「おりゃああああ!!」
「…」
アニーサ中尉が機関銃を振るうと小型ネウロイにまぐれで当たり、白い破片となって地上へ降り注ぐ。
人狼も負けじと機関砲を操り、予備弾倉も全弾消費すると魔法力を込めて今度は小型ネウロイに機関砲をぶつける。するとネウロイは粉々に粉砕されてしまった。
「いいぞー!」
「やっちまえー!!」
「流石はウィッチ様だな、男がいるが!」
下では兵士たちの黄色い声が上がる。
現在行われている戦闘は撤退戦だ。理由は至極簡単で、陸戦ネウロイが防衛戦を突破して内部に浸透してきたのでやむを得ずに撤退という判断に至ったからだ。
トラックには負傷兵で芋洗い状態になり、戦車の上には兵士が足を負傷した兵士が腰を下ろしている。
また遠方では爆発音が聞こえる。
ルーデル大尉率いるJu87爆撃部隊とHs123を操るダリア王国のパイロットたちが後方から追従してくる陸戦ネウロイを爆弾で粉砕、撃破を繰り返している。
二回ほど捌ききれなかった小柄な陸戦ネウロイを人狼が集束手榴弾と機関砲を用いた攻撃で撃破している。
「やるわねハインツ」
「…」
「撃墜記録は負けてるけど、私の方が訓練歴は長いんだからね!」
「…」
機関銃の再装填をしながら聞いてもいないことを言うアニーサ中尉、だが実際は、前世での戦歴を含めると人狼の方が断然上だった。
「あれがエースのアニーサ中尉とハインツ軍曹か…」
「すげぇよな、中尉もなかなかな戦果を挙げているけど軍曹もやべえ戦果挙げてるんだぜ」
「確か世界初の男性ウィッチ、じゃなくてウィザードで撃墜記録が五十機だっけ」
「しかも陸戦ネウロイも含まれてるらしいぜ」
「大した人だよ、まだ派遣されてから二週間なのに」
「俺らも頑張らないとな」
「おっ、ウィザートになるつもりか?」
「誰が童貞じゃボケェ!!」
「アニーサ中尉とハインツ軍曹、基地に帰投するわ」
『了解、すぐに代わりのウィッチがじきに着くので先に帰投せよ』
無線を切り、そのまま真っすぐ基地に帰投した。
下から湧き出る歓声に図に乗ったのかアニーサ中尉は手を振る。そしたら兵士たちがこちらに振り返してくれた。ある者は上着を脱いで振り回している。
皆が共通して笑顔であった。
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基地に帰投して、ハンガーで人狼は己の機関砲の整備や拳銃の分解をして手入れをしている時に、不意に後ろから気配を感じた。
他の用事があるのだろうと無視して整備を進めていたら、後ろから棒状の物を振り下ろされた。
人狼はすぐに霧に姿を変えて後ろへ回り込んだ。そして相手の首に腕を回し、残った左腕で相手の腕を拘束した。
一瞬の出来事に相手は戸惑っていた。
「い、今のは…!?」
「…」
「なるほど、それが君の固有魔法というわけか、ハインツ軍曹」
「…」
「そろそろ拘束を解いてはくれないか、ハインツ軍曹」
長い髪に男と比べると華奢な身体付き、そして高い声を声を聞いて女性だということが判明した。
しかし、女性で暗殺を企てた人物など数知れず、人狼は拘束を解く兆しが見受けられなかった。
「…やれやれ、沈黙の狼は伊達じゃないな。私の名前はアドルフィーネ・ガランド、階級は中佐だ」
彼女は名前と階級を告げると、棒状の物を落として無抵抗を表した。
流石の人狼も軍法会議になると思ったのか、すぐさま彼女の拘束を解いた。
「流石だな軍曹、噂にそぐわぬ男だ」
「…」
「にしても、私は軍人だが仮にもレディだ。あまり乱雑に扱わないで貰いたい」
「…」
「まっ、私が最初に軍曹を攻撃したのがいけなかったがね」
彼女は己がしたことに対する非を認めていた。
だが人狼に攻撃するような理由が見つからない、単なる悪戯心かそれとも好奇心かはよくわからなかった。
「さてと、本題に移ろう。司令室に来てほしい、君に皇帝陛下とランデル中将から渡すように頼まれた物があるんだ」
「…」
「ちなみに拒否権は無い」
彼女は先ほどの棒状の物を拾う、その物体の正体は照準鏡であった。
腕を強引に引っ張られながら人狼は司令室に向かっていってしまう。
その光景を見たアニーサ中尉は、人狼のことをたらしだと言い漏らしていた。
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初めて入る司令室の感想は兎に角コーヒー臭いと表現出来るほどだった。
部屋の中は比較的まともだが、コーヒーの匂いが充満しており、飲みかけのコーヒーが机に置かれていた。
「そこのソファーに座っといてくれ、今コーヒーを入れるから待ってろ」
「…」
彼女の言うとおりに人狼はソファーに腰を掛ける。
暫く待つと、二つのマグカップを持ちながら近付き、人狼にそのうちの一つを渡した。
人狼のマグカップの絵柄はネズミで、彼女のは銃を持った猫だ。
飲んでみると軍用のコーヒーにありがちな苦みが口いっぱいに広がった。
甘みを感じないので恐らくブラックだろう、しかし前世で何回も飲んでいたので慣れてしまっていた。
「あぁ、砂糖無くても平気だったか?」
「…」
「そうか、大丈夫とはもう味覚が大人なんだな」
彼女と同様のコーヒーだろう、彼女も嫌な顔一つもせずに飲んでいる。
そして容器を机に置き、金庫を解錠した。
そこから黒塗りの小さい箱を取り出して、人狼の前に持ってきた。
「開けてみろ、驚くのが目に見える」
「…」
人狼はその箱を開けると、中からには一級鉄十字章がそこにはあった。
「皇帝陛下がお前に贈った物だ。皇帝陛下もお前のことが大変気に入っているそうでな、表面をよく見てみろ」
鉄十字章の表面を目を凝らして見ると、そこにはハインツ・ヒトラーと文字が浮き出ていた。
紋章が浮き出ているのは目にしたことがあったが、まさか己の名前が載っているとは思わなかった。
ドイツとカールスラントの共通した規定で必ず勲章は全て軍服に付けないといけない、それは決して安くはないからだ。人狼は戦闘の際に邪魔にならなさそうな場所に取り付けた。
「おうおう、似合っているぞ。ハインツ曹長」
「…」
突拍子もない発言で人狼は思わず首をかしげた。
「あと教えてないのがあってな、昇進おめでとう。ハインツ曹長」
昇進だ。
これはランデル閣下が階級が上がるように書いた書類が軍に認められたのを指している。
本当は閣下が人狼を少尉まで一気に階級を上げたかったが、流石にそれはないと上層部から文句を言われてしまった。
だけど閣下自身諦めてはおらず、人狼が戦果を挙げてくるたび、書類を書いては送ってくるため、じきに准尉になれると軍部では噂になっているらしい。
「まさか期待の新人がもう生まれるとは、此処の部隊も舐めたもんじゃないな」
「…」
「だけど書類を見ただけじゃ実感しなかったが、確かにランデル中将が好きそうな人間だよ、君は」
「…」
「固有魔法の複数持ちに類まれなる戦闘力、これは私も気に入るな。本当に君はまさに戦争をするために生まれた機械のようだな。…渡しそびれたけどランデル中将からの贈り物だと」
忘れていたのを思い出し、ポケットからドッグタグを取り出して渡す。
金属板にはWARDOGと刻まれている。前世のやつと遜色は無かった。
元から掛けていたのを外し、新しい方を首に掛ける。
「なかなか似合ってるぞ、専用のドッグタグを貰えてよかったな」
「…」
「それとこれだ」
一度彼女はコーヒーを啜ると、机の方に寄って引き出しから一枚の白紙の紙を提出された。
「これは私を組み伏せた際の景品だと思え。私も格闘は強い方だが君には負けてしまった。そこに絵を描いて貰いたい、それが君のパーソナルマークの図案だからな。エースには必要だろう、いつでも私に提出してくれたまえ」
「…」
「それとも今描くか?」
彼女の返答に頷く。
彼女から鉛筆を譲り受け、さらさらと、すでに決まっていたかのように描き始めた。
するとものの五分で人狼だけのパーソナルマークが完成した。
「ほう上手いな、走る銀狼に銃身の長い拳銃を腰に付けているのか。男らしいマークだな」
何故こうも速く上手に描けたかというと、昔院長が狼をモチーフに絵を書いてくれた。
人狼はその絵に感化されたが、流石にそのままだと悪いと独自要素である銃身の長いモーゼルを腰に付け足している。
「モノクロのシンプルなデザインなら明日にでも終わるからな、期待して待っているんだな」
彼女は笑みを浮かべながら答える。
翌日、人狼のストライカーユニットにはあのパーソナルマークが描かれていた。
その狼は長い間人狼と苦楽を共にする存在になることを強く主張しているようにも思えた。
Hs123
ドイツで生まれた急降下爆撃機、しかし複葉機である。
そしてダイブブレーキがないにも関わらず、スペイン内戦では活躍した。
速度は340キロで450キロの爆弾が一つ搭載可能。
1936年に運用されて1944年まで使われた。
頑丈で扱いやすいと評判が良い。
しかし史実ではルーマニアは使用してはいないが、物資でHs123が送られてきたと考えてください。