これからもよろしくお願いいたします。
午前に行われた演習の決闘を申し込んだペリーヌと申し込まれた宮藤はハンガーに居た。宮藤は当然演習を行うということなので演習用の模擬銃に手を伸ばした。
「そっちじゃなくてよ」
「でも、それは……」
「私たち決闘をするのですのよ」
そう言うとペリーヌは自分が愛用しているブレン軽機関銃を取り出した。人に向けるように作られた模擬銃とは違って、何かを殺すために作られた機関銃は冷たくて恐ろしい印象を宮藤に与えた。
「そんな……私嫌ですッ!本物の銃を人に向けるなんて」
「まさか本当に撃つはずありませんでしょ。気分ですわよ気分」
「だからって嫌です!私はそんなことするためにウィッチーズに入ったわけじゃありません!」
「まったく、入隊の時も貴女そんなおバカなこと言っていましたわね。言ってるでしょ、形だけですから」
楽観視して述べるペリーヌに宮藤は不安を払拭しきれなかった。ネウロイを粉々に粉砕することができる機関銃を人に向けたくはない。いくら安全装置が掛かっていても人に向けるには抵抗があった。
しかし宮藤はペリーヌに押されて、そのまま演習を行うことになった。
『宮藤さん、聞こえまして?十秒以上後ろを取った方の勝ち、それだけよ。だったらいいでしょ?』
「……安全装置は、うん掛かっている」
飛行中宮藤は自身の機関銃の安全装置が働いているかを視認した。万が一、引き金を引いてしまう可能性を無くそうとしたからだ。
宮藤とペリーヌが高速ですれ違う。
すぐさまペリーヌは旋回して宮藤を捜す。辺りを見渡していると地表すれすれを飛行する宮藤の姿があった。ペリーヌは高度を落として宮藤の背後に迫る。
宮藤はシザーズでペリーヌを追い抜かせて背後を取ろうと奮闘する。それによりペリーヌは翻弄されていた。
「まったくもう!ちょこまかちょこまかと!」
宮藤の軌道にペリーヌは苛立ちを覚える。何故背後を中々取れないのかというと、二人の履いているユニットに関係する。ペリーヌが履いているユニットはVG.39だ。汎用性の高いユニットで稼働時間こそ短いが基本性能は悪くない。
一方で宮藤が履いているユニットは零式艦上戦闘脚である。少ない魔法力で長時間飛行可能で高い運動性を有する。しかしその代償に防御力が低く、新兵の生存性は良いとはいえない。
何が言いたいのかと言うと運動性能が高いほどドッグファイトは優位に立てるのだ。
白熱した両者の戦闘が繰り広げられる中、突如として基地からアラームが鳴り響いた。
「警報よ」
「ネウロイが来たの?」
『グリッド東23地区、単機よ。ロンドンに向かうコースを』
「中佐!ペリーヌです。私と宮藤さんが訓練で飛んでいたところです。そのまま先行して」
『何ですって!?そんな予定は聞いていないわよ。貴方たちはそこで待機してください。いいわね?』
「は、はい」
珍しく何かに急ぐミーナの様子に困惑しながらペリーヌは生返事で答えた。
「ペリーヌさん!」
「聞いての通りよ。皆が来るまで此処に――――」
「先に行ってます!此処で待ってたら逃げられちゃいます!」
宮藤はユニットを吹かして現場へ先行した。ペリーヌはこの無謀ともいえる行為を止めるために無線から制止を促した。
『ちょっと命令違反よ戻りなさい!』
「心配しないでください!私にだって足止めぐらいできますから!」
『調子に乗るのもいい加減になさい!こらぁ!』
ペリーヌの制止を振り切って宮藤は現場に急行したが何処にもネウロイの姿は見えない。暫くの間索敵を行っていると、奥の方で何かが赤く煌めいた。無論、そんな光を発するのはネウロイしかいない。
「見つけた!……あれ?」
しかし何故か胸の内に引っかかった。宮藤がネウロイに近づくと、雲海の上を小さなネウロイがいた。
宮藤は小型のネウロイなら倒せると安堵して銃口を向ける。
するとネウロイは宮藤に気づくといきなり旋回して近づいた。あまりに近くを接近させられたため宮藤は混乱しながら機関銃の引き金を引いた。
しかし宮藤は機関銃の安全装置のことをすっかり忘れており、すぐに安全装置を切った。
「ええっ!?」
安全装置を切るために目を離した瞬間、ネウロイは宮藤の傍で形状を変えた姿になっていた。その姿は明らかに宮藤の姿を模倣しており、宮藤の頭に生えている使い魔の耳やユニットの造形もコピーしていた。
隙を何度か見せても一向に攻撃をしないネウロイに宮藤はある淡い希望を抱いた。もしかしたらこのネウロイは友好的なのではないのかと。
試しに引き金から指を離して銃口を下に向けるとネウロイは喜んだ様子で両腕を挙げて宮藤を軸にグルグル飛行した。ウィッチの如く飛行するネウロイは宮藤に抱き着こうと寄ってきた。
「ちょ、ちょっと待ってー!」
宮藤がネウロイに制止を促すとネウロイは指示に従って止まる。人の言葉が通じたことを確認すると、それ以降宮藤はネウロイに並走して質問をしたり追いかけっこをして遊んだ。
不思議と宮藤は笑っていた。
「ねぇ、貴方たちは本当に私たちの敵なの?」
唯一友好的に接しているこのネウロイに疑問を投げかけた。ネウロイは依然として沈黙を続けたままだが、触れと言わんばかりに胸元に収納された核を見せつけた。核は従来のネウロイのものより赤く輝いている。
宮藤は躊躇しながらもその核にゆっくり手を伸ばして触れようとした。
『何をしている!宮藤!』
「坂本さん!」
しかし宮藤は坂本の登場により核には触れられなかった。坂本は声を張り上げて宮藤に射撃を促した。
「撃て!撃つんだ宮藤!」
「違うんです!このネウロイは!」
「何してる!いいから撃て!」
「待ってください!」
宮藤は坂本にネウロイが撃たれないように自らを楯にした。
「惑わされるな!そいつは人じゃないッ!」
「違います。そういうことじゃ……!」
「撃たぬならどけっ!」
坂本は宮藤とその背後に控えるネウロイに照準を合わせる。ネウロイはそれに気づくと宮藤から離れるように上昇した。
直後に坂本は機関銃を撃ち攻撃を始めるが、ネウロイは銃弾を躱して光線を腕の先から照射した。赤く太い光線が迫っているのを坂本は確認してすぐさま魔法障壁を展開した。
「ぐっ!?」
しかし上がりを迎えかけている坂本の魔法力では光線を完璧には防ぐことができず、少し漏れ出た光線が坂本を襲う。その漏れ出た光線が手にする機関銃に命中して暴発した。
暴発により坂本の体は吹き飛ばされて海上へ落ちていき、ユニットも破損からか両脚から外れた。
「坂本さん!」
「坂本少佐!」
急いでペリーヌと宮藤が落下する坂本の体をキャッチして意識を確認するが応答はなくうなだれていた。胸元からは出血で白い軍服を赤黒く汚している。
『どうしたの!何が起きたの!』
「少佐が!ネウロイに撃たれて!」
「シールドは張ったのに!……まさか!」
『……バルクホルン大尉ネウロイを追いなさい』
「しかし少佐が」
『追いなさい!命令よ!』
「わ、わかった!」
普段の冷静な態度ではなく情にほだされたミーナの命令に出撃したウィッチは困惑しながらも了承した。
「あのネウロイの強さはわからない。だから編隊を組んで冷静に対処を――――」
「お、おいハインツ大尉先に行ったら!」
「戻れハインツ!」
命令を聞いた人狼は即座にユニットに魔法力を叩き込むと、独りでネウロイに接近して銃撃を始めた。ドラムを叩くかのように放たれた銃弾はまっすぐネウロイに向かうが、ネウロイは小柄な体を活かして躱す。
ネウロイはその場から撤退しようと速度を上げてガリア方面へ向かう。人狼も同様に速度を上げて追いかける。
『待てハインツ!編隊を組まないと!』
「…」
『おい聞いてくれ!頼むから!』
「…」
バルクホルンの懇願を無視して人狼はネウロイを追う。背後から機関砲を撃って何度も攻撃を仕掛けるも射線を予知されてその都度躱される。ネウロイは急旋回して人狼とドッグファイトに持ち込んだ。
グルグルと横に旋回しながらお互いの背後を取ろうとするが、やはりユニットを持たないで飛行するネウロイの方が有利で人狼は背後から攻撃を受ける。
「…」
人狼は立ち止まってから後ろに振り向いて魔法障壁を展開した。人狼は光線を防ぎ切ったが、その無防備になった人狼に接近したネウロイはゼロ距離で光線を照射した。
光線は確実に人狼の顔を焼失させた。愛用している帽子と一緒に人狼の首なし体は落ちていく。
人狼の撃墜を確認したネウロイが再度ガリア方面に行こうとした。その瞬間、ネウロイの背後の装甲に強い衝撃を受けて弾け飛んだ。ネウロイは奇声を発しながら振り向くとそこには先程首なし遺体になっていた人狼の姿があった。
顔にはまだ霧が巻かれており完璧には回復していないが戦闘は可能な状態だ。ネウロイも驚いているのか呆然と眺めている。
「…」
人狼は首をコキコキ鳴らして一気に接近戦に持ち込んだ。自分に有利な戦闘状態を望んだからだ。ネウロイも迫る人狼を迎撃しようと光線を放つが、先程の失敗から紙一重の回避を行う。
何度も被弾して体の一部が欠損したり二挺の機関砲が暴発しても人狼は迫り続ける。
「…」
人狼がネウロイのもとに辿り着いた頃には上半身裸で左肩ごと左腕が焼失していたが、その眼には未だ戦意が灯っていた。
人間ならありえない姿と能力を前にネウロイは硬直していた。その間に人狼は肩の可動域の限界まで右腕を引いてから全力で殴りかかる。
「…」
その拳が当たったネウロイの頭部はバキバキと音を立てて装甲が割れていき、あまりの衝撃でネウロイは体ごと吹き飛ばされた。光線を顔面に当てられたお返しである。
次の攻撃を仕掛けようと人狼は魔法力をユニットに流し込むが、プスンと気の抜ける音を立てた。ユニットを確認すると黒煙をこれでもかと吐き出していてプロペラも停止している。
推進力を失った飛来物はどうなるのか。それは至って単純な答えである。
「…」
重力に負けてそのまま落ちていくだけだ。
一応人狼は入手困難で高価なユニットを手放すまいと膝を抱えて回転しながら落下するが、落下時でもなおネウロイに脅威と見なされて狙撃された。
ネウロイの狙撃は的確で人狼の頭だけを残した。
VG.39
フランスで生まれた戦闘機、ドイツ占領下に細々と開発がされた。
VG.33の性能を大幅に向上させるためにイスパノ・スイザ12Y-89エンジンを搭載して生まれたがVG.39である。
なお一機しか製作されなかった悲しい機体。