長年ハーメルンに居ましたがそんなことあるんですね。
「ご苦労だったミーナ中佐」
「まるでクーデターですね。マロニー大将」
「命令に基づく正式な配置転換だよミーナ中佐。この基地は私の配下である第一特殊強襲部隊、通称ウォーロックが引き継ぐこととなる」
「ウォーロック……?」
宮藤が独断専行で再度人型ネウロイと接触したため救出部隊として駆け付けたミーナを始めとするウィッチ隊だったが、沈黙を貫いていた人型ネウロイが突然活性化した。
苛烈な攻撃だったものも犠牲者を出さずに帰還したミーナたちであったが、出迎えるように奇妙な兵器とマロニーが居た。
並々ならぬ雰囲気を感じ取ったのか待機していた人狼とサーニャとエイラとリーネ、そして怪我人である坂本とその看病に徹していたペリーヌがその場に集まった。
「ウィッチーズ、全員集合かね。君が宮藤芳香軍曹か」
「……はい」
「君は軍規に背いて脱走した。そうだな」
「えっ……。あっ、その後ろの!私見ました。それがネウロイと同じ部屋で!」
「な、何を言い出すんだ君は!」
「でも私見たんです!」
何故か宮藤がウォーロックを見たことあると言うとマロニーは狼狽えた。その反応をミーナが見過ごすはずがなかった。
「質問に答えたまえ。君は脱走をしたんだな」
「はい……でも」
「中佐、私は脱走者を撃墜するよう命令したはずだ」
「はい。ですが」
「隊員は脱走を企てる。それを追うべき者も司令部からの命令を守らない。まったく残念だ。ミーナ中佐、そしてウィッチーズの諸君。ただいまをもって第501統合戦闘団ストライクウィッチーズは解散する」
そして突如として宣言された解散命令にウィッチーズ全員が驚いた。今まで解散の前兆すらなかったのだから当然であろう。ただ例外として人狼だけは依然として顔色を変えずに黙って立っていた。
「可及的速やかに各国の原隊復帰せよ。以上、わかったかねミーナ中佐」
「……了解しました」
「君の独断専行が原因なのだよ。宮藤軍曹」
「私、でも私……」
「安心したまえ。ネウロイはこのウォーロックが撃滅する。ブリタニアを守るのに君たちは必要ないのだ」
自身が原因で部隊が解散することになったと知らされた宮藤はショックとストレスでその場で気絶した。周囲のウィッチたちは急いで宮藤を介護にあたるが、人狼はその場から立ち去ろうと歩み始めた。基地へと進む人狼にマロニーは声をかけて近づいた。
「久しぶりだねハインツ・ヒトラー大尉。君の活躍は本国からよく聞いている」
「…」
「君は今までよく戦ってくれた。それこそダリアの時から今にかけてね」
「…」
「だからこそ君は少しの休養を取るべきだと私は打診するよ。大丈夫、君には
そうマロニーに告げられた人狼はピタリと足取りを止めた。いきなり立ち止まった人狼に何か疑問を抱いたのかマロニーは人狼の肩を捉えた。
それはこの現状でしてはいけない行為だった。マロニーが肩に触れた瞬間、人狼はパシンとその手を払う。そして振り返りざまに殴り掛かったのだ。拳には濃厚な殺意と敵意が込められており、間違いなく殺す気であった。
「ひっ!?」
「何をしてるんだハインツ!」
「…」
マロニーの顔面に拳が当たる直前にバルクホルンは咄嗟に静止するよう促した。そのおかげか拳はマロニーの鼻先すれすれで止まる。人狼の殺意と自身の死を間近にした感じたマロニーは腰が砕けて尻もちをつく。マロニーの取り巻きの兵士たちが異変に気付き、装備していたステン短機関銃を人狼に向ける。
人狼は多数の銃口が向けられているのにもかかわらず棒立ちでマロニーを見下す。
「き、貴様ッ!仮にも上官である私に暴行するとは軍規違反だぞ!」
「…」
「いくら貴様が魔法力を有する男のエースとはいえ軍法会議は免れないぞ!」
「…」
マロニーが喚き散らしながら人狼に追及するも人狼は態度を崩さない。いきなり殺されかけたのだから無理もない。すぐに只事ではないことを察知したバルクホルンが人狼とマロニーの間に入って人狼の擁護に回った。
「すみませんマロニー大将!ハインツのやつにも言いつけますので!」
「カールスラントの軍人がブリタニア軍の私を殺しかけたんだぞ!」
「ですからもうさせないとハインツのやつに誓わせますので今回はお許しを!」
「無理なもんは無理だ!ハインツ大尉には後日、軍法裁判に出廷を命ずる。いいな!」
「マロニー大将!」
「黙れ!」
冷静さを欠いたマロニーがバルクホルンを一喝する。それでもバルクホルンは食い下がらずに徹底抗戦の構えを見せるが、業を煮やしたマロニーが頬を叩こうと腕を振るう。
しかしその手が頬に触れることはなかった。人狼がバルクホルンを引っ張って守ったからだ。回避したのを確認した人狼は臨時で装備していた拳銃を向けた。
「ハインツ!銃を下ろせ!」
「……ッ!はっ、ついに拳銃まで抜いたかハインツ大尉。もはや軍法会議は免れぬなぁ」
「…」
「私は大丈夫だ!だからもうやめよう!」
「貴様は一応エースとしての実績と評判が世間には知られているそうだが、真実を彼女らには伝えたのか?」
「…」
「真実……?」
人狼の射貫くような視線が強くなる一方でバルクホルンが首を傾げる。マロニーはしたり顔で人狼の真実を話し続ける。
「どうやら彼女の反応から察するに知らないようだ。まあ無理はない。貴様はスオムスから501に着任するまでの空白の期間、すなわち血濡れた一年をな」
「血濡れた一年……だと?どういうことだ」
「…」
「ッ!?トゥルーデ聞いちゃダメ!」
「いいや彼女には理解してもらうよハルトマン中尉!」
その事情を察したハルトマンが大声でバルクホルンに注意する。ミーナはハルトマンが何故焦っているのかが理解できず眉を顰める。人狼のスオムス帰還から501に着任するまでの空白の期間については何も知らされていないのだ。それをハルトマンは知っているとなると不自然で仕方がなかった。
「バルクホルン大尉はネウロイを神や天使と称して進行するカルト宗教をご存知かな」
「もちろん知っています。過激な思想を持つ信者が多いと」
「すると信者から見た我らは敵ということになる。だが何故信者たちは我らに関与してこないのか気にならないか」
「……確かに普通なら妨害工作を仕掛けるはず」
「しかし今までそれは表沙汰には表れてはいなかった。理由は簡単、ハインツ大尉がネウロイを善とする団体を掃討していたからだよ」
「……えっ」
「女子供老人を皆殺しにしてまでハインツ大尉は活躍した。陰の仕事だったため世間から人狼のトピックが新しく上がることはない。そういうことを考えると辻褄がつくだろう」
「は、ハインツ。本当、なのか……?」
バルクホルンは晒された人狼の真実に狼狽えた。嘘やデマだと信じたかったが今までの冷徹で身勝手な態度の原因だと考えると合致してしまう。すがるような眼でバルクホルンは人狼を見つめるが、人狼は依然として敵意をむき出しにして銃を構える。いつ指先の引き金を引いてもおかしくはない状態だ。
「貴様は民間人の無差別殺害、上官に対する暴行。唯一、魔法力を持つ男といってもこれほどの罪を無罪にできるわけがない」
「…」
「だが私の支配下に入るのならば前者の罪は致し方がない偶然として処理、後者は何事もなかったことにしよう」
「……まさかマロニー大将はそれが狙いで挑発を!」
「汚いぞ!」
「挑発ぅ、汚い?何を言うかと思えば訳のわからぬことを。私は何も仕組んでいないが?」
思惑に気づいたミーナと野次を飛ばすハルトマンに向けてマロニーは不敵に笑った。501と人狼が勘づいた頃にはマロニーの策略にハマっていたのだ。それこそバルクホルンが車で見つけた手紙を発見する前に。
緻密な計画と豊富な人脈を使って根回しをする用意周到な男、それがトレヴァー・マロニーという男だった。伊達に空軍大将まで出世した者ではない。
「さあ決めたまえハインツ大尉。軍法会議で処罰を受けるか我らとともに活躍するか」
「…」
「中佐である私が貴方を守りますから屈しないで!」
「私も弁護するから言っちゃ駄目だ!」
「答えろハインツ・ヒトラー大尉!」
「…」
苦渋の決断を突き付けられた人狼は何も答えることができずに、いつものように押し黙る。しかし幼少期に傍で人狼を見ていたバルクホルンだけは気づいていた。人狼は今とてつもなく動揺していることに。
たった一瞬が永遠に続くように感じるほどだったが、ようやく人狼に動きがあった。
「……ようやく銃を下ろしたか」
「…」
「結果はわかる。私のもとへ来るがいい」
マロニーが人狼の手を取ろうと手を差し伸ばした。だがその瞬間、人狼の体から大量の霧が噴き出した。ドライアイスの如く冷気を振りまき、敵味方問わず周囲は混乱状態となった。何をしでかすのかと霧に包まれる人狼とバルクホルンに注目がいくが人狼は完全に霧に吞まれて詳細に見ることができない。
「こ、これはいったい!?」
「おいおい何が起きたンダ!」
「……なんだか嫌な予感がするよ」
「わかるわ。大型ネウロイを相手取るのと一緒の感覚ね」
起きている不可思議な事象を前に悪寒が走るミーナとハルトマン、周囲が完全に霧に包まれた時人狼が居たところから狼の遠吠えが上がった。臓器を揺らすほどの力強さがある遠吠えは聞いた者全員に恐怖を与えた。ステン短機関銃を構えていた兵士たちも混乱して照準が定まらない。
使い魔による者ではないかと推察した坂本だったが、明らかに並大抵の大きさの動物が出せる声量ではない。それこそ大太鼓を叩く以上の音だ。
そして霧が晴れた。
―――――――そこにいたのは人狼ではなく、巨大な狼だった。
「で、デカい狼だと……!?」
「うわあああああ!!」
「な、なんなんだあれは!」
「ば、化け物め!!」
「殺せ殺せ殺せ!」
「ま、待て!」
兵士たちはマロニーの静止を無視して機関銃を連射する。しかし何十発も弾丸を撃ち込まれても大狼は動じない。それどころか兵士たちの方へ凍てつかんばかりの視線を向ける。
「か、体が動かねぇ……」
「見られただけなのに、なんだこの震えは……!」
「か、勝てねぇ……本能で理解した……」
一瞬にして兵士たちの士気を挫いた。ウィッチの全員も奇想天外なこの状況には絶句し、体が動かせなかった。幾多の戦場を駆けたエースでさえも耐えることはできなかった。
大狼の足元ではバルクホルンが意識を失って倒れていた。遠吠えによるショックと明かされた真実がバルクホルンの精神に深刻なダメージを与えたのだ。
ギラギラとした眼光でバルクホルンを一瞥すると、大狼はマロニーに関心を向けることなく建物を飛び石のように使いながらその場を立ち去った。
現場には大きな足跡だけが残されていた。
ステン短機関銃
イギリスで生まれた短機関銃。エンフィールド王立造兵廠が1941年に開発した。
ダンケルク撤退でイギリスまで逃れた英仏軍の兵士たちの多くが無装備状態であった。従ってこれを補う小火器の大量供給は急務となった。
レンドリース法でアメリカからトンプソンなどの銃器が送られるがドイツ軍の潜水艦によるウルフパックで中々得ることができないでいた。
ドイツ製のMP28とMP40を参考にステン短機関銃は作られた。一丁あたりの製造単価はわずか7ドル60セントであるためイギリス軍の再配備に活躍したという。