まあ人狼が関与したら面倒な場面だから仕方がない。てか原作が完璧で付け込めれない。
坂本が撃墜された日の夕暮れ、基地内の雰囲気は暗く淀んでいた。それもそのはずで、人型ネウロイと交戦した坂本が負傷したからだ。幸いにも体には光線は当たらなかったものも、手にしていた機関銃が暴発を起こして破片が腹部に刺さった。
すぐに医療室へと運ばれて医療処置と宮藤の回復魔法のおかげで一命は取り留めたが余談は許せないままだ。
司令室にてミーナと旧友であり戦友であるバルクホルンとハルトマンが戦闘での宮藤の行いを指摘した。
「独断専行命令違反、その結果上官を負傷させて敵をとり逃がすとは重罪だな」
「えっ!?もしかして軍法会議でバーン?」
「そこまでは言っていない」
「だよね、そうなったら私なんて何回も死んでるよねー」
「エーリカ、もうちょっと真剣にだな」
「……判断は坂本少佐が目覚めてからにします」
「はーい」
「甘いぞミーナ」
バルクホルンは口調を強めてミーナの甘えを注意する。ミーナの階級は中佐であり、第501統合戦闘航空団の隊長を務めている。本来ならばミーナ自身の手で判断しなければならないはずだが、それを部隊長である坂本に任せようとしている節あった。
「それにな今回は幸運と固有魔法に恵まれたからこそ現状死者ゼロだ。もしもハインツではなく他の誰かだったり、光線でハインツの体全体を焼失していたら助からないんだぞ」
「えっ、そうなの」
「……ッ」
「……奴は決して不死身ではない。いくら霧化で体の欠損を防いでも一瞬で体全部を失えばお終いだろう。あいつはパーツさえあればそこから復活できるからな」
「対人だったら無敵だけど対ネウロイじゃあまり活かせないね」
「まあ今まで無茶して戦ってきたツケが回ったんだろうな」
人型ネウロイを追跡した後に戦闘した人狼は頭部以外のパーツを失ったまま落下した。人狼の能力は霧化で体を復元する能力、すなわち取り巻く環境に影響されやすい。なので海中では再生が不可能だ。
なんとか海に沈む前に体を再生させた人狼は海底に沈むのを未然に防いだが、問題は続く。人狼が再生できるのはあくまで肉体だけで衣服の再生はできない。
なので救助用のスピットファイアに乗った片足の英雄ステック少尉が見つけた際には、全裸で基地へ泳いで帰投しようとする人狼にやや引き気味であった。
補足だがそのことを基地へ報告したおかげで人狼が基地に帰投した際には待機していた男性職員が駆けつけて衣服を提供した。年頃の少女たちに全裸姿の異性は刺激が強すぎた。
なお人狼の生存を聞いて急いで駆けつけたバルクホルンだったが、褐色で肉体美にあふれる筋肉を前に鼻血を吹きだして悶絶していた。
「ハインツのストライカーユニットの喪失も含めるといくら私でも宮藤じゃなかったら叩きのめしていたぞ」
「それがもし私だったら?」
「地面にお前の頭を突き刺してやる」
「うわー、かなり暴力的」
「……わかったわ。明日私が決めます」
「そうしてくれ」
宮藤の処罰に対する決定期限を交わしたハルトマンとバルクホルンは司令室から出て行った。一人残されたミーナは頭を抱えて重々しくため息をつく。
マロニーの台頭、宮藤の命令違反、人狼の態度と喪失したストライカーユニットの手配、親しい間柄である坂本の負傷が板挟みになってミーナを苦しめた。中佐として第501統合戦闘航空団の隊長を一任されている身だが、まだ齢二十にもなっていない少女には変わりはないのだ。
あまりにその負担と不安は少女の一人の身には重すぎた。
「どうしたらいいのクルト」
ミーナは誰にも聞こえないほどの小声でかつての恋人に助けを求めた。
翌朝、ミーナによる宮藤の処遇が決まったためハルトマン、バルクホルン、宮藤、人狼を司令室へと呼び出した。
坂本の容態も回復してきたことからミーナは昨日よりも顔色がよく見える。
「宮藤芳香軍曹。貴方は独断専行の上、上官命令を無視。これは重大軍規違反です」
「はい……」
「この部隊における唯一の司法執行として質問します。貴女は軍法会議の開催を望みますか?」
「あ、あの……」
「返答はないので軍法会議の開催を望まないと判断しました。今回の命令違反に対し勤務食事衛生上已むおえない場合を除き、十日間の自室禁錮を命じます。異議は?」
「あの私ネウロイと……」
ミーナはかなり強引な手法で宮藤の処遇を推し進めた。その際、宮藤はネウロイと通じ合えたことを伝えようとした。
「改めて聞きます。異議は?」
「聞いてください!」
「異議は?」
「……ありません」
声を張り上げて主張する宮藤だったが、ミーナに気圧されてしまい異議はないと答えて以降口を噤んだ。宮藤が肩を落として退室した後に、今度は人狼のストライカーユニットについての話になった。
「ハインツ大尉。貴方にも伝えなければならないことがあります」
「…」
「まずは喪失したストライカーユニットについてです。残念ながら今月中に貴方のユニットを手配することができませんでした。かなり特殊なエンジンを使っているため代用が利きません」
「…」
「そして貴方も宮藤軍曹と同様に命令違反や独断専行についてです。貴方はエースとしてある程度の自由が許されていますが、これまでの件を鑑みて処遇を決めました」
「…」
「貴方は宮藤軍曹と同じ一週間の自室禁錮です。異議はありませんね」
「…」
人狼は己の処遇に相槌を打って静かに答えた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
人狼たちの処遇を決めている一方で、郊外にある実験室にて極秘裏に大掛かりな輸送が行われていた。
両脚の大掛かりなストライカーユニットと両腕に取り付けられた戦闘機のようなガンポッドが搭載された頭部のない人形のようなモノを丁重にトラックへと固定した。研究所の外では護衛車両としては以上戦力ともいえる歩兵を乗せたトラックや装甲車が待機していた。
「こちらA班、対象の固定を終えました」
「ご苦労」
「……完成させるにはかなりの年月を要しましたね」
「……何度も挫折しかけたが、ついに出来上がった。これさえあれば流れを変えられる」
「これでネウロイを倒せるのですね!ウィッチの力なく!」
「そうだ。もうウィッチという専門職を無くせるわけだ」
軍帽のツバを上げて男は完成したモノの写真を見つめた。
すると輸送するために実験室の巨大な金属製の扉が開き、外の日差しが薄暗い研究室に差して男を照らした。
「見ていろよウィッチどもめ」
写真を見て笑みを浮かべる男の正体、それはドレヴァー・マロニー空軍大将。ある意味ネウロイよりも手強い敵である。
ガンポッド
パック状の容器に収められた機関砲や機関銃であり、固有の武装を備えた、または固有の武装を持たない軍用機に外装式に取り付けられる。
ガンポッドはその外付けという構造上の性質上、反動による振動が大きくなるため、内蔵機銃に比べ命中精度に劣り空気抵抗も大きく戦闘機との格闘には向かない。
しかし火力の補強やレーダーの取り付けという面から見て有効的である。