人狼は夢を見れるのか   作:渡邊ユンカース

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破壊

朝の七時、基地では起床して食堂に行って、朝食を摂る兵士で埋め尽くされている。

それはどの兵舎でも同じでウィッチの兵舎も例外ではなかった。

 

 

「端っこに居るのってハインツ軍曹じゃない?」

「きっとそうよ。カッコいいわね。昨日大型ネウロイを撃墜したって持ちきりよね」

「しかもああ見えてまだ十四歳にも満たないらしいわ」

「うっそ!? だけどそのギャップが良いわよね」

「そうそう! 愛くるしいわよね!」

 

一部人狼の話題で持ちきりなのを知ってか知らずに人狼は朝食を食べ続ける。

 

トレイに積まれていたパンの山が一つ、また一つと消えていき、パンの小山へ姿を変えている。その反応を見てあるウィッチは可愛らしいと声をあげている。

普段はアニーサ中尉と食べているのだが、今日は始末書やらで忙しいそうで、暫くは続くと考えられる。

出撃したいという気持ちが強まっているが、無口なので意思伝達が難しいという点と、見たら精神が削られるほど印象的な自己治癒があるので簡単には組めないでいた。

すなわち、出撃をしてもしなくてもいいということだ。

 

「…おい、ハインツ軍曹。隣に座るぞ」

「邪魔します」

「…」

 

誰も居ない隣の席に二人の女性が座る。

一人は長い銀髪を結わいている如何にも気の強そうな女性と氷のバラを彷彿させる女性だ。

特に断るような理由もなかったので頷き、隣に座ってもいいと許可を出す。

 

「ありがとうな、ハインツ軍曹。私の名前はハンナ・ウルリーケ・ルーデル。階級は大尉」

「ルーデル大尉の副官を務めるアーデルハイトです。階級は少尉」

「…」

「ふっ、まさか期待のルーキーが君のような男性だったとは、まさにお伽噺のようだな」

「…」

「…喋れないのか?」

 

 

階級的も年齢も自分より上の女性に問われたが人狼は一向に喋らずにいた。

そのため、このような事態になることが多々あったがそれは慣れている。彼女の問いに首を横に振る。

 

「そうか、単に無口ということだな」

「…」

「ルーデル大尉、食べ終わったらどうします?」

「何を言う、いつも通りネウロイを殲滅だ」

「…はあ、護衛のウィッチたちが嫌がっているのでやめてあげてください」

「断る。ネウロイをたくさん倒せば勝利が来る。これは子供でも出来る計算だぞ」

「その結論に至るまであと何体倒せばいいのですか?」

「無論、勝つまで」

「…」

 

 

似ている。

 

ほぼ無限に湧き出ている敵に対し、立ち向かっていく姿を人狼は見たことがあった。

 

 

アンデルセン神父

 

 

彼も大人数の敵に道を遮られようと彼は勇敢にも立ち向かっていった。勝ち目がほぼ零に近い確率であっても彼は諦めず、己の宿敵に立ち向かう姿が彼女と酷似していた。

 

人狼はルーデルの裾を引っ張る。

何事かと彼女が顔を向けたので、彼女の目を見つめる。

彼女は意図を読み取ったのか、口元を緩ませながらアーデルハイトに声を掛けた。

 

「…なあ、アーデルハイト」

「何でしょう」

「今日担当する護衛が決まったぞ」

「…まさか」

「あぁ、そうだ。彼にやらせよう、並のウィッチよりかは強いはずだからな」

「ハインツ軍曹、本当にいいのですか?」

 

彼女の問いに頷く、こちらが頼んだのだから断る理由など皆無だ。

するとルーデルは微笑を浮かべながら彼女の手が人狼の頭に置かれた。

いきなり頭を乱暴にに撫でられた。帽子の上からだったが手の温かさが確かに伝わった。

 

「お前は良い子だな」

 

手の温かさを感じていると、ふと脳裏に院長が言っていたセリフが横切る。

人狼が下の子の面倒を見ていた時に同じようなことをされたことを思い出す。

院長の手は大きく皺だらけで彼女の手とは断然違ったけれども心地良かった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「さて、何処にネウロイはいるのだろうか」

「ネウロイは金属を食べるとされているので街付近にいるかと」

「わかった行こう、護衛頼んだぞハインツ」

「…」

 

彼女たちはJu87のユニットを履き、250キロ爆弾を背負っている。

念のためとMP40を肩に掛けてはいるものの、いざネウロイと戦おうとしてもユニットが低速なので苦戦するだろう。なので護衛が必要なのだ。

彼女の目的は陸にいるネウロイを破壊することだ。

航空ネウロイとは違い、陸戦ネウロイは装甲が桁違いに厚いのでは航空ウィッチの機関銃では力不足だった。

そのため、空から攻撃を喰らわす方法は爆弾や大口径の機関砲、集束手榴弾だ。

 

「小型ネウロイ発見、一匹です」

「腕の見せ所だ。行け軍曹」

「…」

 

一匹の小型ネウロイが彼女の元へ迫ろうとしていた。

期待に応えるかのように小型ネウロイに向けて人狼は機関砲の引き金を引いた。

放たれた銃弾は易々とネウロイの体を抜いて撃破した。

 

「流石だ。君を護衛にして正解だった」

「そうですね、今の反応速度は恐れ入ります」

「…」

 

ユニットを暫く駆ると眼下には街が見える。

先日来た場所だ。燃えていた街は鎮火されており、辺りを黒に染め上げていた。

その時に、黒に紛れて紅く光るものをルーデルは見つけた。

 

「そろそろだな、行くぞアーデルハイト!」

「了解、軍曹も来なさい」

 

ルーデルを先頭に彼女らは降下を始めた。人狼もその降下についていく。

 

「さあ鳴らせ、ジェリコの笛を!」

「中型二体確認、左は私が」

「いいや、全部私がやる!」

「馬鹿言わないでください」

 

ユニットから出される風切り音がまるでラッパのように聞こえる。

けたましい音に気付いたのか陸戦ネウロイは光線を放つも彼女たちの障壁に遮られている。

彼女ら爆弾を手から離す。素早く体を起こして急上昇をした。

爆弾はシュルシュルと二体の陸戦ネウロイに吸いこまれていって爆ぜた。

残ったのは爆発でできた穴だけと周辺の建物の瓦礫だけ、それ以外は吹き飛んでしまった。

 

「…撃破したな。完璧に」

「そうですね大尉」

 

 

その時、人狼は何かを感じ取ったのか瓦礫目がけて撃ちこんだ。

瓦礫の中からは大型陸戦ネウロイが顔を見せる。そして顔から太い光線を放った。

 

「なっ!?」

「えっ!?」

「…」 

 

すぐに障壁を展開する。彼女らを守るために余分な大きさの障壁を張っているので魔法力の消耗が激しい。

しかも光線の出力が高いのも相まって障壁にひびが入る。

ひび割れた所の隙間を縫って光線が人狼の脇腹を抉りとった。

 

「ハインツ!!」

「軍曹!!」

 

口から吐血し、霧が脇腹に撒かれる。

ひびが増えてそこから光線が侵入し、履いていたユニットを破壊させた。

不安定な状態に陥ったため、体のバランスを崩して人狼は眼下の街へ墜ちていく。

 

「今助けに!」

「うっ!」

 

ルーデルたちが急いで機体を駆ろうとするも再びネウロイが出した光線に足を止められていた。

人狼は空中でユニットを強制的に脱ぎ捨て、何とか地面に着地することが出来た。高度が低かったため足の骨折ぐらいで済んだ。

 

瞬時に治癒し、軍靴で瓦礫を踏みつけながら機関砲を乱射する。

体を露出していたため、弾が非常に当たりやすかった。

しかし、威力は不足していたので決定打を与えられずにおり、放たれた光線に体を切断された。

さらに不運なことに機関砲の弾薬と集束手榴弾に誘爆、体が銃弾に貫かれてしまった。

 

「ハ、ハインツ!!」

「きゃあああああああ!!」

 

霧が人狼の体を覆うかのように撒く、後から土煙が辺りを覆い尽くした。

その惨状を見たルーデルは唇を噛みしめ、アーデルハイトは顔を真っ青にしている。

 

「そ、そんな…」

「クソ! 私が、私があの大型に気付いてさえいれば…!!」

 

ネウロイは勝ち誇っているかのように穴を掘り、再び隠れようとしている。

 

 

だが、そうはいかない。

人狼は今の状態では勝てないと見込んで体そのものを変えた。

人間的だった顔は狼のような獰猛な顔に、人間的な体は大きく毛並みの揃った体に、爪を尖らして眼を紅く光らせ、三メートルはあるだろう巨体に変貌を遂げた。

 

人狼はネウロイの足の一部に噛みついて力任せに引きずり出す。

ネウロイは抗うことも出来ずに人狼の思うがままにされる。

鋭い牙と爪で足を切断されて再生するも再度切断され、腹部や頭部に核があると思い、切り裂いていく。

ネウロイは甲高い断末魔を上げる。

 

 

「な、なんだ! 何に対する絶叫だ!!」

「ま、まさかですけど。軍曹が…」

「だけど確かに切り裂かれて死んだはずだ! お前も見ただろ!」

「で、ですが」

 

土煙の中で行われていることに戸惑いを隠せない二人、ようやく核を見つけた人狼はその核を噛み砕いた。

大きかった体は白い破片となり、辺りに積もった。

標的を撃破したので人狼は元の体に姿を戻した。丁度土煙が晴れる。

 

 

「ハインツ!!」

「軍曹!!」

 

二人は人狼を見つけるとユニットを脱ぎ、駆け寄って来た。

ルーデルは人狼の肩を揺らしている。

 

「ハインツ体に異常は無いか? 何処も痛くは無いか?」

 

その返答に頷く、するとルーデルはうっすら涙を浮かべながら抱擁をする。

身長の高い女性に抱擁された経験など一度もないので少し困惑していた。

 

「よかった、本当によかった…!」

「…」

「だけど確かに体は切られたはずでは…」

「ハインツ、一度腹を見せてみろ」

「…」

 

人狼はオーバーコートを脱ぎ、腹を見せる。腹には傷跡がうっすらと残っている程度だ

しかし、幼くも鍛え抜かれた筋肉に二人は目が離せずにいた。

ルーデルに至っては喉を鳴らして生唾を飲み込んでいた。

 

「凄い筋肉だ。ガッシリしている」

「そうですね大尉。まさかコートを脱いだら裸だったのは驚きましたがこれも驚きですね」

「にしても見ろこの筋肉、これは将来に期待できるぞ」

「はい、大人なるのが楽しみですね」

何を言っているのか理解できない人狼は首をかしげる。

 

 

ルーデルたちは人狼を背負って基地へと帰投した。

基地に帰投したらアニーサ中尉が駆けつけて来てくれた。そして彼女から人狼の自己治癒の件を聞くとルーデルは羨ましそうな眼で人狼を見ていた。

 

その後、ルーデルとアーデルハイトは人狼のファンクラブに入り、ルーデルは後にファンリーダーを務めるほどになってしまうことを知る由はないだろう。

それと人狼の風呂上がりを盗撮された写真がウィッチ内で高く取引されていた。

 




Ju87

ドイツで生まれた急降下爆撃機でシュトゥーカ・スツーカ・ストゥーカ・ステューカと呼ばれている。ユンカース社製。
第二次世界大戦の終始主力として用いられた理由は後継機が出来なかったから。
逆ガルの翼で複座式の爆撃機で、固定脚が特徴で速くはないが頑丈。
初登場の戦場はスペイン内戦で急降下時に発する風切り音がラッパのように聞こえることからジェリコの笛ラッパと言われる。
急降下する際に付けられるダイブブレーキが有能であった。
武装は初めは七ミリ機銃二挺と後部機銃が七ミリのが一艇だったが、D型に変わると武装が二十ミリに後部機銃が七ミリのが二挺となった。
ガンポットが積めるので武装の向上化もあり、搭載量は1.5トンほどだ。
G型には三十七ミリ機関砲を付けていたが評価は悪い。

Ju87のパイロットと言えばルーデルが有名である。
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