人狼は夢を見れるのか   作:渡邊ユンカース

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解散

人狼たちがバイクを駆ること三十分、舗装された道路の先には大きなバリケードが構築されているのが確認出来る。

よく見るとバリケードの隙間からは銃が先を出している。

 

「着きました。ここから先が我らの基地です」

「…」

「ちなみにバリケードを迂回するためにはあっちの小さな道を通ります」

 

軍曹が指を指す方向にはバリケードを避けて内部に入れるようにと簡単な道路が引かれており、爆弾を用いてで突貫工事されたのか少々道が荒く、狭さとしては何とかトラックが通れる程の隙間である。

曹長と人狼は一旦バイクから降りて道路を歩いていく。狭い道路を抜け、再びバイクに乗車、アクセルを回す。

バリケードを抜けてもなお陣地が設置されており、対戦車砲が3.7cmPaK36通称ドアノッカーを中心として建物の瓦礫や土嚢で守られている。

後に知りうることとなったが、基地周辺八百メートル圏内には戦車や対空砲に対戦車砲が息を潜め、歩兵が市街戦や索敵を可能にするために瓦礫の陰で待機している。

もしこれが対人戦争ならば効果絶大である。しかし、今回の敵は怪異のためどれほど通用するかはわからずにいた。

 

バイクを門の傍に停め、門を抜けて基地内に入ろうとする。

その際に門番らしき兵士が人狼たちを止めようとするも制服の階級章を見て敬礼した。

門を開け、基地の中へと案内される。

 

「私はまだ任務があるのでここでお別れです」

「…」

「それと閣下が呼んでいますのでお会いしてください」

 

曹長は踵を返して基地を出ていく。

人狼は一体誰が呼んでいるのかと疑問を抱きながら階段を上り、司令部へと歩みを始める。階段を上っている最中にふと窓を見た。万里の長城のようなバリケードが家を隔てる塀のように見え、バリケードが突破された際に対応出来るようにと対戦車砲が視認出来る。

重圧感が溢れる扉の前で居座る兵士に顔を見せると兵士は横に退け敬礼を行う。それは人狼の知名度が高いのか、それともあらかじめ来たら通すように言われていたのか。

年季の入った扉を開けて入室する。

 

 

「やあやあ久しぶりだね、私の大事な玩具君」

「…お久しぶりです。ハインツ中尉」

 

そこにはコーヒーを嗜んでいるランデル中将と忙しく書類を作成しているダロン大佐が居た。すぐさま人狼は敬礼をする。

ランデル閣下は狂気溢れる満面の笑みを人狼に向け、いきなり口を開きだした。

 

「やはり私の目には狂いは無かったぞ、沈黙の狼ハインツ・ヒトラー中尉。本当に君は素晴らしいなぁ」

「閣下、そろそろ休憩を止めて仕事してください」

「嫌だ。私は元々事務作業は苦手、むしろ陣地構築やら士気を上げたり作戦を指示する方が得意だ」

 

薄々人狼は勘づいていた。

完璧な陣地構築が出来る人間はそうそういない、自身の予見を活かせる人物は少ない。

しかもネウロイに襲撃されて一日も経っていないのにも関わらずに構築となると常に戦争について考えていた人物、それはランデル中将しかいないのだ。

ダロン大佐は駄々をこねる閣下を横目で流しながら人狼に問いかける。

 

「申し訳ないが中尉、貴方には戦ってもらいます」

「…」

「残念ですがもう拒否権は無いのです」

 

大佐は申し訳そうに人狼に語る。

それもそうだろう、子供に責任を果たすように指示しているからだ。このような事は彼の良心が痛んでいた。

 

「実はこの基地に一台のストライカーユニットがありまして、現在それを整備しています。それに履いてこの地区の制空権を保持していただきたい。さすればネウロイに対する反撃の糸口があるかもしれ」

「残念だが無理だ」

 

カップを空中にと放り投げる閣下、カップは重力に抗えずに弧を描いて割れてしまう。

床にはカップの欠片が散乱している。

 

「このカップを見ろ、衝撃を受けて割れてしまった。それが現在の我らの状況だ」

「…何が言いたいのかわかりません」

「そのままの意味だよ。もう崩壊は始まってしまい、我らの状況がこのカールスラントを言い表せるほどまでにきっとなるだろう」

「つまりは此処を破棄して逃げろと仰るんですが」

 

大佐の言葉には熱を帯びている。彼の鋭い眼光が老体の身である閣下に突き刺さる。

しかし閣下はそんな姿を見て笑みを浮かべだした。

 

「そうだその通りだ大佐。傷がさらに酷くなる前に何処かに保管してしまうのが一番なのだよ。さあ荷物を纏めてくれたまえ、カップの傷が少し広がったからな」

 

閣下が棚へと向かい、重要な書類を鞄に入れ始めた。その途端に無線が入る。大佐は即座に無線機を繋げる。

無線特有の雑音が部屋全体を支配した。

 

『北西部から報告します! ネウロイが現れました!』

「場所は?」

『い、今八百メートル圏内に侵入しました!』

「すぐさま迎撃せよ、戦車隊に位置を知らせろ」

『それが応答が無いのです!』

「はあっ!?」

『と、逃亡したと見受けられます!』

「…それはないと思うぞ兵士よ」

 

身支度を終えた閣下がいつの間にか大佐の隣に移動していた。

いきなり現れた閣下に驚いた大佐は無線機から手を離す。だがそれを受け止めて会話を続行させる。

人狼はいつネウロイが現れてもいいようにと武器を点検している。

 

「北西部に配備したF部隊は好戦的な隊員たちの集いだ。決して逃げることはない」

『では何故応答出来なかったんでしょうか』

「二つに絞られる。無線機の故障かF部隊の全滅だろう」

『ですが銃声も爆発音も聞こえませんでしたが・・・』

「ハッハー!我々の俗説通りにわざわざ動いてくれる怪異と思うなよ。恐らく奴らは音を抑える殺しをしたのであろう」

『そ、それは……』

「小型ネウロイの奇襲だろう、光学兵器は音も出ないしな」

『ま、まさかですが、今目の前に止まっている赤黒い蝶のじゃ』

 

ぷつりと無線は切れて再び雑音が部屋を包む。

先程の会話に満足したのか前歯がコーヒーと煙草を吸って黄ばんだ歯をむき出して、気色悪い暗雲一つも無いような快晴の笑みを人狼たちに向ける。

 

「大収穫、奴らは蝶にもなれるらしいぞ!」

「このことは全兵士に伝えましょう」

「そうだな伝えよう。絶対に驚くだろう、それこそ脳みそがぶちまかれるほどに」

「基地から出た大隊が戻ってくれば・・・!」

「現実逃避はよくないと日頃私に言っているだろう、多分全滅だ。壊滅してれば運がよければだがね」

 

その時、突如地震に襲われる。

タンスが倒れ、大佐を押し潰そうとするが人狼が支えて難を逃れた。

地震が起きて兵士たちもパニックになっているのか中からでも悲鳴や狼狽える声が耳に刺さりまくる。

 

「さあ、序章が始まるぞ」

 

閣下は窓枠に手を伸ばす。

門前からモグラが出てくるかのように地面が盛り上がり、そこから一本の触手が先程番をしていた兵士を叩いた。兵士はというと身体を強く打ち付けて内臓やらが露呈している。

あまりの惨状に付近で待機していた兵士は静まり返る。

その穴から顔を出した。勿論正体は言わずと知れたネウロイで、種類は大型の陸戦ネウロイだ。

我に返った兵士はネウロイに向けて発砲するも豆鉄砲では有効打にはならず返り打ちに遭っており、兵士が発する断絶魔がネウロイに対する恐怖をさらに増長された。

 

「ランデル中将にダロン大佐殿、それにハインツ中尉はすぐに避難を」

 

ドアの前に居た兵士は言い終えることもなく壁をぶち破って来た光線に身体を貫かれ絶命する。

再度間近でネウロイを視認した二人は正反対で、閣下は喜々としているが大佐は冷や汗を流して狼狽えていた。

 

「さあ逃げるぞ、今の彼の忠告を聞き入れようか。あぁ荷物を纏めて正解だった」

「くっ、まさかまた遭うとは…!」

「…」

 

 

二人と人狼は一階まで降りて車庫へと向かう、車庫にはよく磨かれた黒塗りの高級車が置かれていた。

だが運転手はおらず、仕方が無いので大佐が運転席に乗り込む。

人狼は車には乗らずにモーゼル二丁を抜いていた。

 

「中尉、乗ってください」

「いいやもう行こうか、愛しの兵器は戦いたいそうだ」

「…ご武運を!」

 

エンジンを吹かし二人は車庫を勢いよく飛び出した。

ネウロイの触手は車を押しつぶそうとするが人狼による援護射撃で難を逃れ、避難経路へと行ってしまう。

魔法力を込めた一撃が痛手となったのか穴へと戻っていく。

 

「が、がはっ…」

 

車庫を出ると息絶え絶えの兵士が横たわっていた。

傷の具合を見る限り助からない、服装からして整備兵らしく、工具がポケットに仕舞われている。

 

「ちゅ、中尉殿…ユニットは…もう、整備済み…です……」

 

それだけを言い残し整備兵は息絶えてしまう。

人狼は彼の言う通りにバンカーへと向かうのであった。

 

 

バンカーに辿り着くとある男性が銃を持ちながら酒を飲んでいた。

近づいていくとその素顔はラッセル曹長だった。

 

「ご無事で何よりです。さあ空路で避難を」

「…」

「あいにく武装はこのライフルですが無いよりはマシです。さあバンカーが攻撃される前に早く」

 

人狼はユニットを履きエンジンを起動させる。

種類はbf109で燃料は満タンと喜ばしい状況だ。曹長からライフルを受け取り、離陸する。

離陸して対地攻撃を行おうとした際に突如として基地が爆発する。

炎と爆音が暗闇によく映えた。爆風が人狼のバランスを崩そうと襲うも、何とか態勢を立て直した。

眼下は爆発の威力がわかる程の深い傷跡が残り、生存者は居ないと瞬時に判断出来た。

人狼はポケットを探って方位磁石を取り出した。

もしもこのまま西に行けば人狼の生まれ故郷が待っている。

 

 

家に帰りたい

 

 

いつの間にか人狼の心の中では帰巣本能が芽生えていた。

人狼はその感情のままにユニットを西の方角へと駆りだしていくのであった。

 




モーゼルc96

ドイツで生まれた拳銃。
C96は1896年から1937年までの41年間にかけて製造された。最終的な生産数は100万丁を超えると言われている。
国外からも評判は良く、若き頃のチャーチルも好んでいた。
ちなみに大量の拳銃を付けた後部機銃が存在する。
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