人狼は夢を見れるのか   作:渡邊ユンカース

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討伐

エドガー伍長はレバーを下げて勢いよく後進する戦車、一旦距離を置いて回避に専念するという考えで行われる。戦車は金属を擦り合わせた音を響かせて距離を置く。

勿論、触手も黙ってはいない。後進をする戦車に向けて触手を振り下ろしたのだ。

 

「やらせはしないぞ」

 

途端にMP40から放たれる弾丸に当たり、狙いがやや逸れる。その結果、逸れた触手は戦車の真横に突き刺さり、戦車はこの機を逃すまいと砲塔を回し、砲撃する。

砲弾は触手の装甲に弾着、砲弾は炸裂して装甲を剥ぎ取る。

なお、その際に生じた破片により戦車に無数の掠り傷が生まれるも、依然として攻撃を始める。

 

「車長! 砲弾は少ないので機銃を!」

「あいよ!」

 

ジェネフ中尉は言われるがままに機銃席に素早く移動、機銃を向けて発射する。パチパチと装甲に当たり火花代わりの破片を散らす触手、どうやら装甲自体はそう硬くはないらしい、弱点を確認した彼は微小ながらも口角を上げて機銃を連射し続ける。

 

「おらおらおらっ!」

「前進しながら回避行動します。ご注意を!」

「おうよ、全回避してやれ」

「了解」

 

レバーを使って戦車は後進から前進に直す。距離を取っていく合間に機銃の弾を装填、先程まで入っていた弾倉を投げ捨てる。無機質な音が車内に響き渡る。

再び触手に砲塔を回転、引き金を引いた。

今度は先程空けた風穴に向けての発射、装甲が剥がれたことによりそこの部分だけ、内部が露出しているのだ。

核を攻撃すればネウロイは撃破になるが、現状核の確認はできない。ウィッチの固有魔法では瞬時に核を見つけられるのがあって羨ましい、とジェネフ中尉は思う。

核が見つからないのなら徹底的に痛めつけて核を探すしかない、それは男性の全兵士にとって苦行であった。

男性は固有魔法も無ければシールドすらない、奴らの光線やら銃弾を防ぐものといえるものが無いの上で非常に困難だからだ。

彼は中々旨いところは貰えないと観念しつつ、無線機に要請を促す言葉を並べる。

 

「おいルーデル大尉! 爆弾があるのなら仕掛けてくれ」

『そのつもりだ。爆破に巻き込まれる心配を危惧して爆撃できなかったのでな』

「ハッハー! あんな悪魔にやられるのなら、美女にやられたいぜ」

『私は通称魔王だぞ、奴らよりも痛いのをお前らに喰らわせられる』

「そうかいそうかい、なら魔王とやらの力を証明してくれや」

『いいだろう』

 

彼女は一呼吸して目を瞑る。

 

「さて、あの躾のなってない羊に魔王の力を見せつけてやろう」

 

そして触手目掛けて急降下、空気を裂くような音を無人の町に教会の鐘音の如く響かせる。

音に気付いた触手は先端部から三本の光線を撃ち、撃墜させようとする。

だが、上がりを迎えかけたとしても戦歴が長い彼女は紙一重に躱して迫る。

 

「投下」

 

ユニットが爆風で損傷する一歩手前の高さで爆弾を投下、爆弾はするすると触手に向けて落ちていく。

魔王は静かに笑った。

何故なら爆弾は直撃進路に忠実に落ちていくからだ。

爆弾は触手に直撃、瞬時信管は接地した瞬間に爆発を引き起こす。偶にだが爆弾は不発という現象を招くが、そんな現象はそうそうもない。爆弾は無事に爆発、爆炎と爆風を起こし、一刻遅れて音が追いついた。

触手は激しく損傷させ、先端部は殆ど吹き飛び、治癒させようと断面部を煌めかせる。

しかし、山羊は見逃さなかった。

 

「…甘いぜ」

 

照準器をなるべく断面部に近い部位に設定し、砲撃。放たれたのは榴弾で、貫徹力は低いが、その分炸薬が多いため対小型には効果的だった。

激怒したのか触手はどこから出しているのか絶叫を上げる。

 

「くっ……」

「うっ!?」

「ぐあっ!?」

 

絶叫は耳を通して脳に響かせる。車内に居た二人でさえもあまりの音に耳を塞いだ。

しかし、あまりに耳障りな音に三人を余計にイラつかせ、瞬時に平然さを取り戻して攻撃を再開する。

光線という攻撃手段をを潰したお陰で攻撃が避けやすい、地面に打つ一撃は確かに破壊力は破格なものだろう。だがそれは当たらなければどうってことはない、扶桑軍人じみた発想ではあるが正論であった。

榴弾の数は残り十発、徹甲弾は五発と心もとない弾数だ。一方でルーデル大尉は自衛用で持ってきたMP40の弾倉三倉、おまけとしてPPKの弾倉が二倉と少なく、短期決戦で片をつけるしか生き残る手立てはない。

退却するという方法もあるのだが、そんな発想は微塵もしていない。

それは絶対に狩ると断言しときながら、おめおめと逃げ帰ることなど強者としてのプライドが許さなかった。それともしこの化物を放置したら味方に多大な損害を与えるのは確実であるからだ。

ならば今倒さねばならない。陸空の精鋭の中でもトップクラスの能力を持ち合わせる三人ならば勝算は必然的に高くなる。

眼をぎらつかせながらルーデルは空から、人を殺す勢いの眼光で睨めつけ砲撃しながらも、回避に専念するジェネフとエドガー。

 

攻撃は一向に減らない、少しばかり触手の治癒が遅れてきたようにも見える。

だが歴戦の強者たちの攻撃は衰える色を見せずにいた。

 

「フハハハハ!」

「アッハハハハハ!」

「ハッハハハハハ!」

 

むしろ笑っていた。

声を上げて笑い続ける。それは一つの戦場音楽として、砲撃と爆破、射撃音とともに混じり、新たな曲を作曲していった。

常人がこの異端な光景を見たらどうなるのだろうか、頭の狂った奴らだと認識されるだろう。だがその認識は合っている。そうでなければ、彼らは真の強者には昇華できないのだ。過程をクリアするにつれて何かが壊れ始める。それは戦いにおいて必要だ。そうでなければ些細なことで心を壊されてしまうからだ。

 

「さあ、もっとだ。もっと俺を楽しませろ!」

 

ある者はガスマスク越しでもわかる狂気の笑みを浮かべ

 

「どうしたその程度ではない筈だ」

 

ある者は顔に影を落として、ままならぬ雰囲気を醸し出す。

異名に合致する行為は触手を軽く圧倒した。負けじと触手は鳴き声を鳴らした。

魔王と山羊と触手、奇妙な組み合わせに乱入するものが姿を表す。

ピタリとそのお互い戦闘行為を停止、乱入者へ視線が注がれる。

 

「…」

 

長いコートに古めかしい規格帽、銃身が長すぎるモーゼルを二丁腰に掛けて、ライフルを所持する姿。

遠目からでも強者だと断定できる程の異質すぎる雰囲気を纏い、一歩また一歩を確実に地面を踏みしめて接近してくる。

 

「ハッハー! 援軍到着ってか、面白い!」

「また君ですか、慣れますね」

「ほほう、やはり私の見込んだ男だ」

 

山羊は歓喜に満ちた声を、魔王は必死に抑えているものも僅かに笑顔が溢れ、尻尾が揺れる。

褐色肌と比例して風に揺れる銀髪、褐色の肌に適合する真紅の目

人々は口々に言うだろう

 

エース

WAR WOLF

世界初のウィザード

お伽噺の到来

沈黙の狼

 

 

そして、人狼と

 

「…」

 

風に揺れるコート、触手に突き刺す程までの眼光を当ててライフルを構える。

バンッ、と先程の激しい戦闘と比べものにならない銃声が春特有の温い空気に響く。

一発の銃弾は標的へと飛来、硬い装甲に弾着すると物凄い爆破音を奏でた。人狼の魔力の大半を詰め込んだ一撃は強烈で触手の根元がやや抉り取られていた。

 

「…流石だハインツ」

『当然だ。私が認めた男なんだからな』

「ハッハー! 恋人面してんじゃねえよ、アイツまだ十四歳だからな」

『何、相手が二十歳超えたら私がハインツの妻になるつもりだ』

「怖い怖い、さっさと恋人作ってほしいもんだぜ」

『まあ彼が私のことを好きならばそのまま結婚してもいい。私も二十歳まであと少しだ。いつでも家庭を築ける』

「う、うわー。流石の俺もこれにはなぁ…」

「車長、ふざけてないでください! それとルーデル大尉、家庭は良いものですよ」

『ほうそうか、なら死ねないな』

「そうだな、俺らも負けらんない。それと彼女欲しいぜ」

 

ライフルを走りながら撃つ人狼をよそに戦車を動かし砲撃、ユニットを駆けて銃を乱射する。

人狼は持ち前の脚力で急接近、弾が切れたが装填し直す時間は無い、銃身を持ち替えて銃尻で触手に殴りつける。魔法力で強化されたライフルは効果的で装甲にひびが入る。

すると今度はひびが入ったところ目掛けて回し蹴り、装甲は割れて内部が露出する。そこに腰から銃剣を取り出して刺し込んだ。魔法力を付与した銃剣は強烈で下へ下へと地中に潜り、撤退の色を見せ始めた。

 

「ちくしょう! 逃げられる!」

「あぁ駄目だ。もう弾薬が無いぞ!」

『生憎こっちも駄目だな。銃身が摩耗してしまった』

「…」

 

追撃できなくなった途端、三人は惜しみさを加えた言葉を吐き捨てる。

だが攻撃の手を緩めない人狼は触手の先端部を掴む、再生したてで装甲はまだ軟らかい。

 

「先端部はやめろ!」

 

人狼は先端部から放たれる光線の存在を知らない。

一本の光線が胴を貫き、数メートル先に吹き飛んでしまった。

緩んだ手を強引に外して地面に戻っていく。

 

「ハインツ無事か!?」

「ハインツ!」

「ハインツ君!」

 

各々は自分の安全を捨ててすぐさま人狼に駆けよる。ルーデルのユニットが脱ぎ捨てられる。

人狼は不安を拭かのように自己治癒、霧が腹から解かれると風穴は埋まっていた。

 

「よかった…」

「つったく心配させやがって」

「けど生きててよかったよ」

 

三人は安堵の息をつく。

人狼はゆっくりと起き上がろうとするが魔女であるルーデルは許さなかった。彼女は膝に人狼の頭を載せる。俗にいう膝枕だ。人狼は太股の温かみを頭部で実感していた。

 

「先の戦闘で疲れただろう、今は休め」

「…」

「何、年下の世話をするのが年上の役目だろう」

「けっ、数分したら戦車を走らす。休息しとけ」

「あっ、そうだ。今の奴報告しなくちゃ!」

 

ルーデルは慈愛溢れる表情で人狼を撫でる。ジェネフは美女に膝枕されるという状況に嫉妬の色を見せながら殉死した隊員の遺品を探し始める。エドガーは久しぶりの再会に数週間ぶりの喜びを感じながら、無線機の元へと向かっていった。

 




銃剣

銃剣は17世紀に偶然発明された。
この時、興奮した農民が、マスケット銃の銃口にナイフを差込み、相手に襲い掛かったと伝えられている。
槍型や剣型と種類はある。
しかし、剣型の場合は両面の刃を研ぐと残虐な最後を送るという暗黙の了解がある。
ちなみに銃剣を着剣して突撃、相手を刺して射撃しようとすると精密射撃が難しくなるという欠点がある。

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