「見えるかしら、結構な数がいるわね」
「見えませんよ中尉、貴女以外は固有魔法持ってないんですよ」
「あれっ、そうだっけ」
「そうです」
「港を攻撃されるのはマズいわね、停泊してる船には輸入した武器がある。それが誘爆やらしたら目も当てられないような惨状になるわね」
時を遡ること三十分、遠くを視認出来るアニーサ中尉はいち早くネウロイを視認出来た。数はおおよそ二十機ほどで五人編成の飛行中隊でも十分対処できる。
現在停泊している輸送船にはリベリオンから輸入した武器や旧式の戦車やユニットをスオムスへ輸送するための輸送船やらが幾つもある。それらを破壊され、誘爆すると港は壊滅の危機に陥るやもしれないのだ。
それを防ぐために一刻でも早くネウロイに接敵しなければならないのだ。
「中尉、港を抜けました」
「そうね、接敵間近よ。即時に戦闘態勢をとれるようにしなさい」
「「「「了解」」」」
港を抜け、少々の時間が経過すると固有魔法を持っていないウィッチでも視認出来るほどの距離まで迫った。
アニーサ中尉を以外のウィッチたちは全員実戦を味わったことのない新兵だ。己の傍らであぐらを組んで待機している死がその状況に慣れていない彼女らを怖がらせる。
アニーサ中尉自身も死という恐怖が捨てきれずにいる。無理もない話だ。人間だれしも死という概念は怖いものだ。一部を除いては
ネウロイがこちらに気付き迫る。
「いいかしら皆、距離が一キロ以上あっても確実に当たらない。だから至近距離で放ちなさい」
「わかってます。けど手が……」
「なーに言ってるの、皆そうなのよ貴女だけじゃない。貴女たちの大好きなハインツは喜んで突っ込んだけど」
「エースだから当然ですよ」
「誰しも初陣の時は恐怖で身体が支配するもんなの、私だってその日は手が震えてスプーン持てなかったんだからね」
「じゃあその反動で太ったんじゃないんですかね?」
「…帰ったらお説教ね」
「うぅ、嫌だけど喜んで受けますよ……」
「いい覚悟ね!」
まだ距離があるというのに牽制攻撃とネウロイが光線を照射する。
その光線はウィッチが避け、当たることはなかった。距離が一キロをきった辺りで彼女らも牽制攻撃と弾をバラ撒く。その弾に当たることにより黒煙を吹くネウロイが数機存在した。
彼女らは一人と二人の分隊二組に別れる。なお、隊長を務めているアニーサ中尉は一人だ。
「貰ったわ」
ヘッドオンを真下に潜って躱す。シールドを張れない彼女が行える最善の行為だろう。すぐさま旋回し、照準を前のネウロイに合わせる。そして引き金を短く引いた。
MG15機関銃から放たれる多量の弾丸はネウロイの装甲を抉り爆散した。
彼女は次の獲物をと偶然真上で飛んでいたネウロイを突き上げる。ネウロイは虚を突かれた動作をする時間も無く無慈悲に白い結晶となった。
一方の所で新兵たちはというと二人一組でのロッテ戦術を組むことにより互いを擁護することができ、ゆっくり着実に撃破していく。
その光景を見たアニーサ中尉は口角を上げ、インカムを彼女らに繋げる。
「やるじゃない、何か奢るわ」
『美味しいので頼みます!』
『てか生き延びます!』
「ハハッ、その意気込みよ!」
だがもう一つの分隊はネウロイに対応できずにやや押され気味である。すぐさま彼女は駆けつけ、機関銃を短めに撃つ。
ちょうど真上から攻撃をしようとしていたネウロイに当たり撃墜、アニーサ中尉が来てくれたことにより安堵の表情を浮かべる。
「ありがとうございます!」
「怪我は?」
「互いにないです」
「ならいいわ、なるべく擁護しに来るからそれまで耐えなさい」
「「了解!」」
「まだまだやるわよ!」
バンダナを口と空いた手できつく縛る。縛り終えると空高くへ急上昇を行い、ユニットに魔法力を多く流し込む。
ネウロイたちはそれに釣られて上昇しながら追いかけてくる。
その光景を見た彼女はニヤリと笑う。
「貴女たち! 釣り上げるからそれを狙いなさい!」
『『了解!』』
彼女らも上昇し、アニーサ中尉を追いかけていたネウロイにそれぞれの機関銃が火を噴いた。弾丸はネウロイを貫いていき、偶然アニーサ中尉のユニットを掠った。
「誰よ! 危なかったじゃない!」
流石の彼女でもこれには肝を冷やしたらしい。
ともあれ半数以下を減らすことが出来たことにより多少の余裕ができた。
今度はネウロイの方も一挙に襲い掛かる。
「…こうなったら一人ずつ分散、死んでも責任は無しよ」
「けど、私らは新兵じゃ……」
「大丈夫、私がいるじゃない!」
ニカッと満面の笑みを彼女らに見せつける。その笑顔を見た彼女らは意を決したように分散、攻撃を行う。
アニーサ中尉も遅れを取らずに接近して攻撃する。
一度ネウロイに背後を取られてしまうも縦旋回を数度行う。手慣れた機動により見事後ろを取り、その機動は曲芸だ。
「よくも私を殺そうとしてくれたわね、賠償よ!」
音が繋がるような発砲音に比例する程の弾丸が放たれる。その弾丸はネウロイを確実に貫き撃破、また前方からネウロイが迫り来る。
ネウロイからは銃弾がこちらも負けじと銃弾を集中させる。
彼女の柔らかな頬を傷つけるもネウロイは見事海原に白い結晶となって落ちていく。額に浮かんだ汗を拭う。
「ぜーぜー、やっぱシールド無いとキツイ…」
『隊長、こちら撃破し終えました。被害無しです」
「よくやったわね、じゃあ帰投しましょう」
基地に帰投しようとしたその時、突然大きな爆発が空中に響き渡る。
顔を青くしながら港の方へ顔を向けると港からは黒い煙が港を覆っており、轟々と燃え盛る炎を確認出来た。
「くそっ! 囮部隊だったか!!」
『すぐさま港を防衛しましょう!』
「そうね、すぐに…」
突如として無線からノイズが入る。何事かと辺りを見回すと黒煙を吐きながら何かが墜落している。
アニーサ中尉は目を凝らしてよく見るとそれはユニットでありユニットより上はなかった。
『あっ、あっ……』
「…一機撃墜確認。死を弔う時間は無い、救援に行くわ」
『はっ、はい!』
ユニットの出力を最大にして急いで向かう。
その間にネウロイが奇襲攻撃を仕掛けて一人のウィッチを殺した。その際の絶叫が耳にへばり付いて取れずにいた。
「小型の爆撃機ネウロイを撃墜しなさい!」
「「了解!」」
「はああああ!!」
背後から狙い撃つアニーサ中尉、自身目掛けて放たれる光線を紙一重で躱しながらダメージを蓄積し、ついに耐え切れなくなった左翼が折れ、墜落する。
これで六十機撃破なのだが嬉しいという感情は一切湧いてはこず、むしろ虚無感が大量に湧いてくるのだ。
「やらせない!」
一人のウィッチが急降下して爆弾を投下しそうなネウロイに追従し撃破しようと弾をバラ撒く。しかしあまりにも遠すぎてさして当たらずに投下させてしまう。
その際にネウロイが投下した爆弾が爆風を巻き起こし、彼女は巻き込まれてしまう。
何とか態勢を立て直せたのだが、遅れて鉄パイプが飛翔。運悪く彼女の首を串刺しにした。
「あがっ、がは……」
口から赤黒い血液を零し、眼が虚ろになる。鉄パイプからは水道をきつく止め忘れたかのように血がポタポタ垂れていく。
ユニットに魔法力が供給されなくなったためエンジンは停止、真っ逆さまになって墜落していった。
「そ、そんな…」
「…これが戦争よ。忘れないで」
「こ、こんな・・・。こんな恐怖を伴いながら死ぬなんて私には出来ない!!」
「落ち着きなさい! 錯乱しないで!!」
「こ、こんなのならウィッチにならなければ良かった……」
アニーサ中尉が必死に止めるも無視し、機関銃を手から離す。機関銃は瓦礫の野原へと落下していく。
すると彼女は腰に付けたホルダーから拳銃を取り出し、口に咥える。そして酷く無機質で冷たい音を響かせ、落下する。
「…ふざけるんじゃないわよ!!」
目尻に涙を浮かべて叫ぶ。涙が頬を撫で、傷口に染みた。
だがそれすらも彼女には感じなかった。それは自分に対する怒りとネウロイに対する憎しみのせいであった。
唇を思いっきり噛みしめると血がじんわりと滲み、血独特の味が口の中に広がる。それが彼女の感情を倍増させた。
「私は、私は生き残る! 生き残ってあの子に、ハインツに逢うんだ!!」
ユニットを駆り、無事かどうかすらもわからない基地に帰投しようとする。
その目には固い決意が浮かんでいる。
が、人生というものはそう簡単にはいかない。
知らず知らずに真上で狙っていたネウロイが取り付けられていた機関砲で撃ったのだ。
凶弾は確実に彼女の元へと向かっていく。
虫の知らせを感じ取った彼女は上を向くと、眼前に大口径の弾が迫っているのを視認した。
走馬燈が脳裏を巡る。走馬燈には色々な楽しかった思い出が次々と浮かび、中には人狼の姿があった。そして人狼と関わっている時が自分が一番輝いていた。
生き残りたいのに眼前には冷酷な死が差し迫る。憎しみから恐怖の涙に変換させてしまう。
「助けてハインツ」
彼女の願いも空しく頭部と右腕を消滅させ、彼女も加速を付けながらするすると落下していく。
港上空を飛んでいるウィッチは誰一人存在しなかった。
MG15
ドイツで生まれた機関銃、ラインメタル社によりスイスのMG30の発展型として開発された。
旋回機銃として利用され、毎分1,000発以上の発射速度を持っており、約4.5秒でマガジン内の銃弾を使い切る。
MG15は第二次世界大戦で旧式になったが汎用性が高かった。
しかし陸で使うのには不便で良い評判はない。