人狼は夢を見れるのか   作:渡邊ユンカース

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此方

「ちくしょう、エドガー準備しろ!」

「大丈夫です!」

「ったく、仕事が多いと嫌になるぜ」

「書類仕事がしたいですね」

「たまには良いけど死にたくはないしな」

 

ジェネフとエドガーがそれぞれ愚痴を零す。

エンジンを叩き起こすと、車体が小刻みに揺れる。排気口からは黒い排気ガスがたちが上がる。キューポラから上半身を露出させているジェネフはこちらに走って迫る人狼の姿を見つけた。

 

「丁度いい、乗ってけ」

「…」

「お前武器は?」

「…」

 

ほぼ身軽と言える姿で戦車に乗っかる。

どうやら人狼が所持している武器は二丁の拳銃だけだ。さっきまで持っていたMP40やらkar98は先の戦闘のお陰で壊れてしまったらしい。

ジェネフは砲塔の側面に付いていたkar98を取り外した。

 

「弾はもう取り付けてあるが、この一つの弾倉だけだ。あとは現地調達でいいな」

「…」

 

人狼は頷き手渡された。

点検は特にされてはなく、砂や土が付着している。銃口に異物混入を防ぐために付けられたカバーを外す。弾倉をチェックすると僅か三発分しか残っていない。

兎も角、いつ何時でも打てるようにと慣れた手つきで安全装置を外し、コッキングをする。

 

「ちくしょう、ルーデル大尉はもういっちまった。あの位高速だと羨ましいぜ」

「ジェネフ中尉」

「はい何でしょう」

 

小走りで向かってきたクラウン中佐から声を掛けられた。

 

「これから我らは避難を開始する。捨て駒代わりに使われたと私を恨んでくれ、すまない」

 

それは人狼たちに対する謝罪であった。

頭を深々と下士官に対して下げているのは実におかしなことだ。彼の熱烈なる謝罪が伝わってくる。それほどまで罪悪感が込み上げてきたのだろう。

ジェネフはそんな彼を見て、ニカッと屈託の無い極上の笑顔を浮かべる。

 

「頭を上げてください中佐、俺ら下士官に対しそんな態度を取っては駄目ですよ。そんなことしたら第一我らも恥ずかしいですし、避難民から舐められてしまいます」

「…だが」

「はっはー! 軍人たる者、国民を守るのが義務です。それを行うために我らは守られる側から守る側へ移動したのです」

 

咎めるような姿勢を示さず、むしろそれを生き甲斐にしているジェネフ。

そんな彼を見て安心感を抱いたのか中佐は頭を上げる。

人狼は砲塔に描かれたエンブレムを叩く。冷淡な金属音が鳴るもそれは温かいものであった。

 

「そして我らは泣く子も黙る山羊隊ですよ。それに沈黙の狼もついています上、遅滞どころか殲滅させて御覧に入れましょう。その際は中佐率いる避難民たちと合流してもよろしいでしょうか?」

「…勿論許可する。貴官らにご武運を」

「了解しました。そんじゃあカッコいいとこ見せちまおうぜ、戦車前進(パンツァー・フォー)!」

 

戦車は金属同士が軋めきあう音を鳴らして出撃する。

中佐は凜とした敬礼を戦場に赴く戦士らに向けた。ジェネフと人狼は敬礼を返す。

すると距離が離れてくにつれて中佐が小さくなる。そこに更に小さな存在が立ち、声を荒げながら手を振っていた。

 

「ハインツー! 頑張りなさい!!」

「勝ってくれハインツ!!」

「ハインツ兄ちゃん頑張ってー!!」

「ハインツさん頑張ってくださいね!!」

 

四人の子供たちの声を聞き、より一層人狼の雰囲気が強まる。

普段見せない人狼の姿にジェネフは口元を緩めて人狼の頭に手を置いた。

 

「ハインツ、絶対に避難民を守るぞ」

「…」

 

人狼たちはネウロイが暴れまわる戦場に足を進めたのであった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

漆黒の化物と揶揄されたネウロイが大きな爪痕が残した塹壕を蹂躙を行っていた。

そのため対戦車砲も無い陣地にはもはや防衛力は残っておらず、明け渡すことしかできない。

しかし退却をしようが人間の足とネウロイの足ではネウロイ側が断然速い訳で、乗り物も所持しない守備部隊は退くこともできず、強制的に戦わされることを余儀なくされた。その上指揮官が衛生兵の少尉となっては適切な指示もなしにひたすらに黒い嵐に蹂躙され続けていた。

 

「戦力が足りない!」

「どうしましょうか小尉殿!」

「くそっ! まだ対戦車砲や兵士が多かったら……」

「小尉危ない!」

 

突如上から機銃を放たれ、それを確認した兵士が彼を押し倒した上で覆いかぶさった。

二度兵士の身体から振動を感じ取った。

 

「大丈夫か!?」

 

機銃掃射が終わり、彼は覆いかぶさった兵士を剥がし、医薬品を取り出しつつ傷跡を確認する。

しかし脈を測ると彼は絶命しており、心臓を撃たれたようであった。ガスマスクからは血が流れだした。

 

「すまない。俺のせいで」

 

急に金属音が聞こえ、顔を上げる。

其処にはあの忌々しい小型ネウロイがこちらを凝視している。彼はガスマスク内部から発しられた叫び声とともにワルサーPPKという名の拳銃を必死に乱射する。

弾丸はそのままネウロイに集束、見事に被弾して砕けちった。

 

「はぁはぁはぁ…」

 

腰を上げて塹壕から恐る恐る顔を出した。もはやネウロイたちがたむろしており、生存者は自分しかいないと予測できる程である。彼はしゃがんで壁に背中をつける。首に掛けていた十字架を握りしめながら必死に祈りを乞う。

 

「…主よ、どうか私に天国をお与えてください」

 

その懇願には諦めの意味を込められた祈りであり、死を前提とした祈りであった。

その言葉に誘われて一体のネウロイが接近する。大きさは五メートルと大きい。

徐々に近づくにつれ、頭部に付けられた砲塔を下向きへと下げる。一歩一歩踏みしめる際に地面が揺れるのをその身で体感し、確実にやってくる死の恐怖に怯えていた。

 

 

だが、その死は彼ではなく奴に向かった。

 

嫌でも聞き慣れてしまった甲高い投下音を耳に挟み、姿勢を更に低くする。

音が止んだと思った瞬間、爆発が起こり、土や小石が塹壕内に侵入していく。そして聞き覚えのおあるエンジン音を耳にする。

 

「ルーデル、参上した」

 

彼女はMP40を降下しながら連射する。魔法力を込めた一発一発はネウロイの甲殻を削っていく。時折、急接近を敢行して手榴弾を落とす。

これもまた魔法力が込められた物であるため常用のとは違う威力を提示する。

彼女が魔王と呼ばれる由縁がわかる戦いぶりであった。

 

「助かった…のか?」

 

まさかの救援に安堵の色を浮かべる小尉。当然やられていく同胞をただひたすらに眺めている化物ではなく、空へ向かって砲や光線を放つ。

 

「甘い、甘いぞ!」

 

残りの一個であった六十キロ爆弾を投下、小さな存在には大量の魔法力が刷り込まれているため、倍以上の爆発を見せつける。その衝撃は艦砲射撃を受けたかのようであった。

爆破に巻き込まれたネウロイはバラバラの残骸に成り果て、地面へと次々落ちていく。

彼女はニヤリと嘲笑をする。

 

「すごい、このままなら……!」

 

今度は遠くの方からキュラキュラと金属音が聞こえる。頭を撃たれないように地面に倒されていた立脚付きの塹壕潜望鏡を立ち上げて覗く。

レンズ越しからは金属本来の色を見せた兵器が迫る。彼はそれに喚起した。最初の攻撃を押し返した戦車、またチラリと見えた砲塔側面に書かれた黒い絵に。

 

「山羊隊だ!」

 

彼はそんな彼らに鼓舞されたのかライフルを取り、ネウロイに標準を合わせる。

狙うは小型のネウロイ、それ以外だと重厚な装甲に弾き返されてしまうからである。引き金に指を伸ばして引いた。

初弾は距離が届かずに手元に弾着する。その位置を調整し直して最後攻撃、今度は当たることができ、損傷を与えることができた。感覚を掴んだ彼は再度撃つとネウロイは黒の甲殻からガラスのように姿を変えて弾けた。

初撃破に思わず喜ぶ。

 

「このまま行けば、倒せる」

 

自信をつけて次の敵を狙おうと銃を動かす。だが向けた先々のネウロイが白い破片となり崩れていく。

何故なのか疑問に思った彼はまだ残っているネウロイに目をやる。

目をつけたネウロイの元に近づく一人の姿がそこには存在した。驚嘆しながらも視認するが、武器といえるような物は抱えておらず、素手で殴りつけていた。

殴りつけられたネウロイは吹っ飛びながら破片を撒く。続いては激しい損傷により使用できなくなった対戦車砲を軽々と持ち上げてみせた。砲身を掴みながらネウロイに向かって振り下ろされる一撃は強大で受けたネウロイは地面にめり込んだ。それはまるで杭を打ちつけるかのようだ。

 

「あれは誰だろうか」

 

胸を鳴らしながら塹壕潜望鏡で覗く、レンズ越しから茶色のコートを着て古びた野戦帽を被った姿で、褐色肌と対比する白髪が見える。その風貌を彼は知っていた。

 

「あ、あれが有名なハインツ・ヒトラー中尉なのか。まさに狼の如き荒々しい戦いぶりだ…」

 

息を呑みながら人狼を眺め続けていた。

しかしながら、不注意という言葉もあるように彼の元に二体の小型ネウロイが近づき、塹壕内に侵入する。

 

「あっ」

 

気づいた時には時すでに遅し、二体の小型ネウロイが跳躍し噛みついてきた。

態勢を崩して地面に倒れこみ、ある一体のネウロイが首を噛み千切る。声を出そうにも出せない状況でそこからは大量の出血、彼の視界は猛烈に悪くなっていく。

彼の息の根が止まり、今度は戦車に向かっていく小型ネウロイ、だが戦車はそんなネウロイを躊躇なく轢いた。

 

「さて、仕事をしよう。砲撃開始!」

 

残ったネウロイを掃討する戦車から砲弾が発射、そのままネウロイに着弾する。

ネウロイは核を露出、次弾は間に合わないと踏んだジェネフは機銃を連射、無事機銃は核に当たって破片になった。

 

 

最後の一体を人狼が倒す。ジェネフはキューポラから上半身を露呈しながら敵の残存兵力の索敵をしていた。

 

「何だあれは、まさかッ!?」

 

その時、空を飛んでいたルーデルから戦車に無線がなった。即座にジェネフは出て、目を見開いて驚いた。同時にありったけの冷や汗が額から染み出ている。

彼は急いで人狼に伝わるよう大声で叫ぶ。

 

 

彼方が赤い、と

 

 

人狼はその方角に目を向ける。

そこだけ空の色が明るく闇夜に近づく色を照らすと同時に死の色が深く汲み取ることができた。その光景は幻想的でもあった。

人狼は今までに出したことない速度で彼方へと走っていく。地面が抉れ、足跡が深々と残る。

 

 

 

勿論、その彼方という場所は避難民が避難した先(・・・・・・・・・)である。

 




ワルサーPPK

ドイツで生まれた拳銃、1931年に発売開始。ショルダーホルスターを用いて拳銃を携行する私服警官向けのコンパクトなモデルとして設計された。大戦中の生産数は150,000丁を超える。
色々な口径があり、その中でゲシュタポのエージェンとは七ミリ弾を用いた。
なおアドルフ・ヒトラーが拳銃自殺した際に用いたのがこのPPKである。
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