俺様だって真剣で幸せになったっていいだろ! (岳人×義経 【習作】) 作:雲寺香月
6月×日 事故後
岳人が義経との出会いに驚いているのもつかの間、どこからか九鬼従者部隊十数人が現れて現場の後片付けをしてしまった。警察への連絡と犯人の確保、誰かが呼んで来てしまった救急車の対応にその後の交渉まで九鬼が介在してやってくれるらしい。
反射的に助けたのに暴言を吐かれ、あげくの果てに保険会社との折衝やら現場検証やらにいちいち引っ張り出されるのは面倒だったのでそれは助かった。事故の調書もその場で書いてしまったので、後で警察に行く必要もない。
すっかり元の風景を取り戻したコンビニ脇の歩道で、最後に残った老齢の執事が深々を岳人に頭を下げていた。
「島津岳人様、でしたね。うちの部隊のものが大変ご迷惑をおかけしました。マープルは最近体調が芳しくなく、精神的にも不安定で…。島津岳人様はお体の方異常ありませんか?怪我をした直後は後で症状が出るものですし一度病院で検査された方が良いかと存じます。」
従者部隊序列3位、クラウディオと名乗った老齢の執事-これも岳人にとっては20回目にして初めての出会い方だが―が頭を下げる横で、義経もウンウンと心配そうな顔でうなずいている。
が、しかし美女に心配されている手前、恰好つけたくなるのが男の子の心理。多少の痛みはあれど岳人は平然とした顔を作り胸をはった。
「フン、普段武神にぶっ飛ばされてる俺様だぜ。こんなかすり傷なんともねえよ。そんなことより!俺様のバイク、何とかしてくれんだろうな。」
「島津様がそう仰るのでしたら…。はい、うちの者を助けてくださったのですからそのくらいはこちらで無料で修理させていただきます。つきましては本日私どもの方で持ち帰ってもよろしいでしょうか?1週間いないに島津様のご自宅の方にもっていきますので。」
「おう、よろしくたのむぜ。」
鷹揚にうなずいた岳人だったが、内心ははほっとした。
岳人の愛車だが、直接車に当たられたわけじゃないので通常は損害補償もでず修理費は自腹となる。九鬼が出してくれなければ、趣味関係は全部自腹の岳人にとっては痛い。もう良いことなんかしてやるか!という気分になる。
・・・たとえそういう気分だとしても、次があれば気にせず体を投げうつのが島津岳人という男の良さであるが。
「じゃあ後は任せたぜ。俺様は帰る。」
「待ってくれ。」
ヘルメットを左脇に抱えて、踵を返そうとした岳人。その腕をいままで黙っていた義経が掴む。
「島津君は大丈夫と言うが、義経は心配だ。直接引かれていないとはいえ、骨が折れている可能性もある!病院に行くべきだと義経は考える。」
「心配いらねえよ。俺様はこの通りぴんぴんしてるぜ。」
「それでもだっ!クラウディオも素直に帰そうとするのはおかしいぞ。」
義経は岳人の腕を引っ張って、つま先立ちで岳人の顔を見上げた。真面目な顔であっても美少女に上目使いでのぞきこまれるなんて人生初の体験で、真っ赤になって目をそらす。
―落ち着け俺様、義経は武士娘でいずれイケメンに流れることが決まってる美少女だ。上目使いがまたたまらん!じゃなくて恋愛対象外なんだ。胸だってモモ先輩の方が格段にでかいから、このアングルだと穏やかなふくらみが見えそうで見えないのがたまらん!でもなく。武士娘でも女の手ってやわらけー…でもなく!あああとにかく落ち着け俺様!-
岳人が心中穏やかでないのを知ってか知らずか、非難されたクラウディオがひとつ溜息をついて義経をたしなめる。
「義経様、島津様は頑丈さだけは壁を越えているといってもいい。実力は義経様が編入される川神学園でも上位に入るでしょう。」
「俺様の筋肉を普通の壁にたとえられても嬉しくねえけどな。俺様の筋肉はもっと芸術に近い!」
反射的に空いていた右腕だけでマッスルポーズを取る岳人。もちろん、クラウディオの言った壁の意味を理解していない。
義経は困惑した様子で岳人とクラウディオを見比べる。強い者が持つ特有の気が岳人から感じられないので、クラウディオの言葉に納得できないようだ。
「クラウディオのいう壁を越えた強さは義経には感じられない・・・。本当なのか?」
「はい。それ以外の能力は武人にしては下に位置するそうですが。私もヒュームから聞いていただけなので、今の様子を見るまでは疑っていたのですがね。島津様は本人の自覚がない事も合わさって特殊のようです。」
「特殊…。」
「普通の人間なら骨折していてもおかしくない。義経様のお考えはわかります・。ですが今回の場合は特殊な島津様ですので、本人が痛くないというならば検査の結果も異常はないでしょう。無理に病院に連れて行って、担当の医師を困惑させるのも気の毒かと。」
「なんかひでえ事言われてる気がするのは気のせいか?」
「うーん。ヒュームが言うならそうなんだろうか。わからない義経はまだまだ未熟だということだろう。義経は反省する。」
「そこまで落ち込む必要はありません。なにせ特殊ですから。」
岳人の文句は無視されて二人の会話は進んでいった。哀れ岳人。
「義経は了解した。島津君を病院に連れて行くのは諦める。」
改めて岳人に向き直った義経。まっすぐに見上げてくる視線にどぎまぎして視線を泳がす岳人。にこにこと微笑ましそうに2人を見守る老執事。
この場面だけ見れば、初々しいカップルに見えなくもない…かもしれない。
「そのかわり、島津君を家まで送らせてほしい。自宅にいればお家の方もいらっしゃるだろうから義経も安心できる。」
「へ?」
「ほう、それはいいですね。義経様は川神に来たばかり。島津様の自宅は川神学園に近く、先日一通り見て回ったコースにも入っておりました。地理の復習にも丁度良いでしょう。」
「壁を越えた島津君にこんな申し出は失礼かもしれないが、ここは義経の顔を立てるということで送らせてもらえないだろうか。もちろん、迷惑はかけない。…島津君が義経と歩くことが嫌でなければだが。どうだろうか?」
まっすぐ岳人を貫いていた義経の視線がどこかすがりつくような上目使いに変わる。島津岳人として生きて初めて、義経クラスの美少女に上目使いでおねがいされてしまっては、当然ながら『武士娘は対象外』とか『誰かに見られたらヤバイ』とかその他の理性は一瞬で吹っ飛んでしまい。
「も、もちろんよろこんでおねがいしまっす!」
と直立不動の態勢となって、真っ赤な顔と上ずった声で元気よく返事することとなった。
その直後、ぱっと花が咲いたような笑顔を浮かべた義経に、岳人の頭は真っ白になる。
俺様、もうダメかもしれねえ…。
「そうか。では行こう!島津君の家はこの道をまっすぐ行けばいいのだろうか?川神学園の方向はこっちだが…。」
「お、おう。」
「わかった。実は義経ももうすぐ川神学園の2-Sに編入することになるんだ。島津君と一緒だな!島津君は何年何組なんだ?」
「お、俺様は2-F」
「そうなると別のクラスになるのか。でも…」
と、一見うぶな彼氏とイケイケな女子というようなカップルに見える二人が誕生した。初めに引き留められた形のまま岳人は義経に腕をひかれて実家までの道を歩いたのだった。
家についても母は買い出しでおらず、知り合いにも見られなかったのは岳人にとっては幸いだったのだろう。美少女好きの武神にでも見かけられていたら…次の日彼の命はなかったかもしれない。
ちなみに、クラウディオはいつのまにか消えていた。
そして、頭が真っ白になってしまっていた岳人は人生初の『美少女と手をつないで歩く』イベントであったにもかかわらず、話した内容などはほとんど覚えていなかったのだった。
後で彼が死ぬほど後悔したことは、皆さんの想像通りである。
天然な義経を可愛くかきたかった・・が、作者にはこれが限界でした。
岳人は、まあいつも通りです。
私事ですが、つい先日マープルが事故にあいかけたところと同じような場所で歩いていたら、本当に脇見運転していた車に引かれた作者だったりします。命は助かったのですが痛かった・・。
岳人のように壁を越えた頑丈な体がほしい!!
次は時間が戻って学校対抗が終わった後に時間軸が戻ります。