人狼は夢を見れるのか   作:渡邊ユンカース

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多数

自身の黒く赤い筋が刻まれた触手を揺らし、次の獲物を選択しているのだろう。

禍々しく動く悍ましい触手の前に冷や汗を垂らし、歯を食いしばるジェネフ中尉。

同じくエドガー伍長も焦点がブレて視界が安定しない程、恐怖に感情を支配されかけていた。

 

「分散しろッ!!」

「ッ!? は、はい!」

 

ジェネフ中尉が無線機に指示を飛ばす。

この言葉に反応した各戦車兵たちは何とか正気を取り戻し、だらけていたエンジンを叩き起こして散会していく。

勿論のこと、彼の戦車も例外ではない。

 

「的はデカく弾は当たりやすい! 確実に当てよ!」

『『『『『了解』』』』』

「…やるか、エドガー。被弾するなよ!」

「任せてください!」

「その意気込みだ、信用してるぜ」

 

戦車は散り散りに動く、触手はやや狼狽えたような反応を示したがそれは一瞬の出来事で標的を決めると触手を振り下ろした。

その先には勿論戦車が在り、決して薄くはない装甲を軽々と叩きつけられた。何トンもの負荷には流石に耐え切れず戦車は破壊されてしまう。当然搭乗員の生存は見ての通り稀薄である。

 

「おらおらっ!」

「右左右ィ!」

 

弾を込めて発射、そして再装填して発射を繰り返す戦車隊。砲弾は触手に弾着して損傷を確かに受ける。少しでも損傷を増やすために機銃を発射する戦車もある。

しかし触手は動じず、自身の身体を鞭のように扱い、戦車隊に攻撃を加える。

 

「ぐおっ!?」

「ぎゃっ!?」

「あ、危ねー。あと少しずれてたら俺ら天国だ…」

「流石にそれは勘弁願いたいですねッ!」

「ハッハー、確かにそうだな」

 

触手はある戦車を掴み持ち上げる。他の戦車は救助するために撃ちまくるも離すことはなく、グシャリと握りつぶしてしまった。すぐに弾薬が引火して爆発が起こるも破壊にはまだ足りない。

偶然キューポラから上半身を露呈させていた車長の一人に爆発の時に生じた破片が首を切断し、残った部位が車内へと崩れ落ちていく。その車内では軽いパニック状態になるだろう。

不幸にもその光景を見てしまったジェネフ中尉はキューポラから頭を出そうとすることを控えようと決心した。

 

『だああああああ!?』

『きゅ、救援求む!』

「あ、あの野郎!!」

 

無線機越しに悲鳴が聴こえる。

履帯が切れて動けなくなったため、ワイヤーを繋いだままの車両が持ち上げられているのだ。

二車輌とも宙に浮かび、戦車同士を激しく衝突させる。

 

『痛い痛い痛い!!』

 

無線機が壊れているのか、それとも片方が全滅しているのはわからないが一両しか無線が通じない。

暫くすると触手は嗜虐に飽きたらしく、適当な方向に放り投げた。投げ飛ばされた鋼鉄の塊は地面に勢いよく叩きつけられて戦車は爆散、木々をなぎ倒していっま。

 

そんな中、ふと、いきなり触手の動きが止まる。

懐疑的に思った彼らだがこれを好機と見たジェネフ中尉は一斉砲撃を命じる。

鋼鉄の砲身から放たれた幾つもの砲弾は触手を捉えて弾着する。一点集中砲火に思わず笑みを浮かべる戦車兵たちだったが、その姿は健在。一斉砲撃を再開させようと機会を探り入れる。エトガー伍長は攻撃を避けるために覗き穴から覗く。

その際、先端が光るのをエドガー伍長は目撃し、すぐさまジェネフ中尉に伝える。

 

「ヤバいのが来ます!」

「何ィ!?」

 

目を見開いてジェネフ中尉は先端を観察、点滅していた光が徐々に継続的に輝き始めるのにつれて彼の心拍数が上がっていくのを実感した。

エドガー伍長は独断で危険な状況と判断、すぐさま車両の速度を上げて触手の根元まで接近した。

ジェネフ中尉は心を落ち着かせようと深呼吸を行う、ガスマスク越しで音が聴こえる程に。

 

 

その時であった。

先端から多大なる熱量を帯びた光線が照射されたのである。

赤く太い一条の光線は戦車隊を薙ぎ払い、戦車隊が居た場所を跡形も無くなってしまい、残されたのは深く抉れた地面だけだ。土が煙を揚げているのが見てわかるように、かなり高温の光線だったのだろう。

彼らの心は恐怖に支配された。そしてジェネフ中尉は余分に自身は何もできなかったという自責感が自身の心をベールのように二重に覆うのだ。

自分の無力さに腹を立てて顔面を思いっきり殴り、いつの日か吸おうとした際に落としてしまった煙草を力一杯踏みつける。中に内蔵された煙草の葉がはみ出る。

 

「…車長、指示を」

「わかってる」

「撤退か継戦、どちらで」

「……決まっているだろう」

 

 

 

 

 

「アイツを殺すぞ、断絶魔すらも上げれなかった奴らの弔い合戦だ」

 

 

「わかってました。やはり貴方こそが鋼鉄の山羊の名に相応しい」

「征くぞ、たった一両だが山羊隊だ」

 

アクセルを踏みしめ発進、砲塔を回して照準を触手に合わせる。

距離もほぼ離れておらず、きっと一撃が重いだろう。それを触手の根元に放つ。

至近距離の砲撃のあまりの痛さに悶絶したのか独特の機械音を放つ触手をよそにジェネフ中尉は無表情ではあるが彼の憎悪が挿入された砲弾が装填、そして殺意を込めて砲の引き金を引く。

エドガー伍長は己の小ささに立腹し、唇を噛みしめる。そこからは血が滴り、ズボンに赤く黒く染まる。彼もまた憎悪を込めてアクセルを壊れる程に踏み込み、同時に明確な殺意を持ってレバーを上げる。

 

一瞬としてただの鉄で構築された機械から、彼らの負の感情で構成された黒鋼の山羊が姿を表す。

鋼鉄の山羊は砲弾という鉄の蹄で深く深くと触手を傷つける。

反撃として触手は先端を鋭く尖らせて山羊を仕留めようとする。だが山羊は重々しい身体とは裏腹に岩を駆け巡るかの如く次々と攻撃を躱していくのだ。

 

「くそっ! 砲弾が尽きかけるぞ!!」

「ここまで来たんだから引き下がれませんね!」

「全くだぜ!」

 

そんな心配をよそに触手は突き立てようと狙いを定め、打つ。山羊の頭上から槍が迫る。

万事休すと思ったその時

 

 

 

独特なサイレンを鳴らしこちらに向かっているのだ。

それを不気味とも取れる音を聴いた彼らはニヤリと嘲笑い、突き刺そうとした槍が爆発する。

そこにはカールスラント魔女特集には必ずや刷り込まれている人物がMP40と最後であろうの百キロ爆弾を背負い空を飛来し触手を見下ろしている。

 

『こちらJu87爆撃小隊隊長ハンナ・ウルリーケ・ルーデル大尉。貴官を援護する』

「…ハハハッ!! 凶暴な山羊に羊飼いがいるとは驚きだな!」

『面白い冗談だ。後で一緒に牛乳でもどうだ』

「構わないぜ、けど俺はウィスキーでいかせてもらうがな」

『さて、では倒すぞ』

「勿論だ」

 

 

『我が祖国最強の急降下部隊を誇るこの……』

「我が祖国最凶の中戦車部隊を誇るこの……」

 

 

『私が相手をしよう』

「山羊隊が相手をしよう」

 

羊飼いは杖代わりに黒光りするMP40を撫で下ろし、山羊は触手に睨み付ける。

彼女は眉間にしわを寄せて睨む。一方車内では、僅かながら入り込む光でガスマスク内の眼鏡を怪しげに反射させる彼。また、自身が被っていたのクラッシュキャップを深く被り直す彼。

たった三人の兵士の眼中には共通して奴を倒す、ただそれだけである。

 

 

愛国心 憎悪 殺意 怒り 破壊 撃破

 

 

例え人種、性別や兵種が違えでも

例え魔力の有無があったとしても

それらの言葉を合言葉に結成された戦闘専門の兵士、己より格上の相手でも挑むような勇敢さ

この合言葉の全てを伴って戦闘する者こそ、真の強者といえるだろう。

そして今、その条件に当てはまる三人が此処に存在する。

 

 

戦車前進(パンツァー・フォー!)

「さあジェリコのラッパに恐怖を抱け!」

 

 

羊飼いは黒光りする杖を構え、山羊は鋼鉄の蹄を揃える。

自身の能力を信じ、背中を合わせる己と似た仲間に信頼を託して、激しく衝突するのであった。

 




クラッシュキャップ

ドイツで生まれた帽子の一つ、1934年に制定されるも1938年に廃止。
なお、クラッシュキャップとは俗称であり、正式には野戦帽 制帽のクラウンの中にあるワイヤーを抜いて崩し、フニャフニャにさせて、更に余計な装飾や部品を省いた、扱いやすくした軍帽となっている。
一旦は廃止されたが、扱いやすかったためか、オーダーメイドで作り使用する将校もいたようである。
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