人狼は夢を見れるのか   作:渡邊ユンカース

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感知

数時間ほどの航海を経て、やっとのことカールスラントの港に到着した。

港には聞き慣れた母国の言葉が自然と聞こえ、此処がカールスラントだということを深く実感させた。

輸送船から物資が降ろされ、自分の船から降り立った。グラグラとたまに揺れていた地面とは違い、安心感がある。

 

「えーと、そこのHと書かれている箱の中にハインツ中尉のユニットだ。落とすなよ」

「了解しました」

「せーのッ!」

「重い! 兵長も力込めてください!!」

「俺も重いぞ!」

 

人狼を待っていたと思われる三人の兵士たちはいち早く使用していたユニットを見つけ、トラックに積めていく。だが、ユニットの重さにやや足取りが危うくなっていたため、人狼が擁護にまわる。

 

「す、すいません中尉」

「…」

 

車両にユニットを積み、彼らに一本ずつ煙草を渡す。些細な報酬だ。

彼らはその煙草を口に咥え、マッチに火を点けて煙草に移す。

 

「あぁ生き返る…」

「やはり仕事後の休息で煙草を吸うのは止められないですね」

「とはいえまだ仕事あるけどな」

「…」

 

人狼を含め四名から出される紫煙が辺りを漂う。不意に吹いた潮風により煙は掻き消されてしまった。煙草を一服し、彼らが持ってきたであろう灰皿に煙草を押し付ける。

 

「一応言いますが、ユニットは貴方が乗る列車に積まれる予定です。どうです? 搭乗して駅まで向かいますか?」

「…」

 

その返事に人狼は頷く、するとある兵士はユニットを奥に押し、助手席を綺麗にするために掃除をする。

暫くするとゴミ袋を持った兵士が笑顔を浮かべる。

 

「中尉殿、どうぞこちらへ」

 

彼の気付かいを無駄にしないために、人狼は助手席に乗り込んだ。煙草を車内でよく吸っていたのかヤニがうっすらと天井に付着している。

元々助手席に座っていたであろう兵士は荷台に乗り込んだ。

荷台からはもうちょっと詰めろやら媚びを売るなやらと聞こえていたが、運転席に座っていた彼らの上司と思える兵士が背後の壁を叩く。するとうるさかった声がピタリと止んだ。

 

「すいませんね中尉、奴らにはガツンと言っときますのでお気を悪くしないでいただきたい」

 

彼らが起こした悪行について謝罪の弁を述べる。人狼は気にするなと覗き窓の窓を開け、懐から酒の入った小瓶を取り出して、後ろの彼らに渡す。

 

「えっ、中尉殿いいのですか!?」

「……はぁ、中尉のご厚意だ、受け取ってけ。それとお前ら説教を覚悟しろ」

「はーい」

 

気の入っていない返事を返す。

兵長は車両を片手でハンドルを握りしめながら煙草を吸う、人狼は窓を開けて風を感じていた。

潮の混じった風が前髪を弄んでいるのが気持ちよかった。

 

 

三十分後、駅に到着した。

 

「中尉、ここから先は貨物等を運ぶ車両のための道路です。乗客として乗る中尉は一旦降りて通常の入り口から乗ってくださいね」

「…」

 

兵長の指示従い降車すると、荷台に乗っていた兵士たちから各々のハンカチとペンを渡される。

 

「中尉殿、よろしければサインを貰えませんかね?」

「出来ればお願いします!」

「お、俺もお願いします!」

「…」

 

人狼はハンカチを受け取り、ペンで己の名前を書いていく。

生地が布なので多少書きづらかったものも、三人分のサインを書き終えた。

それらを返すと三人は目を煌かせて喜んでいる。

 

「ありがとうございます!」

「大事にします!」

「俺はいっそのこと家宝にしますね!」

 

彼らは喜々として車両に乗り込んでいった。

人狼は列車に乗るために正面入口へと足を進めていく。

 

 

駅構内で乗車中に何か食べようと売店に立ち寄り、クッキーとパンを購入した。

まだ予定の時間よりも三十分あるが、特にすることは無い。

構内を探索していると一件の書店を見つける。

最近のカールスラントではどのような本が流行っているのかと気になり、書店へ入店した。

 

店内の様子はやや年季の入っていることを除けばただの書店であり。また本の品揃えもまあまあ豊富である。

店の奥には老婆が会計席に座っている。老婆は軍服を着て長身の人狼が物珍しいのかこちらを見つめている。

暇つぶしには丁度いいかと一冊の本を取った。題名は狼男と書かれているホラー系の小説であった。

会計席にいる老婆に本を出し、財布を取り出した。

 

「……あんた、噂のウィザードかい?」

「…」

 

唐突に問いだした老婆に首を振る。

すると老婆は人狼が金を払ってもいないのにも関わらずに紙袋に本を入れ始めた。

値段が記載されていなかったので幾らかはわからなかった人狼であったが、並大抵の本なら無料で手に入る程の金を置いた。

 

「金は払わなくて結構、要らないわ」

「…」

 

しかしそれを拒否し、お金を人狼に寄せる。理由がわからなかった人狼はそのまま老婆から紙袋に入った本を受け取った。

老婆は皺だらけの口を開いた。

 

「まさかあたしたちの世代には居なかったウィザードが現れるとは思わなかった。しかもエースとなればねぇ…」

「…」

 

どうやら老婆は第一次ネウロイ大戦のウィッチということを汲みとれた。

しかも胸元には古びた鉄十字章が一個付けられている。老婆も元エースだったらしい。

 

「私も若い頃は散々箒で空を飛び回っていたよ。あんたたちみたいな最新のユニットが無くても木製の箒さえあれば十分だったね」

「…」

「あたしは上がりを迎えて空を飛べなくはなったけど、空を飛ぶ同士たちのことは応援しているわ。まあこれはあたしの些細なプレゼントだと思ってくれよ、沈黙の狼とやら」

 

ニッコリと笑顔を浮かべる老婆、思わず人狼は敬礼をする。先輩である先代のウィッチに敬意を込めて。

 

「まあ上がりを迎えても空を飛ぶ子は稀有だけど存在したからね、きっとあんたもそうだと思うよ。えーと、確かあの子はアンナ・フェラーラだっけ、口が多少悪くても真面目で優しい子だったわ……」

 

 

人狼はその後、列車が来るまでの間、ホームに設置されたベンチに座って本を読み進めていた。

途中で列車が到着したので乗ったのだが、どうやらランデル中将がなかなか良い席を用意してくれたので落ち着いて読書が出来そうであった。

ついに列車が動き出す。列車は黒煙を吐き出しながら線路を走る。

車内からは景色が一望できるが、あまり風景が変わらないので再び本に視点を移した。

パンを齧りながら物語は序盤の山に迎えようとしていた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「はあ、俺らに仕事が回らないと期待していたんだけどなぁ…」

「しょうがねえだろ、最新のレーダーは稀に誤報するんだから結局は人力でするしかないんだ」

「シフトがギチギチでキツイですけどね…」

「まだいいだろ、オストマルクの国境線の方が辛いぜ」

「そうだけどさ…」

 

哨戒艇で兵士二人が愚痴を零す。

それもその筈、平時の倍ほどの出勤シフトのせいで休みが中々取れないのだ。

この頃には小さな哨戒艇で何日も寝泊まりをすることは普通であった。そのため、旧式の哨戒艇も引っ張り出し、船員が二人しか居ないということはざらであった。

双眼鏡を覗き索敵を続けるのだが、昨日には見られなかった変化がそこには映っていた。

 

「なあ、あれは飛行機かな?」

「どうせ民間機だろ」

「だけどよ、あんな沢山飛来するもんだっけか」

「…貸してみろ」

 

一人の兵士が双眼鏡を奪い、その変化を目視した。

するとその兵士の顔がみるみるうちに青く染まっていく。そして同時に怒号を散らす。

 

「急いで基地に連絡しろ! アイツらが襲って来るぞ!!」

「わ、わかった!」

 

指示された彼は急いで基地に信号を送る。

双眼鏡を持っていた兵士はエンジンをかけて舵をとり始める。

 

「哨戒艇じゃアイツらの侵攻を止められない。急いで退避するのが俺らの正しい選択だ!」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

『ッ!? 哨戒艇より連絡あり、ネウロイ出現のため急いで現場に駆けつけてください』

「わかったわ、私たち紅色隊が急行するわ」

『しかしアニーサ中尉は上がりを迎えてシールドは張れない筈です。直ちに帰投してください』

「大丈夫よ、伊達に義勇軍として派遣された訳じゃないの」

『…わかりました。幸運を』

 

無線を切り、一緒に飛行していたウィッチに指示をする。規模は中隊ほどではあったが実力は申し分ない部隊だ。

安全装置を外して即座に戦闘に移行出来るように準備をする。

 

「中尉、あまり無茶をしない方が…」

「何言ってるのよ、あの教え子以上の無茶はしないわ」

「ハインツ中尉の基準で比べたら駄目なんですけど!」

「平気平気、ハインツからこのバンダナを貰ったんだから死ぬわけにはいかないのよ」

「もう、知りませんからね!」

「わかってる。さーて、気ぃ引き締めて参るわよ!」

「「「「了解!」」」」

 

アニーサ中尉率いる紅色隊は破壊を演じる役者の元へとユニットを駆けていく。

その結果がどうなるかは彼女や将軍、ましては人狼でさえ知らない。

 




MP40

ドイツで生まれた短機関銃、九ミリで枢軸国の間で広く使われていた。
歩兵部隊の火力を上げるために全面的に配備され、一分間に五百発ほど連射出来る。
なお戦後には、朝鮮戦争にも用いられるほど評価は高い。
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