人狼は夢を見れるのか   作:渡邊ユンカース

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対峙

ネウロイに侵攻をされてから数週間が経過した。

その間に小ビフレスト作戦実施、ベルリン近郊より民衆を避難し、ガラ空きとなったベルリンは陥落、カールスラント皇帝家はベルリンより撤退することとなった。

しかし、依然として戦闘は続行、最悪の撤退戦になっていたのであった。

 

 

『陸戦ネウロイ確認、おおよそ二十体』

「了解した。偵察を続行しろ」

『了解』

 

それからというもの塹壕が構築され、町を全体に二重の防衛線を引かれている。西へと繋がる道路の十キロ先には難民キャンプがあり、此処を突破されると被害が確実にでるだろう。

突然、耳を傾けていた無線機から耳をつんざく雑音が通り抜ける。

思わず無線機を耳から離して耳を抑える。

 

「大丈夫でしょうかハンネス少佐殿!」

「…あ、あぁ大丈夫だ。気にするな」

「お、おい見ろよ!」

 

塹壕である新兵が指を指す。その先にはもくもくと黒煙が狼煙の如く上がっていた。それを見て少佐は口を歪める。

 

「…やっぱり撃破されたか」

「もしや偵察部隊ですか」

「そうだ。全兵士に告げろ、銃を構えていつでも撃てるようにしろと」

「了解しました!」

 

返事をした隣に居た兵士は塹壕の中で声を荒々しく叫びながら伝言を伝える。

それに反応した兵士たちは次々に銃を構える。

塹壕より少し前には対戦車砲が砲先を揃え、砲兵が砲弾を抱えて待っている。

 

「ぬおっ!?」

 

緊迫した空間の中、一匹のネズミが現れ、少佐の頭まで素早く登ってきた。いきなりの出撃に驚いたのかバランスを崩し、雨が降ったため土が湿って泥へと成り果てた地面に尻もちをついた。

 

その途端、彼の立っていた場所から二メートルの所に爆発が起きた。彼の近くで通信機の傍に居たある兵士が爆発によって吹き飛ばされ、壁に勢いよくぶつかって倒れる。

衝撃によって頭から落ちた制帽を被り直してその兵士に駆けよる。兵士はと言うと顔の右側に砲弾の欠片が突き刺さって絶命していた。それと爆発音のせいで耳の調子がおかしくなっていた。

少佐は息を飲んで塹壕から顔を出す。

そこには視認できる程近づいてきたネウロイへと向けて砲弾を発射している砲兵に、隣では銃を撃っている新兵の姿が瞳に映った。

命の恩人でもあるネズミに感謝しつつ、小銃を構えて戦闘に参加する。

 

「標準よし! 撃てェ!!」

「次弾装填、早く!」

「完了!」

「撃てェ!」

 

撃っては次弾を装填を繰り返す眼前の砲兵、そこに赤々と煌めく一条の光線が彼らを焼き払った。そして砲弾は光線により誘爆を起こした。

 

「うぎゃあ!?」

「エミール大丈夫か!」

「あ、俺の腕がああああ!?」

「衛生兵来てくれ!!」

 

数刻遅れて衛生兵がやって来た。

彼は腕を怪我をしている兵士を一目見て、背負っているバックから骨切りのこぎりを取り出す。

 

「い、嫌だ! やめてくれェ!!」

「落ち着けエミール!」

「・・・処置を始める」

「うわあああああああああ!!」

 

悲痛な絶叫が戦場の一つの音として混じり合う。傍に居た友人らしき人物は目を背け、衛生兵は淡々と腕を切断していく。あまりの痛さにエミールと呼ばれた兵士は失禁しながら気絶した。

少佐はそんな惨状を横目見て、今度は自分かもしれないという恐怖が彼の心の中にしがみ付いた。

衛生兵は切断し終えた断面に包帯を巻いていく。

だが、運命とは非常なり。三人のいる場所に一発の砲弾が着弾、塹壕が揺れ、その場所だけ見事に抉れていた。

そこには一片の肉塊すら存在しなかった。

黙々とネウロイが迫る。そこで少佐はある指示を出す。

 

「全員ガスマスク着用せよ!」

 

伝言は塹壕内を駆け巡り、各々はガスマスクを着用していく。ネウロイから放出される瘴気を吸うと人間はもがき苦しみながら絶命するからだ。しかし厄介なことにガスマスクというものは着用するまでガスマスクが働くかどうかの判断がわからないのだ。

 

「機関銃の弾が尽きた!」

「俺が取りに行く!」

 

機関銃の銃手を務めていた兵士が叫ぶ、それに応じて隣で弾を持っていた兵士が弾を取りに向かう。彼は何とか機関銃の弾が入った箱を抱えて銃手へと走り向かう。

しかし、ネウロイから放たれた一発の凶弾が銃手を貫いた。

 

「そ、そんな!」

「狼狽えるな、私がやる」

「少佐!?」

 

少佐が彼を抜かしてポジションに着いた。意図を読み取った彼は機関銃に弾を積め、弾帯を持つ。

 

「発射ッ!」

 

発砲音を連ねて聞こえ、無数の弾丸がネウロイへと向かっていき硬い甲殻を確かに削る。

しかし、如何せん攻撃力が足りない。すぐさま回復されていくのだ。

もう対戦車砲は存在せず、致命打を与えることはできないのだ。

 

「何て奴らだ……」

「うっ!? うがあああああ!!」

「どうした!」

 

突如、隣に居た兵士が悶える。

ガスマスクからは彼が吐血したのを裏付けるかのように血が滴る。小さくではあるが、頬の場所に損傷しており、そこから瘴気が侵入したのだろう。

少佐はそんな壮絶な死を迎えるのならば、とホルダーから拳銃を取り出して脳天目掛けて打ち込んだ。ぴくぴくと

身体を痙攣させ、暫くするとようやく落ち着いた。

 

「…身勝手なお節介ですまない、俺を憎め」

 

彼は独りで淡々と機関銃を連射する。

残存兵力はどれほどなのだろうか、もう一割ほどしかいないだろう。もはや撤退も不可能な状況、それなら手榴弾を抱いて自爆した方がいい。

その考えを思いついた兵士は次々と手榴弾を握ってネウロイに向けて突進。

ネウロイは造作もなく易々と彼らを殺して前へと進む。

 

「我々は、我々は屈するしかないのか……」

 

少佐の瞳には絶望しか残っていない。

彼はいつでも死ねるようにと目を瞑る。せめて死に際は決めさせてほしいという意思の表れだろう。

 

 

しかし、背後から聞き慣れた金属音が聞こえる。稀少の希望が生まれ、後ろを振り向く。

そこには人類の鉄の化け物が現れた。

 

『こちら山羊部隊、今から攻撃を行う。訓練の成果を見せつけてやれ!』

『『『『『『了解!!』』』』』』

戦車前進!(パンツァー・フォー)!』

「車長、兼任とか平気ですか?」

「ハッ、俺を誰だと思ってやがる。怪異殺しの山羊の異名を受け持つジェネフ中尉様だぜ」

「自称ですよね、それ」

「ハッハー! まあ活躍すれば正式採用さ」

 

七両で編成された戦車小隊はネウロイに向けて走りながら砲撃を始める。

戦車の種類はⅣ号戦車F型、性能を試すために送られてきた戦車。砲は七十五ミリと大きいが砲身は短い。だが熟練の戦車兵なら問題は無い。

小隊を率いるジェネフ中尉の戦車の砲塔の側面部には今にも暴れだしそうな山羊が描かれている。

塹壕を乗り越え、行進間射撃を放っていく。

 

「やってしまえ戦車隊!」

 

大人げなく叫んでいる少佐の元目掛けて一条の光線が戦車を過貫通して塹壕内に隠していた胸部を貫いた。ど真ん中に大きな風穴を空けられた少佐は状況を理解して倒れこんだ。

既に死亡しているのにも関わらず見開いた目には希望という灯火が灯っていた。

 

「さて、戦果上げるぜ」

「砲弾当ててくださいね」

「任せな、深夜まで訓練したんだ。期待してろよ」

「夜の街に出てた癖に…」

「バレてたか、まあ良い。お説教は終わったら考えてやるよ」

「何偉そうに」

「知らね。ッ! 右から来るぞ!」

「了解!」

 

エドガー兵長は戦車を左にずらす。本来いたはずの場所に光線が水平に飛来してきて、ジェネフ中尉は読みが当たったのかニヤリと嘲笑を浮かべる。

 

「お前らみたいに知能持ってんだよ、バーカ!!」

「煽る前に装填して撃って!」

「はいはい」

『…隊長すみません、私以外の搭乗員全滅しました』

「そうか、なら固定砲台になれるか?」

『勿論そのつもりです』

「その心構えよし! 援護頼むぜ!」

『了解しました』

「残存車両は確実に殺していけ、生きて基地に戻ったら倒したネウロイの数だけ酒を奢ってやる』

『『『『『『わかりました!!』』』』』』

 

ジェネフ中尉が士気を上げ、戦車中隊から放たれる砲弾はネウロイを捉えて精密に着弾していく。

あれほど突出していたネウロイの数は半分も撃破されており、被害車両は起動部をやられた一輌と履帯を切られた一輌だけだ。

 

何故ここまで抗えられるのか、それは全員実戦経験を思う存分積んだ戦士だからだ。

ヒスパニア戦役を始め、オストマルク防衛線を経験して現在乗っている戦車よりも格が劣る戦車で見事生き残ることができた強者揃いだ。

 

何かを感じ取ったネウロイは退却していく。ジェネフ中尉は追撃は必要なしと判断、基地に戻るように指示を飛ばす。動けなくなった戦車を牽引するためにワイヤーを取り付けるためにワイヤー片手に戦車兵が近づく。

 

 

しかし、いきなり地震が起きた。

 

「何だ!?」

「地震ですかね?」

「欧州の地震は主に火山によるものだ。だが此処には火山も無い!」

「じゃあなんですか!?」

「各車戦闘態勢!」

 

エドガー兵長が困惑の色を見せているのをよそに、ジェネフ中尉は無線機に激を飛ばす。

その時、突如として大きな触手が一本、地中から現れる。

そして、履帯が切れて動けなくなった戦車に絡みつき、高く持ち上げる。無線機からは車内の戦車兵たちの悲鳴が聞こえる。

触手は絡めていた戦車を投げ、ジェネフ中尉の戦車の傍に叩きつけられた。

叩きつけられた戦車は爆散、火炎と爆風が彼の車両を包み込んだ。

 

「ちくしょう、なんつう奴を敵にしちまったんだ…!!」

 

彼は呪言を吐き捨て、大幅が黒光りして禍々しくも光る赤い線を見つめることしかできなかった。

 




四号戦車

ドイツで生まれた戦車。1936年4月に完成したクルップ社のB.W.iを元に、増加試作車的なA型に次いでB・C型が作られ、1939年からD型が本格的に量産された。その後も戦局に対応するため改良が加えられ、最終型は長砲身の七十五ミリ砲を搭載したJ型である。
時速38キロとやや遅い。
F型の生産は1941年からだが実験投与としてジェネフ中尉率いる山羊中隊に配備された。
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