基地郊外のバス停ではミーナとハルトマンが次に来るバスを待っていた。両者は失意と不安でいっぱいいなのか顔色が悪い。
ミーナは密かに発動していた固有魔法を解いてため息を吐く。
「やっと監視も無くなったわ」
「あいつらずーと後を付けてきてさ。面倒だったね」
「そうね。けどいくら優秀でも固有魔法で引っかかってしまえば意味はないわ」
「どうするミーナ。このままカールスラントに残って祖国奪還のために戦っちゃう?」
「あら、冗談かしら」
「そうなことないよーだ。だってさ、ようやくハインツ大尉とうちらで戦えたんだよ?もったいないじゃん」
「あら、貴女と私はほぼ同意見よ」
人差し指を立ててニコリとミーナは笑う。ハルトマンは自分と意見が合致したことに喜ぶ半面、笑顔の裏にどこか闇があるのではないかと察した。伊達に上層部と張り合っていることはある。
「それにね宮藤さんが言っていたことも気になるの」
「ネウロイと友達になるってことか?」
「いいえ、ウォーロックがネウロイと接触していたって話。宮藤さんがあの話をしていた時のマロニー大将の焦りは何か秘密があるんじゃないかしら」
「あっ!そうだよミーナ。報告義務違反とかの何らかの問題を提示して基地に再侵入しちゃえばいいんだ!」
「そういうこと。けどここからどうやって……」
基地郊外といえど基地に向かうにはいささか遠い。歩いて向かえば着くのは夜になってしまう。とかいって基地に向かうバスはない。
二人はベンチに座り、頭を捻っていると車のエンジン音が近づいてきた。
「あっ!そこのトラックー!」
我先にと立ち上がったハルトマンは手を頭に回してくびれを主張したポーズを取って車を静止させようとした。
しかし現実は非常にもハルトマンのために止まることなく通過してしまった。
「こらー!このセクシーギャルを無視すんなー!」
「しょうがないわよ。次の車を狙いましょ」
「うぅ……納得いかないよ」
「ほら次の車が来たわよ。今度は私もやるから」
「本当!?ナイスバディな二人だったら余裕だね!」
「そ、そうね」
ハルトマンの発言に一瞬だけ困惑するミーナであったが、いつ次が来るかはわからない車に乗るために気合を入れた。
こちらに向かってくる車種はフォード・プリフェクトと呼ばれるブリタニア製の車だ。丸みを帯びたボディと改造余地の大きい構造なので人気は高かったが、今大戦が勃発してからは生産されなくなった。なので非常に珍しい車輛である。
「そこのお兄さーん!止まって~!」
「そ、そうよ。止まりなさ~い!」
何故か慣れているハルトマンと羞恥心を最後まで捨てきれなかったミーナはタコ踊りでも踊っているのかというレベルのポーズを決めた。
普通ならこのダンスを前に止まる者はほぼいない。しかしあろうことかその車は彼女たちの前で停止した。
「やったー!」
「すみませんが乗せてくれませんか?」
ミーナは運転席に居る運転手に交渉をするため近づいた。するとキュルキュルと音を立てて窓ガラスが開いた。
「……どうしてミーナ中佐が?」
「…」
「あー!君はッ!」
運転をしていたのはハルトマンと密会を開き、また片足のエースとして名を馳せたステック・セラック少尉が居た。
何かマズいものでも見てしまったと困惑しながらも歪な苦笑いで場を乗り過ごそうとするステックにミーナは羞恥で紅潮し、顔を覆い隠している。一方でハルトマンは顔なじみに会えたことに驚いていた。
「久しぶりだねステック少尉。まだ基地に居たんだ」
「そうですよ。まったく何故貴方たちがタコ踊りをしていたのかは知りたくもないですが、基地の様子が若干怪しそうですね」
「もういや…私だって乙女なのに……」
「えぇ!?なんで知ってるの!?」
「そりゃあ今日俺は非番だから仲間からの依頼品を買って帰ろうとしたんです。そしたらやたら戦車や装甲車や人員トラックやらで道が混んでで大変でしたね」
「どのくらいの量だったか覚えてる」
「いいやわかりませんが、無駄に戦車と装備が最新鋭でしたぜ。何か大規模攻勢でも仕掛けるつもりで?」
「……じゃあうちらも基地に行くよ!ほらミーナ行くよ」
「もうお嫁にいけない……」
「……まさかだけど貴方ら解散命令喰らいました?」
二人の行動に不信感を持っていたステックは鋭い観察眼で第501統合戦闘団ストライクウィッチーズの解散を言い当てた。図星をつかれてギクリと肩を震わせるハルトマンにステックはため息を吐いた。
「どうしよっかなぁ。いくら貴方たちの階級が上とはいえ、うちの軍隊じゃない。それに貴女らの命令違反に加担するわけだし、悩むなぁ」
「お、お願いだからさ!」
「いやだってさ。うちの最新鋭戦車が走ってたんだぜ、絶対うちの大将の誰かですぜ。まあ検討はつくんですけど」
「そ、そんなこと言わないでさ。ほらサインもあげるしセクシーポーズもしちゃうから」
「……そんな貧相なボディでよくやろうと思いましたね。義手まで鳥肌が立ちそう。てか俺の性癖普通だし」
「何をー!」
ひどい言われようにムキになるハルトマン。ステックはしょげているミーナに一瞥すると、やれやれという態度でため息を吐いた。
「まあミーナ中佐には世話になったんだ。わかりました、俺が貴女らを連れていきましょう」
「本当!?」
「……それって嘘じゃないわよね?」
「そうですよ。その前に貴方らにはしてもらうことがある」
「何だよー」
「乗車中は俺に拳銃を向けた状態にしてください」
「本気で言っているのかしら」
「せめてもの保身です。脅迫されて仕方なく運転していたとわかれば、俺は無罪。さらに運転の最中に検問に捕まってもそれを俺を人質に強く出れる」
「……失敗したら軍法会議もんだよ」
「わかったわ。貴女の提案に乗りましょう」
「いいのミーナ?」
「えぇ、これも仕方がないことよ」
「交渉成立です。ささっ、早くお乗り」
自分が痛手を被らないように保険を掛ける男、それがステックという人物だった。姑息でずる賢いのはブリタニア紳士のさがである余談ではあるが渋滞に巻き込まれるのが嫌だったので、渋滞が解消するまでの間呑気にカフェで紅茶を嗜んでいた。
かくして車に乗り込んだ一行は基地へと出発した。車内では言われるがままにハルトマンとミーナは銃口をステックに向けていた。しかし先程の発言が気に障っていたハルトマンはゴリゴリと銃口をステックの頭に押し付ける。
「滅茶苦茶痛いんですけど。恨みとかあります?」
「全然ないよー」
「嘘だぁ!絶対恨みあるでしょ!あくまで俺は真実を言ったまでなんですが!?」
「そんなの知らなーい」
「……まあセーフティーが掛かっているなら安心――――」
不意に車が地面の凸凹で跳ねた。車内はぐらりと揺れてしまい、ハルトマンは不意に引き金を引いてしまった。パーンと乾いた銃声が車内に響き、火薬の臭いで充満した。フロントガラスには弾丸が突き刺さり、ひびが入っていた。
「あんた馬鹿かッ!? 何故セーフティーが外れてんだ!!」
「あれぇ?整備不良かな」
「マジで言ってんの!?」
「……あの失態を帳消しにするには殺害すれば」
「どうしてミーナ中佐は証拠隠滅のために暗躍しようとするんですか!さっきのは墓まで持ってきますから!」
ステックはすでにハルトマンたちを乗せてしまったことに後悔していた。先程の事故が起きないよう慎重に車を運転していると、基地の方からキラリとした輝きが上空に向かって飛んでいった。
「あれはもしかして……!」
「ウォーロックだわ」
「大忙しだね」
「軍の上層部にウォーロックの強さを認めさせたいのよ。そして量産の指示を取り付けたい。それにしてもウォーロックは一機しかいないのに実戦なんて」
「戦果を挙げて隠したいことがあるんじゃないか?」
「彼らの化けの皮を剥すチャンスね」
「……あれ、もしかして俺大変な事態に巻き込まれてる!?」
「にしし、少なくとも君は共犯じゃないから安心してよね。……まあ秘密裏に消されるかもだけど」
「嫌だー!どうしてこんな不幸なことに巻き込まれるんだ!」
「ほらあまり動くとまた撃っちゃうぞ」
「あぁやめてやめて!銃口を頭に押し付けるな!」
小悪魔というよりは悪魔に化けたハルトマンは悲鳴をあげるステックで愉しんでいた。これをご褒美と受け取る変人もいるが、残念ながらステックは普通の感性を持っていた。
片足の英雄は泣き言と愚痴を零しながら三人のエースは基地へ急行した。
フォード・プリフェクト
イギリスで生まれた車輛、イギリス・フォードが1938年に開発した。
英国フォードの低価格クラスを担う主力車種としてシェア獲得に貢献し、戦時下では生産はされなかったが1961年まで生産された。
軽量ボディと扱いやすい直4エンジン、平凡堅実で改造余地の大きい構造によりモータースポーツ愛好家から愛された。