ダキアに怪異が上陸してから二週間が経過した。
ダリア王国の軍隊はほぼ壊滅し、武器は全体の七割を失う大損害を受けた。
そして怪異たちは止まることを知らずに、都市を次々と陥落させていった。
ダリア王国の民は周辺国に避難したものの、少なく見積もったところでは約百万人が犠牲になったと報道されていた。
黒海に停泊させていた軍艦も上陸されて間もない時に撃沈、戦車は全体の八割が撃破、砲などの被害も甚大で、生き残った兵士の数も全体の三割にも満たなかった。
ウィッチなどは元々百人在籍し、十個部隊が編成されていたが、怪異の数に押されてついには僅か十名ほどまでに減ってしまった。
制空権を取り返そうものの、航空機も少なくウィッチも少ない。残存兵力では勝ち目は無かった。
まだ怪異の群れは止まらない。
怪異たちはダリア王国だけでは飽き足らないのか、黒海を通じてオラーシャ帝国に侵攻した。
ダリア王国が侵攻されたのを境にオラーシャ帝国は軍艦を沿岸部に置き、固定砲台として使用。対空砲や高射砲を用意し始めた。最新の航空機や戦車を配備させて、常に万全の状態に揃えた。
ウィッチもオラーシャ帝国の精鋭部隊を配属、最新のストライカーユニットを与えていた。
それでも、怪異は鉄壁の守りを突破した。
蹂躙の蹂躙の蹂躙を続け、次々に都市を陥落させていった。
女子供を見境なしに殺し、歴史的建造物を破壊し、ただひたすらに前へ前へと突き進んでいく。
もはや簡単には止められない、全世界を巻き込んだ舞台が始まった。
役者の名前はネウロイ、怪異の役として会場を沸かせる。
進め進め進め、壊せ壊せ壊せ、殺せ殺せ殺せ
それだけが怪異たちの行うことが出来る演技である。
ネウロイたちはダリア王国全土を支配すると、次は周辺の諸外国に侵攻を始めた。
避難民を増やし、まるでゴミを掃けるかのように排除していく。
そんな中で、カールスラントからは義勇軍が派遣された。
ウィッチや戦車、歩兵部隊は戦場へ赴き、その中には人狼が居た。
人狼は一年間、ウィッチとしての訓練をみっちり受け、安定して飛べるようになるまで成長した。武装はMGFF機関砲を二梃装備している。
身長も大きくなったため、腰には銃身の長い特注品のモーゼルC96にその上からMGFF機関砲の予備弾倉が掛けられている。予備弾倉はドラム型なので大きく、まだ身長160センチ台の人狼の体には不釣り合いだ。取りあえずと集束手榴弾が後ろに括りつけられている。
素格好はアフリカ戦線で着ていた茶色のオーバーコートを身に纏い、院長から貰った規格帽を深く被っている。
「さて、ネウロイとの戦闘とは初めてだけど気ぃ引き締めていくわよ!」
「…」
長機のアニーサ中尉から注意されるのに対し、相変わらず人狼は黙っている。ちなみに今の人狼の階級は軍曹だ。
「まさか生徒と組むこととなるとはね、意外だわ」
「…」
「ちょっと少しぐらい喋りなさいよ。悲しくなるわ」
「…」
「はぁ、普段は言うこと聞いてくれる楽な生徒だけど何故こうなのかしら…」
左手で頭を押さえる。彼女の悩みの種は意思疎通だった。こちらから指示するとその通りに動いてはくれるのだが、人狼は普段喋らないために何を伝えたいのかがあまり理解できなかった。人狼が基本他者に伝える時は僅かな手信号だ。
こうして空を飛び続けて二十分、ネウロイによって炎上している街の上空から小型のネウロイが数を群れてこちらに攻撃を仕掛けてきた。
彼女の固有魔法はいわばレーダーのようなものでいち早くネウロイを発見することが出来た。
「散開!」
「…」
指示を促したあと、ネウロイから赤い光線が放たれる。
「ちぃ!」
彼女は障壁を張ってその攻撃を防いだ。
人狼は障壁を張らずにそのまま突っ込みながら、機関砲をひたすら撃ちまくる。
「…」
人狼の放った銃弾がネウロイに当たり、その身を削られながら白い破片へと変わり果てた。
初めての撃破である。
「私より先に初撃破とはやるじゃない。私も負けてはいられないわ!」
彼女は持っていたMG15機関銃に魔法力を注ぎ連射した。
音が繋がっているほど連射速度の速い機関銃はネウロイに当たり、削り、白い破片となって撃破した。
「やったわ! 初撃破よ!」
「…」
「…ごほん、さてお仕事お仕事!」
ネウロイの攻撃に怖気づくこともなく一体、また一体と人狼は撃破していく。
彼女も負けじと着実に撃破をしていく。
しかし、一本の光線が人狼の左腕を抉り取った。断面からおびただしいほどの血液が流失する。
「ハインツ!!」
「…」
人狼の特性は強い自己治癒能力だ。
左腕は機関砲ごと霧のようになり、霧は左手に撒き付いた。
すると、あろうことか霧は元の左腕の形に戻り、手には機関砲が握られていた。
人狼は機関砲ごと霧に変換することが出来る。しかしそれは、自分の身体の一部ではないため、魔法力を多少使うのが欠点だ。
「あ、相変わらず凄いわね。その能力…」
「…」
光線を放ってきたネウロイにお返しといわんばかりの銃弾を浴びせた。白い破片となって地上へと降り注ぐ。
後ろから追ってくるネウロイに彼女は右へ左へと攻撃を躱していき、ネウロイの隙を見て後ろに機関銃を向けて撃つ。弾丸はネウロイに無事当たり体を砕いた。
撃破したあと、機関銃に取り付けていた弾倉を捨てて腰から新たな弾倉を再装填した。
空戦を続けているうちに攻撃してきた小型ネウロイを掃討することに成功した。
だが、彼女の弾倉は一つだけで、人狼の弾倉は二梃の機関砲に入れている分だけだ。
そろそろ基地に帰投しなければならない。
しかし、そうは問屋が卸さない。
「ッ!? 大型のネウロイが東から接近しているわ!」
「…」
「マズいわね、仲間も私とハインツの二人だけだし、てか偵察任務で大型に遭遇するとか運が無いわ!!」
「…」
「と、とりあえず基地に報告しなきゃ…!」
あたふたと慌てている彼女は基地に増援部隊の要請を頼んだ。
そんな彼女をよそに人狼は一人で大型ネウロイの元へと飛んで行ってしまう。
「あー!? 何で行っちゃうのかな、あの子!! えーと、まずは増援要請っと…」
人狼は魔法力を多く流し込み、大型ネウロイ目がけて急接近。するとネウロイの方も人狼の存在に気付いたらしく、何本もの光線を打ち込んできた。
人狼は障壁を最低限使用しつつ、基本的には躱しながら接近する。ネウロイの大きさは二百メートルほどだ。
ある程度まで接近したら機関砲を乱射、ネウロイの硬い装甲が二十ミリの圧倒的破壊力に負けて削られていく。
たまに光線が胴体や顔に当たるも即座に治癒、攻撃を再開する。
「…」
右手に持っていた機関砲を手放し、後ろに手を回す。後ろから集束手榴弾を取り出し、口でピンを引き抜き、自慢の腕力で投擲した。
ネウロイに当たった瞬間に大きく爆ぜた。
すると、ネウロイの中から大きな紅く光る大きな塊が露出する。それがネウロイの核だ。中型のネウロイや大型のネウロイには核があり、それを破壊すれば白い破片に姿を変えて撃破となる。
核を守るために装甲を再生をしようとするももう遅い、何故なら人狼は核目がけて機関砲の銃弾を全弾撃ちこんだからだ。
銃弾は核に吸われるかのように向かっていき、破壊された。
無数の白い破片が地上へと降り注いでいる。その光景は実に幻想的とも言えるだろう。
燃え盛る街に雪に似た破片がパラパラと舞い散る。
少し時間が経過すると耳に付けていたインカムからアニーサ中尉の声が響いた。
『ハインツ! 反応が消えたけど、もしかして撃破したの!?』
「…」
『…そうだったわ、普段喋らないあなたが無線だなんて使える筈ないわよね。なら撃破したのなら銃で音を鳴らしなさい』
人狼は真実を伝えるために機関砲の銃身とモーゼルの銃身で音を鳴らす。冷たく乾いた無機質独特の音だ。
『本当に撃破したのね、呆れたわ。さっさと戻りなさい、基地に帰投するわ』
「…」
ユニットを駆りたて、彼女の元へと向かう。
戻ったら彼女から拳骨を喰らう羽目になった。上官の指示を無視して行動したからだ。
余談だが、単独で大型ネウロイを撃破したことがランデル閣下に伝わると、喜びながらすぐに人狼の階級を上げるための書類を書き始めた。
その時、ダロンは思った。あの閣下が真面目に仕事をしている、と
人狼は十体の小型ネウロイのうち六体撃破、大型一体撃破という華々しい戦果はすぐさまラジオや新聞を通して民衆に伝わり、男性初のウィッチという称号にも負けないような戦果を出したために、カールスラント国内では英雄的扱いを受けていた。
人狼自身、顔は良い方なのですぐにファンクラブが設立され、多くのファンが人狼にワインや煙草などの物を贈った。
その中には同職のウィッチの存在もあったという。
MG FF機関砲
ドイツで生まれた機関砲。しかしライセンスはスイスのエリコンFF 20mmの派生である。1936年に開発された。銃口は二十ミリ。
第二次世界大戦の初期にドイツ空軍に使われたが1941年から20mm MG151/20に変更された。
ドラム弾倉型なので装弾数は少ないが数々の戦闘機の武装として活躍した。
余談だが、20mm MG151/20がbf110に搭載されても、後部コックピットにすっぽり納まったという。