人狼は夢を見れるのか   作:渡邊ユンカース

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序開

どうせ今日はいつもと同じだ。いつものように空を飛ぶだけだと俺は思う。

そして余談だが俺は日頃から運がついていない

 

「よおステック、任務か?」

「そうだよ。めんどくさい」

「へー、今日はお前の休暇だったんじゃねぇか?」

「まったく忌々しい、あの化物のせいで休暇が消えちまった」

「ありゃりゃ、そりゃあご愁傷様だこと」

「うるせえ」

 

本当は今日は俺の休暇の日だった。休暇の日は入隊以来俺は街中でカフェに行ってブリタニア紳士らしく紅茶を飲んで呑気に本を嗜むのが好きだった。

しかしネウロイっていうあの恐ろしい化物のせいでただでさえ少ない休暇がごっそりと減り、しかもこうやって取り消されることだってしばしある。笑えるだろ。俺の運のなさが伝わるだろう。

 

だけど、こう国民らを守るのは案外悪くもない事だ。飛び甲斐があるってことよ、まあたまには休みは欲しいけど。

俺は普段通りに戦闘機に乗り込んだ。哨戒ルートはいつもと同じで味がない、俺は遠くに飛べるからこそ空軍に入ったのに滅多に遠くには飛べないとは期待外れだ。いっそのこと除隊して得た退職金でのんびりと過ごすのも悪くはないだろう。

 

「早くしろステック! 俺ら待たせてるんだぞ!」

「へいへーい」

「ったく、これだからお前はいつも…!」

「堪忍してまーす」

 

あぁ、ハリケーンは良い機体だ。この機体は弾が当たっても修理が容易に行えるし、このマーリンエンジンはとんでもない馬力を生み出し旋回性能はまあまあ良いと言える。そして極めつけのこの二十ミリ機関砲四門は特に強い、この破壊力を持つ単座の戦闘機などいいないだろう。だけどイスパノ機関砲特有の弾詰まりやエンジンはマイナスGに弱いと欠点もあるが使いやすいから好きだ。

スピットファイアにも乗ってみたいが航続距離がいまいちなので気に入らん。

俺はエンジンを叩き起こし、隊長機に知らせる。

 

「エンジン始動、いつでも行けますよジョン隊長」

『わかった。お前ら二機は俺の後だ』

「了解しましたよ」

『了解』

 

プロペラは最初ゆっくり回っていたが徐々に早くなっていきしまいには見えなくなる。

ジョン隊長の機体が先行して離陸する。次は俺が飛ぼうとしようとするのを誘導員が止めた。

この行動が理解できず、コックピットを開け抗議する。

 

「馬鹿野郎、なんで俺を飛ばさない!」

「違いますよ、アーロン曹長が事前に俺が二番目だと言われたんです」

「何ィ!?」

 

アーロンが乗っている戦闘機はもう目の前に躍り出ている。エンジンの出力を上げてこちらも離陸しようとする。

アイツの機体に描かれた蛇のエンブレムがこちらに向かって嘲笑を浮かべているのが余計に俺の怒りを掻き立てる。

 

「待ってください! まだ安全では…」

「大丈夫だ!」

 

誘導員相手に怒鳴り散らしてコックピットを閉める。ちくしょう腹が立つ。

俺とアーロンは同期だ。そしてことあるごとに奴は俺に喧嘩を吹っかけてくる。それで何より腹立たしいのがアイツの方が階級が上だということである。俺は空軍に入って三年が経つが未だに軍曹だ。

前に作戦が連日行われてネウロイを撃墜する機会があった。その時で差が出たんだろう。正式記録アイツはで四機撃墜で俺は零機である。あんなに死に物狂いで敵の尻を追いかけてもおかしいものだ。俺はその時敵につかれないように上空を飛んでいた。

けどその時にネウロイの爆撃機を見つけてそこで二機墜としてやった。そんな時にウィッチ隊が残りを殲滅してくれて助かった。

まっ、俺が爆撃機撃墜したと言ってもアーロンが何かしら仕組んでそれは嘘だという結果に終わったけど。

 

『何しやがる! 危ねえだろ!』

「はんっ、そりゃあどうも」

 

俺はアーロンの機体の真下についた。アーロンが俺の機体を視認しようと機体をロールさせようとするが俺の発した忠告で行えなくなる。

 

「おっと、ロールするなよ。だって俺の機体は今、お前の真下(・・)にいるからよ」

『なっ!?』

 

しめしめ、あいつきっと驚いてるだろう、驚愕の事実を突きつけられて戸惑っているに違いない。自機のプロペラが当たるギリギリの場所で飛行してるんだから慎重に行動しないと空中衝突しちまうからな。

けど内心自分も心臓バクバクだったりする。

 

『おいお前たち何を遊んでるんだ!』

「すいませーん」

『ジョン隊長! ステックが勝手な行いを!」

「はいはい、今は任務中だから口を閉じようね」

『あぁん!?』

 

うるさい奴にはこれに限る。一度肝を冷やしてしまえばこちらが側が有利に立てる。にしても、アーロンは俺より階級高いから嫌なんだよな。俺は最高で小尉程度に留まったままがいい。それ以上になると激戦地に飛ばされるし書類仕事あるから。

 

『まったく、お前らはいつも…』

「それで、ルートはいつもと同じで?」

『そうだ。いつもと同じだ』

『ジョン隊長。たまにはもう少し奥までいきませんか?』

『何をふざけている。きちんと任務通りに動け、任務違反は許さん』

「ふっ、実績だけを追い求めてんじゃねーよ」

『基地に帰ったら模擬空戦でもするか、おい!』

『任務中だぞ、口を慎め!』

 

俺らの会話を一括する隊長、マジで尊敬します。やはりこいつは自分より立場の高い連中には逆らえない、いやむしろそれが普通だけど。こいつのうるさい口を閉めるには俺が階級を上げるに他ならないのかねぇ…。

 

 

そして、ここから状況は大きく変わった。哨戒している時、何故か雲が黒く、厚く密集している所を見つけた。位置は此処から二十キロ程だろう、パ・ド・カレーにも近い。その瞬間、俺はそのことを告げようと先頭の隊長機に無線で呼びかける。

 

「隊長、あちらの雲怪しすぎませんかね」

『…』

 

確かに電源は入っているはずなのにまったく応対してくれない。ひたすらにノイズが鳴る一方だ。

こちら側の故障かと思ったが先程まで使えていたはずだ。それなのに何故応えない、その答えは簡単で単に隊長が口にしていないだけだった。

 

『どうしましたジョン隊長?』

『…マズい』

『は?』

『…今からこの場から離れる。そしてアーロン、お前は無線で知らせろ。ネウロイの巣窟を見つけたと』

「マジか」

『わ、わかりました。至急連絡いたします!』

 

アーロンが無線のチャンネルを変えようとしたその時だった。

 

『ぐおっ!?』

「隊長!」

『ジョン隊長!』

 

突如として現れた赤い光線が隊長機の右翼を千切り取り、機体は下へ下へと錐揉み状態で落ちていく。その途端、俺は操縦舵を引いて上昇を開始する。まったく、敵と遭遇するとか運がない。まさかこの場にネウロイがいるとは、誰も思っちゃいないだろうな。

 

「高度を上げろ! 高度差は厄介だ!」

『そんなのわかってる!』

 

二百メートル上昇した付近で上昇を止め、辺りを見渡し始める俺たち。何処からともなく来襲したネウロイを索敵するのに手一杯だった。無線のチャンネルを変えて本部に連絡する。

 

「こちら第七小隊、ネウロイの巣が接近中!」

『了解した。至急帰投したし』

 

内容の割にはあまりに素っ気ない対応をされた俺は少なからず怒りが込み上げるも堪え、取り付けられたミラーを覗くと後ろにはいつの間にかネウロイが存在した。舌打ちを鳴らしながら無線のチャンネルを戻し、アーロンに指示を送る。

 

「アーロン墜とせ!」

 

短く告げ、ラダーを蹴り飛ばして機体を反転、操縦舵を思いっきり引く。すると機体は下方に動き、ネウロイもそれに釣られて動き出す。体にはそれなりのGが掛かるがそれを無視するに他ならない。後ろを細かに振り向きながら確認し、ネウロイが攻撃する瞬間にやや光るのを見過ごさず、光線の進行方向から避ける。

アーロンの位置を確認するとどうやらネウロイの真後ろにつけたようだ。後は俺が撃墜できるチャンスを作るだけだ。

高度を運動エネルギーに変換した力を惜しみなく使うことにした。操縦舵を引いて真上に、九十度垂直に向かって急上昇を始める。

ネウロイは俺に追従していき、幾つかの光線が放たれる。ある一条の光線がコックピットの俺の顔の真横を掠めて、飛行帽の布の焼け焦げた臭いが狭い密室に充満した。

ミラーを除こうとするもミラーも壊されてしまっている。だから感覚で避け続けるしかない。脳裏には走馬燈が駆けるが、悪いがこんな場所で死ぬわけにはいかない。

 

『いけるぜ』

「撃てッ!!」

 

アーロンの機体から二十ミリの弾丸が放たれる。銃撃する際に発生する連射音は紡がれ、昔子供の頃に見学した紡績場の機械のようだ。俺の体感上では大袈裟にも二百発近くの銃弾がネウロイに被弾していく。アイスキャンディーに似た曳航弾が伸び、機体の翼を掠め取り、翼の骨組みを露呈させていく。激しい攻撃を受けたネウロイは綺麗に爆ぜた。白い破片がまるで雪のようである。

 

自機の運動エネルギーが無くなり、失速を始めだして、機体はゆっくりと地面に向かって墜ちていく。下には俺よりも速度の速いアーロンの機体が存在している。

 

 

 

 

はずだった。

 

その瞬間、アイツのコックピットが音を立てて赤く染まる。力を無くした機体は急降下で聖なる大地へと墜ち始めてしまう。俺はその時に気付く羽目となるのだ。

 

ちくしょう、見誤った。

 

実はあの場には二体のネウロイがいた。経験の少なさから一体しかネウロイがいないと錯覚してしまった。

だけどこんな状況を和らげてくれる魔法の言葉が存在する。そんな都合のいい言葉を当たり前の如く俺は知っていた。

 

「あぁ、今日も不幸だ」

 

一機の戦闘機がガリア上空で激しく爆散した。

小さな一輪の花は紅い花弁を咲き散らすも、刹那として黒く萎え、しまいには枯れてしまった。

 




ハリケーン

イギリスで生まれた戦闘機、1937年に採用。第二次世界大戦で用いられた。
バトル・オブ・ブリテンなどで広く活躍し、スピットファイアとの競争作として知られる。 何気にスピットファイアよりも撃墜している傑作機である。
武装は七ミリ機銃を十二門搭載でき、二十ミリも積め、四十ミリ機関砲も搭載が可能である。マーリンエンジンは馬力がよく重宝される。かなり修復しやすい機体であった。
この機体の欠点はマイナスGに弱いこととイスパノ機関砲が弾詰まりしやすいといったことである。
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