「いつでも離陸可能です!」
誘導係が声を上げる。普通のエンジンよりも少しながら軽快な起動音がストライカーユニットの特徴である。黒鋼の重圧感を感じるであろう二十ミリのMGFF機関銃二門を両手に、腰にはそれの予備弾倉、そして背中にはMP40が。
このような重武装を成しえることができるのは人狼しかいない、人狼は手首を回したりと軽い準備運動をこなす。
「……」
いつも通りに何も喋らず人狼は滑走路に突っ込む、あまり舗装されていない滑走路だが、ストライカーユニットならさして問題はない。百メートルを切ったあたりで機体は急上昇、敵を殲滅するために放たれた矢が前線へと突き進む。
「ハインツ中尉頼みますぜ…」
「これで仕事がなくなったな」
「馬鹿者! 俺らはハインツ中尉が帰投した際の準備をしろ!」
「「「「「了解!」」」」
「まずはMGFF機関砲だ。銃口を磨きあげてもう一度点検、代えのユニットにも部品に油をさせ! 整備不良は許さないぞ!」
「「「「了解!」」」」
整備兵を纏あげ指示を起こる整備班長、彼の胸の内は不安と期待、それに屈辱だった。ネウロイが迫っていて不安に押しつぶされそうにもなるが同時に英雄の人狼ならどうにかしてくれるかもしれないというものだ。だが、反面して歳幼い子供が前線に赴き自分らは後方で整備する姿が何とも情けなく、屈辱的であった。
それでも彼は自分らが今できる最大限の役目をこなす。否、こなさなければならないのだ。整備兵という生半可の兵科ではできない整備が正解なのだと気づいた。
「頼みます。中尉」
ポロリと小さく、兵長から本音が漏れた。
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「……」
矢は淡々と速度を上げて前線へと近づく、此処はまだ人類側の制空権を保持できているらしく、ネウロイの存在が確認できない。だが、何かを察知した人狼は急旋回する。
そして人狼が進んでいたであろう場所に赤い光線が突き刺さる。
雲の切れ間からネウロイが急降下して行ったのだろう、機関砲を構えて随時発射可能に移行する。顔を見渡して敵影を探ると小型ながらも三体群れているネウロイの姿を視認する。
「…」
ネウロイへ向かって速さを上げて接近する。人狼に気づいたネウロイは三体の内、一体がこちらに迫る。人狼は光線を最小限に躱しながら迫り、機関砲を連射した。黒光りする不吉な装甲が音を立てて捲れ、白い破片となって爆散した。人狼の脅威に気づいたネウロイは今度は二体の小隊として攻撃を仕掛ける。流石に二体から真正面に撃ち合いをするほど人狼は空戦技術が高くもなく、早くも後ろに二体つかれる。
「…」
高い金属音の鳴き声を鳴らしながら幾多の光線を躱す。ある攻撃が人狼の自体回避行動が間に合わずに足に被弾してエンジンごと消滅した。一基だけのエンジンでは飛行を維持することが難しく、失速した。後ろからネウロイたちが人狼を抜かした。
好機であった。足を霧化と治癒能力を併用して行われる機材ごとの回復、仕切り直しした人狼は追い抜かしたネウロイに標準を合わせ、連射。すると不意を衝かれたネウロイは成すすべもなく撃墜された。
この技は多用できない、何故なら本来霧化というものは肉体の一部が切り離された際に
一部の肉体を霧化、切られた箇所に霧が巻くことで発動する、人狼の特性とも言えよう。しかしこれはあくまで
「…」
ネウロイは旋回して再度人狼に迫る。飛行を維持して急上昇する。ネウロイも追従して光線を何本か照射していく、人狼は雲を切りつつ高度を上げて魔法力をユニットに流し込む。ネウロイ側は失速寸前となり最高点になったため一瞬停止する。これが狙いであった。人狼も折り返してネウロイの元へと近づく、ネウロイは急いで態勢を立て直そうとするも間に合わず、機関砲の短射で木っ端微塵に粉砕される。
この勝利の余韻に浸る時間も惜しく、前線へと速度を上げた。
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人狼が前線に到達した時には前線では戦闘が始まっていた。
人類側の塹壕を超えようとネウロイが前進し、それを砲兵が迎え撃つ。地雷原で脚部を抉られたり吹き飛ばされたネウロイは砲兵やスナイパーにとって格好の的である。
「風向きは西から微弱」
「……撃つ」
前までは威力不足で破壊できなかった対戦車ライフルだが今は違う。ボーイズ対戦車ライフルは十三ミリの口径でなおかつ威力も強い。本来はブリタニアの武器だが支援物資として贈られたのだ。しかもそれを戦いを切り抜けた狙撃手が扱うため効果は絶大だ。
塹壕の対戦車ライフルから放たれた大口径の銃弾が小型ネウロイを吹き飛ばす。砲兵の榴弾をまともに喰らい爆ぜるネウロイも当たり前のように存在する。一見して人類側が優勢であった。
「ネウロイ接近、砲塔上げろ!」
「はい!」
「ハンドルを回せー!」
対空戦車ゲパルトの搭乗員はハンドルを回して仰角を上げる。そして八輌の対空戦車が対空砲火を形成する。八門の機関砲から放たれる弾丸は確実にネウロイにダメージを蓄積させる。夜間とは違い敵を捕捉しやすかったため命中度は高い。
「機関銃の弾がない! 次だ次!」
「はい!」
塹壕内の兵士が弾薬を取りに行っている際、目の前の地面が爆発した。思わず吹き飛ばされ頭をぶつける。幸いにもヘルメットを被っていたため頭に怪我はないようでまた走り出す。そして機関銃の弾を取って先ほどの場所に戻る。しかし、そこには機関銃で敵を向かい撃つ兵士の姿はなく、代わりに醜い肉塊がその場にあった。恐怖で視界が揺れながらも生き残るためには機関銃の弾を補給、代わって再開する。
「うおおおお!!」
機関銃は小型ネウロイに効果的で足を緩める。そこを狙撃手が狙撃、破壊していく。支援物資として送られた兵器の特性を理解しそれを生かすことができるのは戦争狂であり武器収集マニアであったランデル中将しかいない。
そしてウェリントン爆撃隊の爆撃が効いていたようでネウロイの数が三割ほど減っていた。そして第二波の爆撃の振動が伝わり地響きを鳴らす。
「勝てる。勝てるぞ!」
「負けるか、負けてたまるか!」
「殺せ殺せ!」
士気は上々、さらに拍車を掛ける影があった。
「……」
空に滞在していたネウロイが次々に撃破されていくのをある兵士が見つける。太陽で正体が確認しづらかったが彼には関係ないことだった。
「おい、あれ沈黙の狼じゃねえか!?」
「そうだ。この基地に居たんだ!」
「やっちまえー!」
「エースに負けてたまるかッ! 我らに続け!」
人狼は空で我が物顔でいたネウロイを一体ずつ撃墜、弾倉は少し前に交換していたのでまだ戦える。
航空ネウロイの中型らしい影が雲の切れ間から確認できた。おそらくは塹壕を爆撃するためだろう。撃墜するために急上昇をする人狼、高度を上げていき同高度までに辿り着いた。流石に気づいたネウロイは自身の身体に付けられた防衛機銃を総起動、人狼に狙いを定めて攻撃していく。よく使われている爆撃機の形状をしたネウロイだ。
だが、長期戦場で戦った経験は伊達ではない。光線を躱しに躱し、距離が五百メートルまで接近した時、人狼は機関砲を連射する。
「……」
しかし、光線が頭部を消し飛ばして頭部を無くした身体はバランスを崩して地面へ落下していく。何とか能力で頭部を復活させるがかなり遠くまで置いていかれてしまった。再度攻撃しようと高度を上げるが途中でエンジンから黒煙を上げる。どうやらエンジンがオーバーヒートした模様だ。それでも前線を維持するために気にも止めずに迫る。だがエンジンは損傷しているらしく中々速度を出せずに距離は徐々に離れていく。もう追いつけない、諦めて他のネウロイを攻撃しようとした、その時だった。
『久しぶりだな、ハインツよ』
無線機から聞き慣れた声が聞こえる。そしてネウロイの方へ振り向くと何かに反応して防衛機銃を動かしていた。その直後、左翼が吹き飛ばされ、バランスを維持できなかったネウロイは墜落していく。そこには二人の小隊を組んだウィッチの姿があった。人狼は黒煙を上げながらもその小隊に接近していった。
「今にも抱き着きたいほどお前を欲していたぞ」
「……」
「今は戦闘中ですのでやめてください」
そこには以前一緒に戦ったルーデル大尉とアーデルハイト小尉が居た。ルーデルは笑みを浮かべながら、アーデルハイトは一見、平常といった感じであるが口調から察するに再開を喜んでいた。二人のユニットは依然としてJu87で250キロ爆弾を背負っていた。MP40を持っているようだが彼女らにMGFFを渡す。
「どういうことだ」
「……」
ルーデルの問いに人狼はユニットを指差す。黒煙を未だに上げている様子を見て察したのだろう。彼女とアーデルハイトは微笑んだ。カールスラント軍で冷徹さの代名詞を指す彼女らが笑うことは珍しいのだが人狼の前ではよく笑っていた。人狼にだけ心を許していたのだろう。
「やはりお前は優しいな」
「わかりました。予備弾倉は要りませんが貴方はどうします?」
「……」
人狼は自身のモーゼルを見せつける。これがあるから大丈夫という意志表示なのだろう。
「よしっ、早く帰投して代えてこい。私らが前線を抑えるから安心しろ」
背中を激しく叩き激励し、人狼はその言葉通りに最大限出せる速度で基地へ帰投する。
「さあ私らも頑張りますよ」
「そうだな、ハインツには負けられないな」
貰った機関砲を構えてニヤリと不敵な笑みを浮かべる。いつもの彼女らに戻った。戦争という狂気が彼女を巻いて敵を絶対に殺す強者へ姿を変える。
「それに羊飼いがいないと山羊が暴れるからな」
どうやら陸では強者が暴れているようで彼女らもそれに負けじと降下を早める。二本の彗星が地上へと降り注いだ。
ボーイズ対戦車ライフル
イギリスで生まれた兵器、1937年に採用された。
ボルトアクション方式の対戦車ライフルで十三ミリの銃弾を一メートルの銃身から放たれる。威力は遮蔽物を貫通して狙撃が可能、対人戦でも有効である。
戦車の装甲が強化され対戦車ライフルという意義が薄れていく中、太平洋戦争の戦場では終戦まで使われた。理由としては戦車が未だに薄かったという悲しい理由である。
スコープが付けられるようになったのはもう少し後である。
イギリス、カナダ合わせて約62,000挺である