俺様だって真剣で幸せになったっていいだろ! (岳人×義経 【習作】)   作:雲寺香月

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お待たせしました。水上体育祭編、最終話です。


俺様と水上体育祭5

大和は点を取れなかったものの、井上準が2着を取れなかったせいで、いよいよ二年の一位争いはわからなくなった。

Fクラスの勝利条件はただ一つ。岳人がトップでゴールすること、ただそれだけである。

がぜん、岳人のテンションもうなぎ上りだ。

 

「これで俺様がトップとりゃ、うちのクラスは優勝。単純でいいなあ、やる気が出てくるぜ」

 

ぐるぐると腕を回しながら、岳人がスタート位置に着く。

他の学年はとっくにSクラスで優勝が決まっているためか、同じグループの生徒たちからはあまりやる気を感じられない。

学長は遠くからスタートラインに並んだ面子を眺めて、ぽつりと言った。

 

「うむむ、最終組はむっさい野郎ばかりじゃのう。わし、ちょっとやる気がでないんじゃが」

 

「学長!マイク入っているんですカラ、発言には注意してくださいネ。だいたい、籤に文句言ったって始まりませんヨ」

 

「聞こえたって、かまいやせん。はあ……最後に水しぶきを上げながら輝く女体がみたかったのう。スタートじゃ!みんなきばれい」

 

「げっ、そんなのありかよっ」

 

眉を下げてつまらなそうに言う学長。流れでスタートの合図まで言ってしまう。

慌てて選手たちが飛び出していく。

しかし、ぼーっと話を聞いていた岳人は反応がおそくなり、数メートル他の生徒たちから遅れてしまった。

確かに、水しぶきを上げる女体、プルプル揺れる果実は最高だよなあとか考えているんじゃなかった。

岳人は必死に腕を振りながら、全力で前を目指す。

 

「各選手、ほぼ同時に風船のところに到着しましたっ」

 

「出遅れた2-Fだけまだ遠いけど。岳人の事だ、じじいの言葉でエロイこと連想して遅れたんだろ」

 

「いやいや、流石にそれはないんじゃないかな。2-Fにとっては優勝が決まってる、大事なレースだよん?」

 

「いや、あいつはそういう奴なんだ」

 

解説席で腕を組み、ジト目で岳人を眺める百代。

長く接しているだけあり、岳人の内面をしっかり把握している。

一方、付き合いの短い燕は首を傾げていた。

 

「そうかなあ?」

 

「うん。ま、これは借り物競争だからな。このくらいの差はなんてことない。今までのレースもそうだったけど、籤運が良ければ一気に逆転もありうる。当たり前だが、最後まであきらめずに走ることが大事だな」

 

美女二人の解説が流れる中、ようやく岳人が残った風船のところにたどり着く。

 

「はあ、はあ……頼むぜ、いいやつ来てくれよ」

 

他の生徒たちは既に借り物を探しに散っている。

それを横目で見ながら、岳人は自慢の握力で、風船を割る。中から出てきた紙を開くと、こんなことが書いてあった。

 

 

 

『2-Sの武士娘(美人)』

 

 

 

「な……」

 

岳人は青ざめた。運が悪いにもほどがある。

思わず、お題を書いたであろう学長を見ると、岳人に向かってピースサインを返してきた。

ふつうならこの距離で紙の文字が読めるわけがないが、なんかあの学長ならあり得そうでいやだった。

 

「なんてアホなこと考えてる場合じゃねえ、なんとかしねえと」

 

岳人は一度平手で自分の頬をぶったたいた。最大出力で叩いたため、傷つきにくい岳人の頬といえど赤くはれ上がった。

ズキズキと痛みが酷かったが、おかげでいくらか冷静になれた。

 

 

(不死川、榊原あたりは完全にむり、あとは源氏組……弁慶は駄目だろう。だが、義経なら上手く話せば借りられるかもしれん)

 

 

何せ、先ほどのレースで甘粕真与がS組に協力している。まだS組に染まり切っていない義経であれば、岳人に協力してくれる可能性がある。

 

「うおおお~!!」

 

岳人は少しでも後れを取り戻そうと、よりいっそう激しく走った。汗が水しぶきと混ざって飛び散り、鍛え上げられた筋肉が躍動する。

E組の男子の熱烈な視線をもろともせず、岳人は2-Sの応援席の前に滑り込む。目を丸くしている義経を見つける、目の前に行って土下座する。

 

「義経!後生だから俺と一緒にはしってくれ!頼む」

 

「ええっ!!」

 

先ほどの井上準のジャンピング土下座に勝るとも劣らない勢いだった。

目を白黒させながらも、義経は岳人に差し出された紙を受け取る。内容を理解した時、ボンっと義経は頭から火を噴いた。

 

「そそそそんな、義経がこのお題で走るなんて……万が一不合格になった時に申し訳ないし、」

 

「いやいや、絶対不合格になんかならねえから大丈夫だ!!」

 

「えっと、それにこのお題なら弁慶の方がよっぽど適しているというか、なんというか」

 

「えー?わたし?なんて書いてあるのさ」

 

真っ赤であたふたしてる主に弁慶はゆったりと近づいて、その手元を覗き込む。

 

「あー……ウチのクラスの美人の武士娘ねえ。確かに私も合格するけど、走るのヤダ」

 

「弁慶~」

 

「第一、島津が勝ったらうちのクラス負けちゃうからね~。まあさっきうちの井上が迷惑かけちゃったから、誰かが協力するっていうなら文句は言わないけど」

 

「こなたもとうぜん走らないのじゃ。……そちらのクラスの委員長には悪かったがの」

 

「お前にゃあ最初から期待してねえよ、不死川」

 

「なんじゃと!このゴリラめが」

 

「頼むよ、義経。俺と一緒に来てくれないか」

 

両手を振り回して怒る不死川を無視して、岳人は尚も頭を下げ続ける。

 

「島津くん……」

 

岳人の必死な様子を見て、義経は迷っているようだった。黒の瞳が不安に揺れている。

その背中を押したのは、意外にも弁慶だった。

 

「ま、義経なら不合格になることは絶対ないからさ。2-Fに借りを作ったまんまって言うのも癪だし、走ってやってもいいんじゃない?」

 

「弁慶」

 

「ま、義経に変なことしたら後で殺すけど。そのくらいの覚悟はあるんだろう?」

 

「変な事なんかしねえ!神に誓ってな」

 

「……」

 

義経は目を閉じて、一つ息を吐く。次に目をあけた時には、決意の炎が燃えていた。

 

「頭を上げてくれ、島津くん」

 

「義経」

 

「Sクラスではあるが、この義経、島津君に力を貸すことにする。ただ……ゴールで不合格になっても勘弁してほしい」

 

「サンキュー義経、恩に着るぜ!!」

 

岳人はガバリと立ち上がり、義経を促して共に走り出す。

これがモテ機能付きの大和であれば、紳士らしく手を取ってエスコートしても許されるのだが、悲しいかな、岳人にはその能力がない。視界の端で既に与一が弓を構えているのも見つけてしまった。

心の中で泣きながら、それでも岳人は走る。

 

 

「場面変わってこちらは放送席の松永燕です。現在トップは1-C、それから3-Aがわずかな差で続いてる状況です。他のクラスは借り物選びに難航中かな?一番遅れていた2-Fが3位に上がってきてますなー」

 

「とはいえ、前の二組との差はかなりあるぞ。……しかし、義経ちゃんの走る姿は可愛いな~。岳人、良く説得した。GJ」

 

「もー。ももちゃんたら、助平なんだから」

 

「じじいよりはマシだろ。こうやって見てると素直な気持ちがでちゃうんだよ。……早く可愛い義経ちゃんと闘いたいなっ」

 

「そっち!?」

 

放送席の漫才は、もちろん選手たちにも聞こえている。

 

「ちっくしょ、モモ先輩達は気楽でいいなあ」

 

前の2組はよほどいいものを引いたらしい。後ろから見ると、手ぶらで走っているように見えるのだ。

このままじゃ、追いつく前にゴールされてしまう。走っても走っても縮まらない距離に、岳人はつい愚痴ってしまった。

 

「島津くん……」

 

その愚痴は、もちろん隣を走っている義経にも聞こえた。

 

「島津くん、勝ちたいか?」

 

「あ!?当然だろ?男は勝負に出た以上、常にトップを目指すもんだ。それがたとえ、体育祭の借り物競争であってもなあ!!」

 

「そうか」

 

義経にも、実は助っ人としてのプライドがあった。

しかしこれは借り物競争である。借り物の身分で出しゃばりすぎるのもよくないと、岳人のペースに合わせていた。が、借りた相手が勝ちたいというならば、それに応えるのが借り物の役目だ。

 

「島津くんのその心意気、義経は買った!ここからは全力でいくぞ」

 

義経はためらいなく、岳人の手の平をにぎった。

女の子独特の柔らかな感触に岳人がどきりとする暇もなく、義経はローになっていたスピードギアを、一気にトップギアまで引き上げた。

以前と同じように、岳人の体はものすごい力で引っ張り上げられ、宙に浮く。

 

「おおお!?」

 

びたびたと何度も岳人は水面に叩きつけられている。鍛えられた筋肉であってもノーダメージではいかず、すでに皮膚が真っ赤だった。まあ、引っ張られているのが岳人以外であれば、水面に数度ぶつかったあたりでスプラッタな絵面が展開だっただろうけれど。

そして、かなりの抵抗があるはずなのに、負荷を感じさせない軽やかな走りで義経はぐんぐん前を追っていた。

手をつないだ二人組は、みるみる前二人に近づいていった。

そして、大男が美少女に引きずられるという予想外の展開に、観客席からは悲鳴や歓声が混じった声が響いてくる。

放送席でも、燕がマイクを握りしめて大声を上げていた。

 

「おおー!なんと借り物が借主を持って走るという異常事態が起こっている!!さすが義経のクローン、予想がつかない動きだっ。てか、あれゴールしても大丈夫なのかな?認められるの?」

 

「選手と借り物が一緒にゴールすればいいというルールだからな。問題ないだろう。な、じじい」

 

百代がスターターの位置にいる学長に問いかけると、学長は頭の上に手で大きく丸を作った。

どうやらオーケーのようだ。

 

「ってわけだから、前の2選手は今以上の速さで逃げなきゃいけなくなったな。本気の義経ちゃんにあっと言う間に抜かれるぞ。可能なら、の話だが」

 

「確かにね~。……あ、話しているうちに2選手ともあっさり抜かれてしまいました。その勢いのままゴール!劇的な幕切れになりましたっ」

 

「これは、普通の男の走力じゃあ太刀打ちできないな。上手く義経を乗せた、岳人の作戦勝ちってところか」

 

 

作戦なんか何もなかった。そう返す気力もないくらい、岳人はぼろぼろだった。

義経は走り切った達成感からか、満面の笑顔である。まだ手をつないだままなのに、岳人の状態には全く気が付いていないようだ。

 

「島津、力尽きているところ悪いが課題を見せろ」

 

「……うす」

 

最後の気力で立ち上がった岳人は、判定員の小島先生に課題の紙を手渡す。

持ち主がぼろぼろだというのに、紙は一つ折り目がついているだけできれいなものだった。

小島先生は紙を開き、義経を一瞥した。

 

「ふむ、全く問題ない。島津岳人、合格!!」

 

わっと、2-Fの観客席から歓声があがる。2-Fの総合優勝が決まった瞬間だった。

一方、負けたというのに、2-Sの面子はどこか納得したような複雑な顔をしていた。ようやく生還したハゲが、居心地悪そうに隅っこで正座している。2-Sの負けは、おおよそこの男がやらかしたせいだと全員が思っているからだろう。

 

そして、小島先生の言葉を聞いた義経はほっと胸をなでおろしていた。本人は、美人のところで引っかかったらどうしようと、本気で心配していたからである。

 

「よ、よかったー。義経はどきどきした。よかったな、島津くん……うわ、どうしてそんなにぼろぼろなんだ!?」

 

ようやく相方の岳人の状態に気が付いたらしい。手をぱっと放して、あたふたとする義経を岳人はジト目で見る。そして、大きく息を吸い込み、叫んだ。

 

「それはなあ……義経がゴールするまでの間、俺様は何度も水面に叩きつけられたからだよ!!!めちゃくちゃ痛え!!でも一位とれたのは義経のおかげだ。ありがとよー!!」

 

「うわわ、なんだかよくわからないけど、ごめんなさーい」

 

義経の涙声が海辺に響く。

 

 

学長は、長いひげをいじりながらその様子を見ていた。

 

「ふぉっふぉっふぉ。若いもんは元気でええの~。水上体育祭、これにて閉幕じゃ!!」

 

 

 

 




更新停滞中も感想等々で励ましをくださり、本当にありがとうございました。
おかげで、なんとか心折れず、この話の投稿に結びつきました。

というわけで、Fクラス優勝です。
当初は、岳人がパニックのまま義経をお姫様だっこする、というような話を想定していたのですが、どうしてもキャラが動いてくれず。諦めてキャラが動くに任せたらここまで書くことができました。
義経が嫌だったのか、岳人がシャイだったのか(笑)困ったもんです。

これからもマイペースな更新になると思いますが、気長に見守ってくれると幸いです。
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