派遣
スオムス義勇軍に人狼が派遣されて六か月が経過した。
スオムスではランデル中将の言っていたことが見事に的中し、大規模のネウロイがスオムスに侵攻を始めた。
しかし、新しく結成された多国籍の機械化航空歩兵、通称スオムス義勇独立飛行中隊の活躍により崩れた戦線を何とか立て直し、陥落したスラッセンを取り戻し、一躍注目を浴びた。
その中でも紅一点の存在はやはり人狼であった。
特に空戦技術などは劣ってはいたものも、霧化と高い治癒能力、そして人狼化を用いて空戦ネウロイだけでは飽き足らず、陸戦ネウロイも難なく撃破していった。
霧化や再生能力は他のウィッチに露見はしていたものも、狼化だけはしなかった。
理由は簡単、もしもこのことが上層部にバレたら悍ましいほどの人体実験を受けるかもしれないからだ。
生前、ナチスはユダヤ人を使って様々な人体実験をしているのを人狼は明確に覚えている。
治癒能力を初めて見せた時の反応というものは様々であった。
しかし誰としても戦闘後、人狼とは今まで通りに接し、おまけに心配までしてくれたのだ。
戦闘隊長を努めていた穴吹智子中尉からはお怒りの言葉をいただいたがアニーサ中尉と同じような内容であった。
最初の印象としては好印象と呼べるものではなく、自己紹介の際に黒板を使って名前と階級を記しただけであった。その態度に腹を立てた穴吹中尉が抜刀しようとしていたが、人狼の圧と睨みにより抜けずにいたがその場の空気は最悪の状況であった。
船に同乗していた少女、実は彼女はウルスラ・ハルトマンと最近噂になっている人物で、同じく所属しているメンバーに描いて貰った絵とサインを見せびらかすという半ばお節介でもあったが何とか孤立を防いだ。
数々の戦闘を切り抜けていく度に、穴吹中尉の方も人狼の性質が理解出来たらしく、一緒に酒を飲みあう中にまで進展した。
迫水ハルカという少女は誤射により人狼の高い治癒能力を披露する原因となった人物で、誤射による怪我という重大な事件によって彼女は一時心を閉ざしてしまった。
だが、自分は無傷だということを証明したり他のメンバーによる激励のおかげで復帰出来るようになった。
エルマ・レイヴォンという少女には人狼にちょっとした恐怖感を抱いていたが、絵を通じて仲良くなり、両者とも互いに絵を教えあう仲になることが出来た。
しかし天然とドジっ子を備えていたために絵具やコーヒーがよく人狼の顔面に直撃するという事故が多発、スオムス義勇独立中隊の中で一番被害が多かった。
ウルスラ・ハルトマンは輸送船からの付き合いで少し仲が進展していた。互いに口数が少なく、読書家だったので自然と隣で本を読んでいた。
訓練時には教本通りの動きを教えて貰ったり、実験の手伝いをしており、ロケットを飛ばした際に噴出された高温のガスによって人狼は顔に大火傷をしたものも無事であった。能力に感謝した瞬間である。
なお彼女は実の姉にコンプレックスを抱いていたものも、スオムス義勇独立中隊を通し、そのコンプレックスは解消されていった。
エリザベス・F・ビューリングはブリタニア空軍のなかで群を抜いての問題児であり、朝食が出来たことを知らせようと人狼が彼女の部屋に向かった際に、グルカナイフで切りかかってきた。
流石の人狼でもこれには今まで眠っていた対人戦闘能力を叩き起こし、ナイフを蹴り飛ばして壁に腕を抑えて、彼女を拘束した。僅か三秒にも満たない出来事に彼女は目を丸くしていた。
彼女の過去は自分の犯した失敗により親友を亡くし、自分の死に場所を追い求めていた。
だが穴吹中尉のおかげで己の場所を見つけ、行動は落ち着いていった。
生に関することは人狼によく似ており、すぐに打ち解けることができ、彼女によって勧められた煙草を人狼は趣味としている。時折一緒に飲みに行ったり、煙草を喫煙している姿が確認された。
勿論、穴吹中尉によって自らを犠牲にするような戦い方をやめるようには人狼は言われていたものも、それ以外の戦い方が出来なく、実は中隊の中では一番の問題児とされていた。
またキャサリン・オヘアというリベリオンから派遣された彼女は、悪名高いクラッシャーオヘアと呼ばれており、最初に見せた拳銃の乱れ撃ちの際に、人狼は弾を受け止めるという偉業を成し遂げてからは彼女に好かれるきっかけになった。
スラッセン奪還後に現れた新規メンバーとしてジュゼッピーナ・チュインニという少女は記憶喪失を患っていたものも、後に爆撃の名手として知られることになった。
穴吹中尉の空戦技術を盗むという高い能力を見せる。しかし人狼の戦い方は空戦は上手いとも言えないので盗み取ることはしなかった。だが、ネウロイとの肉弾戦を見せた際に彼女から真顔で真似出来ないと言われ、人狼を除く全メンバーが同情した。
その後何やかんやでルーデルたちと出会っていた。
鼻に怪我をしており、その原因はビューリング小尉にあったため敵意を見せていた。
また、穴吹中尉の隊長としての推量を量るために挑発的な態度を持って接していたが、人狼が顔を出すといなやその態度は一変し、まるで弟に会えて歓喜の表情を浮かべながら接していたため、彼女は悪くはない人物だと認識した。
ルーデル大尉が持ってきたカメラを使ってやたら激写しており、その一部を布教用にと穴吹中尉に持たせていたのが確認出来た。何気に一緒に煙草を吸いながらお酒を飲んでいた時が至福の笑顔を浮かべていた時だと、アーデルハイドは答える。
余談だが、人狼のファンクラブにはスオムス独立飛行中隊の全員の名前とハッキネン少佐の名前が記載されていた。
そしてクラウス・マンネルハイムと数回会ったことがあり、彼も人狼のことを評価し、人狼を派遣してくれたランデル中将に激励の意を込めた手紙を渡している。
ランデル中将からの返答には、マンネルハイム十字章を人狼に与えろ、さもないと人狼をカールスラントに戻す。という脅迫じみた返答に肝を冷やし、すぐさまマンネルハイム十字章を人狼に与えて留まらせた。まあ戦果が独りで大型陸戦ネウロイを撃破にその他ネウロイ諸々というあり得ない戦果を平然と挙げていた。
ついでに皇帝からも勲章を貰い、おまけにランデル中将によるプレゼントで中尉になっている。
そんな中、いよいよカールスラント本国に暗雲が立ち込めてきたということで人狼が本国に戻されることとなった。
流石に基地を離れることは出来ないので、その場にて別れることとなったが全員がまるで今生の別れをしているようで、迷惑を掛けた謝罪を込めて各人の似顔絵を渡した。
そして人狼は港へとユニットを駆り立てて飛んでいってしまう。人狼が見えなくなるまで手を振り続けていた。
実はその絵には童心が秘められており、各人の使い魔の絵がポップに描かれている。
その絵を見て普段大人の態度を取っている姿だが実はお茶目な一面があることを再確認した。
港に到着し、ユニットを脱いで箱に詰める。ユニットに愛着が湧いているので整備以外は極力自分で触るようにしていた。
ユニットを船に載せ、まだ出港するのには時間があったため適当に散歩をする。周りからは英雄やら軍神やらと称えられて、やや肩身の狭い思いをしていた。
すると、一人の女の子が花を持って人狼に寄って来た。彼女の意図を汲み取り膝を折る、彼女は花を手渡した。
カールスラントに居た頃、ノアと一緒になってその花を摘んでいたのを思い出す。その花の名はシロツメクサである。
お礼をしようと即席で絵を描いて渡す。絵にはウサギが跳ねている。
彼女はお礼を述べると何処かへ走り去って行く。
悪くはないと満足感を覚えて船に乗り込んだ。
船は出港すると徐々に小さくスオムスが小さくなっていく、甲板から景色を眺めていると、ふとエンジン音が聞こえたので上を向くも何も居ない。
どうやらスオムスに居た記憶が現実と重なったと人狼は判断した。
目を閉じるとスオムスに居た際の記憶が鮮明に蘇る。
彼女たちとスオムスに居る全兵士に幸運を、と存在しているのかもわからない神に向かって祈祷を捧げた。
ゾロターンMG30機関銃
ドイツで生まれた機関銃、空冷式で口径は七ミリ、バナナ型弾倉である。なお設計はドイツで部品はオーストリアが担当している。
派生型ではドラムマガジンを付けている。