人狼は夢を見れるのか   作:渡邊ユンカース

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若狐

とある夜

 

この日は満月であり、普段よりも明るく辺りを照らしていた。窓から月光が漏れて部屋を明るくする。

ウィッチと兵士の一部を除いて殆どの兵士たちは兵舎で寝息をたてている。

しかし人狼は、人狼という種族特有の満月の影響のせいで身体が火照り、なかなか眠りにつけずにいた。

幾らベッドの上で態勢を変えて寝ようとするも増々眠気が消えていき、目が冴えだしてしまった。

仕方がないので外へ赴くことにした。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

人狼は基地周辺を散策している。

滞在してもう一週間は居るがなかなか自由に動けずにいた。

辺りをうろついているだけでウィッチたちからサインを求められているからだ。アニーサ中尉やルーデル大尉が時折守ってはくれるものの、二人が居ない隙をついてサインをねだる。しかも、プライベートの時間にも見境なく行動する彼女らに対し、人狼は疲れてしまった。

このことを知った基地の責任者はすぐさま仮設の小さな小屋を用意と人狼を守る軍規を作ってくれた。

部屋は狭く、やや食堂からは遠いがゆっくりと過ごせるので苦は無かった。

 

 

暫く、外で歩いていると狐の耳を出した少女がオカリナを吹いていた。

ベンチに座って月を見つめながら吹いている姿は妖艶さを醸し出して、例えるなら銀狐が吠えているようにも見える。

自身の教訓を得てプライベートの時を邪魔してはいけないと思い、踵を返す。

だが不運にも木の枝を踏み鳴らしてしまった。

 

「誰?」

 

後ろを振り向いた少女に対して、脳裏にはそのまま走り去ってしまおうという案が浮上した。

しかしそれはあまりにも無礼な行動だと認識してそのまま動けずにいた。

 

「もしやハインツ軍曹ですか?」

「…」

「…そ、その見ちゃいましたか」

 

彼女の質問に人狼は正直に首を縦に振る。

みるみるうちに彼女の顔が朱色に染められていく、きっと彼女の中で羞恥心が感情を支配していると見受けられた。

 

「う、うるさくしてしまってごめんなさい。じゃ、じゃあこれで……」

 

彼女はそそくさと兵舎へと戻る。

しかしベンチの上にはオカリナがポツンと置かれているのが確認出来た。

人狼はすぐにオカリナを拾い、彼女の元へと走っていく。

だが彼女は走り向かって来る人狼に対し、恐怖感を抱いた。

何故なら無口で厳格と評判のエースが獲物を見つけたかの如く、こちらに走って来るからだ。しかも身長差は十センチ程離れているのも彼女の恐怖心を増長させているだろう。

 

「ご、ごめんなさーい!」

「…」

 

二人の壮絶な追いかけっこが始まった。

脚力が鍛え抜かれている人狼は瞬時に彼女の元へ接近するも、小柄な彼女は急なターンをしてなかなか追いつけずにいた。

その追いかけっこは狼が狐を狩ろうしている図そのもので、彼女は涙を浮かべながら必死に走っている。

人狼はというと前世で独りで生きていた頃に、動物を狩っていたことを思い出して、心なしか楽しんでいた。

 

 

だがその追いかけっこも終わることになる。

 

「きゃっ!?」

 

石畳と石畳の間に出来た隙間に彼女のつま先が引っかかり、転倒してしまったからだ。

追いついた人狼に対して、彼女は人狼に殺されると錯覚した。

 

「ごめんなさいごめんなさい、だから食べないで…!!」

 

ありもしないことを口走る彼女に首を傾けながら、両脇に手を突っ込んでそのまま持ち上げる。

そして軽い彼女を立たせた。彼女は目を未だにつぶっている必死に許しを請いていた。

彼女を追いかけた理由を伝えようとポケットからオカリナを出して彼女の目の前に差しだし、彼女の肩を優しく叩いた。

彼女は少しずつ目を開けていった。

 

「こ、これは私のオカリナ、どうして?」

「…」

 

その答えにベンチの方に指を差す。

彼女は何かを察したかのようにポケットをまさぐる。

 

「まさかオカリナを落としたことに気付いてくれたのですか」

「…」

 

ようやく出た答えに人狼は頷く。

 

「決して私を襲おうとはしてないと」

「…」

「はぁ、私はてっきり貴方が襲いに来たのだと。・・・あっ!? べ、別に敵意とか抱いてないですからね!」

「…」

「本当! 本当ですからね!!」

 

必死に弁解する彼女を人狼は信じることしか出来なかった。てかそれ以外に出来ないのだ。

寝る前の良い運動になったと感じた人狼は小屋へと帰ることにした。

 

「待ってください!」

「…」

 

彼女の言うとおりに歩みを止めて振り返る。

 

「ごほん、自己紹介がまだでした。私の名はエディータ・ロスマンです。階級は曹長です」

「…」

 

丁寧な言葉で彼女は自己紹介をしてくれた。

人狼は一本の枝を拾い地面に名前や階級を書いていき、それが終わると敬礼をした。

 

「敬礼なんてしないでください、私が無礼な行動をした訳ですし…」

「…」

「私とて善意を拒絶するようなことを起こしてしまった訳ですし、貴方が要望するものがあれば言ってください。…エ、エッチなのは駄目ですからね!」

 

 

人狼は彼女のオカリナが無性に気になっていた。だから彼女にオカリナを吹くように頼み込んだ。

彼女は要求を飲み、オカリナを吹き鳴らす。

 

それは綺麗な音色を奏でた。

人狼自身歌や音楽には疎かだったが、そんな素人にもわかるほど綺麗な音色である。

オカリナから発する綺麗な音色は、満月に向かって飛んでいく風景を想像して楽しんでいた。その音色は争いの連続で荒れていた心を僅かながら整えてくれた。

演奏が終わり、人狼は彼女に拍手を送った。彼女は照れているのか顔を染めて下を向いている。

まるで妹のノアのようにも思えたのか、自然と彼女の頭に手が伸びて撫でてしまった。

 

「ひゃう!?」

 

悲鳴にも似た声を上げる。しかし、最初は慌てふためいたが、徐々に満更でもないような顔立ちになった。

人狼が撫でるのを止めて離すと、彼女はもっと撫でてほしいのかこちらを上目づかいで見てくる。仕方がなしと人狼は撫でるのを再開した。

数分後、彼女は我に返ったのか人狼から距離を置いた。

 

「ご、ごほん! された後に言うのも何ですが、私の方が年齢も階級も上ですからね!」

「…」

 

無許可で撫でてしまったことに、すぐさま頭を下げて謝罪をする人狼。

突拍子もない行動に驚いたのか、彼女はたどたどしい声を上げた。

 

「あぁ別に嫌だったわけじゃないんです! ただ、そのですね、次回からは事前に言って貰わないと困ると…」

「…」

「そ、そうだ。ハインツ軍曹に伝えたいことがありましたね」

「…」

 

彼女は話を変えようと、別の要件を述べ始めた。

 

 

「実は私、第52戦闘航空部隊の曹長を務めており、別の前線基地で普段教育係を担当しており、その際に貴方をスカウトするようにフーベルタ・フォン・ボニン少佐とバルクホルン少尉からの要望です」

 

第52戦闘航空部隊、通称JG52。数々の武功をたててきたと評判だが、まさかそこに小学校時代のたった一人の友達が出てくるとは思ってもみなかった。

彼女はきっと人狼を追ってウィッチに入ったのだろう。

エリート組に格上げとなったら多くの人はそこに入るだろう。しかし、人狼は違った。

彼女たちの要望に首を横に振った。

 

「・・・そうですか」

 

するとロスマン曹長は悲しそうに答えてくれた。耳が垂れている。

己の死を知人には見られたくない、死ねないから死ぬための行動をする人狼の条件には合っていなかった。

 

「では、気が向いたらいつでも連絡してくださいね」

 

彼女はオカリナを大事そうに持ち、兵舎へと戻っていった。彼女の銀色の髪が月光で照らされて非常に美しい。

 

 

バルクホルン、彼女とは出来れば会いたくはない。

決して彼女を嫌っているわけではないが、人狼が死ぬ姿を見られたらきっと彼女は悲しむだろう。

その人狼の些細な優しさが、後に彼女を苦しめるきっかけになるとは人狼自身も知らなかった。

 




集束手榴弾

ドイツで生まれた手榴弾の一つ、大量の炸薬が入っており、有効範囲が十メートル、攻撃型手榴弾と呼ばれる。
第一次世界大戦に発明されたものでイギリス兵からはポテトマッシャーとも言われた。
なお戦車の装甲は破壊できないが、エンジン部や履帯の破壊などに用いられた。
ちなみに人狼が使っていたのはM24集束手榴弾。
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