのか。これはぎりぎり2位狙えるぞ」

 

タイヤを抱えて先行していた大和を抜き、弓子の背中を目の前に捉える。

実況で準が上がってきたのに気が付いた弓子も必死に足を前に出す。彼女が引いたのはボールペン。これだけいいものを引いて、人ひとり抱えた下級生に負けるわけにはいかない。

 

「うおおお~!」

 

「抜かせないで候!」

 

弓子が必死に体を伸ばしてゴールに飛びこむのと同時に、準が駆け抜けた。ゴールの横に立って勝負を見守っていたルー先生がすかさず声を張り上げる。

 

「2着が矢場さん、3着が井上君。井上くんは、0.001秒の差だったよ、惜しかったね」

 

「なん、だと…。いや、しかしまだ先輩の判定が終わっていない!先輩が失格なら俺が繰り上げ2位にっ」

 

かすかな希望を捨てず、準はしっかりと真与を抱えたまま借り物の判定を行う小島先生を見る。

しかし、現実は無常だった。

 

「矢場弓子、合格」

 

「当然で候」

 

死刑宣告を受けたように、準はがっくりと肩を落とした。

準がうつむいたせいでで顔が触れるほど真与は、小さい手で必死に準の頭を押しやろうとしているが、動かない。

順位よりなにより、早く準の腕から解放されたかった。

 

「井上くん、競技が終わったので離してください」

 

嫌がる真与の様子をみて、観客席からブーイングが上がる。

 

「おい、委員長嫌がってるぞ」

 

「井上やめろーー!」

 

「……与一」

 

「わかってるぜ、姉御」

 

ざわめく観客席の中、弁慶の指示で、与一がどこからともなく取り出した弓に矢をつがえて引き絞る。

きりきりと自分を狙う矢には気が付かず、準はその状態で目を閉じて真与に謝った。

 

「委員長、せっかく協力していただいたのに、ふがいない結果で申し訳ない……」

 

「あ、あはは。気にしないでください。それより、恥ずかしいのでできれば早くおろして頂きたいんですけど。あと離れていただけると……」

 

「いえ、委員長のことは自分がこの状態のままきちんと客席までお運びしますので」

 

「い、いいです。自分で歩いて帰ります」

 

「いやいや、遠慮せずに」

 

「遠慮じゃないですよぅ」

 

途方にくれた真与が完全に涙目になった瞬間、与一の手から矢が放たれる。

 

「永劫に解けない呪いに侵された者に罰を…Go to Hell」

 

「ふごぶっ!」

 

矢はまっすぐ準の後頭部に命中し、その威力で準は意識を失う。ぐらりと準の体が前に傾き、真与を押し潰す形で海面に倒れそうになる。

 

「わわっ!」

 

「委員長!」

 

しかし、そこでようやくゴールした大和が間一髪で真与の腕をつかみ、助け起こした。

 

「どこも痛めてないか!変なことされてない?」

 

「直江君。ありがとうございます」

 

タイヤを投げ捨てて、駆け寄ってくれた大和に真与は浮かんだ涙をぬぐって頭を下げた。心の中は安堵と感謝でいっぱいだった。

一部始終を見ていた生徒たち―Sクラスの人からも―歓声があがった。その中心にいる与一はというと、またくだらぬものを射ってしまった、といつも通りニヒルに決めポーズをとっていた。

 

 

…そして、倒れて海に沈んでいく準を助けようとする者は誰もいなかったのだった。

 

 




難産でした。そして長くなってすみません。

早く岳人のシーンに入りたかったのに、準が暴走してしまって、収まりがつかなくなり…結局こんな長さに。
この組はもっとダイジェスト風に流すつもりだったのに、なぜこうなったのか。

でも、委員長の尊い犠牲で、このあとF組の選手がSクラスに借り物に行っても断られない空気になったので…。

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