人狼は夢を見れるのか   作:渡邊ユンカース

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恩義

人狼が入学をしてもう五年が経過した。

 

五年間で変わったことは、孤児院で最年少のハンスとノアが入学をして小学五年生になり、人狼は小学六年生になった。

人狼の背丈は155㎝を記録し、背が低い大人の女性と同じくらいになった。バルクホルンは人狼よりもやや低いが、クラスでは高い方だった。

それと今年、バルクホルンの妹、クリスが小学校に入学した。バルクホルンは妹を溺愛しており、たびたびクリスの元へと向かっていた。

人狼とクリスは遊んでいる時に乱入してくるので顔なじみだったが、背が高い二人が来たので萎縮していたが、クリスを通じて慣れたらしい。未だに人狼はクラスメートから警戒されているが。

 

また、人狼は三年前に重大な事実に気付いた。

それは今人狼たちを養ってくれている人物が前世では知らない人の多いとされている、人狼が属していたナチス・ドイツの総統、アドルフ・ヒトラーだったのだ。

よくよく見ると確かに類似点は多く、歴史の分岐点になった美術大学に受験をして無事合格という前世ではなしえなかったことが起きていた。

その後はしがないの画家として稼いでいたが、ここで俗にいう第一次ネウロイ大戦が勃発。彼は徴兵されて戦地に赴き、そこで活躍をしたため、彼は勲章を授与されて、伍長という階級になっている。

戦後この街はネウロイによる攻撃を受けて瓦礫まみれの状態から酒場で開いた彼の天才的な演説で住民をやる気付け、ここまで復旧させることに成功した。

要するに、街の英雄ということだ。

 

人狼はまさかこの人物こそが偉大なる総統閣下とは思ってもいなかった。何性格は温厚な性格になっているのもあるし、細々と孤児院の院長をしているのもあった。

不思議な運命に出会った人狼は彼に敬意を払っていた。

子供を四人養い、負担する金額自体が多いのにも関わらず、ヒトラーは経営を続けている。彼が孤児院の院長になった理由は、子供が単純に好きだった点と親を亡くして道で餓死した子供たちの姿を見てきたからだ。

一人でも多く助けるために彼は孤児院という決して楽ではないもの決意したのだ。

 

元々貯蓄の少ない彼は何とかやりくりして今までの生活を維持してきた。しかしそれも限界を迎えようとしていた。地獄の死者とされた怪異がまた出現し、武器を揃えるために税金が上がり、物価が高くなったのだ。幾ら周りの住民から支援を受けたところで現状を維持するのは難しかった。

人狼は彼に恩を返したかった。どうすれば彼を助けられるか日々模索していた。しかし十二歳の子供が出来る仕事など高が知れているし、年齢を偽ってもバレるのがオチだ。

そんな中、路地を歩いていくととあるポスターが貼られているのを見つけた。

 

 

【航空ウィッチ募集 祖国に報いよ】

 

 

人狼は解決する手立てを見つけ出した。人狼は考えた、もしかしたら狼に変身出来るのは一種の魔力による力ではないのかと。人狼はポスターを引っぺがし近くにあるウィッチたちがいる駐屯基地へと向かった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

駐屯基地の正門には二人の警備兵がそこに立っていた。

人狼は門を開けようと近づいていく。

 

「おい坊主、此処は立ち入り禁止だ」

「それにお前は男だろ、兵科が違う」

「あと三年は待つんだな」

「…」

 

そんな彼らの言葉を無視して門に歩み出て、こじ開けようとする。案外門は固く閉ざされていて、時間が掛かりそうだった。

 

「なっ!?」

「おいやめろ!」

 

一人の警備兵が取り押さえようとするが、人狼に軽々と投げられてしまう。警備兵は頭を強く打ち付けて気絶する。

瞬時にもう一人の警備兵が首に掛けていた笛を鳴らす。

 

「侵入者だ! 捕まえてくれー!」

 

それに応じるかのように、耳をつんざく程の音量のブザーが鳴り響き、建物からは警備兵が何人も現れて門を抑えた。三人ほどは門の後方で拳銃を構えている。

 

「何だコイツ!?」

「門が…抑えられない!!」

「耐えろ、耐えるんだ…!」

「うおおおおおお!!」

「…」

 

警備兵たちは奮闘を見せるも門はあっけなく人狼の力によって粉砕された。

警備兵たちは吹き飛ばされ、噴水まで吹き飛んで体を濡らすものもいた。今は春なので冬と比べたらあんまりツラくはないだろう。

人狼は施設内へと足を踏み入れる。

 

「これ以上中に入ると撃つぞ!」

「止まれ!」

「本当に撃つぞ!」

「…」

 

人狼は警告を無視し歩み出る。

 

「うわああああああ!!」

「待て!まだ威嚇射撃をしていないぞ!」

 

一人、興奮状態になった兵士が人狼に発砲した。

本来は最初に、威嚇射撃をして恐怖心を煽り逃げさせるのが手順なのに、彼は明らかに人知を超えた化け物に畏怖。経験したことのない恐怖心に襲われて発狂したのだ。

彼から放たれた三発の弾丸は収束されるが如く、人狼の方へ向かっていく。

しかし、人狼はそれを右手で受け止める。拳を開くとパラパラと弾丸が握りつぶされた形状で落ちる。カランカランと冷たい音が鳴る。

それを見た三人は一斉に射撃を開始した。

 

「うああああああ!!」

「コイツは一体何なんだ!!」

「死ね死ね死ね!!」

「…」

 

可能な限り弾丸を掴みとるが数発かは被弾する。本来ならば死ぬところにも当然被弾していた。

しかしそれは、人狼のシャツを赤く染め上げただけに終わった。

人狼は一気に彼らの元へと接近し、足蹴りをして一人を吹き飛ばす。

この光景を見て唖然としていた二人にも拳や蹴りが飛び、地面にボールがバウンドするかのように跳ねて着地した。二人は起きる気配がない。

 

「…」

「ば、化け物だ! ウィッチを呼べ!」

「魔女ならどうにかしてくれる!」

「早くしろ!」

 

人狼は正面玄関に侵入した。扉を開けると中には机で簡易のバリケードを作り、一挺のMG機関銃が設置されていた。

 

「撃てー!!」

「撃ち尽くせー!」

「兎に角押し返すんだ!」

 

ギャリギャリと音を立てて無数の弾丸が発射される。それと同時にライフルを持った兵士二人が人狼に乱射する。

肉が抉り取られて瞬時に穴だらけにされ、人狼は倒れこんだ。しかも銃の乱射が倒れた体にも撃ち込まれて、それが十秒も続いた。

 

「やっ、やったのか?」

「中尉! 完全に殺しました!」

「ざまあ見ろバーカ!」

 

人狼に対する歓喜の声と暴言が向けられた。だが、それはすぐに収まることとなった。

肉片となった物が集まりだし、それは元の人狼の体を構成した。

何とも言えない不気味さに体を包まれ、兵士たちは口を閉じ、冷や汗を垂らす。心臓の鼓動が早くなっていく。

 

 

化け物、ネウロイとは違った別の化け物。それは本当にこの世のものなのかすらも誰にもわからない。

 

 

混沌が渦巻く正面玄関、人狼は立ち上がり兵士たちに近づいた。

 

「う、うああああああああ!!」

「誰か殺せ、俺か化け物を殺してくれええええええ!!」

「帰る! 俺は家に帰るんだー!!」

「……死んでやる」

 

泣きじゃくりながらMG機関銃を撃つ者もいれば、失禁し、逃亡する者もいる。ライフルを捨て、口に拳銃を加えて引き金を引き、拳銃自殺をする者もいた。

人狼は機関銃を乱射する兵士の前まで歩く。もう弾が無いのに引き金を引きっぱなしの兵士に拳を振り上げて顔面を殴る。

吹き飛ばされて奥の扉に体を打ち付け、扉が開いた。奥にもMG機関銃を構えて陣地が構成されているのが確認できた。

 

 

まさにカオス、それが今の現状の様子に一番似合う言葉だろう。

いや、この人狼のために作られたものかもしれない。

 




この世界にはナチス政権が確立していないのに着目しました。
アドルフ・ヒトラーのもしもの世界
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