人狼は夢を見れるのか   作:渡邊ユンカース

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兵士

人狼は燃え盛る街をひたすらに歩く。

地面には人狼よりもサイズが大きい足跡が幾つもつけられている。

懐から煙草を取り出し近くの炎から点火させ、吸う。紫煙を吹くと黒煙と混じり合ってすぐに掻き消されてしまった。

街に来たものも何をすればいいのかがわからない、到底この様子だと生存者は少ないに違いない、陸戦ネウロイが上陸しているため瘴気を辺り一面にバラまかれている筈だ。

仮に瓦礫との間に生存者が居たとしても瘴気によって殺されているだろう。

だがウィッチは違う。魔法力というものは便利なもので瘴気などの毒ガスを無効化出来るという。

 

「…」

 

弾の切れた機関砲を背負いふらふらと散策を続ける。

喉が渇いたので煙草を捨て、水筒を取り出すがどうやら底が空いている。先程の戦闘で割れてしまったようだ。

仕方がなしにただただ歩くこととなった。

 

途中、ネウロイが食べたであろう車があった。

所々穴が開いており、比喩するなら酸で紙を溶かすかのような状況だ。

幸運にもその車は警察車両らしく、助手席にはショットガンを見つける。

それと同時に運転席にはハンドルを強く頭にぶつけて死んだ警察官がおり、人狼はその警察官を車内から降ろして勢い盛んな炎の中に投げ入れる。

炎は燃焼物を入れられた喜びで勢いを強くしてみせた。

機関砲を地面に刺してショットガンを代わりに背負う。弾は四発と少なく貴重である。

一様、モーゼルが二挺あるのだがこれで難を乗り越えられるかは不安で肉弾戦が得意とはいえやはり遠方から攻撃したいに決まっている。

慣れた手付きで装填し終える。

 

 

散策してからもう一時間が経過する。

ふと嗅ぎ慣れた匂いが人狼を誘う。人狼は誘われるがままに連れられてしまう。

路地を抜けて横を向くと、そこには無残な遺体が一体横たわっていた。

その遺体には部品が飛散したユニットが履かれており、すぐに人狼と同職である航空ウィッチだと断定出来た。

遺体は高所からの落下で車に轢かれた蛙の如く臓物を地面に散乱させ、掻き消された頭部と右腕の損傷が霞んで見える程には。

 

生前からこのような惨状は初めてではなかった。これよりも酷い遺体を人狼は幾つも見ている。

敵の航空機から無数の弾丸が放たれる機銃掃射にて全身の体をミンチにされてしまった兵士、戦車砲が体に直撃して赤い霧となって消えた兵士、赤痢に掛かり水不足の北アフリカ戦線で脱水症状となって死んでいった兵士と戦争にはありがちな死に方だ。

 

火葬をするために彼女の遺体を持ち上げようとする。

そこで人狼は気付いた。

左手首にバンダナが巻かれている。青色よりかは藍色のバンダナだ。

記憶の海から鮮明な思い出が水泡のように浮上してきた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ねえハインツ、お別れなんだからさ何か頂戴よ」

「…」

「いいじゃないウィッチとしては前線を去るのよ私。思い出と表して何か欲しいわ」

「…」

「ちょっと何よバンダナって。てか、教え子から貰えるって…何か……こう照れくさいわね」

「…」

「何よ私が照れちゃいけないわけ! まっ、お互い死なずにいきましょう、スオムスから帰ってきたら思い出を肴にして飲みに行きましょう。当然貴方の奢りだから!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

そう、人狼に航空技術を与えてくれたクルマン・アニーサ中尉だ。

彼女にしかこのバンダナをあげてはいない、人狼は瓦礫から板を引っこ抜き、それをスコップ代わりと地面を掘り進めていった。

お世辞には軟らかいとは言い切れない地面を板で削り掘っていく、三十分掛かってようやく人一人分の穴が出来た。

その穴に彼女の遺体を優しくいれて唯一火炎の中で生き残ったであろう花を一輪落とす。

最後にその穴を埋めて、ユニットを突き立てる。

人狼は膝をついて死者を追悼する態勢を取って祈る。

哀れな少女がヴェルハラで楽しめるように、と……。

突き刺していたユニットの一部に一筋、ひびが走る。

 

クルマン・アニーサ中尉、二十歳。紅色隊の隊長。港湾防衛のために命を燃やし尽くし、殉死

 

 

追悼を終えて散策を再開させる。

幸運なことにも一台のバイクを発見した。R32と呼ばれるオートバイだ。

傷も一切ついてはおらず、エンジンをかけるとすぐに起動し、排気ガスを単調なリズムを取りながら吐き出した。

人狼はバイクに跨りアクセルを回す。オートバイは歩くよりも断然速いスピードで前進する。

その風貌はまだ十四歳の子供とは思えない程、人狼に似合っていた。

 

 

オートバイを駆り出して二十分、地図を確認しながら結構な距離まで移動することが出来た。

もうそろそろ近くの基地に到着できるほどである。

だがそこで漆黒の化け物と出会う。

ネウロイたちは身長五メートルが四体と小規模な群れを作り、基地の方へと進んでいく。

これを止めなければいずれ基地が壊滅の危機に陥る、とそう判断した人狼はオートバイのエンジンを切り、安全そうな場所へ停める。

そしてネウロイたちに目掛けて突撃をかました。

 

ネウロイたちは突然の奇襲に反応できず、人狼の魔法力が込められたショットガンの一撃を放つ。弾はバラまかれ装甲を大きく削り、その内一体のネウロイの核が丸出しになる。

そして核を踏みつけて破壊、飛んだことにより七メートルほどの高度を得る。すると今度は空中で回転したことにより威力を増した踵落としをネウロイに喰らわす。

衝撃により内部の核ごと割れて白い結晶に姿を変えた。

 

だがここまで黙っているネウロイではない、幾つもの人間を殺してきた高出力の光線が人狼の頭部を掻き消す。

けど、それだけじゃこの化け物を殺せない。瞬く間に霧が損傷した頭部に巻かれる。

その霧は頭部を再構築させて、再生を終える再攻撃へと移行した。

リロードを終えてまたもや突進、脚部をショットガンで破壊し、そのショットガン本体で殴打するとネウロイは瓦礫へと吹き飛ばされる。

残ったネウロイは怒りを表すか如く金属音をあげるが、それはまったく意味の無い行動で人狼は狼化してネウロイを噛み、鋭い歯が硬い装甲を貫き、核まで達した。

歯が核まで達すると核が割れるのを感じたので離す。

背後から光線が何条も照射され、被弾するもそんなのは効果がない。

巻きあがった土煙を突っ切り人狼は爪で装甲を削る。核が露出したのでその核を前足で踏みつけると白い結晶となって消える。

 

最後のネウロイを倒し、狼化から姿を戻す。

殴打するために使ったショットガンは大きく湾曲して使い物にはならなかった。

地面に投げ捨てオートバイを取りに戻る。比較的安全な場所に停めていたため損害はなくエンジンを掛けて基地へと向かおうとした。

 

「おい、そこのお前待て!」

 

といきなり声を掛けられる。

狼だった際の姿を見られたら厄介だと腰に掛かったモーゼルに指を掛ける。

理由はというとどうやらこの世界において狼化などの獣化出来る魔女はほぼ存在しないらしく、ただでさえも男性で魔法力を保持している上、固有魔法を二つ持っていると稀有な存在と認識されているので狼化が新たに追加されると、国は研究材料と表し、数々の人体実験が行われると危惧したからだ。そうなると伝承通りに銀を埋め込まれ、人狼が志した死に方ではない死に方が待っているかもしれない。

後ろを振り向くとサイドカー付きのオートバイにヘルメットを被った軍人がそこに居た。軍服を見る限りカールスラントの兵士だ。

 

「今ネウロイの声がしたのだが何処に居るか知っているか?」

「…」

 

迷わず指を指す。うっすらとネウロイの白い結晶が残留していた。

驚きながら軍人は接近してきた。

 

「た、大したものだな。ん? 貴様顔を上げてみろ」

 

軍人に言われるがままに顔を上げると軍人はやはりと顔を緩めた。

 

「申し訳ない、ハインツ中尉殿。まさか貴方がネウロイを撃破するとは話に聞いてはいましたがまさかこれほどまでとは」

「…」

 

彼が言う分には狼化した際の姿は見られてはいないらしく、人狼の考えは杞憂であった。モーゼルの指を解く。

彼は敬礼をしながら告げる。

 

「申し遅れました。私の名はラッセル・ダイクレス、階級は軍曹です」

「…」

「ここで会ったのも何かの縁、どうです? 基地まで案内しますが」

 

どうやらラッセル軍曹は基地の場所がわかるらしい、地図を片手に移動するよりも効率は良かった。

人狼とラッセル軍曹は各自のオートバイを駆け、彼が在籍していたであろう基地へと向かって行くのであった。

 




ブローニング・スーパーポーズド

アメリカで生まれた散弾銃で天才発明家ジョン・ブローニングが最後に設計した銃である。開発は1920年代初頭に行われた。
欧州における第二次世界大戦の激化とベルギーの戦いで連合国が敗北しナチス・ドイツの占領下に置かれた事で生産中止となったが、1939年までに約17000挺が製造された
第二次世界大戦後、スーパーポーズドは1948年より生産が再開された。
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