人狼は夢を見れるのか   作:渡邊ユンカース

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(更新が遅れて)本当に申し訳ない。(某博士感)


染色

ロンドンのとある病院を目指して急行する一台の軍用車があった。病院指定の駐車場に急いで止めると、茶髪の少女が金髪で小柄な少女を引っ張りながら車外に飛び出して病院に入る。彼女たちの名前はバルクホルンとハルトマン、今日はバルクホルンの妹クリスの面会日だった。

 

「病室ですよ、お静かに」

「あっ、すみません。急いでいたもので」

 

妹を思い急ぐ気持ちを抑えきれなかったバルクホルンは、偶然居合わせたナースに怒られて顔を赤くする。バルクホルンの後ろではハルトマンがベッドに居るクリスに手を振った。そのクリスは姉の失態にクスクスと笑う。

ナースは空気を読んで病室からこっそり抜けた。

 

「やっぱりお姉ちゃんはどこか抜けてるよね」

「なっ!」

「その通りだよ。私に風紀だの軍規だの言うくせに熱が入ると周りが見えなくなっちゃう。そのせいで危ない時もあったし」

「お姉ちゃん……」

「お前!今日は見舞いに来たんだぞ!そういうことは……」

「だってホントじゃん」

「ないないそんなことないぞ!私はいつだって冷静だ!」

 

日頃の行いをハルトマンから暴露されてバルクホルンは急いで弁解をする。

 

「あー、ハインツ大尉にも判断してもらおうかなー」

「は、ハインツは関係ないだろ!何を言う!」

「この前ね、トゥルーデがハインツ大尉に見せるための水着を買ってさー!」

「お、お前!」

「いやー、堅物生真面目女軍人のトゥルーデがあそこまで乙女を見せるとはね。恋って面白い病だよ」

「うわああああああ!言うなぁ!」

 

バルクホルンはさらに顔を紅潮させて腕をブンブン振るのをよそに、いたずらな笑みを浮かべてハルトマンは笑う。

 

「……お姉ちゃんなんか楽しそう」

「そうか?」

「それは宮藤のおかげだな」

「宮藤さん……?」

「うん。この間入った新人でね」

「お前に少し似ていてな」

「私に!?会ってみたいなぁ!」

「そうか。じゃあ今度来てもらおう」

「ホント?お友達になってくれるかな?」

「ははは、かなりの変わり者だけど良い奴だ。きっといい友達になれるさ。あっ、似てると言っても当然お前の方がずっと美人だからな」

「姉馬鹿だねー」

 

バルクホルンの妹愛は数年時が経過しても変わることはなかった。

クリスの午前の検査が始まるまでの間、バルクホルンとハルトマンは病院に滞在して雑談をした。話題でよく取り上げられたのは人狼との関係や基地の仲間の話で、特に人狼の話になると唐突に保護者目線になったり露骨に顔を染めるのでハルトマンとクリスは見ていて飽きなかった。

 

「そろそろ結婚してもいい年齢だからハインツさんと結婚したら?」

「ハ、ハハハインツは関係ないだろぉ!だ、第一あいつは私のことをそういう目で見てないと想うし……」

「そうかなぁ?案外ハインツさんはお姉ちゃんのことが好きだったりして」

「そもそも無感情で顔色の一つも変えないやつだぞ!恋愛感情だって持っているのかすら怪しい」

「つまり、ハインツさん恋愛感情持ってたらオッケーなの?」

「何故そうなるんだ!」

「ほらトゥルーデには秘密兵器があるじゃん。そのダイナマイトボディーを使って色仕掛けを仕掛けちゃいなよ!」

「い、色仕掛けぇ!?」

「……お姉ちゃん頑張れ」

「クリスぅ!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

バルクホルンたちが病院に居る同時刻に、第501統合戦闘航空団の基地近郊の平野を五人のウィッチと一匹の人狼がその上空を駆ける。ウィッチのメンバーはペリーヌと宮藤、シャーリーとルッキーニでそれぞれ二機ずつ編成を組んで訓練を行っている。残り一人のリーネは審判役だ。

 

人狼は空戦技量があまり高いとはいえないためバルクホルンの手によって彼女らの訓練に付き合うことになった。なおシャーリーたちのグループに属しており、持ち前の速度と上昇力を生かして先頭を飛ぶペリーヌの上を陣取って隙あらば彼女を攻撃をしかけようとしている。

 

「宮藤さん後ろを取られてましてよ」

「あっ、うん……」

「へっへ~、いただきィ!」

 

宮藤の背後に第501統合戦闘航空団で最年少のルッキーニが宮藤を照準に入れた。ルッキーニは齢十二歳にしてエースの仲間入りを果たした空戦の天才児だ。易々と彼女の狙いから逃げることはできない。ペリーヌは宮藤の被弾を確信した。

 

だが、そのペリーヌの予想は覆した。

 

「あの技は……!」

「……」

「うわぁー!」

「おー!」

 

宮藤は縦回転をすると、最高地点で体を翻して態勢を変えてシャーリーとルッキーニの背後を取る。たどたどしい機動であったが背後を取るのに成功した宮藤は驚きを隠し消えれないまま模擬銃の引き金を引いた。

模擬銃から発射されたオレンジ色のペイント弾がシャーリーとルッキーニを汚して、二人はリーネから撃墜判定を受ける。二人は唖然とした様子で宮藤を見つめる。

その宮藤の機動を見たペリーヌは驚き、一瞬上空にいる人狼の警戒を怠ってしまう。

 

「……」

「しまった!」

 

その隙を生粋の戦闘マシーンである人狼が見過ごすはずもなく、急降下しながら射撃を開始した。瞬く間にペリーヌの体とユニットはオレンジ色に着色されて、やってしまったと落胆するペリーヌ。

人狼は即座に反転して宮藤へ攻撃を仕掛けようとした時、制限時間になったのを知らせる笛が吹かれたため、この模擬空戦は終わった。

 

慣れない機動で体力を大きく消費して息をきらす宮藤は人狼との戦いを避けれたことに安堵した。流石に人狼の方が空戦技術は上であり、なおかつ霧化を用いたトリッキーな戦法もあるので相手にはしたくなかった。

残数こそは同じだが二対三の戦いであるため、宮藤とペリーヌチームの勝利となった。

 

「おっかしいなぁ、絶対後ろについたと思ったのに」

「だいぶ成長したな宮藤」

「えっ、そうですか!えへへ」

 

模擬空戦の帰路、敵対していたシャーリーとルッキーニが宮藤を称賛した。当初、基地に来た頃の宮藤はなんとか飛行できる程度だったが、今では油断したエースを落とせるぐらいには成長していた。

なお、ルッキーニが宮藤の胸を揉むが一切そこは成長していないとのこと。悲しいかな、ルッキーニの計測は正確である。

 

「でも腕を上げたのは確かだ」

「でも高高度だったらこうはいかなかったけどねー」

「私たち案外良いペアかもしれませんね」

「ご冗談を。真っ平ごめんですわ」

 

宮藤に声を掛けられたペリーヌは不満げにそっぽを向いて、オレンジ色に染まった髪をいじった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

模擬空戦に参加したウィッチ全員が基地に帰投した後に風呂に入っている最中、ミーナが日頃から書類仕事を行う司令室にはミーナ、坂本、ハルトマン、バルクホルン、そして人狼が居た。

バルクホルンは一便の手紙を取り出してミーナに提示する。この手紙は今日の午前に休暇を取ったバルクホルンとハルトマンが見つけたモノで、クリスに面会するために乗ってきた車に挟まれていた。明らかに狙った犯行だ。

 

「悪いが中身は勝手に見させてもらった。深入りは禁物、これ以上は知りすぎるな。これはどういうことだ」

「興味あるね」

「やましいことだのしていない。だろ、ミーナ」

「……えっ、えぇそうよ。私たちはただネウロイのことを調べただけで」

「それでどうしてこんなものが届く」

「差出人に心当たりは?」

「ありすぎて困るぐらいだ」

「そうね。私たちのことを疎ましく思う連中は軍の中にいくらでも居るから……」

「が、こんな品のない真似をするやつの見当はつく。おそらくあの男はこの戦いの確信に触れる何かをすでに握っている。私たちはそれに触れたんだろう」

「あの男って?」

「ドレヴァーマロニー、空軍大将さ」

「……」

 

人狼はこの男に聞き覚えがあった。

第501統合戦闘航空団を創設したヒューゴ・ダウディング空軍大将を失脚させて、その後に同部隊の上官となった者だ。タカ派な野心家でウィッチに不満を抱いていた。ある意味ネウロイとは違った第二の敵だ。

 

そして意外にも狂気の名将ランデル・オーランドと面識があり、ランデルはマロニーのことを

つまらないが面白い男だと評していた。

狂人がいう他者の評価など第二者及び第三者から見ても意味がわからない、人間でもない人狼でもわからなかった。

 




キューベルワーゲン

ドイツで生まれた軍用車、フェルディナント・ポルシェらにより設計された。
兵士に軍馬代わりに使用されて評価は良く、エンジンは空冷のため冷却水やラジエターが不要で、厳冬時や厳寒地においても取り扱いの面倒な不凍液を必要としなかった。そのため東部戦線からアフリカ戦線まで使用できた。
戦後はこの技術をもとに東ドイツの車両が作られた。

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