人狼は夢を見れるのか   作:渡邊ユンカース

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子供

「ふわぁ~、眠いぜ」

 

ジェネフは大きな欠伸をして戦車の上で伸び伸びと寝転んでいる。どうやらネウロイの瘴気は晴れたようで、もうガスマスクの着用は必要ないと判断、ジェネフは誰よりも早くガスマスクを着脱した。

彼の勘の通りに、辺りには瘴気は消え去ってしまった。しかし、未だ鉄臭い臭いと硝煙の臭いが蔓延していおり、ガスマスクを取ってすぐに深呼吸をしてしまった彼は顔を渋らせ、煙草を口にした。

 

「ちょっと車長、仕事してください。生存者確認は大切な業務ですよ」

 

一方でエドガーはというと、持ち場の兵士の生存確認をしていた。

元々は百二十人ほどいた守備隊だったのだが、ネウロイの激しい交戦で過半数も喪失、生き残った兵士の殆どが大小問わず怪我を負っている。

手に持った書類には幾つものバツ印が付けられている。どうやら死亡した兵士に付けられているらしく、エドガーは深いため息を吐いた。

 

「まさか指示する士官までもが戦死なさるなんて、これからどうやってけばいいんだ…」

「あー、ゲレスト少佐だったっけ、あの人最近孫が産まれたと喜んでたんだけど、運命とは残酷だぜ」

「運命、ですか……」

 

ジェネフが呟いた言葉にエドガーは暗い顔になる。書類には力が込められており、ややしわが寄っていた。

気まずい雰囲気を察知したジェネフが話を逸らそうと焦燥感を覚える。そして必死の思いで提案、戦車から飛び降りて動作を刷り込みながら発言する。

 

「あっ!そうそうエドガー、なんか暫く経たない間にハインツの奴、デカくなったよな!」

「…あぁ、そうですね。車長追い抜かしましたもんね」

 

一呼吸遅れて応答するエドガーをよそに、次々と機関銃の如く言葉を紡いでいくジェネフ。

 

「いやー、俺とて百八十センチはあるつもりだったんだけど、まさか十四のガキに越されるとは思わなかった」

「僕はダリアで出会ったときにはもう抜かされていましたね」

「まさか戦場のど真ん中で遭遇するとは、俺ら何かに結ばれているかもしれないな」

「…まさか同性愛に目覚めましたか?」

「なわけあるか!!」

「…ほう、うちの自慢の男に惚れただと。痛めつけがいがあるな」

 

ジェネフの片に手が置かれる。彼はゆっくりと激しく動揺しつつ振り向いた。

そこには先程共闘したルーデルが居た。微かにだが額には青筋が浮かんでいるのを確認できてしまった。冷や汗が滲み、頬に垂れる。

 

「あ、あの違うからな! 俺は女が大好きなんだ、断じて男になんか手を出すつもりは無いっつうの!」

「おい聞き捨てならんな今のは。ハインツが魅力の無い男だと? 笑わせるな、しばき倒してやろうか山羊」

「うぎゃあ!? 勘弁してくれ! てか面倒なんだけどこの人!」

「問答無用、いち、にー、さんっ!!」

「ぐばっ!?」

 

そのまま彼女に腰に手を伸ばされてきっちり拘束される哀れなジェネフ。彼女が身体を大きく後ろに逸らすと彼の身体は一瞬宙に浮く。そして勢いよく地面に叩きつけられ、彼は情けない声を上げる。俗にいうジャーマンブレスだ。

先の戦闘で見せた強者としての尊厳は微塵も感じられず、そこにあったのは哀れな男ジェネフであった。

ジェネフは頭に星を回し、目には螺旋が渦巻いている。

 

「う、うーん…」

「な、何だ今の技は!?」

「ふっ、伊達にウィッチやってる訳じゃないんだ」

 

自慢げに鼻を鳴らして、水筒を口に咥える。

そこに人狼がゆっくりとした足取りで近づいてきた。

 

「むっ、どうした。誰かに虐められたのなら言え、ボコボコにし返してやろう」

 

過保護とも取れるこの発言に人狼は大きく首を振る。勿論横にだ。

エドガーはこんなに強いのに虐められることはないだろう、と飽きれて静観しているとギロリと鋭い眼光でこちらを睨むルーデルに委縮する。ジェネフが伸びた光景を一部始終見ていたから尚更だろう。

そんなこと知ってか知らずの人狼は、地面に平伏していたジェネフを起こす。

 

「…」

「はっ!? 俺は一体何を、てルーデル大尉! あんた何しやがるんですか!」

 

ぺちぺちと頬を叩かれたジェネフは意識を取り戻して飛び起きた。

息を切らせ、再度ルーデルの顔を視認、ゴキブリのようにカサカサという擬音語が似合いそうな移動をやってのけた。どうやら彼女に恐怖を抱いたらしく、エドガーの影に隠れた。

心なしか震えていて、情けない姿を見せる彼にエドガーはちょっとだけ同情していた。

 

「茶番はここまでにしよう。ではこれからどうしようか」

 

彼女が本題の口火を切り出す。

 

「そうですね、現場の指揮権はキラレス少尉に移行。とまあ衛生兵の方ですが…」

「指示経験は?」

「ありませんが幾多の戦場を切り抜けた方です。ある程度まともな指揮ができるかと」

「…マニュアルを作成した方がいい」

 

いつの間にか正気を取り戻したジェネフが仕事の顔を見せる。しかし依然としてエドガーの影に隠れており、ルーデルと視線が合うと情けない声を上げる。

 

「どういったのを組もう」

「は? ネウロイからの防衛は無理。だって人員すらないぞ、戦車砲も無いし」

「じゃあどうすんですか!」

「答えは簡単、地雷を使っての遅滞戦術だよ」

「…まさか」

「状況に対処できる時間を作る。それしかねぇ」

「確実に多大な犠牲は出るぞ! それも民間人もだ!」

「…悪いがこれしか案はない」

「ジェネフ!」

 

彼女は彼の胸倉を掴む、だが彼も負けじと彼女の胸倉を力一杯握り、両者の間から火花が散る。

両者とも憤怒の色を見せている。

 

「俺だって、俺だってそんなの嫌に決まってらァ! だけどな、だけどこれからどう動けばいいのかわからないんだ!何処を見てもネウロイは確実にガリアまで進行するんだ!」

「輸送船は!」

「…連絡が昨日、避難民を乗せてくれると伝えてくれた。だけど今日の朝頃から連絡がつかない、沈んだのだろう、どちらにせよ打つ手なしだ」

「くそっ!」

 

彼女は激しく叱咤しつつ地団駄する。

彼の左手は強く握りしめられていて悔しさがにじみ出ている。

 

「仕方が無いけど、避難民をいち早く何処かへ避難させる。明日の早朝に出発する予定だ」

「ちょっと待ってください、防衛マニュアルというのは…」

「ったく、お前ら早とちりし過ぎなんだ。防衛マニュアルは今日だけ、たった一片の希望を持ってガリアに行けばどうにかなるかもっていう生温い発想だ」

「…それを先に言え」

「アンタが胸倉を掴むから俺も熱くなっちまった。…それと先はすまないな」

「…あぁ。私も熱くなりすぎた。すまない」

「んじゃあ、とりま難民キャンプに戻るとするか、戦闘に関する書類整理しなきゃならないし」

「わかった」

「了解しました。エンジン起動させときます」

 

早歩きでエドガーは戦車の元へ走っていった。

 

「私は空から行く、ハインツはどうする」

 

今まで話に入る余地も無かった人狼は彼の提案に頷いた。

こうして彼らはキャンプへと向かっていく。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

戦車に揺られて二十分、ルーデルはユニットを駆けていち早くキャンプ地へと帰還した。

人狼を車外の天板に座っている。いつでも戦闘が可能にするためライフルの弾を装填していた。ジェネフは上半身を出して煙草を吸う、紫煙が戦車後部の排気管から出ている排気ガスと混じり合った。

ついに難民キャンプに到着した。

 

「此処が難民キャンプだ」

 

そこは小さな町に沢山の人が建物内から顔をだしたり、路上で遊んでいる子供の姿を見受けられた。ここだけ戦争の色が薄れているようにも思える。

人狼は辺りを見渡すと見慣れた人影を視認した。ライフルを担いで飛び降りた。

一瞬目を丸くしたジェネフだったが、知り合いでも見つけたんだろうと思い静止を促す言葉を口に出さなかった。

 

人狼は人混みを掻き分け、とある子供たちの集団を再度確認する。

どうやら子供たちは仲良く談笑しているたしく、人形を持った女の子が笑っている。人狼が住んでいた孤児院の子供たちと後は小学校の同級生であったバルクホルンの妹だ。

一歩踏み出そうとしたが自然と足が動かない。

自分の存在はもう忘れ去られてしまったかもしれないといった不安が原因だろう。逆に来た道を戻ろうとする方が軽やかに行けそうな気がした。

人狼は帽子を深く被り目元を隠す。戻って来た道に踵を返そうとした。

 

 

「待って」

 

 

数歩程度歩いた時にコートの擦り切れた端を誰かが掴んだ。

人狼は張本人を確認するため、仕方なしに振り向いた。

その目先に居たのはかつて人狼に人形をくれたノアであった。

 

「…ハインツ、だよね?」

「…」

 

ジト目でこちらを凝視する彼女に人狼は思わず頷いた。

すると彼女は背後から抱き着く。力が込められ、掴んでいる布地にしわが走る。

 

「遅い、遅いよハインツ…!」

 

顔をコートにつけて涙声で怒りを表す彼女、しかしそれと同時に彼女に募った寂しさが解放されていくのを実感した。

人狼は大きくなった手を彼女の頭部に乗せて頭を優しく丁寧に撫でる。

それにつられて彼女は感情を激しく露わにしていく。

 

「どうしたんだいノア?」

「そうだよ迷子になったら面倒だろ?」

 

そして残りのメンバーと鉢合わせになる。

二人は時が静止無言のまま人狼の元へと駆け寄り、それぞれ余った場所に抱き着いた。

彼らも彼女とどうように泣き始めた。

 

「ハインツ兄ちゃん!!」

「久しぶりだね、ハインツぅ…」

 

彼らの気が済むまで撫で続ける人狼、全員が泣きやむまで三十分も掛かった。コートは彼らの涙や鼻水やらで湿っていた。

しかしそれほどまで人狼に会いたかったのだと人狼は悟る。そして自分は幸せ者だと少しばかり頬を少しばかり緩めざるおえなかった。

 




ワルサーP38

ドイツで生まれた拳銃、カールワルサー社で製造された。
ルガーP08の後継として作られ、第二次世界においてドイツ軍に使われた。
終戦までに約120万挺が製造されたとされる。
鹵獲することが一種のステータスであり、人気の品であった。
有名な使い手はルパン三世である。
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