空では魔王と成り変わった戦乙女が飛行する化物を撃墜、陸を突き進む化物に爆撃を喰らえる。華々しい戦果をあげていく彼女を一目見た兵士たちが士気を高め防衛力を高め、より一層銃撃を濃くさせる。
そして、魔王にも負けじと山羊が化物を襲撃する。
「全車輌に伝達、生きるか死ぬかを重視し敵を貫けェ!」
『『『『了解!!』』』』
「車長、いつも通りに」
「わかってるって、俺らも大尉に負けないよう奮起するか」
「はい!」
ジェネフ中尉率いる山羊隊が塹壕を超えてネウロイに発砲、現在彼らが搭乗しているのは四号戦車F2型である。試作車輌と大きく変わったのは砲身、短砲身から長砲身に換装されているのだ。そのおかげで貫徹力は向上、大きな破壊力をもたらした。
「はっはー! どうよこの最新鋭戦車は!」
「まさか報告してから二週間でこれが来るとは…」
「それがランデル中将だからな、顔が広い」
「むしろ策略によってじゃないんですかね?」
「だろうな。やや前進しろ、当てにいくぞ」
ジェネフを乗せた四号戦車は前進、それに釣られて他の車両も前進する。彼の車両から放たれた砲弾が中型ネウロイを撃ち抜き破散する。この瞬間は気持ちがいい、と言い表せるように口角を上げ次弾を装填する。
「観測手、戦車隊の援護をする」
「わかりましたロイ軍曹」
「……撃つ」
一方では塹壕で敵を狙撃していた狙撃手が山羊隊の援護をする。十三ミリの弾丸がネウロイの脚部に命中、脚部は砕け散り態勢を崩す。すかさず戦車の砲撃により撃破していく。戦車隊の実力もさながら、軍曹の卓越した狙撃力もかなりのものだ。関節を狙い狙撃するので態勢が崩れやすいのだ。
「地雷原突破されました!」
「地雷原の方は砲の数が少ない弾幕を一点に集中!」
「了解!」
小隊長の言われた通り、機関銃を地雷原に向けて斉射する。弾丸は小型陸戦ネウロイを蜂の巣にしていき、中型の足を止める。欠かさず野砲が狙い撃つ。空からは小型航空ネウロイが塹壕目掛けて機銃を放っていく。土埃が舞い、赤い花を咲かせていく。
「ぐあっ!?」
「うっ…」
「手を休めるな! 守れ、守り抜けェ!!」
それでも必死の思いで兵士たちは銃を握り引き金を引く。上空では爆撃機ユニットを履いたルーデルたちが空戦を広げる。
「アーデルハイト右に避けろ!」
「わかりました」
「ふんっ!」
アーデルハイトを追従していたネウロイを撃墜するためにインカムに指示を送る。アーデルハイトはそれに従い右旋回する。ネウロイも旋回しようとした時、ルーデルのMP40の短射を受け、片翼が折れて錐揉み状態で墜ちていく。今度はネウロイの光線がルーデルに向かって伸びる。彼女は魔法障壁を張り防御、光線の射線を避けるとネウロイは彼女を追い抜かしていった。
「あのネウロイ通常より速いな、このユニットでは追いつけない」
「そうですね、bf109でも履けばよかったですね」
「在庫が無いのだ。仕方がない」
「……再度来ます」
「わかった。二人同時だ」
先程のネウロイに目掛けて彼女らは全速力で突撃、当然二人に光線が放たれるも魔法障壁で防御、距離が二百を超えたあたりで連射する。二挺の短機関銃から放たれる一撃はネウロイを撃墜するのには十分で追い抜かしざまに白く爆ぜる。
「やれやれ、アーデルハイトよ弾倉は幾つだ?」
「まだ六個です」
「半分寄越せ、じゃないと拳銃で戦うことになる」
「わかりました」
弾帯から三個弾倉を貰い受けるルーデルは直ちにMP40を装填した。
「なああと何体いるんだ?」
「巣が近づいているんですから何十体も」
「まったく、嬉しいな。全部倒せば勝利に近づける」
小学生でも考えられる馬鹿げた算段ににやついた。大勢の敵に向かい己の勝利を信じて戦うのが彼女だ。彼女にとってピンチは好機へと変貌する。アーデルハイトはため息を吐きながら呟く。
「そうでした。貴女はそういう人物でしたね」
「何を今更、さて空を支配するのは化物ではなく人間であることを奴らに知らしめよう」
魔王はユニットを駆り立て殺気飛び交う上空を飛び回る。
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人狼は今、最悪の状況に直面していた。
それはユニットの損傷が思ったよりも大きく、飛行能力が失われかけていたことだ。下を見ると市街地で、あと少しで飛行場だった。しかし、翼を持たないユニットは黒煙を上げ、エンジンが今にも止まりそうだ。高度は五百メートル、例え人狼がユニットを脱ぎ捨て落下したとしても着地は難しい。いくら強靭な脚力があったとしても着地時の負荷に耐え切れず裂けるだろう。
魔法力を消費するのを避けたい人狼は丁度目に見えた本部の建物で着地することにした。そこなら屋根の瓦礫がクッションとなって負荷を和らげると考えたのだろう。
「……」
人狼はユニットを脱ぎ捨て、本部へ落下していく。少しでも衝撃を和らげるため、大の字になって落下する。コートが激しくたなびき、重力に従い、建物の屋根が近づいていく。
しかし、そこには一つ過ちがあった。それは屋根が本当に耐えきれるかということだ。幾ら立て直したとはいえ落下による衝撃は配慮されてはいなかった。なので人狼は屋根を突き破り、あろうことか司令室へと降り立った。
そこには呆気にとられたダロン大佐とゲラゲラと大笑いしているランデル中将の姿が目に映る。
「アッハハハハハ!! 見たか大佐、ハインツが落ちてきたぞ!」
「ちゅ、中尉?」
「……」
「砲弾や爆弾じゃなくて人が落ちるとは! 笑い話だ!」
「……」
人狼は大中の瓦礫を仕事の邪魔にならないような場所に寄せ、何事もなかったように退室した。
戦闘が行われていることで道路は混んでいるため、建物を跳び進んで、飛行場へと到着した。まさか上からやってくるとは思わなかった整備兵たちはだらしなく口を開けている。
「お、お前ら武器の準備! ハインツ中尉、整備は完了しています。いつでも」
「……」
コクリと頷き、あらかじめ用意されたユニットに向かい走る。遠目から察するにユニットは同種のbf110、それと三機のユニットが出撃できるよう整えられた。
「ハインツ、なのか?」
聞き覚えのある声に反応してピタリと止まる。声の主は後ろで、振り向いた。するとそこには幼少期をともにしたバルクホルンの姿がそこにあった。背丈は昔よりも伸びても相変わらずの髪型である。彼女は呆然とした様子でこちらに向かい歩む。
「お、お前。生きていたのか」
「……」
「そうか、そうなのか」
彼女が人狼の傍まで寄ったと思うと抱き着いた。力なく抱擁をする彼女とは思えない行動だ。後方では二人のウィッチが驚いた様子でこちらを伺っている。
「お前だけは無事だったんだ……!」
「……」
すすり泣く声で人狼は察した。彼女の妹クリスは先の襲撃で亡くしたか大怪我を負ったのだろう。ただ人狼は泣きわめく彼女を今は抱きしめることができない。まだ戦闘は続いている、早く戻らなければ前線は崩壊する可能性があったのだ。
「……」
「ちょっとトゥルーデ! 気持ちはわかるけど離れなよ!」
「そうよ、今は戦闘が続いているのよ」
「すまない、すまない……!」
「ごめんね急いでいるのに」
後方に居た二人のウィッチがバルクホルンを引きはがす。一人は赤髪で容姿が良い、もう一人はウルスラに似たようなウィッチであった。
「ウルスラから聞いてる。私は姉のエーリカ・ハルトマン、階級は小尉」
「私はミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ、階級は中尉です」
「まさか此処で沈黙の狼、ハインツ中尉と会えるとは驚きだね」
「ところで戦況は如何で?」
「……」
「……忘れていたけど中尉は全然喋らなかったわ!!」
「うん、確かにウルスラが言っていた通りだね。だけどさ、ユニットもなしで来るってことはかなりヤバいよ」
ハルトマンの言っている通り、戦況は悪く、実質士気で賄っているようなもので物資の弾丸が不足しかけていた。装甲車による弾丸の運搬が行われているが波の如く迫るネウロイをを相手取るのはかなり難しかった。
「これから私らも出撃しますが、一緒に戦いましょう」
彼女の問いに人狼は頷き了承する。当然多いほうが戦いやすいからだ。
「……もう大丈夫だ。私もいける、戦える」
「トゥルーデは休んでなよ」
「気遣いありがとう、だが私もやらねばならないのだ」
「わかったわ、貴女を信じます」
「ありがとう」
「皆さんの準備ができています。いつでも離陸可能です!」
話し合いの末バルクホルンたちと共闘することとなった。心に傷を負った彼女を心配するハルトマンだが彼女の信念に負けて受け入れた。人狼たちはそれぞれのユニットを履いて武器を持つ。
バルクホルンはMGFF機関砲を自信の固有魔法で二挺持ち、ミーナとハルトマンはMG34を
装備している。人狼は先程と変わらずの装備だ。この重武装ぶりに彼女らはたいそう驚いていた。
「ではいくぞ!」
「了解!」
「わかったよ!」
「……」
空を駆けるエースたちが滑走路を離陸していった。
だがエースたちが状況を打破するとは必ずしも限らないのだ。
Sd Kfz 252
ドイツで生まれた弾薬輸送車。突撃砲部隊に随伴する弾薬運搬車として生産された小型の装甲ハーフトラックである。1938年に三号突撃砲の弾薬補給車輌として開発された。
1940年6月から1941年9月まで、413両が生産された。