俺様だって真剣で幸せになったっていいだろ! (岳人×義経 【習作】) 作:雲寺香月
楽しんでいただければ…
6月 26日
水上体育祭。
それは、クラス対抗で豪華景品を争う本気の戦いであり、そして学長を初めとするエロい男たちにとっての一大イベントである。
岳人は自分の肉体美の活かせ、かつ美人の水着見放題のこの体育祭をを心の底から楽しみにしていた。
しかし、当日。岳人は自らの肉体を見せつけるでもなく、水着のねーちゃんを見てスケベな妄想をするでもなく…。制服姿のまま、競技で沸く海辺を尻目に、舞台設営要員の中心となって働いていた。
学長の不手際で舞台の床に使う板や、幔幕が痛んだカビだらけの状態で発見されたのが今朝の6時。
困った生徒会長が超人的な力でなんとかできないかと百代に泣きつき、百代が学長を怒りながらも軍師の大和に相談し、大和が使えそうな知り合いに声をかけて体育大会の会場に集合させた。この時点で午前7時。
いままでの人生でで建築系の仕事につくことが多かった岳人が腕を買われて臨時のリーダーに選出され、昼の水上歌合戦までに舞台設置完了を目指すことになったのだ。
「おい、追加の資材まだこねーのかよ!」
「ひげ先生に催促のメール送ったら、東大通りの渋滞に巻き込まれたって返事がきたぜ。しばらく時間かかりそうだってよ。」
「ちっ。早く来ねえと昼休憩までに完成するか微妙だぜ」
作業をしながら答えた準の言葉に、砂を蹴りあげる岳人。学校からかき集めてきた資材だけじゃどうあがいても足りない。
舞台では、昼休憩の間に水上歌合戦―水着女子限定のカラオケ大会-が行われる予定だった。クラスのポイントはつかないが、成績上位者には豪華景品贈呈ということで、かなりの人数の参加が見込まれていた。噂では、あの納豆小町も参加するとか。
しかし、舞台が完成しなければ、カラオケ大会は中止になる。
それは、断固として阻止しなければならないのだ。歌って踊る美女のために。岳人は燃えていた。
「東大通りだな!義経が走って取ってくる!」
「量が多い、一人じゃ無理だ」
岳人の補佐についている大和が義経を押しとどめる。
武士娘だけに重くて持てないことはないだろうが、いかんせん量が多く、持ちにくいものばかりである。
「なら、私も行くわ!」
「自分もいくぞ!」
「一子さん、クリスさん!」
「いや、二人増えたところで無理だから」
「まあ、私がいけば車ごと持ち上げて走ってくるには十分な戦力だろうな」
「姉さんまで…」
「これだけ頑張ったんだから、間に合わせたいだろ」
「…無茶なことはしないでよ」
「わかってるさ。ルー先生もいるしな」
百代がもう引かないと悟った大和が無言で肩をすくめる。犠牲になる宇佐美先生の事は考えないことにしたようだ。
百代はそれに獰猛な笑みを返し、3人に合図して走り出す。あっという間に姿が見えなくなった。
「女4人が車抱えて歩道爆走するってシュールな光景が現れるわけだ…」
針を動かす手を休めて遠い目をした準に、同じく紅白幕を舞台用に縫い直していた忠勝から注意が飛んだ。
「おいハゲ、サボってねえで手を動かせ」
「ハゲじゃねえ、こいつは剃ってるんだ!わかってるよ」
準は文句を返しつつ、手元の紅白幕に針を通し始めた。流石ユキのお母さん(?)、隣にいる忠勝に負けず劣らずのスピードで幕が縫われていく。
…女子がたくましい世界だと、男子も色々と大変である。
百代達の奮闘で、まもなく車ごと資材が到着した。
頭が痛そうな宇佐美先生を無視しつつ、生徒たちは大和の指示通りテキパキと動いて組みあがった骨組みに床板をはめていく。
岳人はいかれたスピーカーの電源ケーブルを取り外し、2芯ケーブルの先を電光ナイフで剥いたものをかわりにとりつけた。ケーブルの反対側にはコンセントを取り付け、電光ドラムに差し込む。
「モロ、マイクのスイッチ入れてみてくれ」
「わかった。あー、ただ今マイクのテスト中…ばっちりだよ、岳人」
「よっしゃ!!あとは舞台の上に乗せるだけだな」
「岳人、改造が終わった紅白幕かけるの手伝ってくれ」
「おう、任しとけ!モロ、床板の作業終わったら読んでくれ」
「了解」
「岳人、分裂してこっちも来てくれよー。俺もう疲れた~」
「んなことできるか!キャップはもうちょっと頑張れよ!」
「えー」
岳人はスピーカーのケーブルで誰かが転ばないように一度丸めてから、紅白幕を抱えている大和の所に走っていった。その後も次々と声がかかり、岳人は全力で走り回る。懸命に働く姿はまさに輝いていた。
その様子は普段の岳人しか知らない人からしたら予想外だったようだ。百代に声をかけられて手伝いに参加していた燕もその中の一人だった。
「島津君、モテモテだねえ。大和君たちだけじゃなく、S組や生徒会の人たちにまで取り合われちゃって」
「岳人はなあ…本当にいつもこうだったらモテるんだろうになあ」
傍にいた百代が溜息をつく。
小さなころからの付き合いで、岳人のいいところも駄目なところも知っているだけに嘆きには実感がこもっている。
「見境ないのがよくないんだよなあ。美人のチャンねーがいるとすーぐ鼻の下伸ばしちゃって」
「あはは。目線で体見てるのとかわかっちゃうもんね」
「そうなんだよ。大和もエロイけど、あまり顔に出さないだろ。それでまあ、女子の知り合いも多いんだけど、岳人はなあ。岳人をある程度コントロールできて、エロイところを気にしない心の広~い女子がどこかに転がってるといいんだが」
「中々そんな子いないよねえ。あ、でも、岳人君って男の子には人気なんでしょ?」
「良く知ってるな、燕。根は悪いやつじゃないから、普通にしていれば慕われるんだよ。信頼できる男友達の多さは一番だろうな」
「へえ~。それは凄いね」
手をとめてのんびり岳人の様子を観察する二人を発見した軍師から檄がとぶ。
「姉さん、燕さん、暇ならこっち手伝ってよ!時間がないのわかってるだろ」
「あ、ごめんね大和君。モモちゃんいこう」
「私としては、もうすこし休んでいたかったんだがなあ。仕方ない」
三年生組も復帰したことで(一人はかなりしぶしぶだったが)、舞台設営のスピードはさらに上がり、昼休憩の10分前に無事に舞台設営は完了したのだった。
『まにあったぞ~』
完成に喜ぶ生徒たち。生徒会所属の生徒たちの中には泣き崩れる者もいた。大会の運営サイドからしても気が気じゃなかったんだろう。
そのころ、完成した舞台の裏では学長と岳人が涙を流しながらがっちりと握手していた。
「島津岳人よ、よくやってくれた。これで水着のねーちゃんが歌って踊るさまを見られる。わしの寿命と健康も守られた」
「学長、いいんです。この企画を考えて実行までこぎつけた学長に、文句はありませんっ」
「そうか…その苦労までわかってくれるか…。」
「学長っ!」
幸い、この光景を見ていた者はおらず、岳人の株は上がったままであった。
水上体育祭という題名だけど、岳人が競技に参加するのは次話からになってしまいました。
義経との絡みも次にはもっと入れたいな。