それとスオムスいらん子中隊の話は原作が進まないので書けません、すみません。
人狼が実戦を経験してから二か月が経過した。
戦況は悪化の一方で、ダキア王国全土をネウロイに占領され、ネウロイの侵攻は止まることを知らずにオストマルクのトランシルバニアを残して陥落していった。
人狼たちは後ろへと基地を異動していったが、カールスラントとオストマルクの国境線を境に非常防衛線を構築し、何とか侵攻を止めることに成功した。
しかし、それはあくまでも一時的なものであり、いつ破られるのかは保障されない。
特に変わったことといえば、アニーサ中尉が大尉になり、あがりが近づいてきたのことと重なって後方勤務に回されたことや人狼が小尉に昇進したことだろう。
頭角を現していく人狼を見て、講師であった彼女は人狼の活躍を肉眼で確認出来ないことを悔みながらも、エースである人狼のことを誇りに思っていた。
現在人狼は八十機の撃破を迎えた。本来ならば撃墜と呼称するのだが、たびたび陸戦ネウロイも撃破しているためこのような表し方になっているのだ。
一方、例の戦車組であるジェネフ少尉とエドガー上等兵はジェネフは中尉に、エドガーは兵長になっており、似合わないと指摘されたちょび髭を剃り、やや顔が若返っているようにも思えた。
彼らは国内のカールスラントの部隊に編成されて中隊長となり、日頃からⅢ号戦車を乗り回している。彼が言うからには、訓練が命を伸ばすと自負しており、新しい精鋭部隊を育成していた。それとちょび髭に代わり、黒い丸形のサングラスを掛け始めた。
人狼の活躍はカールスラントを超えてブリタニアや扶桑、リベリオンまで広がり、多くのファンからは酒や煙草やお菓子が贈られてくるので、その一部を孤児院に送り続けていた。
給料の方も戦時中と活躍ぶりが重なり合い、普通のウィッチの二倍ほどのお金が舞い込んできている。それは孤児院の維持費として送りこまれているが、院長がこっそり人狼用の口座を作り、そこに全額入れていた。何故かというと英雄を育てたと育成者と有名になり、買い物をする際も全て無料でくれるからだ。
そんなことを知らずに人狼の貯金は常に増えていくのであった。
だが、ある日を境に上層部で動きがあった。
カールスラントの防衛のため多くの義勇兵ウィッチたちを寄せ集めて防衛する計画にダメ出しを続ける者がいたからだ。
その名はランデル中将、彼だけは視点をカールスラントではなく北欧のスオムスを注目していた。そして中将という立場を利用して数名のウィッチをスオムスに派遣することとなったのだ。
ランデル中将の案に幾つかの国は賛成し、数名の義勇軍をスオムスに派遣する予定でいる。
だが、その派遣させるウィッチたちは国内でも問題を起こす問題児ばかりであった。
例えばウルスラ・ハルトマン、彼女は双子の姉としてエースの頭角を現しているエーリカ・ハルトマンを持ち、使い魔の耳や尻尾が表には現れないという特殊体質持ちである。
しかし彼女はある実験で部隊を壊滅させたという前科を持っていた。それから軍部から彼女は腫物扱いされていた。
何故癖の強い者しか派遣しないのか、やはり他国より自分の国のほうが大事であるからだろう。
そのスオムス派遣に人狼の名前が記載されている。
ランデル中将が絶対に此処こそが最初に攻められると踏んでの行いだった。
戦争を愛してやまない人間にとって、戦争行為が行われる場所など推測するのは容易いことで、過去にもネウロイが近い将来に襲撃するという考えを見事に当てた。
人狼はスオムスに行くため、兵員輸送船に乗り込む。ちなみに人狼の階級は少尉になっており、スオムス派遣に合わせて階級を上げたらしい。
出港してから間もなくした時に、二隻の艦艇が合流した。現在駆逐艦が二隻護衛しており、いつネウロイが出現しても対処が出来るよう万全の状態であった。
だが、ネウロイという存在はその万全の状態を容易く破壊する。
突如けたましいほどのサイレンが鳴り響き、中型のネウロイが船団を沈めに水平線の彼方からやって来たのだ。
あらかじめ迎撃のために付けられた水上機のストライカーユニットを履き、プロペラを回した。
Ar95を元としたユニットを駆り立てて人狼は空へと羽ばたいていく。
「エースやっちまえ!」
「沈黙の狼頼むぜ!!」
「ぶちのめしてしまえ!」
三隻の船からはエースの出撃姿を確認して歓喜の声をあげている。
目標のネウロイまで接近、ネウロイは先制攻撃を仕掛ける。
三条の光線を放つが、展開したシールドによって防がれ、反撃としてMG30を発砲する。
本来ならばMGFFを使用したいのだが、如何せんその機関砲が無く、代用として一挺のMG30を使っていた。
しかし、ウィッチたちが常に使用している機関銃なので、威力が弱いことを除くと特に弊害は見受けられなかった。
高速で放たれる銃弾は、まるで音が繋がっているようにも思え、ネウロイの装甲を削り取っていく。
ある時、引き金を引いても弾が出ない。弾切れだ。
早急に再装填を行おうと予備弾倉を取り出して装填、また攻撃を再開しようとした。すると途端にユニットが黒煙を吐き始めた。恐らく整備不足によるものだろう、徐々にユニットの出力が下がっていくことを実感し、早期決戦に持ちこんだ。
魔法力をユニットに注ぎ込み、一気に上昇、魔導エンジンが悲鳴をあげるも何とかネウロイの真上に移動し、そこでユニットを履き捨てる。
重力に従い降下を始める人狼、その途中で狼に姿を変えて着地する。そして爪や牙を用いてまるでクッキーを割るかのように甲斐を削っていく。
時々光線が装甲から照射され体をズタズタに裂かれるもすぐに再生、再度攻撃を行う。
ようやく分厚い装甲の中からようやく核が見えた。好機を逃す人狼ではなく核に向けて攻撃を仕掛ける。
人狼の爪が核を深く刺し込んで核を割る。するとネウロイは白い結晶に姿を変えて大海原に降り注ぐ。
足場を失って落ちていく人狼、人間の姿に姿を変えて海面に衝突する前にシールドを張り、少しでも衝撃から身を守った。
海に衝突するもどうにか犬掻きで浮上する人狼、傍から見れば溺れているようにしか見えない。
すぐさま駆逐艦に取り付けられていた救援ボートが向かい、人狼を拾う。
「流石だぜエース!」
「ありがとうなエース!」
船に戻ると水兵たちが船団を守ってくれた英雄として温かく迎えてくれた。さして人狼も悪くはなかった。
濡れてしまった服をこの船のカールスラントの水兵が着ている服に着替え、人狼は船を散策していた。
一番景色の良い場所で絵を描こうとスケッチブックを持ちながら船内を動き回っていると、ある眼鏡を掛けた金髪で幼い少女を見つけた。彼女は壁に寄りかかりながら本を読んでいる。
人狼は何かを思いついたかのように絵を描き始める。院長から絵の描き方について指導を受けていたため、鉛筆の筆使いが上手く出来ていた。
絵を書き始めて一時間、彼女が何を描いているのか疑問に思い、人狼に問いかけてきた。
「ハインツ少尉、一体何をお描きに」
「…」
人狼は彼女にスケッチブックを見せる。
そこには先ほどまで本を読んでいた少女の姿が描かれていた。まだ影を細かく描写していないので作品自体は未完成だが、本の質量や彼女の輪郭が細かく絵に表れ、まるで写真のようであった。
人狼は読書の邪魔をしたことを謝るかのように彼女に描いた紙を渡し、そそくさとその場から離れていこうとする。
「…お上手ですね、絵」
「…」
彼女が称賛の言葉を言うと歩きながらも人狼は軽く腕を上げる。
実はジェネフ中尉から教えられたことで、褒められたら腕を上げるとかの動作をしろ、と教えられていたからだ。
その後姿を見た少女は口元を緩ませた。第一印象で無口で強面、そして冷血という厳しいイメージだったが、この一連で人狼に対するイメージが変わった。
無口と強面なのは変わらないが、冷徹というイメージは取り払われ、そこに温厚が入った。
渡された紙の隅にある落書きを見つけ、くすりと笑う。それは隅には自分の名前がお洒落に記入してあり、裏を見るとその書き方に至るまでの経緯が所々書かれていたからだ。
それが沈黙を貫き通す人狼が、実はこんなお茶目な一面があったことが滑稽でたまらなかったからである。
その後、人狼はその名前の書き方を練習していた紙があの少女に渡した物だと気付き、顔に表してはいないものの内心、後悔が胸の内を支配し、枕に向かって拳を振るっていた。
一方で彼女はというと、道ゆく水兵たちにその紙を見せ回っていた。
Ar 95
ドイツで生まれた水上機、1935年に開発された。
武装は七ミリが攻撃銃座に一挺、後部銃座に一挺と貧弱だが、主な任務はは弾着観測や偵察であるため必要性は薄い。
Ar-195の開発の基礎となり、速度は255キロほどだが魚雷や爆弾が搭載可能。
実はスペイン内戦にも参加しており、1944年まで利用された機体でもある。