俺様だって真剣で幸せになったっていいだろ! (岳人×義経 【習作】)   作:雲寺香月

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attention!
この話は、本編よりかなり未来の話になっています。(岳人と義経は既につきあっています。)
また、大和×弁慶をにおわす描写があります。


それでも呼んでくださる皆様が、すこしでも楽しんでくれますように。 



外伝
お正月編1(仮)


1月3日

 

年明けの正月休みだけあり、七浜のショッピングモールは初売りを楽しむ人たちでごった返していた。

アーケードの前、流れていく人ごみの中で、岳人は自分の彼女-義経を待っていた。

約束した10時はとっくに過ぎている。

 

「おっかしーな。寝坊でもしたか…」

 

義経に限って事故はないだろうし、初売りが楽しみすぎて夜眠れず、寝過ごしたという可能性の方がたかそうだった。

 

 

一日の初詣の時も、義経の性格を考えてかなり早めに待ち合わせ場所の川神院前に行ったのに、義経はとっくに先に来ていたのだ。

赤い振袖姿で顔を輝かせて走ってくる義経はそりゃあとても可愛かったんだが、握った手がすっかり冷たかったのは焦った。

よく見たら鼻が真っ赤だし、手はかじかんで細かく震えている。

寒いから中に入って待っていればよかったのにというと、

 

『早く岳人君に会いたかったんだ。ここにいたら、すぐにわかるだろう?』

 

とか、はにかんだ笑顔で言われてしまっては真っ赤になってだまりこむしかなかった。

とにかく体をあっためねばと義経の手を引っ張って川神院に入り、京が売り子をしていた甘酒を体があたたかくなるまでがぶ飲みさせた。

その結果甘酒に酔ってしまった義経は岳人の腕を抱きしめて思いきり甘えモードに入り、駄々をこねたり絡んできた燕先輩に嫉妬したりと…まあ普段見れない一面を沢山見られて幸せだった。

来年は自宅で甘酒を飲ませたら、もっと凄い物を見られるかもしれない。

そう、たとえば今はできないあーんなこともこーんなことも…。

と、岳人の思考がずれたところで、年末に買い替えたスマートフォンが震えてメールの着信を知らせてきた。

…義経からの連絡だろうかと思ったら弁慶だった。嫌な予感がしつつも本文を開くと一言だけ

 

≪義経はもらった、午前中は渡さない≫

 

と書いてあった。

 

「…は?」

 

その直後に

 

≪なぜか弁慶がだきついて離れてくれなくてでかけられない(><)。本当にすまな

い。≫

 

と、義経からメールが届く。

そういえば、今日は大和が帰国した両親と出かける日だった。彼氏である大和がいない寂しさに義経を拉致したのか。あの二人、正月から今朝までいちゃいちゃしてたはずなんだが。

大和が、弁慶はちょっとさびしがりだからと言っていたが、これはちょっとじゃないだろうと頭を抱える。

 

とりあえず、義経には≪あまり気にするな、近くにきたら連絡くれ≫と返信をする。

で、弁慶には≪早く返せ≫と送っておいた。

 

「あー…」

 

そして、岳人は大きく天を仰ぐ。これで午前中一杯は時間が空いた。弁慶相手に強く出れないことはわかっているので義経を怒るつもりはないけれど、楽しみにしていた分凹むのは仕方がない。

さっきまで視界に入っても全く気にならなかったリア充共に、無性に腹が立ってくる。

 

「いかん。このままだと俺様の精神が崩壊する」

 

いきなり負け組に突き落とされた苛立ちが、体の内側でふつふつと膨れ上がるのを感じる。

川神なら路地に入れば喧嘩相手が腐るほどいるんだがな、と物騒なことを考えつつ、岳人は手近なファミレスに移動することにした。

 

 

 

食事をするのは中途半端な時間だからか、ファミレスの中は空いていた。

岳人も特に腹は減っていなかったが、むしゃくしゃしていたのでとんかつ御膳をかっこむことにする。

 

「すんません、注文いいすか」

 

「かしこまりました」

 

制服を閃かせて、女性の店員さんが優雅にむかってくる。その姿をみた瞬間、岳人の頭の中から苛立ちやらなんやらが一気に吹っ飛んだ。スタイル抜群、胸も、義経よりかなり大きい。

ダメだとわかっているが、生唾を飲み込んでついみてしまう。

 

「ご注文は?」

 

「とんかつ御膳とドリンクバーで」

 

「とんかつ御膳とドリンクバー1つですね。最初のお飲物決まっていたらお持ちします

が」

 

「コーラ」

 

「コーラですね。かしこまりました」

 

店員さんはそんな岳人に対しても嫌な顔をせず、きれいな笑顔を一つ残して戻って行った。

岳人はしばらくぼーっとしたまま後姿を追いかけていたが、すぐにはっと我に返る。

いかん、こんなところを義経に見られたらまた落ち込ませてしまう。義経は岳人が鼻を伸ばしていると怒らずしゅんとしてしまうのだ

 

「おにーさん、一人なの?」

 

「へ?」

 

その後ろの席からまだ幼い声をかけられて、岳人は振り返る。制服を着た女学生3人がにやにやしながらこちらをみていた。多分中学生だろうが、髪を染めていたり派手なマニキュアをしていたりと、体型以前に岳人の好みじゃない。

とはいえ、女の子に話しかけられて無視するという選択肢は岳人の中にない。ぶっきらぼうに、返事だけはする。

 

「関係ねえだろ。」

 

「いやー、店員さん相手に鼻を伸ばしてる寂しい変態見たらかわいそうで声かけちゃうってー」

 

「うちら優しいからねー」

 

「ねー」

 

「余計なお世話だっつの」

 

「あはは、図星だー」

 

「おにーさん、格好いいのに勿体ないよね。どうせ彼女なしの童貞でしょ?」

 

「今日はナンパしにモールきたけど、収穫なしでここに入ったとみた」

 

「でもまだ午前中だよ。諦めるのはやくない?」

 

矢継ぎ早に侮辱されて、流石に岳人も黙ってはいられなかった。

 

「お前ら、流石に俺様に失礼だぞ」

 

「あ、怒っちゃった。ごめんなさーい」

 

「あはは、一人称俺様とかマジうけるわー」

 

そこらにいる不良なら震えあがるような殺気にもまったく気が付かない。全く悪いと思っていない態度で、彼女たちはケラケラと笑う。

 

「でも、おにーさんイイカラダしてるよね」

 

「うちらもさー、買い物しちゃって暇だし懐もさむいんだよねー。いくらか出してくれ

るんだら、相手してあげてもいいけどー。」

 

人がいないとはいえ、昼間のファミレスで堂々と援助交際を持ちかける女学生たち。そのうちの一人が、岳人に見せつけるようにシャツの胸元を開く。

 

「うっ」

 

好みじゃなくても、見たくもないと心では思っていても、広げられた胸元に視線がいってしまう。

流石に自分で自分がちょっと情けなくなった。

 

「うちら、ぴっちぴちだし。一生童貞で終わるよりはいいんじゃないかな」

 

もう一人も流し目で岳人を誘惑する。

義経と付き合う前だったら、かなりぐらりと来たかもしれない誘いだ。しかし、彼女持ちの今は鼻で笑うような誘いだった。

島津岳人は、今は男の性に振り回されるだけの野獣ではないのである。

 

「誰がするか、第一俺様にはれっきとした…」

 

「申し訳ないが、この人は義経が予約済みだ」

 

突如現れた美少女に、女子学生たちは言葉を失う。

今日の義経は珍しくパンツスタイルで、ボーイッシュにまとめ上げていた。岳人の肩に手を添え、笑顔を浮かべながらも周囲の人を固まらせるような冷気を放っている。正直怖い。岳人は冷や汗が止まらなかった。一体いつから聞いていたのか。そもそも午前中は来られないのではなかったのか。弁慶のメールから全て仕組まれていて、義経が自分の行動を遠くからずっと見ていたとしたら。

うん、俺様終わったな。

 

「島津君、行こうか」

 

「あの義経、さん。俺様、とんかつ御膳とドリンクバーを注文しているんですが」

 

「お金さえ払えばキャンセルしても問題ないはずだ。では、失礼する」

 

義経は笑顔のまま岳人の腕を取って立ち上がらせると、レジのところまで引きずっていった。

島津君呼びに、逃がさないとがっしりホールドされた腕に、氷った笑顔。

逆らうことができるはずもなく、粛々とレジでお金をだす。

 

「すんません、ドリンクバーととんかつ御膳なんすけど、いくらですか」

 

「お出ししてないものにお金はいただけません」

 

「そ、そうっすか。ほんとすんません」

 

お兄さんは毅然とした態度で支払を断った。凄く申し訳ない気持ちでそそくさと財布をしまう。

店を出る岳人だけに聞こえるように、お兄さんは声をかけてきた。

 

「…頑張ってください」

 

うん、頑張っても俺様駄目かもしれんけど。

ドナドナをBGMに、岳人はずるずると義経に引きずられていくのだった。

 

 




新年あけましておめでとうございます。今年も宜しくお願いします。

本編のラブコメが思うようにかけず、色々書き直しているうちにつまる→気晴らしに書いた話が出来上がる。
前回の投稿から時間が空いてしまったし、皆さんの楽しみにでもなればと思って外伝として投稿することにしました。


この話は一応プロットは続きがあるんですが、こんなマイナーなカップリングでR-18展開って誰か読んでくれる人がいるのか?という問題が…。で、ちょっとぶつ切りで終わってしまってます。

ぼかして飛ばすと文字数が少なくなるけど、この話の後半にくっつける形で投稿すればいいかなとか…悩み中です。

ここまで読んでくださりありがとうございました。




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